愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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11羽 第十七カザヨミ飛行隊(前編)

 

 この国には各地に都市が存在し、それらは独立しながらもある程度交流を行っていた。交流方法は主に二通り存在し、一つは衛星を用いたネットワークによるもの。基本的に都市外では瓦礫を含んだ停滞雲が空を分厚く覆っているため衛星による通信が難しいのだが、各都市の上空は停滞雲が寄り付かないので存分に利用する事ができる。

 そしてもう一つの方法は、停滞雲でひしめく空の中でも比較的安全なルートを開拓し、確保した空路による物理的な交流だ。

 

 地上に存在していた道路という道路は瓦礫によって封鎖され、橋のたぐいは落とされ、トンネルも崩落。そんな有様で快適に通行することはできない。その上時間をかければ降害に会う可能性も高まるため、基本的に陸路は使用されていない。

 

 また、海路においても降害によって海へ降り注いだ瓦礫が暗礁となり、港近くの浅瀬では大型船の座礁が頻発、幾度もの降害によって大きな港はほとんど機能しなくなった。

 

 対して空路は安全なルートさえ見つければほぼ最短、最速で目的地まで移動できる。カザヨミに課せられた義務の中で、最も重要なのがこの空路を確保することだ。

 

 そんな空路だが、オウミの都市は過去のカザヨミによって三つの太い空路が開拓されている。都市から見て南下する「湖南・南下ルート」はその先にある高速道路跡地の上を飛び、「三重連絡路」と繋がる。都市の北東から伊吹山地の山間を通り抜ける「近江接続路-01号」は新幹線の元線路の上を飛んでいく「岐阜連絡路」へ繋がる。

 

 そして現在、とある三人のカザヨミが飛行しているのは、北西に湖を横断して"元都市"であるタカシマを経由し、「福井連絡路」へとつながる空路だった。

 

 鈍い灰色の雲と雲との隙間を器用に通り抜け、風を利用して翼をはためかせるカザヨミの一団は、眼前に見える停滞雲の塊を睨みつける。

 

「……思ったよりも雲が降りてきてますね」

 

「停滞雲が一つ潰れたんだ。空いた隙間を埋めようと活発に動いているみたいだな」

 

「でも降害が発生したのは南下ルート近くのヒノっスよ? 福井連絡路の停滞雲まで動きますかね?」

 

「それだけ停滞雲が密集しているという事だろう。……いつ"雲海"となっても不思議ではないほどにな」

 

 鳥のようにV形に飛行するカザヨミの飛行隊は薄桃色の翼を広げたカザヨミを先頭に福井連絡路を目指していた。横断する湖には墓標のようにビルと鉄塔が突き刺さり、陸地は荒れ果てた姿を晒していた。

 

 だが、そんな荒れ地でも暮らしている者たちは居る。カザヨミの視力ならば上空からでも地上に住まう人々を確認することができるのだ。

 

 都市に暮らす者たちとは比べ物にならないほど痩せ、衰えた者たちを。

 

 

「……都市は、いつか飲み込まれるのでしょうか……? タカシマの都市のように……」

 

「……タカシマの都市は元々都市としての条件を満たしていなかった、というのがキョウトの都市の見解だ。あそこは停滞雲が寄り付かないのではなく、比良山地より吹き下ろす山風によって停滞雲が流される。……だが、その比良山地そのものが雲海に包まれ押し流す機能が失われた結果、連鎖的にタカシマへ停滞雲が殺到した、という話らしい」

 

「タカシマの都市は知らなかったのですか? 自分たちの住んでいる都市が、降害の危険性を孕んでいると」

 

「さてな。……都市ごとにカザヨミと停滞雲に関する情報の蓄積には差がある。タカシマはあまり他の都市と交流をしなかったらしいし、そのせいで情報が遅れたのかもしれん。……だが」

 

「だが……?」

 

「もしも私が同じ立場だったら、言えるだろうか……都市に住まう者たちに、この都市は危険だから放棄すると……」

 

「……それは」

 

