試験が無事に終わって、気兼ねなく体を動かせるようになった。
放課後、いつものようにひよりと帰っていたら清隆君と出合った。
「よぉ、清隆君じゃねぇか。左手どうしたんよ?」
「ああ、正宗か。手料理に挑戦したら失敗してしまってな。」
「嘘臭えなぁ。宝泉に刺されたって方がよっぽど信憑性があるぜ。」
俺は軽い冗談を言ってみる。
「一年生を悪く言ってはダメですよ。綾小路くんが困っているじゃないですか。」
そうか?
清隆君はいつも通り無表情で、俺にはよく分からなかった。
「宝泉は同中の後輩だからな。キツめのブラックジョークが言い合えるほど仲が良いんだよ。」
俺は平然と嘘をつくことにした。
「左手が怪我してたら何かと不便だろ。困ったことがあれば遠慮なく言ってくれよ。」
「ああ。その時は相談しよう。」
そう言って清隆君とは別れた。
…
「綾小路君は、数学で100点をとり、今は注目の的ですね。何故そのことを尋ねなかったんでしょうか?」
そう。清隆君は噂になっている。
2位が91点の試験で100点を取ってしまったからな。
「あー、清隆君は目立つのが嫌いみたいだからな。触れないでおこうと思ったんだよ。」
「正宗君は意外と気遣いができるんですね。綾小路くんは平穏を望んでいたようですが、周りの状況が許してくれなかったんでしょう。」
俺としては好都合だな。実力を遺憾なく発揮してくれるなら、再戦も現実味をおびてくるからな。
「ひよりも100点とれるけど、手を抜いてる口だろ?」
「なんでそう思うんですか?」
ひよりは首を傾げて微笑んでいる。
「目立ちたくないからわざと間違っているんだろ?俺は意外と気遣いができるから、今までは何も言わなかったが。」
「正宗君はすごいですね。こんなこと誰にも話したことありませんよ。」
「なんとなくそう感じただけだぜ。本気を出してしまうと、周りから引かれる…。天才の悩みだな。」
俺も昔、似たようなことをしたことがある。持久走などで適度に力を抜き、疲れたフリや苦しいフリをして、周りを安心させてあげた。
集団生活において本気を出すことは、リスクしかないからな。
無能を基準とする社会だ。
円周率が3になった頃もあったらしい。
一部の優秀な者は、大勢の無能の尻拭いに追われ、無能に搾取されてしまう。
…
6月になった。
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A(坂柳 ):1525(毎月260万ポイントをひよりに譲渡)
B(龍園 ):1082
C(一ノ瀬):642 (毎月 40万ポイントをひよりに譲渡)
D(堀北 ):-30
ひよりバンク:5049万pp + 234万 + 280万 + 40万 ≒ 5601万pp
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4月以来、特別試験もないため平和な時間が流れた。
唯一の懸念点としては、加奈が俺の部屋に入り浸っていることくらいだ。
「正宗君お帰りなさい。今からちょうど紅茶をいれるところでした。熱いのがいいですか?冷たいのがいいですか?切ないのがいいですか?悩ましい」
「熱いやつで頼む。。。」
ほっとくと、いつまでも喋り続けてしまうため、無理矢理割り込んだ。
「いいよねー2年生は暇そうで。1年は2度目の特別試験で大変だったのに。」
「あー、退学者が出たらしいな。俺たちは、去年の今頃は退屈すぎて困ってた頃だな。」
懐かしいな。
どうも1年と2年では学校の方針が大きく異なるようだ。
「そうなんだよ。ちょっと聞いてよー。正宗君の頭じゃ理解できないだろうけどさー」
「そうか。じゃあ説明が終わったら起こしてくれ。」
「うちのクラスの……」
俺は加奈のマシンガントークを子守唄に、ベッドで横になる。
…
次はまた、無人島でサバイバル試験のようだ。
坂上の説明が長々と続く。
よくわからないので、時間だけが過ぎてしまった
…
「ひより。今回は何か勝つための秘策とかないんかよ?」
「正宗君が単独で、上位3位以内に入る。」
ひよりは即答した。
確かに大きなアドバンテージになることはわかるが、俺が聞きたかった答えはこれだったんだろうか?
