愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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28羽 第十三次雲海内調査計画

 

 広大な湖に隣接するオウミの都市はカザヨミの為の施設以外に様々な建物が建築されている。それは住民に最大級の娯楽を提供するためであるのと同時に、都市外または他の都市に住む人間へ都市の発展具合を誇示する意味合いもあった。

 

 キョウトなどの広大な土地を丸ごと都市として確保できている稀有な例を除けば、ほとんどの都市はその土地の狭さゆえに高いプライドを上へと積み上げていく。オウミの都市に所属する唯一の特級カザヨミである沙凪(さなぎ)ミサゴはそんな積み上げられたオウミのプライド、高層ビルの30階より眼下をなんとなしに見下ろしていた。

 

「どしたんスかミサゴ先輩? 此処からの光景で珍しいものなんて無いっスよ?」

 

「ああ、ヒタキか……ツグミはどうだった?」

 

「携帯で連絡してみたら今日は自主訓練するみたいっス。例の南下ルートを行くって言ってたっスよ」

 

「そうか……ツグミもここに連れてきたかったのだがな……」

 

「仕方ないっスよ、ツグミちゃんは確かに才能ありありっスけどまだ二級っスからね。今頃嶺渡姉と一緒に訓練してるでしょ」

 

「……そうか」

 

 オウミの都市の中心部に建設された高層ビルはまるで塔のように悠然と聳え立っていた。かき集められるだけの資金と人材を用いたそれは上空より降り注ぐ太陽の光を反射して銀色に光っているようにすら見えた。

 

 このビルは全40階層もの高さを誇り、上から10階層分は特別待遇な都市の住民のための居住地区とされている。ミサゴと一級カザヨミである(みぎわ)ヒタキがいる30階のエントランスより下は様々な商業施設が入り、そのどれもが高級で格式の高い店ばかりで、故にこのビル自体に入場出来る人間も自ずと限られていた。

 

 そんなビルのエントランスは現在オウミでカザヨミたちを管理する部署、通称"カザヨミ管理部"によって貸し切り状態にあった。窓の外を見下ろしていたミサゴが部屋の中に視線を戻せば、そこの居るのはカザヨミたちとカザヨミ管理部、そして都市管理上層部の人間たち、通称"都市管理部"と呼ばれる者たち。

 

 翼をしまい込んでいるので正確にどれだけのカザヨミが居るのかは判断できないが、招集されたのは主力である一級と特級のみ。その為まだ二級である風花(かざはな)ツグミや新しく飛行隊メンバーとなった嶺渡(ねわたし)アトリはここには居ない。

 

「……おいしそうなお肉のお店があったのだがな……」

 

「そーいうところっスよミサゴ先輩? 招集命令をついでにして隊のメンバーとココの高級店でごはん食べたいなんて言い出したらカザヨミ管理部の顔真っ赤っスよ」

 

「訓練だけでなく食事などで交流を図るべきと言ったのはヒタキじゃないか。ツグミもアトリもこういう所で食事するのは気が引けると言って誘っても辞退してしまうし……」

 

「ごはんの為だけに一級以上のみを招集した会議に付いてくるわけ無いっス」

 

「むう……」

 

「ささ、もうすぐ会議が始まるっスよミサゴ先輩。オウミ唯一の特級なんスから、もうちょっとシャキっとしてごはんの事はしばらく考えないようにしてくださいっス」

「分かったわかった。だからあまり強く引っ張らないでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもは特別階級の人間で賑わっているはずのエントランスはその時間帯において恐ろしいくらいに静かだった。エントランスの一角に存在する、飲み物を提供する簡易的なバーには店員がグラスを拭いている様子がうかがえるが、カウンターの前に客はおらず、ただゆったりとした音楽のみが流れていた。

 

 エントランスの中央にある巨大なテーブルの前には、本来くつろぐために存在するはずのソファに緊張した面持ちのカザヨミたちが姿勢正しく座っていた。これまで何度か一級以上のカザヨミを招集しての会議は行われており、そのほとんどはカザヨミ関連の施設の会議室などで行われる事が通例だった。だが、今回この高層ビルのエントランスを貸し切って会議が行われる事になったのは都市の管理を行っている都市管理部の思惑が深く関わっているのだが、それをカザヨミたちが実感したのは、会議の場に登場した騒がしい人の声とカメラのシャッター音が鳴り響き始めてからだった。

 

 

「それでは皆さんこちらに視線をお願いします!」

 

「もう少し表情を柔らかくお願いします!」

 

