愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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12羽 第十七カザヨミ飛行隊(後編)

 

 

 運ばれてきた魚料理を堪能しながら、ツグミは先ほどのカザヨミたちが口にしていた内容について先輩へと疑問を投げかける。焼き魚をほぐす箸は止めず、それを先輩であるヒタキも注意する事は無い。二人はカザヨミとしての等級は異なるが、歳はそれほど離れておらず、リーダーであるミサゴが堅苦しいのを嫌っているため三人の距離はなかなかに近く、深い。

 

「そういえばヒタキ先輩、先ほどのカザヨミの方々が言っていた、登録者がどうとか……あれって何の事か知っていますか?」

 

「ん? ああ、あれね……あれはバードウォッチっスよ」

 

BW(バードウォッチ)って……あの、動画配信サイトのBWですか?」

 

「そうそう、世界で一番の認知度を誇る、あの動画配信サイトの事っスよ。アイツら、そこで自分のアカウントがどれだけチャンネル登録してる人間が多いかでマウント取ってるってワケっス」

 

 動画配信サイト"バードウォッチ"。それははじめカザヨミたちの情報交換の場として立ち上げられたサイトだった。

 

 カザヨミがこの世に現れ始めた頃、彼女たちは現在のように都市所属となる以外の道をたどる事が多かった。もちろん今と同様に都市所属となるものも居たが、それ以外に都市をまとめていた国そのものに所属する者も存在した。

 

 大企業や非営利組織に所属するもの、権力者や資産家の下につく者。中には金も権力も無く、ただ愛した人の為に生きたカザヨミも居た。

 

 所属も目的も信念も異なるそれらカザヨミたちの情報共有の場として生み出されたのがBWであった。

 

 だが、降害の深刻化によって都市をまとめていたはずの国という存在は分解し、権力や資産を持つものは都市を管理するポジションに居座った。その結果カザヨミはそのほとんどが都市所属となり、BWは設置当初の役目を終えた。

 

 だが、その後BWはカザヨミたちの情報共有の場という閉じられた空間から一般人への開放を経て娯楽を提供する動画配信サイトとして変化した。カザヨミの機密保護のため、一般への解放後しばらくはカザヨミ以外の一般人が動画の投稿や配信者として活動し、カザヨミに匹敵する知名度を得るまでの規模となった。それを見たカザヨミ関係者はその知名度を利用し、再びBWにカザヨミたちを呼び戻した。

 

 そうして現在の、カザヨミに関する情報や知識、娯楽やバカバカしい動画が混沌と入り乱れる動画配信サイトが形成された。日々投稿される動画や生配信は娯楽に飢えた視聴者に人気となり、いつしかカザヨミたちは自らBWに動画を投稿し、配信を始めるようになった。

 

 時たま配信中のカザヨミが機密をおもらししたりして炎上騒動に発展する事もあるが、BWはすべての人々に概ね好意的に受け入れられていた。

 

「? チャンネル登録者数で……それは……自慢になるのでしょうか……?」

 

「カザヨミとして満たされていた承認欲求が暴走したんスねぇ~、なんて。それは冗談スけど、意外とBWは見てると楽しいもんスよ。最近は都市の公式アカウントから現役のカザヨミが飛行訓練の様子をアップロードしたりしてまスから勉強にもなるっス。ツグミちゃんもアカウント持ってたっスよね?」

 

「はい……ですが動画の投稿なんて、それに配信だってした事ありませんし……」

 

「私も見る専っスね~、でもツグミちゃんの配信なら人気出ると思うっスよ~。まさに清楚って感じで言葉遣いも丁寧で声も綺麗でスし、何より上級のカザヨミの飛行風景なんて都市の公式アカウント以外には視聴できないでしょうし~」

 

「……私は遠慮しておきます。動画を撮って人気になるよりも、自分の翼で空を飛んでいる方が楽しいですから……」

 

「ふ~ん……ふふ、ツグミちゃん、ツグミちゃんはすぐに一級になるっスよ。私が保証しまス」

 

「え、な、なんですかいきなり……?」

 

「ふふふ~……」

 

 ヒタキは尊敬する先輩であるミサゴの背中を見続け、努力の果てに一級という最上位帯のカザヨミになった。そうしてヒタキは一級になるために最も重要なことは何かを、ミサゴの隣で飛び続け理解した。

 