「言えんだろうよ……都市に住む人間が、その生活を手放せと言われれば必ず争いになる。今までの生活を捨てて都市外で暮らせなどと」

 

 飛行隊は荒廃した元タカシマの都市上空を通り過ぎ、福井連絡路へと突入する。彼女たちの任務はタカシマの都市崩壊とヒノで発生した降害によって不安定化した空路の調査だった。

 すでにタカシマ崩壊からかなりの月日が経過し、新規の安全ルートは一応確立されている。しかしそこへヒノの降害発生による停滞雲消滅。その影響がどの程度かを調べに来たわけだ。

 

 このあたりの空路は安定化してからも上級のカザヨミ……それこそ二級以上ならば楽々飛行できる空域であるが、この福井連絡路はただ能力の高いカザヨミが通れるだけではダメなのだ。

 

 福井連絡路は比良山と野坂山地の間の、比較的停滞雲が薄い空間を通るルートであり、このルートはさらに北にあるワカサの都市から伸びる「丹後空路」と繋がっている。

 

 ワカサの都市から海沿いに飛行し、マイヅルの中継地点を南下、京都縦貫自動車道跡をたどって、空路はこの国で最大級の都市であるキョウトへとたどり着く。

 

 この空路がキョウトとオウミを繋ぐ唯一の空路であり、オウミへ訓練の為にやってくる三級以下のカザヨミのため、空路の安全性は他の空路以上に確保すべきというのが、二つの都市の総意であった。

 

「まだ福井連絡路を抜けたあたりですか……長くなりそうですね」

 

「あーあ、マジめんどいっスねー。オウミとキョウトなんてすぐそばにあるのに」

 

「仕方ないさ、二つの都市の間には比叡山にかかる停滞雲の集合体、"雲海"が存在している。あの内部に突入するにはそれなり以上のカザヨミたちと、十分な装備が必要だ」

 

「キョウトの北部も海沿い以外は丹波高地全体を停滞雲が漂っていますからね。時間がかかっても今のルートが一番安全です」

 

「分かってるけどさーやっぱ面倒なのは面倒っスよー」

 

「もうしばらくの辛抱だ、じきワカサの都市が見えてくる」

 

 薄桃色の翼を一度大きく羽ばたかせ、気流に身を任せるリーダーらしきカザヨミはそう言って前へと視線を戻す。

 

 この飛行隊で唯一の特級カザヨミである沙凪(さなぎ)ミサゴはそれ以降、ワカサの都市に到着するまで口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「てかミサゴ先輩はストイックすぎなんスよ。なんで空路調査で寄った都市でも訓練所にいるんスかねあの人は」

 

「さすが特級ですね……私はまだ二級ですから、あまり長時間は飛べないのに……」

 

「私だってツグミちゃんと同じでスよぅ。昇級したてで一級の実感ないでスし……はあ、メンドーっスね~」

 

「大丈夫ですよ、ヒタキ先輩ならすぐに一級の中でもさいこー!になりますよ!」

 

「あはは……さいこーっスか」

 

「はい!さいこー!です!」

 

 オウミとキョウトの空路調査に参加したカザヨミの飛行隊は全員で三名、リーダーである薄桃色の翼を持つ女性、沙凪ミサゴは一人で都市内のカザヨミ関連の施設へと出かけ、そのまま訓練に参加しているという連絡が残りの二人にきた。

 

 その連絡を受けた一級カザヨミである(みぎわ)ヒタキはあまりの真面目さに若干引き気味だ。隣にいる二級カザヨミである風花(かざはな)ツグミは苦笑してはいるがヒタキほどではない。むしろ、その真面目な性格がミサゴという先輩を特級たらしめているのではないかと思い、尊敬の念を抱くほどだ。

 

「せっかく都市で休めるんスからなんかおいしーものでも食べに行けばいいのにって感じっス」

 

「あ、それじゃあお夕飯はミサゴ先輩と一緒にどこか食べに行きませんか? ここの都市はお魚が有名なんでしたよね?」

 

