愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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100羽 エーテルの記憶

 

「……ごめんなさい、ちょっとだけ、我慢してよね」

 

 イスカはアトリの上体を持ち上げ、自身の胸にもたれかからせ、正面から抱くようにアトリを支える。アトリの翼は力なくだらんと垂れ下がり、けれども体に収納される気配は無かった。

 

 アトリはすでに意識がなく、本来ならば翼も体内に収納されるはずだが、アトリと繋がっている花鶏が覚醒している事で翼が誤認してしまっている。けれどこの状況はイスカにとっては好都合だ。

 

「ホントに、わかんないんだからね……! どうなっても知らないわよっ!」

 

 声はヤケクソっぽいが手つきは繊細を心がけイスカはアトリの翼に触れた。

 

「ん……あ、……」

 

「う……」

 

 僅かに身じろぎするアトリを落ち着かせるように優しく抱きしめ、翼を撫でてやる。案の定アトリの羽は酷い状態で、もはや手ぐしで整えられるようなレベルではなかった。羽が散ってボロボロになり、焼けたり切れたり潰れたり……翼が翼の形状を保っているのがやっとといった具合だった。

 

「お姉ちゃん……」

 

 イスカは恐る恐る翼に触れ、羽の流れに沿って手を動かす。まるでガラス細工のように……、いや、すでに壊れてバラバラになったガラスの破片を素手で一つ一つ手に取るように。これ以上アトリが傷つく事が無いように。

 

「……」

 

 イスカはアトリに触れる。翼に、背中に、頭に、腕に。

 

 姉の形が崩れてしまわないように、自身の手で崩れる勢いを押し留めるかのように。

 

 ふとイスカが視線を落とし、傷だらけのアトリの手を見る。痛々しい生傷が治らずいくつも付けられ、冷たく放り投げられている。イスカはアトリの手を取り、その手を温めるように握った。

 

「……ねえ、お姉ちゃん。私は、覚えてるよ……お姉ちゃんは忘れたって言ってたけど……私は……覚えてるんだ」

 

 かつてイスカが幼い頃、母親の目を盗んで姉と一緒に湖を見に行った。とても大きな湖には長く高いビルが突き刺さっており、まだ幼かった姉妹は単純に広い湖と大きな廃墟の雄大さに感嘆を漏らしていた。大きくなりカザヨミとして成長した今ならそれらの光景を見ても降害の痛ましさしか感じず、感動する事は無いだろう。

 

 それでも、その時の姉妹は単純なスケールの大きさに心動かされていた。二人ともが同じ感情を共有し、同じ空を見つめていた。

 

「……あのときは、まだ仲良しだったよね……。私が湖に入ろうとしたら、お姉ちゃんが慌てて手を掴んできて、私はびっくりして無意識に逃げようとして、お姉ちゃんと一緒に転んでずぶ濡れになってさ……」

 

 物心がつき、姉妹の方向性は少しずつすれ違っていった。ユナの境遇を知り自身より格下と嘲笑っていた妹。ユナの境遇に同情しながらも助けなかった姉。

 

 イスカは今になって思う。あの時、自身は姉の手から逃れるべきではなかった。

 

 ユナを酷く扱った結果、イスカはユナを裏切り、姉をも裏切ったのだ。

 

 だがユナは自身の手を再び握ってくれた。

 

「今度は、私の番だよね」

 

 イスカの羽繕いは決して丁寧とは言えなかった。一度も羽繕いをしていない者の手つきは臆病に震え、手に力が入らずほとんど翼の表面を撫でているだけだった。時折アトリが苦しそうに悶えれば慌てて手を離して身体を抱きしめ落ち着かせようとした。

 

 そして、もう一度下手な羽繕いを始める。先程よりも更に力の無い手つきで、羽に触れるか触れないかの状態で。

 

 アトリの傷は深く広い。イスカはその傷を自身の手で覆い隠すように翼を撫で、肌に触れ、姉が居なくなってしまわないようにと手を強く握った。未だ目を覚さないアトリを、イスカは目が覚めるまで傍にいようと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 嶺渡アトリは夢を見ていた。

