愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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9羽 幼い翼

 

 都市にカザヨミが集まるのはカザヨミが優遇されているからであるが、そもそもとして都市内でなければカザヨミが必要としているサポートを十分に受けられないからというのもある。

 

 鳥のような翼を持つカザヨミはその翼の手入れ……いわゆる羽繕いと呼ばれる行為が必要となってくる。羽繕いによってカザヨミは翼のコンディションを保ち、安定した飛行を実現している。羽繕いには一部特殊なサポートを必要とし、それが滞ると飛行能力の大幅な低下やストレス過多に陥る場合もあるという。残念な事にクラコが手に入れた本ではその特殊なサポートとやらが一体何の事なのか詳細に書かれてはいなかった。

 

「クラコさん、これ冷蔵庫に入れておいたほうがいい?」

 

「ん? ううん、まだ使わないから外に置いといていいよ」

 

 購入した本にくぎ付けなクラコは買い物袋の中身を冷蔵庫にしまうユナの声もあまり聞こえていないようだ。いつもとは様子の違うクラコの姿にユナは少しだけ不安そうな顔をする。ささっと買い物袋の中身を片づけたユナは座り込みながら本に目を通すクラコの横にそっと腰を落とす。

 

「ん?」

 

「あの、えと……」

 

 ふとクラコが本から視線を外すと、自身の体にぴったりとくっついてこちらを見上げるユナの姿が目に入った。胡坐をかいて本を読むクラコの隣で三角座りしながらクラコの袖部分をちょっとだけ指先でつまむユナ。

 そこでクラコはようやくユナを放置したまま本に集中していた事に気が付いた。昼間に小説を書いている時などはあえて静かにしてくれているユナだが、どうもいつもと様子の異なるクラコの姿が気になってくっついてしまったようだ。

 

「ああ……、ごめんねユナ」

 

「ううん……あの、ごめんなさい」

 

「もう、ユナは謝らなくていいの。ほら、いらっしゃい」

 

 クラコが本を閉じ、両手を広げればユナは遠慮がちにクラコの胡坐の中へと収まった。クラコと一緒に暮らし始め、瘦せ細っていたユナの体はそれなりに肉が付き少女らしさが出てきた。毎日の入浴により青灰色の髪はよりいっそう艶を増し、肌は幼子らしい柔らかでもちもちとした状態に回復。胸もわずかだが膨らみ、それをユナは気にしている様子も見られた。

 

 着実に成長している……いや、成長を阻害し不足していた要素を補ったことで今までの分を取り戻そうとしているかのようだ。

 

「あう……クラコさん、くすぐったい……」

 

「ふふ、ほんとにユナったらかわいくなって」

 

 ユナの姿が見違えるように美しくなっていく事にクラコは驚きと共に歓迎すべき変化だと受け入れていた。ちょっとした会話をしている間もその肌に触れて感じてみたいと思うほどに。

 

 いつものようにクラコは慣れた手つきでユナの体に触れる。頭を撫で、そのまま指先を少女の首元まで伸ばす。肩にかかっていた髪の束をそっと直してやり、クラコの指はさらに下へ。鎖骨をなぞり、パジャマの上から胸元を通り、ユナのお腹まで行くと優しく体を抱きしめる。ふわりと広がる石鹸のさわやかな香りと、ユナの甘い香り。

 

 さすがに恥ずかしくなったユナはクラコの腕から脱しようと身をよじるが、ユナの体はクラコの胡坐の中でしっかりと固定されており逃げ場は無い。

 

「これ以上抵抗するなら足も絡めちゃおうかしら?」

 

 そんなことを耳元で(ささや)かれたユナはゾクゾクとした謎の感覚を抱きながらもクラコに逆らう意思を消失した。

 

「んう、あうう……」

 

 せめてもの抵抗と、ユナはクラコの胸元に顔をうずめ、赤くなった顔を見られないようにする。

 

 だが、それはクラコとユナのいつもの日常で、ここ最近繰り返されているやり取りだ。この後ユナはしばらくクラコの胸元で顔を隠し続けるのだが、クラコの体温と香りと心音によってリラックスしたユナはすぐに寝落ちしてしまう。そうして眠り込んだユナを寝室に運ぶのがいつもの事だった。

 

「ん、んう…………」

 

「ユナ? 寝た……のね?」

 

 その日もクラコの胸元で安心しきったユナから寝息が聞こえはじめ、いつも通りに寝室へ移動しようとしたクラコだが、その時ふと例の本に書かれていた内容が思い出された。

 

「確か、あの本には……」

 

 

 【カザヨミ……カザヨミは適齢期を迎えると翼を形成し、カザヨミ本来の姿を発現する。だが、翼の発現にはカザヨミ本人の肉体的、精神的な安定が必要であり、それらの不安定が要因となって翼の発現が遅れる事がある。その場合は以下のマッサージなどを行い肉体の緊張をほぐし、カザヨミのストレスを抑制するよう生活習慣を整え──】