「沙凪さん手を振ってもらっていいですか?」

 

 並んだテーブルを囲むように座るカザヨミたちと都市上層の人間。そしてカザヨミ管理部の責任者である"先生"。それらを取り巻くようにカメラを構えているのは都市のテレビやラジオの取材陣。つまりはメディアの人間だった。

 

 彼らに向かってにこやかに手を振るカザヨミたち。一級になりたてのカザヨミは得意げな表情を隠そうともせずカメラに愛嬌をふりまいているが、ミサゴをはじめとした一級になっていくらか経っているカザヨミはカメラの存在に顔をしかめるしかない。それでもここにカメラがあるという事はカザヨミ管理部が入場を認めたという事であり、つまりは仕事であると認識しているため露骨に険悪な顔を作る者はいない。

 

「はー……ヤになるっスね~……カザヨミを見世物としか思ってないんだから」

 

「いくらか知っている局のロゴマークは確認できるが……顔を知らない者が多いな」

 

「"アレ"っスよー……もーメンドーっスねー……」

 

 しばらくすると先生の隣に一人の女性が歩み寄ってきた。先ほどまでカザヨミたちを撮影していたカメラは一斉に其方にレンズを向ける。金色のアクセサリーをこれでもかと身に着け、鼻につく香水に匂いに、遠目からでもわかる濃い化粧。都市の特権にまみれたその姿を一目見れば女性が何者なのか察することが出来るだろう。

 

「あの人がアトリの母親か……なんというか……」

 

「想像してた通りって感じの風貌っスよねー」

 

 都市の外からカザヨミの特権で入ってきた鳴り物入りの女性。それがミサゴたちの第一印象だった。女性はにこやかに微笑み先生と握手を交わし、その様子をカメラが一斉に捉える。四方八方からカメラのフラッシュがちらつき、思わずヒタキは女性と先生から視線を外す。

 

「ミサゴ先輩、あまり見つめてると目が痛くなってくるっスよ」

 

「心配しなくても大丈夫だヒタキ。この程度停滞雲の中に比べればぬるい雷鳴程度にしか感じないさ」

 

「停滞雲と比べないでくださいっス」

 

 ミサゴは微動だにせずマスコミの撮影会を冷めた目で見つめていた。事前にこのような"催し物"がある事は知らされていたが、まさか嶺渡母という話題の人物が出張ってくるとは思っていなかったヒタキは、微妙な顔のまま女性と先生が握手してカメラへ微笑んで固まっている光景を眺めていた。

 

 おそらくはこれも嶺渡母とその裏でいろいろと策謀を巡らせている都市管理部の思惑が絡んでいるのだろうと予想ができ、ミサゴはため息をつく。現在オウミの都市は嶺渡母の登場によってあらゆる意味で話題と中心となっている。過去数十年のカザヨミの歴史において血縁とカザヨミの力に関連性は無いと判断されていたが、嶺渡母の娘が二人とも上級レベルのカザヨミとして発現したことでその常識は過去のものになろうとしている。

 

 少なくともオウミの都市はこれを偶然ではなく、嶺渡母が特別なのだと大々的に宣伝していた。彼女に特別な力があろうとなかろうと、オウミの都市は彼女を旗印として周辺都市よりも強い発言力を手に入れようとしているのだろう。

 

 周辺都市に対する発言力の増加を画策するオウミ都市管理部と、単純に名声を手に入れたい嶺渡母の思惑が合致し、その結果カザヨミ管理部への過度な干渉が行われるようになったのだろう。

 

「はー……実際に空を飛ぶのはこっちなんスけどねぇ……まるで自分が飛ぶみたいな意気込み語ってまスね」

 

「士気を上げているつもりなのだろう。こちらとしてはいきなり現れて何様だという気持ちだが」

 

 そうして嶺渡母はしばらくの間カメラの前で持論を語り出し、満足したような顔でカメラを引き連れ出ていった。後に残された先生はため息を零し、ようやく本来の話し合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、皆には忙しいなか、集まってもらって感謝している。今回皆を招集したのは来月に行う予定をしている雲海内調査についてだ」

 

 ソファに腰掛けるカザヨミたちと都市管理部の人間を見まわし、話し始める先生は背後に設置されたスクリーンに映る文字を背にして手元の資料を漁る。

 

 スクリーンには大きく"第十三次雲海内調査計画"と表示され、その概要が流れていく。

 

