春ーーーそれはどれだけ寝ても眠くて眠くて仕方の無い季節。そのせいか春には春眠という季語もある。さて、こんな前置きをして何が言いたいのだろうと思った事だろう。
眠い。恐ろしく眠い。これから大事な説明があると分かっているが眠いのだ。睡眠欲に体が負け掛けているのがよく分かる。
……ダメだ俺、眠気に…眠……気に勝たな…くて…は……。
ガラガラガラ!!
俺はドアを開ける音でかろうじで目を覚ませた。この俺をここまで追い詰めるとは…春の陽気……恐ろしい奴!!…どう見ても俺が悪いですねすいません。
それにしても音がガラガラとなると言う事は溝に汚れが溜まっている証拠なのだが、そう言う所は綺麗にしないんだなと思う。この学校の見えない部分が汚い事の暗示なのかもしれない。……な訳無いか。
扉を開けて入って来たのは鳶色の紙をして鷹のような鋭い目付きをしたポニーテールの女性。スーツの胸元は空いており、この歳の男子の目には悪そうだ。黒タイツを履いているとはいえスカートの丈も短い。何人かの性癖が破壊された音が聞こえる気がする。
「私はDクラスを担当することになった茶柱 佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たちと学ぶ事となるだろう。」
茶柱佐枝、この不良品置き場である一年Dクラスの担任にして、言い方が悪いが彼女もまた不良品である。Dクラスの事など心底どうでも良いオーラを出しているが心の奥底では下克上に燃えており、原作で綾小路を脅している。
ちなみに個人的には好きなキャラでは無い。理由?普通に教師としてやってる事ヤバくね?教員免許さっさと剥奪した方がいいだろ。
ちなみに担任、教師としても話をすると下克上に巻き込まれるのでハズレの部類である。個人的な感覚では初期堀北に近い。
「これから1時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前に入学案内と一緒に配布はしてあるが、再度見ておくように。」
これは助かる。皆が資料を配られている頃俺は留置所の中である。お陰様で俺だけ資料を見ていない。俺は前の席の奴から資料を受け取る。どうやら俺の事には気付いて居ない様だ。やはり名前がバレなければ問題無さそうだな。これならば自己紹介をバックれて一ヶ月誤魔化せば何とかなるぞ!
「また、今から配るケータイ式の学生証にはプライベートポイントと呼ばれるポイントが振り分けられており、ポイントを消費することによって敷地内にある施設の利用や売られている商品の購入が可能だ。このプライベートポイントは1ポイント=1円の額を持つ。まあ、クレジットカードみたいなものだと思えばいい。
敷地内で買えないものはなく、また学校内でもそれは同様だ、2年前、お前らと入れ替わりで卒業した学年の生徒会によって制度の変更があり、一部買えるものが増加しているが基本的には変わらないだろう。新しく追加されたものには現状答える事が出来ない。」
やはりプライベートポイントの方は原作通りなようだ。プライベートポイントで「何でも」買える。こちらはいい。問題は後半だ。原作で一切そんな要素は無かった筈だ。俺の存在によるバタフライエフェクトの可能性が大いにありそうだが、俺の残念な頭では何をどうしてもこうなるとは思えない。
暫く思考した後俺は5月1日までその部分について放置する事を決めた。恐らくは5月1日に学校側から伝えられるだろう。俺らの3つ上の代と言えば俺の兄さんと同い年だがまぁ何の関係もないだろう。
「それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。例外である約1名を除き、お前たち全員に10万ポイントが平等に至急されている。今から配る学生証端末を見て各々確認するように。」
クラスメイト達は10万という額に腰を抜かしている。まぁ無理もない。そんな大金を持っていた経験のある中学生などこのクラスでも俺か高円寺ぐらいだろう。それ程までに高校上がりたての人間にとっての10万は大きい。
それにしても例外である約一名とは一体全体誰なんだろうか。そんな事を考えながら俺は学生証端末を起動するとそこには2億10万プライベートポイントが表示されていた。まぁそう現実は甘くな……2億!?
「意外か?最初に言っておくが、当校では実力で生徒を測る。倍率が高い高校入試をクリアしてみせたお前たちにはそれだけの価値があるということだ。若者には無限の可能性がある、その評価のようなものだと思えばいい。
ただし、卒業後はどれだけポイントが残っていても現金化は出来ないので注意しろ。仮に百万ポイント……百万円貯めていたとしても意味は一切ない。
ポイントをどう使おうがそれは自由だ。男子だったら最新鋭のゲーム機が売られているぞ? 女子だったら様々な服屋があるぞ?オカマだったらメイク屋も多いぞ?
