こころバンド(仮)   作:誰か続き書いてくれ

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プロローグ:ある財閥令嬢の独白

 ピアノはバレエと、オペラと、ソナタを教わったの。チャイコフスキーにプロコフィエフ、もちろんモーツァルトやベートーヴェンも。外国語の先生だっていたわ。英語にフランス語にドイツ語に、フィンランド語やスウェーデン語までいろいろ。座ってばかりじゃなくて運動もしたのよ。バレエはピアノを弾くだけじゃなくてステップもやったし、お歌や演奏のために体を整えるトレーニングもしてた。護身術も……合気道と柔道と、なんだったかしら。ごめんなさい、誰かをぶつのなんて、あんまり考えたくなかったものだから。

 あたしはきっと理想のお嬢様ができていたのね。先生たちはいつも褒めてくれた。流石は次代の弦巻を継ぐお方です、お嬢様は聡明であらせられる、将来も安泰ですね。……なんの話なのかしらね。あたしの自分で考えたことなんて、サンタさんへのお手紙くらいだわ。

 

 でも……そう。きっかけは確か、父の持っていたレコード。真っ赤なラベルの7インチがレコードプレイヤーに乗せてあって。父のレコードは好きに聞いていいことになっていたけど、ショパン以外が流れてきたのはあの一度きり。……荘厳な歌から美しいピアノに続いて、かと思えば「Mama, Just killed a man」だもの! あたし、びっくりして腰が抜けてしまったの。

 ちょうど執務の休憩にやってきた父が抱き起こしてくれて、若い頃に好きだったバンドなんだって教えてくれて。その笑顔が、私と音楽の出会いだったわ。

 

 忙しい方だから、普段ならそれきりだったと思うの。でも、その日はちょっと無理をしてくれたのね。備え付けられたモニターに古いビデオを映し出して、あるライブを見せてくれた。カイゼル髭の男性が弾くピアノ、ウェンブリーの青天井に風穴を開けんばかりのハイトーン。『Bohemian Rhapsody』のイントロが、あたしの目に焼きついて。

 

 ──それを、ピアノの先生の前で弾いて見せたのが間違いだった。

 

 先生は金切り声を上げて、それから地の唸るような怒声を打ち下ろした。悪罵の限りを尽くした。美しくありなさい、高潔でありなさい、そう教えられてきたあたしがロックの曲をやったのがよっぽど許せなかったのね。あたしに手をあげようとまでして……黒い服の人たちに止められて、そこでやっと、あたしは自分が大変なことをしてしまったんだと気づけた。

 

 期待を裏切ってはいけない。

 いい子でいなければいけない。

 そうでないと、悍ましい悪魔を見るような目で睨まれてしまう。

 

 あの目が怖くて、あたしは我儘を言うのはやめた。

 

 けれど。

 あの伝説のライブでピアノを高鳴らせたあのバンドは、ならば悪魔の集まりだったのかしら。違うはずよね。

 大きな大きな客席でぎゅうぎゅう詰めになった人たちの、粗い画質の中でもわかるほどの笑顔は、悪魔のミサで植え付けられるような恐ろしいものじゃなくて。

 

 あの笑顔が、この上ない喜びの現れだというのなら。

 あたしは、世界を笑顔(しあわせ)にしたい。

 

 

 

 

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