「ふふ。正宗君を勝たせるための細かい作戦は、もっと詰める必要がありますが、基本方針は変わりませんよ。」
「責任重大だな。」
「楽しくなってきたでしょう?」
さすがに1年以上の付き合いとなると、俺の思考はひよりに完璧にトレースされているらしい。
「事前準備としては、正宗君に『試練』のカードを所持してもらいます。他の方は『便乗』のカードを可能な限り集めて、全員で正宗君に便乗します。」
「おいおい。俺が風邪ひいたらどうするんだ?」
「その時はお陀仏ですね。」
「ん?オダブツ?」
よくわからないが、きっと死語だろうな。
「おじゃんとも言いますね。」
「博識だな。」
おれは笑った。
久しぶりに、全力を出せそうだ。
…
俺とひよりは、Dクラスと同盟を結ぶために、まずは三宅くんと長谷部さんとご飯を食べることにした。
「ひっよりーん。久しぶりー。」
「はるるんさん。あっきー君。お久しぶりです。」
「・・・」
「まて、波瑠加はともかく、俺のことは普通に呼んでほしい。」
「私もはるるんはちょっと・・・・」
どうやらひよりのセンスは絶望的のようだった。
「残念です。。。それでは、改めて波瑠加さん。三宅君。今日はありがとうございます。」
「いえいえ。うちらは金欠だからね。奢りとあらばいつでも参上するよ。」
いつの間に知り合ったのか、ひよりと長谷部さんは仲が良いようだ。
「めずらしいな。正宗から呼び出すとはな。何の用なんだ?」
「次の試験で、Dクラスと協力関係を結びたいと思っているだよ。」
「そういうことか。残念ながら俺たちはDクラスのハズレ者だからそういう話は向いていないぞ?」
そこまでは三宅くんに求めていないため問題ない。
「大丈夫さ。Dクラスの影響力が高い人、おそらく平田君と堀北さんだと思うんだが、話し合いの場をセッティングしてほしいんだ。」
「いいぜ。飯を奢ってくれるんだ。紹介くらいはしてやるさ。龍園クラスは信用できないが、少なくても平田なら話くらい聞いてくれるだろう。」
話がまとまったところで長谷部さんが話題を変える。
「ところで、ひよりんとまさむーは付き合っているんだよね?」
「いや?そんな事実はないぜ。」
一年の頃から何度もいろんな人から同じ質問を受けているので、慣れた回答を返した。しかし、その仇名は決定なんだろうか?
「えーー。そうなの!?ずっと一緒にいたのに?じゃあどんな関係なの?」
「友達だよ。」
長谷部さんは、結構ぐいぐいくる性格のようだ。
「友達ね~…。幅広い意味があるよね?」
「三宅くんと長谷部さんはどういう関係なんだよ?」
「友達だよ。」
山脇くんも友達だし、龍園だって友達だ。
便利な言葉だな。
「じゃあ、とりあえず平田くんに俺の番号とアドレスを連携してくれ。」
…
帰ってのんびりしていたら平田くんから連絡があった。
明日の夕方に話を聞いてくれるらしい。
俺はメールをひよりに転送しておいた。
…
「こんにちは。椎名さんに筒井君。協力関係を結びたいって話を三宅君から軽く聞いているよ。」
平田君は爽やかな笑顔で登場した。
「Bクラスからの提案となると素直に信じることはできないけどね。」
堀北さんはかなり疑っているようだ。
龍園に散々面倒をかけられたから仕方がないだろう。
「ああ。今日は来てくれてありがとう。ここは奢るから、聞くだけ聞いてみてほしい。」
「食べた分、働けとか言わないでしょうね?」
「もちろん自分で支払っても構わないさ。時間は返せないがな。」
いやー。俺は堀北さんは苦手だなー。
一年の時よりはかなり成長しているようだか、トゲトゲされると話す気が失せてくるぜ。
軽く平田君と、それぞれのクラスの近況報告をした後、さっそく本題に入った。
「今回の試験、下位5グループは退学という重い処分になります。平田君としても下位に沈む可能性は少しでも下げたいと思うでしょう?」