 

 もはや風化し切った古い記憶を再現した夢の中であっても、アトリはそれらに違和感を覚えなかった。かつて暮らしていた都市外にいて、まだカザヨミの翼さえ発現していない幼い姿に自身がなっていたとしても、アトリは違和感を感じなかった。

 

 夢などそんなものだと言われればそれまでだが、たとえ夢の中だと自覚したとしても今のアトリでは違和感を覚えることは無かっただろう。

 

 現実と比較して、違和感を感じ取れるほどの記憶が無いのだから。

 

「……」

 

 アトリが周囲を見渡せば荒れた大地と、傾いた瓦礫がポツポツと姿を見せるだけのさみしい光景が広がっている。遠くの山々は大きく形が崩れ、目の前の湖には巨大な柱のような瓦礫が痛ましく突き刺さっている。

 

 そう、痛ましく突き刺さっているのだ。

 

「ねえお姉ちゃん、すっごい大きいね!」

 

 アトリの隣には自身と同じ位の歳の少女が目を輝かせ、突き刺さった廃墟を見上げていた。少女からすればそれは人が生み出したとは思えない人知の外れた物体のように見えるのだろう。アトリを姉と呼んだ人物はその瓦礫が空から降り注ぎ、湖に突き立てられたのだとまだ知らない。

 

 きっと、巨大な樹木を見上げたような感嘆を口にしているだけなのだろう。

 

 だからこそアトリはようやく違和感を覚えるに至った。どうして自分はこの瓦礫の柱に痛ましさを覚えてしまうのか。

 

「私は……」

 

「もっと近くに行こーよお姉ちゃん!」

 

 アトリの隣にいた少女が駆けていく。砂浜に打ち付ける波を弄ぶように足を動かす少女はそのまま湖の方へと歩を進めようとしている。

 

「だめ……!」

 

 思わずアトリは少女を追いかける。少女が何者なのか、どうして自分をお姉ちゃんなどと呼んでいるのか、何も分からないがこのままでは少女が足をすべらせ溺れてしまうかも知れない。

 

 そう思い足を動かすが、アトリは少女に追いつけない。早足から駆け足へと変わっても、少女はどんどん遠くに行く。次第にアトリの体は腰まで湖に浸かり、深いところに嵌って頭まで沈み込む。

 

 

 アトリの意識は薄く細くなっていく。本当に湖に沈んだかのように、夢の中なのにアトリの意識は遠くに向かっている。

 

 遥か遠くの、遥か雲海の果てへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アトリは夢を見ていた。まるでテレビ画面を見つめているように、映された映像を視聴するように目の前に映像が流されていくのを見ていた。

 

 どこかの旅館のような場所で、古い木造の建物が組み合わさってできたその空間に、横たわる青白い髪の少女。

 

 この少女のことさえ、アトリは思い出せない。もはやつい先程の記憶さえも奪われて続けているアトリにとっては自身の魂を内包した少女の存在さえ思い出す事はできなくなっていた。

 

 それでもアトリはこの光景について、なんとなく理解していた。それはまだ奪われていない記憶によるものか、それともまだ魂がかの少女と繋がっているからなのかは分からない。

 

 けれどアトリは理解した。これは少女が生まれた瞬間の光景なのだと。

 

 

『まだ生まれたばかりなんだね』

 

 横たわる少女を見ていたアトリは、その空間に吹いた一陣の風に目を細める。再び目を開いた時、少女のそばにはカザヨミがいた。横たわる少女を労るように微笑むカザヨミは艶のある黒い翼を満足げに動かしては少女の様子を伺っている。

 

『大丈夫だよ』

 

 カザヨミは漆黒の翼を広げ、鮮血のように鮮やかな瞳を細めて口元に弧を描く。

 

『"あなたの為にとんであげる"から』

 

 黒髪が光沢を放ち、鮮やかな瞳の赤が映える。風切りを得意とする尖翼を動かし少女を覆うようにして抱きしめる。生まれたばかりの少女は母親に包まれているような安堵を覚え、安らかな眠りへと向かっていく。