「ここにいる一級以上のカザヨミである皆は既に承知の事だろうが、雲海への突入はこの都市のみならず、すべての都市が生存していくための重要な計画だ。雲海内の調査は雲海がどのように形成されるのかを解明するためには必要不可欠であり、今後の空路開拓と維持において重要となる」

 

 先生の言葉にカザヨミたちは一様にうなずき肯定する。その表情には先ほどまで嶺渡母に向けていた呆れたような視線は全くなく。ひたすらに真剣な表情で先生を見つめ話を聞いていた。特に先生が雲海という言葉を発すれば、カザヨミの中でもその恐ろしさを知っている者たちの瞳は恐怖の色をわずかに揺らめかせる。

 

「今回で雲海内調査は十三回目となる。これまでの無人航空機、特級、そして数多くの亡きカザヨミたちによって雲海は解明され始めている」

 

 話を聞くカザヨミたちの中には殊更緊張した面持ちの一級カザヨミも多い。彼女たちは今回の調査計画で初めて雲海へと突入するカザヨミたちだ。そんなカザヨミたちの為に先生はこれまで判明した雲海という存在についての説明をはじめる。

 

 

 雲海。それは降害を発生させる停滞雲が寄り集まり巨大化した存在の事を言う。風に流されいくつもの停滞雲が押しつぶされるように密集し一つとなったり、山に囲まれた土地に停滞雲が入り込み、堆積した結果融合したり、降害の発生によって弱体化した停滞雲を他の停滞雲が飲み込んだりといった要因によって形成されると言われている。

 

 その規模は集まった停滞雲の数に比例し、大陸では国を一つ丸ごと覆ってしまうほどの雲海さえも発生しているという。

 

 停滞雲が密集している空ならば、か細くとも停滞雲と停滞雲の隙間に空路が生まれそれが各都市の生命線として機能する。だが停滞雲が完全に纏まり雲海を形成するとそのようなか細い道さえ無くなり、雲海の存在する空域に安全な空路は存在しなくなる。

 

 さらに厄介なのは雲海の内部が通常の停滞雲とは比べ物にならないほどの異常な環境を生み出す点にある。雲海は一定の大きさになると自ら周囲の停滞雲を飲み込みはじめ、さらに巨大な姿へと成長していく。広範囲に広がっていくだけでなく鉛直方向へも成長し、その姿はさながら鉛色の超巨大な積乱雲といった具合だ。

 

 先生が説明した通りこの雲海に都市とカザヨミは長い期間を用いて調査と研究を繰り返し、少なくない犠牲を払ってその全体像を掴みかけている。その調査結果から都市は地球にいくつも存在する雲海にはどれも共通した特徴があると予測している。中でも確定している特徴として、高度が高くなればなるほど段階的に雲海内部の飛行難易度が上昇する、というものがある。

 

 

 それを確定した調査がその昔、大陸の雲海で行われていた事がある。かつてカザヨミの能力がまだ疑問視されていた時代において、無人機を用いた雲海内の調査が実施された。無人航空機を雲海の最下部、地上に最も近い場所から雲海の頂上までロケットのように真上へと飛行させ、その内部を把握しようとした実験だ。

 

 多種多様なセンサー類とカメラによって雲海の内部は白日の下に晒されると当時の調査チームは考えていただろう。だが、雲海に突入した直後に無人機との通信が途絶。停滞雲で既に無線を遮断することが判明していたのでその点については既に考慮されており、無人機はすぐさまAIによる自立飛行へと切り替えられた。だが、その飛行も長くは続かなかった。通信が途絶した数分後には墜落する無人機が確認されるか、雲海に囚われ飛行完了予定の時刻になっても帰還しなかった。

 

 回収された無人機だったものは内側から破壊されたような痕跡がいくつも発見され、外装はおろか内部の電子基板までもが歪に変形しており機能不全の状態となっていた。おそらくは雲海に突入した事で無人機内部で停滞結晶の析出が起こり、精密部品を内側から破壊したのだろうと予想された。

 

 その後も問題の究明と無人機の改良を行いながら雲海の調査は続行されたが、結果は30機送って回収できたのはたったの3機のみ。運よく回収できた3機の無人機から得た情報はそれほど多くは無く、恐らく確定だろうという情報は雲海内が三つの領域に分かれている、という事のみだった。

 

 その情報こそが、都市が知り得る唯一の確定した雲海の特徴だった。

 

 最も地上に近く、通常の停滞雲レベルの異常気象が発生している"下層"。地球の基本法則をことごとく無視したありえない環境が広がる"中層"。そして集積した情報によって存在が示唆されている"上層"。

