愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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2羽 儚い少女

 

「私、何してんだろうな……」

 

 クラコは自室のベッドに寝ころびながら窓の外を見つめていた。既に時刻は昼を過ぎ、本来ならば停滞雲の向こうに見えるだろう太陽は西の空へと傾き始めているだろう。

 

 昨日の瓦礫撤去のバイト後、実家に帰るという男性にバイト代を握らせ帰ってきたクラコは思ったよりも疲れがたまっていたのか、軽くシャワーを浴びた程度でそのまま夕飯も食べずにベッドに沈み、気が付けばこの時間だった。

 

「……はあ、明日は……あ、そういえば休みにしてたんだっけ」

 

 のっそりと起き上がったクラコはまだぼんやりとした頭を振り、壁に掛けたカレンダーを見やる。連日バイトに明け暮れるクラコだが、毎日それでは体がもたないと考え、週に一度か二度の休日を設ける様にしている。特に瓦礫撤去のような肉体労働メインの仕事の翌日は二日程度の休みが確保できるように調整していた。今日はそんな二連休の最初の日だ。

 

 まあ、その貴重な一日を寝て潰してしまったわけだが。

 

「……お母さん、大丈夫かな……お父さんも腰悪くしてたっけ……」

 

 クラコは幼少の頃より両親と共に都市にほど近い場所で生活していた。都市の外とはいえ、その周辺は停滞雲も薄く都市内に存在する公共施設へのアクセスもお金さえあれば問題なく良好。都市から遠い地域と比べれば都市からの"(ほどこ)し"の質と量も我慢できるものだった。

 

 都市に近く、停滞雲が薄い事で降害も発生せず、例え発生したとしても瓦礫は速やかに解体除去されていただろう。なので放置された降害の爪痕をクラコが目にしたのは一人暮らしを始めてからだった。

 

 クラコはこれまで降害やその被害について身近に感じたことがなかった。瓦礫が空から降り注ぐ降害という異常災害もそう頻繁に発生するものではないし、被害に遭った者は当時の状況を語りたがらない。唯一テレビから流れる降害に関するニュースも降り終わった瓦礫の山を映すものばかり。

 

 そんなクラコだからこそ、ここ最近目にする降害の影響は非常に衝撃的なものだった。先日実家へ帰っていった男性のように、自身の家族が降害に遭ったのならばどうするべきなのだろうか、そんな事を頭の中でぐるぐると何度も何度も繰り返し考え、自問自答していた。

 

 だが、やはり答えは出ない。そもそも答えなど無いのかもしれない。男性にバイト代を無理やり渡したのも、結局は自己満足でしかないのかもしれない。

 それでも、クラコにはそれくらいしか自身の心を納得させる(すべ)を知らない。

 

「……あの子、どうしてるかな。怪我とか、してないといいけど……」

 

 そうして思い出すのは先日公園で見かけた少女の事。暗がりで表情を伺う事もできなかったが、背が低く体も細いように見えた。その姿とあの時間に一人で屋外に居たという事実が、少女の境遇を何となく察せてしまう。

 

「……また公園に居たりするかな……? 確認ついでに、お腹も空いたし……店長のとこに行こうかな」

 

 クラコのつぶやきはほんのりと鉄臭い空気に混じって消えていく。窓の外に見える異様な存在感を放つ停滞雲は灰色の瓦礫を内包し、空を漂っているまま。クラコはそんな空の下へ少女の姿を思い浮かべながら出かけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったよりいっぱい買っちゃったなー……おまけも貰っちゃったし……」

 

 両手に下げた袋は大きく膨らみ、その重さに若干顔を顰めながらもクラコは暗くなり始めた帰り道を歩いていく。

 

 家を出た時に通りかかった公園には少女は居なかった。というより、そもそも人が居ない。公園で遊んでいる子どもはもちろん、辺りを出歩いている住民も見当たらない。降害が存在するのだからそれも当たり前だとクラコは考え、コンビニへと歩いていった。

 

 そしてコンビニに立ち寄ったクラコを見て、店長は両手いっぱいの野菜や総菜をクラコに持たせたのだ。先日クラコがバイトの先輩に持たせたお金のおかげで男性の母親は都市の病院にかかることができ、その病院で事情を知った医療関係者が都市外周辺の空き家を紹介して、彼らの家族は比較的安全な土地で暮らすことができるようになったらしい。

 その話を男性がバイト先の店長に伝えたことで、いたく感動した店長がクラコに大量の食料などを持たせた、という訳だ。この土地に長く住んでいる店長は今時珍しい良い子だとクラコを褒め、まるで自分がクラコに助けられたかのように感謝の言葉を述べてクラコを賞賛した。

 