自分が使いたいように使え。逆に使わないのも手だな。もしいらないのならば友人に譲る方法もある。
……ただし、虐めはやめろよ? 学校は虐めに敏感だから、もし発覚したらそいつには厳重な処分が下る。では、良い学生ライフを過ごしてくれ。」
意外と言うか規格外である。それにしてもこの分なら4月中に虐められる事は無くて済みそうだ。虐め、ダメ、絶対。それにしてもこの学年にオカマがいるのかと思うほどに綺麗なオカマへの誘導だった。まぁ後は原作通りか。
取り敢えず今後の方針として、名前バレは避ける方向性に舵を切って一ヶ月やり過ごそう。幸い名前を知ってるのは平田だけだ。平田には後で口止めをしとけば俺の名前がバレる事は……
「以上で今日のSTを終わりとする。言い忘れていたが、天野はこの後私と来るように。」
あっ、居たわ。名前知ってる奴。俺は俺の名前を出した茶柱先生を八つ当たりで睨んでおくが鼻で笑われるだけだった。ちなみにクラスメイトの大半の俺を見る目が痛い。なんで俺の名前はそんなに広まっているのだろう。
無自覚な悪意ほど酷いものは無いのだと思いながら、俺は茶柱先生に連れていかれるのだった。
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「そうだな……この部屋で話をしようか。」
やけに重苦しい空気の中、俺が案内されたのは職員室の近くにある、生徒指導室だった。確か原作で綾小路が問い詰められていた時や、堀北が茶柱先生を問いつめてた時に使っていた筈だ。
扉を開けて中に入ると、そこには机と椅子と時計とコピー機、奥にもう一つ扉があった。盗聴器の類は無さそうだ。
「あの扉の奥には何があるんです?」
「給湯室だ。だが安心しろ、聞き耳を立てている者はいない。壁も防音性に優れている為外から聞かれる心配も無いだろう。」
ガチャリと開けて向こう側を見せてくれた。コーヒーを沸かすようであろうコンロと台所にありそうな銀の流し台とちょっとした棚のある普通の給湯室だろう。原作でもこんな会話があった気がする。
「その感じだと、聞かれて困るような話をするんですか?」
「そうだな……他の生徒に聞かれては問題だ。長居する気も無い、ここに座れ。」
俺は言われた通りに給油室の出入口側の椅子に座り、茶柱先生は給油室の奥側の席に座る。これで万が一の時にはダッシュで逃げられるだろう。
俺が座って直ぐに、茶柱先生は何故だか当たりをキョロキョロしてから口を開いた。そう言えばいきなり話し始める事で相手に主導権と考える時間を与えないテクニックの話を昔有名な同人誌でやってた気がする。
「さて、早速で悪いがここに呼び出したのは他でもない。他人に内密にして欲しい話が2つほどあるからだ。まぁこんなところに呼び出されている以上わかっているとは思うが、ここで話した事は極力他人に話さないように。」
「なるほど、わかりました。それで話というのは?」
内容も分からないうちから首を縦に振るべきでは無いが、振らないと話が進まないので振るしか無い。俺たち学生の選択肢は『はい』と『YES』と『喜んで』である。ブラック企業が裸足で逃げ出すレベルだ。
そこから茶柱先生が話を切り出すまでの数瞬の間がやけに長く感じた。茶柱先生の纏う空気が重くなったからだろうか?心做しか目も鋭くなっている。茶柱先生の特性は恐らく鋭い目と鳩胸だろう。序盤鳥みたいな特性だな。
「まず1つ目の話だが、『例の事件』の事についてだ。既に最高裁から例の事件については冤罪である立証はされている訳だが。そのニュースは外では4月の始めに流れる。だがこの学校は外部から遮断されている。それはお前も知っているな?」
「はい。それがこの学校を選んだ理由の一つでもありますからね。」
この言葉に嘘は無い。外をほっつき歩くよりは目立たずに済むだろう。何故だか第六感が全力否定をしてくるが気の所為だろう。
「そうか。話を戻すが、他にもこの学校のルールシステムは色々と特殊でな、詳しくは話せないがお前の冤罪の件については5月1日のSTの時に全学年で学校側から公式に冤罪だった事を通達させてもらう。ちなみに現状で知らないのはお前たち学校の生徒だけだ。」
「成程…それで二つ目は何ですか?」
恐らく某システムが邪魔をして5月1日まで言えないとかそんな所か。何が引っかかったのかは知らないが理解は出来る。納得はしない。
それにしても何故だかどうもこの人は苦手だな、自分主義とでも言えばいいのだろうか…こちらの事を慮っている感じが欠片も感じられない。
「そして2つ目だが……お前の端末には今全員に配られているはずの10万プライベートポイントに加えて、『例の事件』の国からの賠償金として2億プライベートポイントが渡されている筈だ。違うか?」
「いえ、おっしゃる通りですね。」
まぁそれは教師なら知っていて当然だろう。だからこそそんなドヤ顔をされても困るというものだ。なんでそんな偉そうなんだよこの人……。
「それで、その二億プライベートポイントだが、まず5月1日までその一切の使用を禁止する。」
「5月1日までですか?」