「お!それはいいっスね!やっぱ海の近くの都市は魚が食べれて最高っスね~」

 

「さいこー!ですよね!」

 

「じゃあお昼もお魚にしまス? いろんな種類を食べたいっスよぅ!」

 

「賛成です!」

 

 都市はそれぞれ全く環境の異なる場所に存在する。というのも都市の設置場所は偶然生まれた停滞雲の隙間に造られるので、人間が立地を選ぶことはできないからだ。

 山間に造られた都市もあれば海の近くに造られることもある。当然食生活に関してもその土地に根付いた調理法と食材が用いられるのが常だ。陸路も海路も失われ、空路しか利用できない現状では、内陸部に存在する都市が新鮮な魚を口にするのは難しい。逆に海の近くの都市は潮風によって栽培できない野菜や果物などは手に入れるのに苦労しているのが現状だ。

 

 その点でいえばオウミの都市は食物に関してかなり恵まれている方だろう。湖とはいえ漁ができ、野菜や米の栽培も可能な平野が広がり、山に囲まれているため山の幸も手に入れられる。

 

 とはいえやはり海の魚が食べられるとあれば、オウミ所属のカザヨミである二人も上機嫌になろうものだ。

 

 ミサゴからカザヨミ訓練所で昼食を済ませると連絡を受け取った二人は目立たぬように翼をしまい込み、繁華街へと魚料理の店を探しに出かけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 店はどこにでもあるようなこじんまりとした魚料理の店で、昼時間な為かそれなりに混んでいた。人の列に並び始めたヒタキとツグミはしばらく雑談をしながら時間をつぶしていたが、その列を無視して店内に入っていく人影を見かけ、顔をしかめる。

 

「申し訳ありませんお客様、現在店内は大変込み合っており……」

 

「あ?わかんねーの?この背中のヤツさあ」

 

「え? ……あ! す、すみません! すぐに席をご用意させていただきます!」

 

「チッ、気づくのがおせーっての」

 

「私たちがカザヨミだって一目見りゃわかんだろーがよ」

 

「マジ?登録者数五万越えのワタシたちの顔わかんねーとか都市に住んでる権利なくね?」

 

 カザヨミたちは自身の翼を広げ、周囲にアピールする。翼を動かすカザヨミの姿に歓声を上げる者たちもいるが、ほとんどの人間は黙ったままだ。

 

「あー……やっぱあーゆーのがデフォだと思われてんスかね、カザヨミって」

 

「おそらくは下級の方たちでしょうけど……都市に住んでいる人たちには等級の違いなんて分からないでしょうね」

 

「あんなのと一緒にされるのはイヤなんスけどねぇ……」

 

 列を無視して店内に入っていったのは翼を発現したままのカザヨミだった。最初は店員も列の割り込みを注意しようとカザヨミたちに近づいたが、その翼を見て態度を変え、頭を下げて店内へと案内していった。

 

 列に並んでいた者たちは多少眉間に皺を寄せ、不満をあらわにするが、カザヨミへと批判を口にするものは居ない。

 

 だが、彼ら彼女らの中でカザヨミに対する不信感や不満感は確実に蓄積しているだろう。

 

「……私、注意してきます。カザヨミであることを利用してやりたい放題するなんて……!」

 

「やめといた方がいいっスよ。私たちはワカサの都市所属じゃないんスから。他の都市所属のカザヨミが口出しすることじゃないっス」

 

「ですが……。気が進みませんが、等級が上であることを知れば私の話を聞いてくれるかも……」

 

「ありゃ注意してもダメっスね。三級四級はまだ座学がメインなんで先輩(わたしたち)がどれだけ注意しても聞きゃしないっス。実際に飛んで、空がどれだけヤバイのかを実感しないと尊敬なんてしないっスよ。私だってミサゴ先輩が飛んでる姿を見る前はあんな感じだったと思うっス」

 

「……」

 

「ほらツグミちゃん、私たちの番すよ、何食べるか考えときましょうよ」

 

「……わかりました」

 

 

 

 

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