終業式の後、俺たちは屋上に集合した。
カメラは石崎くんがスプレーで黒塗りし、何も映らない状態となった。
暫く待っていると、綾小路は一人で屋上にやってきた。
「おいおい、お友達は連れてこなかったのか?」
龍園は綾小路君と雑談を始めた。
俺は六助君がいないことに安心したような残念なような複雑な心境で、少し離れたところで自分の出番を待つことにした。
よっぽどのことがない限り、龍園達では綾小路君には勝てないだろう。
俺も、正直勝てるかどうかわからない。
綾小路君は実力を隠しているが、筋肉や歩き方、気配。そして何より、一緒に全力で走ってしまえば、流石に只者ではないことに気付いてしまう。他のやつは気付いていないようだがな。
ボーっとしているうちに話がまとまってきたようだ。
「この場にいる5人だけじゃ、オレは止められない。」
その言葉を合図に、石崎君から仕掛けるようだ。
あーあ、せめて本気でいかないとな。
石崎君の舐め切ったパンチはあっさり抑え込まれる。
アルベルトがいち早く反応し、攻撃を仕掛けるが、危なげなく綾小路君が封殺し、アルベルトと石崎君をまとめて沈めてしまった。
綾小路君の回し蹴りがきれいにきまって、アルベルトの巨漢が放物線を描いて飛んでいく。鮮やかだな。
次は、伊吹がやり合うようだが結果は見るまでもないだろう。
龍園がこっちに近寄ってきた。
「正宗。てめえならあいつに勝てるか?」
「やってみなきゃわかんねぇ。っとさっきまで思っていたが、ありゃ無理だ。普通じゃねえよ。今日のところは実力の差を思い知らされて終わりだな。」
「クックックッ、おまえは馬鹿だが喧嘩の腕だけは認めている。3年に上がるまでにあいつを超えやがれ。」
伊吹も沈められ、次は龍園がやり合うようだ。
龍園は特に念入りにやられた。気持ち悪い囁き戦術を繰り出すも、綾小路君は表情一つ変えずに、最後はマウントを取られて、何度も殴られたのちに、意識を刈り取られてしまった。
遊んでやがるのか?全力を出しているようには見えないな。
「さて、筒井、おまえもやるのか?」
4人を相手に立ち回ったにもかかわらず、疲れをみせず平然と聞いてきた。
「もちろん、やるぜ。駆けっこ以外の実力をみせてもらおうか。」
こうして俺と綾小路君の喧嘩が始まった。
・・・
喧嘩を初めて数分経過した。
俺の拳も足も、綾小路君にはかすりもせず、逆に綾小路君の攻撃はすべて俺にヒットした。(速ええ。拳が全然見えねえ。)
・・・
気絶していた龍園は目を覚まし、伊吹に話しかける。
「おい。伊吹。正宗の野郎どうなってやがる?」
「龍園!正宗はもう、私が目覚めてからだけでも、10発以上は貰ってるよ。綾小路が強すぎる。」
それほどか。俺は、中学時代に正宗とやりあったことがあるが、正宗の強さは本物だった。
しかし、綾小路はその上をいくのか。
もはや、大人と子供の喧嘩のように軽くあしらわれているが、正宗はまだ諦めていないようだ。
「なんか狙ってやがるのか?」
「え?」
正宗は綾小路に殴り掛かりに行くが、拳は空を切る。
そして、綾小路の左アッパーと右フックが正宗の顔面にヒットした。
「ッ!!」
「ああああああああ!」
正宗は綾小路の拳をあえて顔面で受け、綾小路の腕をつかんだ。
そして、綾小路の腕をひっぱり、態勢を崩した綾小路に全力の拳を打ち込んだ。
「やっと一発当てたぜぇ。綾小路ぃ。」
正宗は十分な手ごたえを感じたんだろう。
だが、綾小路は相変わらず無表情で突っ立っていた。
「正宗の拳を受けても表情一つ変えずに立ってやがる。化け物かっ。」
「たかが、一発貰っただけだ。。。」
そう言って動こうとしたが綾小路は足が動かない。
(なんだ?一撃で足を持っていかれたのか?)
綾小路の異変にはすぐに気づいた。
「おもしろくなってきやがったぜ。正宗は規格外のハードパンチャーだ。拳の重さが尋常じゃねぇんだ。どうなるかわかんねえぞ。」
それからは、足の止まった綾小路と、ぼろぼろの正宗の殴り合いが続いた。
おもしろくなったとは言ったが、正宗の方が圧倒的にダメージを負っているな。
綾小路も大概だな。足が止まった状態で正宗と打ち合ってやがる。
しかも、正宗が一発入れる間に、綾小路は2,3発は打ち込んでいる。
殴り合いが続き、相打ちで二人とも吹っ飛んだ。
正宗は何とか手すりを使って起き上がるが、誰の目にももう限界だろう。
綾小路も入口の壁を使って立ち上がろうとしたが、その時、アルベルトと石崎が左右から綾小路の腕をつかんだ。
「ッ!」
綾小路も振りほどこうとするが、今の状態ではさすがにアルベルトを振り切ることはできないようだ。
「馬鹿が!早くどけっ」
俺は慌てて叫ぶが、タイミングが遅かった。
「うおおおおおおお」
正宗は力を振り絞って、全力で殴り掛かった。
「グフッ!!」
正宗の拳がモロにはいり、アルベルトが大きく吹っ飛んだ。
「は?」
石崎が間抜けな声を出し、綾小路もきょとんとしている。
「邪魔してんじゃねええええぞおおおお」
続いて、石崎が大きく吹っ飛んだ。
チッ、石崎もアルベルトも余計なことをしやがった。
正宗はタイマンの横やりを嫌うことを伝えるべきだったか。
・・・・・
俺は、すっかり興ざめしてしまった。
俺が喧嘩で負けると覚悟したのはずいぶん久しぶりだったな。
重い体に鞭打って、綾小路に手を差し出す。
「いやぁ。綾小路君、強えぇな。全然拳が見えなかったぜぇ。今回は俺の負けだぜ。」
綾小路はこんなときでも無表情で何を考えているかわからなかったが、俺の手を取った。
「筒井。お前もやるな。こんな重いパンチは初めてだった。」
そう言った綾小路君は、心なしか少し笑った気がする。
「よく言うぜ。いくら殴っても、表情一つ変えないなんてよぉ。俺のことは正宗でいいぜ。」
「俺のことも清隆で構わない。リベンジマッチはいつでも受け付ける。っと言いたいところだが今後目立つ予定はないんだ。他をあたってくれ。」
俺は笑って手を放し、あとのことは龍園に任せて帰ることにした。
学園生活はまだ2年以上ある。
清隆はああ言ったが、遣り合う機会はきっと訪れるだろう。
そう思いながら俺はフラフラの状態で階段を下りる。
「楽しかったなぁ。しかし、明日は熱出すかもな。」
知り合いに誰とも会わないことを祈りながら、まっすぐ自分の部屋を目指して歩いて行った。
主人公は、序盤で一度はやられる。
それから巻き返す展開が好きでした。
古いタイプの考え方なんだろうなぁっと自覚はあります。