3日目以降は、俺と龍園は洞窟周辺でひたすら釣りをしたり、野菜を食べながら過ごすことになった。
野菜はそんなに好きな方でもないが、新鮮な野菜は一味違った。
「うぉぉ。うめえええ。トマトがめちゃくちゃ甘いじゃんかよ。なあ龍園。」
「うるせぇ。静かに食べやがれ。」
龍園は話しかけたら返してくれるようだ。
てっきり無視されるかと思ったんだがな。
特に弾む話もなかったが、龍園と俺は一緒に釣り勝負をして、3日間ほど過ごすうちに、多少は話すようになっていった。
中学の時は何度もぶつかり、そのたびに卑劣でむかつくやつだと思っていたが、わかんねぇもんだなぁ。
しゃべってみると意外と悪い奴じゃねぇんだよなぁ。
「お、6匹目だ、正宗、おまえはまだ1匹か。本当に下手くそだな。泳いで捕まえた方が取れるんじゃねぇか?」
前言撤回だ。やっぱりこいつは嫌な奴だ。
・・・
そんなことをしながら最終日前日。ついに龍園は動き出した。
この日は雨が降っていたが、伊吹から連絡があり、あらかじめ決めていた場所に行くらしい。
「おい。てめぇは大人しくしてろよ。」
そう言って龍園は洞窟を出て行った。
俺は待機だ。誰にも見つからないことに意味があるからな。
筋トレでもするか。。。
・・・
暫くすると龍園が戻ってきた。
「どうだったんよぉ。成果合ったん?」
もう、いい加減食べ飽きたトマトを食べながら龍園を迎える。
「まあな。全クラスのリーダー情報はそろった。」
え?全クラスの情報集めたん?
「ちょっと待てよ?CDは金田や伊吹がいるからともかく、なんでAがわかんだよ?」
俺は気になって龍園に尋ねる。
「Aは坂柳派のなんつったか。モブが教えに来たんだ。Cは金田から連絡があった。ちなみに金田はそろそろ合流するぞ。Dはちょうど遊んできたところだ。クックック、最高だったぜ。」
龍園は思い出したのか、楽しそうに笑っていた。
・・・
点呼の時間ギリギリに船に到着した。
「急患です。彼女は熱を出して今は意識を失っています。すぐに休ませてください。」
状況を伝えると、すぐに担架で運ぶ準備をしてくれた。
「彼女はリタイアでいいんだな?」
「はい構いません。ただし、今は8時前なので彼女の点呼は無効ですよね?」
教師の言質を取りながらリタイアさせる。
「・・・確かに。ギリギリそうなる。ただしお前はアウトだぞ。」
「わかっています。それともう一つ。このキーカードは返却します。」
そう言って俺はカードを教師に渡す。
「代わりのリーダーは誰にするかきめているのか?」
教師の問いに答えようとしたときに頭がヒリッとした。
誰かに見られている?点呼の時間帯を狙ったが、船からか?