逆に5月1日からは使っていいのか。そうなるとかなりヌルゲーになる気がするし、クラスの共同資金とか言ってパクられそうだ。原作の感じだと三馬鹿は堀北は五月蝿そうだな。
「それだけでは無い。詳しくは説明出来ないが、それだけではこの学校のルールシステム上大きく支障が出る。その為、上からの通達は『1年時に5000万プライベートポイント、2年次に1億5000万プライベートポイント、3年時に2億プライベートポイントまでの使用が許可される。』という内容だ。
つまりお前は5月1日から今年までの間では、あの中で5000万プライベートポイントまでしか使用出来ないという事になる。
最も、それは原則の場合だ。例えばこれ以降にまた何かしら学校内で学校の責任でお前の身に何かしらの不幸が起きれば話は変わるだろう。起きれば……な。」
まるで何かしらが起きる事を確信している表情だがコイツは一体何をやらかすつもりだろう。流石に問題事を主導でもしようものならクビになるだろうしやらないだろうが……味方はしてくれなさそうだな。
「わかりました。」
とはいえ今そこに触れればDクラスの戦力としてカウントされるかもしれない。茶柱先生相手に大事なのは期待されるほどの活躍をせず、かつ隙を見せない事だろう。その上で会話を増やさない事が優先だ。
「今日の話はこれだけだ。また来月の頭にでも話すとしよう。楽しみにしている事だな。」
そういった茶柱先生の顔には三日月みたいに不敵な笑みを浮かべている。何かやらかすんじゃないかコイツ?いや、腐っても教師だ。というかなにかやらかされた場合どうしようも無いのだが……。
まぁ最悪他クラスにでも逃げるとしよう。最も、この学校にそもそも居場所が無い可能性すらあるのだが。
「わかりました。それでは失礼します。」
俺は適当な相槌を打って、部屋から出る事にした。茶柱先生から謎の圧を感じたが、そんなもの無視だ無視!こんな時山内春樹ならば本当に気付かずに帰るだろう。無能の振りをするには真の無能をトレースするべきだろう。
ありがとう山内、お前の犠牲は無駄にはしないぞ。死んでないけど。今回は山内をトレース仕切って完璧な無能を演じ切った俺の勝ちだ。
俺は自分の勝ちを確信して給油室の扉を開ける。扉を開けた目の前には何故か星ノ宮先生らしき人が居た。嵌めやがったな茶柱。てめぇなんかもう先生呼びも勿体無い。俺は全力で茶柱を睨む事にした。
「何故お前がここにいる……知恵。」
俺に睨まれた茶柱は物凄く驚いた顔をしている。この感じだと濡れ衣だろう。すいませんでした茶柱先生一生着いていきます。
ここまで
「佐枝ちゃぁん、初日からクラスの男子とこんな密室で二人きり…何してたのかなぁ〜?」
星ノ宮先生はやはり原作通りだな。それにしても酒臭いしタバコ臭い。なんなら顔色も悪い気がする。まるでパチカスに使い捨てられたキャバ嬢みたいだな。
「また二日酔いか…知恵、いい加減学校がある前日遅くまで酒を飲むのは辞めろといつも言っているだろ。それにこいつは例の事件の生徒だ。話すよう坂柳校長から指示されているだけだ。」
そう言いながら茶柱大明神はキャバ嬢系教師知恵ちゃんをよく分からないクリップボードで叩いた。ありがたやーありがたやー。
「ちぇっ、てっきり下克上でも狙ってるのかと思ったんだけどなぁ……。初めまして君が天野セ、セ、セイント君…?、セイ、セイントって……ブヒャッハッハハ!!……ハハッ……ブォエッ。」
妖怪酒飲みキャバTこと星ノ宮先生は俺の名前を思い出すや否や笑い出した。笑い上戸なのかもしれない。それにしても随分と男子高校生みたいな笑い方だな。それよりも最後吐きそうになってなかったか?気の所為だよな?
「こら、人の名前で笑うな知恵。お前は仮にも教師だろ。……すまないな天野、知恵は酒が入るといつもこうなんだ。」
茶柱七福神がクリップボードで妖怪ゲロ吐きババアを浄化してくださっている。ありがたやありがたや……呼び捨てにする?何のことでしょうかねぇ。所でクリップボードの金属の所で頭を叩いてもいいのだろうか。まぁいいか。
「待って……ダメ紗枝ちゃん……タダでさえ気分悪いのにそんなに揺らされると……ブウォォォォ!!!」
大明神でもなんでも無かった茶柱先生に揺らされたことにより、妖怪改めて星ノ宮先生の口から出たテレビでキラキラさせられる物体が全力で顔面にかかった。気分?最悪だよ。
「キラキラとドロドロの融合だ!!!ブファアファ……ヴォエ!!!」
「知恵、お前ちょっとこっちに来い。……すまない天野、ちょっと私はコイツに説教をしてくる。」
それだけ残して先生方はどこかへ行ってしまった。説教以前にやるべき事が沢山あると思うのだが……。
「なんなんだよあいつら……。」
俺は近くの洗面所で出来る限りのゲロというゲロを洗い流し、そのまま帰りに服を買い、クリーニング屋に制服を洗ってもらい、銭湯で身を清めて帰るのだった。
ちなみにこの後、これらの費用は学校持ち、茶柱先生と星ノ宮先生が減給を食らったらしいがこの時の俺にここまでの事を予想しろというのは到底無理な話だった。