「それは、そうだね。うん。僕は悪くない話だと思うよ。堀北さんはどうかな?」
「Bクラスが、それだけで交渉するとは思えないわね。まだあるんでしょ?」
平田君はDクラスのバランサーのようだな。
欠点らしい欠点は優しすぎることだな。
「もちろんです。私たちは、今回の試験、上位3位まですべてを2年生で独占したいと考えています。」
「つまり、BD連合のグループで上位を狙うということかしら?」
「半分あたりです。ただ、上位は、お互い自分たちのクラスグループで狙いに行きましょう。そのグループについては、できるだけお互いの邪魔をしない。可能ならサポートする。そして、下位に沈みそうな不安な人たちは、BD連合グループに入れて、お互い助け合うのはいかがでしょうか?」
平田君はひよりの提案に好印象のようだ。
「なるほど。体力に不安がある生徒は一定数いる。その人たちはあえて混合グループに入れれば、お互いリスク回避のために、協力するしかない。」
「でも、混合グループはどちらかが裏切れば退学となるわ。」
「私たちのクラスに信用がないことはわかっています。しかし失礼ですが、Dクラスは0ポイントなので、自爆覚悟で攻撃するメリットはありません。ルール上も、他学年から下位を出した方がメリットも大きいですしね。」
堀北さん相手にプレゼンとか、レビュー会とか俺がやったら苦痛だな。
「椎名さんの言っている内容は説得力があったと思うよ。信用していいんじゃないかな?」
「そうね。私たちも佐倉さんといった、不安な生徒はいる。その人たちのフォローを2クラスでできるなら、悪い取引ではないわ。でもBクラスは体力に自信がある人が多い。私たちと取引するメリットが少ないのが気になるわ。」
「AとCが同盟を結んだようですしね。私たちも頭数をそろえた方が良いと判断しました。それに、今回我々の目標は、『上位3位まですべてを2年生で独占』することです。つまり、南雲先輩を4位以下にしなければなりません。Bクラスだけでは1手足りません。」
「つまり、Bクラスだけでも3位までは落とせるということかしら?」
「好きにとらえてください。」
堀北さんは考えている。
おそらく同盟の話ではなく、どうやって南雲先輩を落とすかに興味がありそうだ。
少し素直すぎるようだな。
龍園と戦うときは、気をつけたほうが良いと思うが、余計なお世話だろう。
「いいわ。お互いを利用し合いましょう。」
「その言い方だと聞こえが悪いですね。お互い補い合いましょう。」
そういってひよりは、にっこりと笑った。
堀北さんは毒気を抜かれたようで、一瞬ポカーンとしたが、すぐに元のクールな表情に戻った。
「なんでもいいわ。」
…
『試練』のカードは、龍園が手に入れたらしい。
今回の試験はひよりが指揮をとり、龍園もプレイヤーに専念することになった。監視カメラがないからな。
色々と悪いことを考えているんだろう。
宝泉はほとんど俺に絡んでこなかった。
一度遊んでやろうと特別棟に誘ってみたが、
「新しいおもちゃと遊ぶのに忙しい。」
っと言って俺とは遊んでくれなかった。
少し不気味だが、試験では上位を狙う以上、宝泉と遊んでいる暇はない。
都合がいい、「新しいおもちゃ」に感謝だな。
…
1年は、きな臭い動きがちらほら見える。
2年は、ここに来てたい頭する者がチラホラ
3年は、不気味だな。
これが南雲先輩が変えたかった学校のあり方というのであらば、なかなか面白いかもしれないな。
次の試験は荒れそうな気がするな。
色々の人間の思惑が錯綜する試験。
その混沌をうまく泳ぎきったものが勝利を掴む。
そういう試験は、俺は嫌いじゃない
原作では、このあたりから石崎くんを中心に龍園クラスが仲良しになってきて雰囲気良いですね。
一年生のころは想像できませんでした。