 

 

 本にはカザヨミの翼を発現させるための方法がいくつか書かれていた。食生活はバランスよく三食たべ、適度に体を動かしストレスを発散するべき、など様々な方法が紹介されていた。中でも、翼が生える背中あたりをマッサージする、という方法はクラコでもすぐに実践できるような内容だった。

 

「…………たしか、肩甲骨のあたりを……。お休み中だけどちょっと失礼するわねユナ」

 

 本の内容を思い出しながらクラコはベッドの上で静かに眠っているユナの背中に手を添え、ユナの負担にならないようにゆっくりと動かしていく。それがどれほどの効果があるかは未知数だが、ユナは痛みを感じることもなく負担になっていないようなので続けていく。

 

「……うーん、パジャマの生地で滑るわね……ちょっとごめんね」

 

 哀れ背中を大きく晒すようにパジャマをめくりあげられたユナ。だが本人は気持ちよさそうに寝息を立てるだけ。

 

「なんだか……寝込みを襲ってるみたいになっちゃったわね……。今後も寝てる間にやっちゃおうかしら」

 

 多少の罪悪感もユナの白く手触りの良い肌に触れているだけで霧散する。ダメな大人クラコ。くぅくぅと寝息をたてるユナへ怪しげな笑みを向けるクラコは眠るユナにマッサージを続けていく。

 

「んぅ……あぅ……やん」

 

「あ、これダメなヤツだわ」

 

 幼子特有の高い体温を手に感じながらゆっくりと背中を撫でさする。肩甲骨のあたりを指先で押し、若干汗ばんだユナの肌は程よい抵抗感を生み出す。クラコのマッサージがくすぐったいのかユナはめくられたパジャマをさらにはだけさせ、悩まし気に息を吐くがそれでも起きない。さすがにこれ以上は不味いと感じたクラコはユナを仰向けにしてはだけたパジャマを元に戻そうと胸元のボタンに手をかけた瞬間。

 

「んぅ……クラコ、さん?」

 

「あ……お、おはよう?」

 

「……えへへ、おはようございましゅ」

 

 ぱちりと目を開けたユナはベッドに寝ている自身に覆いかぶさっている状態のクラコと目が合った。パジャマははだけ、見ようによってはそこへ手を伸ばしているように見えるクラコ。

 滴る冷や汗をごまかすようにおはようと声をかけると、ユナは微笑んで応える。とはいえまだおはようには早い時間……というかまだ深夜でありユナが寝ぼけているだろう事はクラコもすぐに気が付いた。

 

「んんぅ……くらこさん……?」

 

「わ、わわ!? ちょ、ユナ!?」

 

 ユナは寝ぼけたままの状態で覆いかぶさるクラコへと逆に抱き着いた。上体を起こしてクラコの腰あたりに抱き着いて幸せそうに目を細めるユナの姿はいつもとは異なる遠慮のない甘え方をする。おそらくこれが本来のユナの姿なのだろう。

 

「ひゃ!? ゆ、ユナ!? くすぐったいー!?」

 

「んぅ……」

 

「ああもう! 私が悪かったから~! お願い離して!?」

 

「んにゃふ……くらこさん~」

 

 ユナの抱き着く力はクラコの予想以上に強く、そのまま自身の体にぶら下がったユナに耐え切れずクラコはユナもろともベッドに倒れ込んだ。いまだ夢心地なユナはクラコの体から離れようとしない。むしろ力は強くなる一方でクラコはユナの腕から脱出する事ができないでいた。

 

(これ完全にカザヨミの力よね!?)

 

 結局ユナの両手を引き剥がすことができなかったクラコはユナと一緒にベッドで眠ることにした。諦めの混じったため息をつくが、ユナの幸せそうな顔を見ればそれほど悪くはないかと考えを改める。

 

「ん……? これって……」

 

 ユナがクラコの体を抱きしめているように、クラコもユナの背中に手を回し、抱き合う形でベッドに横になる。だが、クラコはユナの背中に回した指先から伝わる違和感に目を見開く。

 

 本来ならば感じることのない、柔らかくてくすぐったいような感覚。それはパジャマの生地でも、ユナの肌の質感でもない。まるで、野生動物の持つ毛のような、人工的な冷たさを一切含まない自然的な暖かさ。

 

 正しく羽毛のような、包み込む暖かさ。

 

(…………、どうしたものかしら、ね)

 

 犬猫ならばともかく鳥になど触れたことのないクラコであったが、それでもその手触りが"それ"であるとなんとなく理解した。とはいえ指先にわずか感じるだけなので完全に発現したわけではないのだろう。寝ぼけたまま発現しかけるとは、なんともかわいらしいものだと思いながらクラコは目を閉じる。クラコはユナをなだめてやけくそ気味に一緒に眠りにつくことにした。

 

 ユナの将来も、今後の生活も、それはまた明日考えればいいことだ。クラコはそう考え、今はただ二人仲良く眠りにつくことを優先することとした。

 

 

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