 それは、空を好きであるという事だ。何よりもあの遠く青い空の果てへと恋焦がれる心こそが、カザヨミを望む果てへ連れて行ってくれる。だからヒタキはツグミがすぐに自身と同じ一級になるだろうと確信していた。

 

 ヒタキは照れながら困惑するツグミに笑みを向け食事を続ける。海の幸が手に入る珍しい都市のひとつであるワカサだが、周辺海域が降害によって暗礁だらけとなり、遠方へと漁船を出すことは難しい。ソナーを使って暗礁の位置を確認しながら徐々に進むことはできるだろうが、定期的に発生する降害のことを考えれば効率的ではないし、安全とも言えない。

 

 ゆえにテーブルに並ぶ料理の数々は近海で捕れるものがほとんどだ。それでも種類は豊富で調理法も消失していない。さらには降害によって海に落下した瓦礫が天然の岩礁のような役割を果たし、遠方の海からの捕食者が入り込まず、小型の魚類が隠れる絶好の漁業スポットとなっていた。

 

 捕食者が入り込まず、各国の漁船も姿を消した現在、ワカサでの漁獲量はそれまでの倍近くにまで伸びている。ゆえに新鮮な魚料理が格安で、どこでも食べられる。

 

 国の崩壊と、都市という閉鎖的な空間での生活。そして空路開拓という命の危険を伴う作業に追われるヒタキたちにとってその土地だからこそ食せる料理というのは遠方への飛行計画における楽しみの一つなのだ。

 

「人気といえば……最近オウミ所属になった姉妹がおられましたよね。……たしか、嶺渡(ねわたし)という名前の」

 

「あ~、それならかなり話題になってるっスよ。期待の新人姉妹、姉の嶺渡アトリは翼の発現から三日で飛行できるようになって今は二級っスね。妹の嶺渡イスカは三級っスけど、オウミのお役人によればすぐに二級になってもおかしくないって話っスね」

 

「すごいですね……先生に聞いた話では、カザヨミはそのほとんどが三級か四級で能力が伸びなくなるという話でしたが……お二人とも本当の姉妹なんですよね?」

 

「実の姉妹らしいっス。カザヨミには珍しいっスよね。それに姉妹ともカザヨミとしての実力も申し分ないって言うんスから、嫉妬しちゃいまスよ」

 

「ふふ、ヒタキ先輩は全然そんな風には見えませんよ? どちらかというと、これからビシバシ鍛えてやるっス! みたいなお顔をしています」

 

「へへ……まあ、簡単に追いつかれるつもりはないっスからね~。それに、ミサゴ先輩は少し彼女たちを心配してるみたいっス。……心配と言うか、懸念スね」

 

「? その姉妹に何か問題が?」

 

「本来ならカザヨミは四級から徐々に等級を上げていく訳っスけど、あの二人は飛び級でいきなり二級と三級になったじゃないスか? さっき見た列に割り込むカザヨミみたいな性格のまま、空に飛ばして大丈夫かって事っスね。生意気なだけならいいスけど、指示を聞かないんじゃ危なっかしくて見てらんないスから」

 

「なるほど……なまじ才能があるから、という事ですね」

 

「それに二人の母親についても……いや、これは関係ない話っスね、忘れてくださいっス」

 

 話の流れで姉妹の母親について口を滑らせるところだったヒタキは口をおさえ、発言を撤回する。オウミの都市に新たに所属した嶺渡姉妹について、都市所属のカザヨミの中でも一級以上のカザヨミにはその存在と、いくらかの重要事項が伝えられていた。

 

 注意事項はまず、彼女たちの母親の存在についてから始まった。カザヨミとして力が発現する時期に都市を訪れ適正検査を姉妹に受けさせに来た嶺渡母は、姉妹両方が高いカザヨミ適正を持つことを理解した途端、都市への移住を完了させ、二人の存在について周囲に自慢し始めた。都市外住みだった母親に都市内での伝手など存在しなかったが、母親が何かしなくても血のつながった姉妹が二人ともカザヨミとなったという事実は都市の上層部の耳に必ず届く。

 

 それを予想していたようにまだ若い母親は都市の上層、権力者たちへと食い込んだ。取り入る方法も、交渉のやり方も素人同然のお粗末なものだったが、母親の存在は利用できると踏んだオウミ都市上層部は母親をそのまま都市でも上部の権力者として迎え入れた。

 

 そして母親はさらなる権力と名声を手に入れるため、娘二人をより高名なカザヨミとして育てようとしている……らしい。

 