どうやらこの学園に入って平和ボケしていたようだ。
この学園にリーダーの変更を読み切っている奴がいるとはな。
「佐倉愛里でお願いします」
キーカードを受け取って俺はベースキャンプに戻る。
視線は恐らくBクラスだろう。リタイアする可能性もきちんと考慮していたようだ。
俺の情報も伝わっただろう。目立つつもりはなかったんだがやられたな。
リーダー変更のケアを考えていたということは、Bクラスも最終的にリーダーを変更する可能性がある。
正宗と呼ばれている生徒と龍園が釣りをしている姿は目視していたが、それ以外の生徒や伊吹や金田という生徒の可能性もある。
さすがに賭けに出るには分が悪いな。
茶柱から脅されたとはいえ、動き出したのは悪手だったようだ。
今回はこの程度で納得してもらうしかないだろう。
平和にやり過ごせばよいと思っていたが、この学校に楽しみが増えたな。
・・・・
「ザザ・・、正宗君。聞こえますか?」
点呼の時間に、ひよりから無線機に通信が入った。
坂上は律儀に点呼の時間になったら声をかけてくるが、俺も龍園もまともに点呼に応じたことはない。
「よぉひより。元気にしているか?」
「はい。とても元気です。」
なんかひさしぶりにひよりの声をきいたなぁ。
「おい。てめえら。いちゃつくのは船に戻ってからにしろ。」
龍園が文句を言う。
「先ほど、Dクラスの堀北さんという方がリタイアしたようです。」
「は!?鈴音がリタイアだと?あいつはそんなたまじゃねえだろ?」
龍園は呻きながら考えているようだ。
「気を失っている堀北さんを抱えて、リタイアさせたようです。お姫様抱っこでした。」
龍園はひよりのペースを無視し、頭を切り替えて、情報を処理する。
「なるほどな。そいつの名前はわかるか?」
「名前はわかりませんが、いつも堀北さんと一緒に行動している、その、覇気のない?方です。」
堀北ってのは多分、黒髪ロングのツンツンした女子だな。
ああ、たしかに覇気がない無表情な奴と一緒に行動してた気がする。
「クックック、そうかよ。Dクラスは無能の集まりだと思っていたが、なかなかどうして面白い奴がいるじゃないか。危うくこっちが死ぬところだったぜ。」
龍園は獰猛な目になった。
「リーダーは覇気なしに変わったってことか?」
俺はひよりに聞いてみる。
「いえ。私の勘なのですが。」
そう前置きをしてひよりは続ける。
「私たちが船から観察していたことに、途中から気づいていそうでした。目は合いませんでしたし、不自然な行動もなかったのですが、少し空気が変わったといいますか。おそらく、リーダーはクラスの別の人を指定したのではないかと思います。」
ふだん、ズバズバ物をいうひよりにしては少し歯切れが悪い。しかし、
「ひよりの勘なら当たってると思うな。女を抱えて船まで移動する力と、リーダー変更を思いつく頭を持った奴か。侮れねぇぜ。」
「たしかにな。少なくとも、平田や鈴音のような真面目ちゃんに思いつく作戦じゃねぇ。どちらかというと俺好みの戦略だ。そこまで頭の切れる奴なら、リーダー変更も慎重になるだろう。そして、俺がリーダーであることも気づいているかもしれねぇ。おいひより。リーダーは誰に変える?」
ひよりは即答する。
「もちろん金田君です。正宗君はあえて釣りをして目撃されているかもしれません。なぜか島に残っている正宗君がリーダーだと勘違いして自爆してもらえるかもしれないので。」
龍園は少し考えたが、納得したようだ。ちなみに金田君は疲れているようで離れたところで寝ている。
「おい正宗。おまえに」
俺は龍園の左足をおもいっきり蹴り上げた。
龍園は不意打ちにこらえきれず、すっ転んだ。
「てめぇ!!何しやがる。殺されたいか?」
龍園は足を抱えながらものすごい殺気を放ち睨みつけてくる。
「ん?リーダーを変更したいから、怪我させてくれって頼みじゃなかったのか?」
正当な理由なくリーダーを変更することはできない。
だから、負傷すれば問題ないと思ったんだが。
「んなわけねぇだろ。リーダーの変更は体調不良とかで変わればいいだろうが。」
「そうだったんか?まぁ、怪我している方がスムーズにリタイアできるだろ?感謝は不要だぜ。」
「するわけねぇだろ。てめぇ、覚えてろよ。。。Dは無視しろ。Aは戸塚。Cは白波を指名しろ。あとは勝手にやれ。」
そう言って、左足を庇いながら龍園は船に向かっていった。
さて、好きにしてよいとのお達しだ、ひよりにアドバイスでも聞こうか。
「まだ、この試験でやるべきことってあるか?ひより」
「そうですね。Aクラスはお得意様なので、サービスでDクラスのリーダーが変わったことを伝えてください。戸塚さんは指名しないようにお願いします。私たちと同盟を結んでおいて損はないと思わせて、次の試験を迎えましょう」
さらっと龍園の指示を無視できるのはひよりぐらいだろうな。
「わかった。じゃあ、また明日船で会おうぜ。」
「はい。楽しみに待っていますね。」
無線を切って俺はAクラスの洞窟に移動するのであった。
綾小路君の暗躍は失敗です。
しかし、悪いのは初期の茶柱先生です。