 

 

 アトリはそのカザヨミを知らない。おそらくユナやミサゴたち、あるいは現在のカザヨミ管理部の主要職員の誰もが、このカザヨミが何者かを知らないだろう。

 

 だが、アトリは理解した。それが何者であるか。

 

 黒く艶のある翼を動かし空へと羽ばたけば赤い瞳の残光がまるでラインのように黒に浮かび上がる。

 

 黒い体に赤いラインが入ったその姿はまさに、雲海をゆく燕そのものだった。

 

 

 

 

 

 

「……ちがう」

 

 映像が途切れる。

 

 アトリの眼の前は真っ暗になり、先程見ていた晶動体……花鶏の始まり瞬間はどこかへ消え去った。

 

 おそらくは花鶏が晶動体として生まれ、そこから記憶されていた映像を見ていたのだろう。花鶏とアトリは同一の魂を持ち、故にアトリは花鶏の記憶を覗き見れる。

 

 湖でイスカと共にいた自分の記憶、晶動体として生まれた自分ではない自分の記憶。それはアトリにとって違和感しか覚えない酷く気持ちの悪い混線した記憶だった。そんな濁流のように押し寄せる自分のものではない記憶の中で、アトリは記憶をたどる。記憶を、たどれた。

 

「それは……あの子が、イスカが言ってくれた言葉」

 

 見せられた記憶の中に登場した"燕"のカザヨミ。彼女は花鶏に優しく語りかけた。

 

 "あなたの為にとんであげるから"

 

 その言葉をアトリは知っている。覚えている。思い出せた。

 

 違和感だらけの他人の記憶ではなく、自分自身の記憶の中で妹が、イスカが涙を流しながらも言葉にしてくれた。

 

 

 "私が! これからは私が飛ぶからっ! お姉ちゃんの為に飛ぶから!!"

 

 

「記憶の中身を改変されるのは流石に不快ね」

 

 アトリは静かに言葉をこぼす。周囲を見渡せばまたもや瓦礫と廃墟の大地の上に居た。

 

 遠くにはえぐれた山々、眼の前には広大な湖。そして隣にはイスカがいる。

 

 先ほどと同じ光景が広がり、同じようにイスカが湖へと駆け出そうとしている。

 

「イスカ」

 

 アトリはイスカの手を引っ張り、その手に自身の指を絡ませる。夢の中のイスカはなにやら恥ずかしげに抗議しているが、アトリはその様子を見て懐かしさに口元が緩む。

 

 イスカに触れていると何故か懐かしい思い出が次々と蘇ってくる。イスカと過ごした大切な日々が、ユナと出会った後悔の時が、母親に抗ったあの瞬間が。

 

「イスカ……私も、イスカみたいに生きれるかな」

 

 アトリの意識は夢の世界から遠ざかっていく。失われていた記憶を取り戻し、自身の居るべき世界を見つけ直したアトリにとって夢の世界はもう必要ない。

 

 

 もう、記憶を繋ぐ旅は終わりを迎えてよい時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アトリの手のひらに自身の手のひらを重ね、イスカは懸命に羽繕いを続けていた。これがどれほどの効果があるのかイスカには分からなかったが、それでもひたすらに姉の翼に手を添え続けた。

 

「ねえお姉ちゃん……今度さ、私もしてよ。羽繕い。こんなヘタクソな羽繕いじゃなくてさ、お姉ちゃんの羽繕い見せてよ」

 

 アトリの羽繕いをしていると不思議と過去の思い出が蘇ってくる。羽繕いが"繋がり"のための行為だからなのだろうか。それとも単純に二人きりだからそんな事を思い出すのか。

 

「お姉ちゃんだったらもっと上手いんでしょ? あんなに頑張ってんだからさ」

 

 エーテルが戦慄き瓦礫が軋む。巨大な晶動体が唸り、無邪気な幼子の笑い声が聞こえてくる。けれどイスカにはそれらは聞こえてこない。聞こえるのは姉の薄い呼吸音と心臓の音だけ。