 

 この三つに明確に分かれているわけでなく、時々上昇気流や下降気流によって層の境界が曖昧になるのであくまで三つの領域が存在している、というイメージでしかない。

 

 オウミの都市はこの雲海にこれまで十二回もの調査を行い内部に突入してきた。この国に五人しかいない特級の一人であるミサゴの力を借り、オウミは下層の探索が比較的安全に行えるまでのノウハウを蓄積していた。

 

 そして今回の十三回目の調査計画の最重要項目として先生が説明したのは、下層から中層への突入計画。キョウトはおろか、大陸の都市でさえほとんど成功していない中層の探索計画を実行するといったものだった。

 

「今回の雲海調査には都市管理部に協力を要請し、雲海突入までに必要なバックアップを行ってもらう事になっている」

 

「? 都市管理部が……? それは一体……」

 

 先生の言葉にカザヨミたちから疑問の声が漏れる。これまでカザヨミ管理部と都市管理部が共同で雲海調査を行ったことなどなかった。停滞雲や雲海の調査、空路の管理維持は基本的にカザヨミ管理部が行い、都市管理部はそれらの情報から都市の管理維持、他都市との物資輸送計画などを組み立てる。都市管理部が停滞雲や雲海の調査に関して口を挟むことはこれまで無かったのだ。

 

 雲海突入に関する段取りを話し合うこの場に都市管理部の人間が居る事も珍しい。それでも今まで皆無ということではなかったのでカザヨミたちは彼らの存在を疑問視していなかった。だが、先生の言葉によってカザヨミと都市、二つの管理部が今後密接な協力体制を執ると確定した。

 

「……ミサゴ先輩、知ってたっス?」

 

「話だけはな。……ヒタキも薄々こうなると思っていたんじゃないか?」

 

「それは……まあ、話が始まる前に嶺渡母(あのひと)が出てきたっスから……でも、二つの管理部って仲が……」

 

「かなり悪いな。先生はこちらから都市管理部に協力を要請したと言ったが……おそらくは都市管理部になにか言われたのだろう」

 

「あーあ……先生の性格じゃあ突っぱねるのは無理そうっスよね~……」

 

「私たちの負担になるような要求はきっぱりと断ってくれるさ。あの人は私たちカザヨミが第一だからな」

 

「そこがダメなんスよ、先生私たちの為に自分を犠牲にしすぎなんス」

 

 都市を管理する上層部、通称"都市管理部"はそのまま都市の上位層が在籍しており、彼らによってオウミの都市は運営されている。その中には嶺渡の母も末端とはいえ所属しており、その影響力は現在の都市管理部の在り方を変えようとしていた。

 

 嶺渡の母は今やこの国に存在する全都市で放送されているテレビ番組などで連日その姿を見る事が出来る。まるで台本が用意されているかのようなもっともらしいセリフをテレビの向こうから届け、それを報道関係の人間が大いに盛り上げて彼女を称賛する。

 

 嶺渡母は都市で手に入る娯楽以上の刺激を求めていた都市住民の注目の的だ。都市外で育った嶺渡母の苦労話から始まり、二人の娘を育てるまでが繰り返し番組で取り沙汰され、そして都市に迎え入れられるところでハッピーエンド。

 

 まさに絵に描いたようなサクセスストーリーは都市内の人間に大層喜ばれ、彼女を支持する者たちは日ごとに増えていった。

 

 嶺渡母は他の都市管理部の人間のような暗躍するほどの技量もコネもなく、ただひたすらに名声だけを追い求める愚者と都市管理部に認識されていた。だが、有名人となった彼女の名前は利用価値がある。都市管理部は彼女の名声を用いて都市のカザヨミ管理部だけでなく、周辺都市への発言力も高めようと画策している。

 

 都市管理部は嶺渡母の暴走気味な言動を諫めようとしなかった。出来るだけ派手に暴れてもらい、その発言に対し肯定する人間が否定する人間よりも多い間は彼女を利用して、無理やりにでもオウミの都市の権力増大を狙うつもりをしている。

 

 だからだろう、これまでカザヨミを守っていた先生が、苦渋に満ちた顔で次の言葉を紡がなければならない状況に陥ったのは。

 

「……最後に、今回の雲海調査には、都市管理部からの要請により、特別に二級と三級のカザヨミを参加させる事にする」

 

「な!?」

 

「先生!?」

 