 らしいというのも都市を管理維持している上層部とカザヨミをまとめ上げている部署のようなものが異なっているため、確定的な情報が手に入らなかったのだ。

 

 ヒタキもオウミでカザヨミたちをまとめ上げる"先生"からこれらの情報をそっと耳打ちされた程度だ。噂話程度に思ってくれていればいい、と先生は彼女に言ったのだが、その後姉妹は不可思議な等級の上げ方をして現在の二級と三級に収まっている事から、この噂が真実なのではとヒタキは考えている。

 

 本来昇級試験は半年に一度しか受けられず、必要な座学を教えるため必ず四級から始まり訓練所に通う。だが姉妹は試験を受けずに聞き覚えのない"特別昇級試験"などという制度を使って級を飛ばし、本来四級で覚えるべき基礎座学を省略した。

 

 姉に至っては飛行訓練をまともにすることなく停滞雲ひしめく空に上げようとしている。

 

 これらの無理やりな姉妹の昇級は、彼女らの母親と上層部によるごり押しなのではないか?

 

「……ままならないっスね~……まあ、ツグミちゃんは気にしなくていいっスよ~……」

 

 今回一級以上のカザヨミに姉妹と母親の情報が重要事項として伝えられたのは、彼女たちとともに姉妹が空を飛ぶことになるだろうから、だ。

 

「? はい、わかりました」

 

 頼んだ料理を平らげ、オウミの魚料理の店とは比べ物にならないほどの格安の料金を支払った後、ヒタキとツグミは都市の姿を珍しそうに見渡し、観光していく。先ほど食事をしたところと同じような魚料理の店が並び、当然のようにブランド物の服や装飾品の店も立ち並んでいる。そのあたりはオウミの都市とそう変わらないようだ。カザヨミ関連の施設もいくつか確認でき、それらはすべて関係者以外立ち入り禁止の表示がされている。カザヨミの訓練所においては守衛が置かれ敷地に入る事すら許可が必要となる。

 

 だが、ヒタキとツグミの先輩であり飛行隊のリーダーである沙凪ミサゴはこの中で訓練生とともに訓練に参加しているという。

 

「ミサゴ先輩、許可は取られていたのでしょうか?」

 

「……微妙っスね~。カザヨミであることを知らせれば施設内には入れるっスから無許可で突撃した可能性があるっスよ」

 

「大丈夫なんですかそれ!?」

 

「相手はこの国に5人しか居ない特級のカザヨミっスからね~……訓練に参加したいなんて言われたら断れないんじゃ無いっスか?」

 

「ああ……また先生に怒られる……」

 

「まあ、私も一緒に怒られるっスよ、先輩を止められなかった責任は私にもあるっスから」

 

 肩をがっくしと落とすツグミを慰めるヒタキだが、そのヒタキもそれなりに"やんちゃ"なカザヨミであることを承知しているツグミは涙目でヒタキを恨めしそうに睨みつけるが、ヒタキはわざとらしくあらぬ方向を向いて口笛なんて吹いている。

 

 そんな姿を見てツグミは大変な先輩二人と一緒のチームになってしまったことにほんのわずか、後悔する。それでも信頼できる先輩であることに変わりはないので、ツグミは小さくため息をつきながらも体を起こし、カザヨミ訓練所の建物を見上げた。

 

 建物の屋上は広く取られており、カザヨミたちが滑走路のように利用できるようになっている。全体的に灰色のコンクリートで形作られた建物たちには、特徴的な燕のマークが悪目立ちしない程度の大きさで刻印されている。

 

「……始まりのカザヨミ、ツバメのマーク。どこの訓練所にもあるのですね」

 

「一応私たちのシンボル的存在っスから。……突然どこからともなく現れた、正体不明のカザヨミ、ツバメ。所属も、拠点もわからず、最期がどうだったのかも不明……」

 

 ヒタキは空を見上げる。上空ではカザヨミたちの飛行訓練が行われているらしい、数名のたどたどしい飛び方をしているカザヨミたちの中で、一際滑らかに飛ぶ一人のカザヨミ。

 

 どうも特級のカザヨミは新人にも手は抜かないらしい。

 

 ヒタキはワカサの都市所属カザヨミと共に空を飛ぶミサゴを見上げ、彼女もツバメと同じく都市外からいきなり現れたんだったと、思い出した。

 

 

 

「……案外、そーゆーはぐれ者の中から、とんでもねーヤツが現れるのかもしれないっスね」

 

 

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