 

「ねえ、帰ってきて。お姉ちゃん」

 

 

 

 

 遠くで、クラゲが鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミサゴ先輩、見つかったっス? 抜けられそうなトコ」

 

「……難しいな」

 

 崩壊した灰色ホテルは上級のカザヨミでさえまともに飛行するのは困難なほどに混迷を極めていた。常に降害の発生している空域を飛行しているような状況なうえ、巨大すぎるクラゲの触手があらゆる方向から迫ってくる。

 

 そして何よりも危険なのは、

 

「ツグミ、もう少しこっちに寄れ」

 

「っ、ありがとうございます……!」

 

 ミサゴが隣を飛ぶツグミに近づき腕を引っ張った。先程までツグミの居た軌道に結晶の花が咲き、それはツグミを追いかけるように空間に咲き続ける。ミサゴが縋りつくように追いかける花を蹴り砕くと細かな結晶となって空に散るが、結晶は再び集まって花の形を作る。

 

「着いてくるか。アレがこっちに視線を向けているみたいだな」

 

「ちょっとハズしまスか」

 

「ツグミは大丈夫か?」

 

「はい、お二人の後ろを着いていきます」

 

 散乱する瓦礫、巨大な触手。そしてなによりミサゴたちの飛行を妨害しているのは空間の中心でクラゲの晶動体に守られている晶動体の核、花鶏からの視線だった。

 

 花鶏が視線を向けた先は結晶の析出起点となり、突然エーテルが結晶化する。一度捉えられれば体そのものが結晶によって致命的なダメージを負う事になる。

 

 だがミサゴたちは焦った様子もなく、花鶏からの視線を切るように瓦礫の影を縫っていく。

 

「触手が来まス。二本、続けて三本」

 

「どうだツグミ?」

 

「正面と上に抜けるルートが開いてます」

 

「……よし。上昇する、エーテルの濃度に注意しろ」

 

「了解っス。ツグミちゃんは私の後ろに隠れておくっスよー」

 

「はいっ!」

 

 花鶏の視線に晒されないように瓦礫のあいだを飛び回り、周囲の状況をつぶさに観察し予想するツグミの言葉で進路を決める。エーテルを視認できるミサゴが先頭で周囲を警戒しながら、ヒタキがツグミを守りながらミサゴを補助する。

 

 彼女たちは現在のオウミ都市における最高戦力である第十七飛行隊。特級二名と特級に比肩する知識を持ち合わせた一級が所属している。難易度の高い空路の開拓と停滞雲、雲海調査を幾度も経験した歴戦のカザヨミたち。

 

 彼女たちの声音は常に冷静で、不足の事態が起こったとしてもそれは変わらない。どのような環境でも慌てることなく対処するだけの訓練を続け、故に飛行は常に安定している。だからこそ、上級でも困難な空域を長閑な空の上と変わらず飛ぶ事ができるのだ。

 

「見つけたぞ……! 綻びだ、出口にするには少々狭いようだが、無理やり通るしか無さそうだ」

 

「よしっス! すぐにユナちゃんとイスカちゃんに知らせに──」

 

 そして瓦礫と晶動体の妨害をかいくぐりついに領域の出口となる境界の綻びを見つけたのだが、

 

「! ミサゴ先輩! ヒタキ先輩!」

 

 だが、それでも想定外な事象というのは発生する。それが雲海という未知なる領域ならばなおさら。相手が晶動体ならば更に。

 

 

 ツグミが音も無く近づく触手の姿を把握し、難なく回避したミサゴたちだったが、その瞬間、触手より極細の結晶片が周囲に射出された。

 

「まずいっス!」

 

「瓦礫を盾にしろ!」

 

 結晶片は針のように細長く先端が鋭利に加工されている。盾にした瓦礫に結晶が深々と突き刺さり、刺さったところから新たな結晶の花が析出し始める。

 

「さながらクラゲの毒針っスねー」

 

「言っている場合か。これを空域全体でされると面倒だ、ぞ……」

 

「……ミサゴ先輩?」

 