 あまりに予想外な先生の言葉にカザヨミたちは一瞬言葉を失くし、そして大きなざわめきとなった。一級であっても油断ならない雲海突入という大仕事に、二級はおろか飛行訓練中の三級まで参加させるという言葉はカザヨミたちに動揺の波として広がり、懐疑の視線は先生に突き刺さる。中には立ち上がり先生に詳細を聞き出そうと詰め寄る者さえ居る始末。

 

 だが、そんな中でも特級のミサゴは静かにソファに座ったまま、その様子を静観していた。一級のカザヨミたちは混乱による動揺を露わにし、一級としてのプライドから二級や三級を計画に組み込む事に怒りや不安を口にしている。

 

 それらの感情の矛先は全て、先ほどの決定を発表した先生に向かっていた。

 

「……」

 

「ミサゴ先輩……もしかしてっスけど二級と三級って……」

 

「間違いなく嶺渡姉妹だろうな……見てみろ、すべて先生に押し付けるつもりのようだ」

 

 ミサゴの隣に座っていたヒタキはミサゴと共にカザヨミたちの姿を遠くから見つめていた。決してヒタキが動揺していないというわけではない。隣のミサゴがいやに冷静なため、先生に詰め寄っているカザヨミのような大胆な行動に出る機会を失ってしまった、といったところだろう。

 

 二人の居る場所からは騒動の様子がよく見える。

 

 先生に詰め寄るカザヨミたち、その言葉と視線に耐えるように振舞う先生。そしてそんな様子をにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべて嘲笑っている都市管理部の人間。

 

 その構図を見ただけで、この茶番が何者によって描かれたのか容易に想像出来る。二級と三級のカザヨミが雲海に挑むなど無謀と言うほかないが、もし無事に調査が成功すれば彼女たちは現在の等級以上の実力を秘めたカザヨミだともてはやされるだろう。

 

 そして、そんな二人を産み育てた母親も。

 

 

「ヒタキ」

 

「なんスかミサゴ先輩?」

 

「おそらく嶺渡姉妹は私たちのチームと共に雲海に入る。その方が私たちとしても都合が良いし、そうなるだろう」

 

「まあ……確かに姉のほうはもう私たちのチームメンバーっスから、そこに妹が合流するのは納得出来る……スかね? 変に他のチームに編入されるよりも姉妹一緒の方が纏まって監視できまスし」

 

「先生もそう考えているだろう。特級の居るチームならある程度サポート出来ると。……おそらく嶺渡姉妹の参加は撤回できない。ならば先生に苦言を呈する時間を取るより今後の事を考えるべきだ。これが終わったらすぐにツグミたちと合流、ブリーフィングの時間を取る。下級で雲海へ突入するなら今必要なのは飛行訓練ではなく、互いのコミュニケーションだろう」

 

「はぁ……仕方ないっスねー……わかりましたっス。出来るだけサポートしまスよ。チーム内の円滑な交流が私の仕事でスし」

 

「すまん。迷惑をかける」

 

「いまさらっスから謝らないでくださいっスよ」

 

 喧騒は未だ収まらない。カザヨミたちは騒ぎ出し、都市管理部の人間は満足そうにふんぞり返り、そして先生は焦りながらもカザヨミの少女たちに対応している。

 

「先生の胃はもう限界っスね、ふふん」

 

「笑いごとではないがな」

 

「私たちに迷惑かけるんス。これくらい笑ってやる方が先生としても罪悪感薄まってありがたいと思うっスよ」

 

 彼女たちの先生はこれまで教え子であるカザヨミたちを死地に送り出すような無茶な命令を出したことはない。雲海調査計画においても参加カザヨミには万全過ぎる用意をさせ、限りなく安全な調査計画を立てるようにしている。そのおかげで先生がカザヨミ管理部の責任者になってから雲海調査で行方不明となったカザヨミは一人もいない。

 今回の嶺渡姉妹を参加させる命令も都市管理部に無茶苦茶な圧力をかけられ、脅しめいた言葉を用いられた結果だろう。先生は自身の身を疎かにするところがあるので、おそらく脅しの材料にされたのは先生自身ではなく他のカザヨミか、もしくは嶺渡姉妹そのものだろう。

 

 そして先生は悩みに悩んだ挙句、都市管理部の命令を飲んだ。

 

「嶺渡姉妹に、都市管理部の思惑……それに、ハヤブサ。最近なかなか悩ましい問題が山積みっスね」

 

「そうだな……できれば何事もなく終わってほしいものだが」

 

 

 

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