「……既に面倒なことになった、か」

 

 瓦礫に隠れながらミサゴは目を細め、初めて焦ったような声を上げた。先程まで見えていた境界の綻びが、無くなっていた。何度も確認するミサゴだが、確実にあったはずの出口は跡形もなく消滅していた。

 

「ばらまかれた毒針でエーテルの綻びが"均された"っスかね……」

 

「意図したものではないだろうが、これでは出口を見つけても同じことの繰り返しだ」

 

 クラゲが射出した針は自身の身体を構築している結晶そのものを用いており、打ち出された結晶は空間全体に広がり、周囲のエーテルを誘引させる。射出された空間へ均等に配置された毒針たちがエーテルの誘引を行った結果、空間に広がるエーテルの濃淡を一定の濃度に均すように作用した。結果としてエーテル領域の濃度差によって発生していた歪みは予期せず掻き消える事態となった。

 

 それはさながら、雲海の入り口が下層から中層に移動したときのような、突発的なエーテルの動きによる変化だった。

 

「とはいえ他に脱出する方法は無いっスよ?」

 

「……逆灯台の時のようには出来ないでしょうか?」

 

 ツグミの提案はかつて逆灯台の"灯台"を降下させて脱出したユナの手法と同じような事が出来ないか、というものだ。灰色ホテルの領域内には多量の瓦礫が浮遊し、それらを落とせば……という提案だった。

 

「……リスクが高すぎる。灰色ホテルの拡張された領域が実際のところどのあたりまで広がっているのか分からない。降害を発生させたとして、直下が都市近辺という可能性もある」

 

 しかしミサゴは首を横に振る。そもそもとしてどうやって灰色ホテル内の瓦礫を落下させるのかという根本的問題もあるが、何よりこの灰色ホテルの領域がどれほど広大で、どれほどエーテルの停滞特性によって拡張されているのかが不明だというのがある。

 

 外から雲海の全景を見ればオウミとキョウトの都市のあいだの空域全体を影響下に置いているが、灰色ホテルの領域はその全体支配空域以上の広さがあると思われる。

 

 エーテルの停滞特性によって実際の空間と見た目の広さに齟齬が生じている為、もしかすると灰色ホテルの直下にオウミの都市やキョウトの都市が存在している可能性があるとミサゴは指摘しているわけだ。

 

 実際にそのような可能性があるかどうかはミサゴたちには判断出来ない。都市の上空はいつも晴れていて、飛んでいるときも違和感など抱いた事はない。だから今自分たちが飛んでいる雲海の真下が都市であるなど普通なら考えもしない。

 

 だが、此処は雲海だ。何が起ころうと不思議ではないし、あらゆる可能性が考えれるのは実際に雲海を飛ぶ彼女たちは嫌というほど理解している。

 

「まあ、じっくりいこう」

 

 ミサゴは余裕を保ったまま努めて穏やかにそう言った。飛行隊の面々もそんなミサゴの言葉を予想外とも思わず、肯定するように頷いた。

 

「でスね。慌てて体力無駄にするほうがダメっスよ」

 

「ユナちゃんにも共有しておいたほうがいいでしょうか?」

 

「そのほうがいいだろうが……あの子はすでに分かっているだろうな」

 

 見上げれば瓦礫の散乱した領域を青灰色の閃がとんでもない軌道を描きながら飛行していた。エーテルの濃淡どころか完全に消失したポイントさえ点在するこの領域で、そのような動きが出来るカザヨミなど都市には存在しないだろう。

 

 たった一人……補助としてクラコが居るものの、それでも単身飛行するユナは第十七飛行隊が三人で分担していた空間の把握と晶動体の攻撃、空間の綻びの把握を一人で熟していた。

 

 煌めく青灰色の光は尾を引いて空間を流れていく。散乱する瓦礫が小惑星のように揺蕩い。遥か遠方を駆ける流れ星のよう。

 

 美しいカザヨミの少女はほうき星のように空間へ線を引き、結晶の華に彩られ、生死の境界線を飛んでいく。

 

 

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