 そんな店長の言動に恥ずかしさでいっぱいいっぱいのクラコはすぐさま逃げ出したい衝動に駆られるが、既に店長の世間話が始まっており、結局クラコが帰る頃には既に辺りが暗く鳴り始めたところだった。

 

「……ん? あ、」

 

 大量の食料を手に入れられたのは良かったものの、早々に消費しなければ腐らせる可能性もある。どのように処理するべきか頭を悩ませるクラコは視線をさまよわせ、ふと薄暗い公園へと目を向け例の少女を見つけた。

 

 少女は先日と同じようにブランコに座り、視線は地面に向けたままほとんど動かない。物思いにふけっているのか、クラコが近づいても気付く様子もない。

 

(この子……どこかで暮らしてる……? でも、それにしてはこんな時間に……)

 

 近づくにつれて徐々に少女の姿が鮮明になっていく。少女は腰まであろうか長く黒い髪を伸ばし、見える手足は病的に白く、細い。少女ほどの幼い女の子を見たことの無いクラコには、その異常な細さが異常であると判断出来なかった。

 

 だが、クラコが確認した限りでは少女は決して捨て子として生活しているようには見えなかった。着ている服は多少よれているが綺麗に洗濯してあるように見えるし、見える範囲で肌に傷は無く、髪も洗われているようだ。

 少女には保護者が居るらしい。だが、だとしたらなぜ少女は一人でこんなところにいるのだろう? 昨日も同じように公園に居たという事は、迷った訳ではないはずだ。

 

(いや、昨日から迷子になってる、って可能性もあるのかしら……?)

 

 とにかく声をかけて、それから話をすればいい。クラコは先日のようにいきなり逃げられないよう、少女の近くまでいくと優しく声をかけた。

 

「ねえ、どうしたの?」

 

「っ!?」

 

 いきなり声をかけられた少女は勢いよく顔を上げ、目をまん丸にしたままクラコを見上げる。驚きのあまり上半身をのけ反らせ、ブランコからひっくり返りそうになる少女は立ち上がり逃げ出そうとするが、焦りのせいで足をもつれさせブランコの前に立っていたクラコへと、倒れ込んでしまう。

 

「おっと、大丈夫?」

 

「ご、ごめんなさ……」

 

 両手が袋でふさがっていたクラコは思わずその体で少女を受け止める。少女はクラコが思っていた以上に軽く、予想した衝撃もほとんどなかった。それ以上にクラコの意識を占めたのは、少女の透き通るような声だった。

 

 細く、途切れそうなほどに儚く聞こえる少女の声には困惑が大いに含まれ、声は震えている。声だけでなく少女の折れそうなほどに細い体躯はクラコという見知らぬ大人の姿に震え、綺麗な暗褐色の瞳が涙に揺れていた。

 

 クラコはしゃがみ込み、少女と視線を合わせる。暗がりでもそこまで距離が近くなれば少女の表情もよく分かる。少女は未だクラコを警戒し、たじろぎ後ろに半歩下がる。そのまま逃げ出しそうな少女へ、クラコは視線を合わせたまま温和に微笑む。

 

「あ、う……」

 

 すると少女はひどく狼狽えるように視線をあっちへこっちへと動かし、手を胸元に寄せてオロオロと感情を彷徨わせる。

 

「ごめんね、驚かせちゃったね」

 

「ひっ!」

 

「あ、ごめんね!? 驚かせるつもりじゃなかったの」

 

 クラコが少女の頭を撫でようと手を上げた瞬間、少女の瞳は先ほどの困惑から明らかな恐怖の色を示し、力強く目を閉じて体を縮こまらせてしまう。その姿にクラコは驚きながらも自身が不躾な行動をしたと理解した。

 

(この子……)

 

「ごめん、なさい……ごめんなさい……」

 

「っ、……大丈夫、大丈夫よ」

 

 小さな声で謝罪の言葉をつぶやく少女の姿にクラコは今まで感じたことの無い、いたたまれなさを感じた。

 

 頭を撫でようとした時に目を瞑ったのは、迫る手でぶたれると思ったから。縮こまって体を小さくしたのは、体を殴られたり蹴られたりしたときにできるだけダメージを減らすための防御反応。

 

 そんな少女の周りの環境から生じる行動も、クラコは知らない。あまりにもクラコと少女との生き方が異なるため、そのような発想に思い至らないのだ。けれど、それでもクラコは少女に触れる事が、少女に何かしらの恐怖を与える行為だという事は理解した。

 

 なので、クラコはまず少女の恐怖と警戒心を解くところから始める事にした。

 

 

「……ごめんね、もうしないから……大丈夫?」

 

「あ、う……」

 

 逃げるタイミングを逃した少女はそのままクラコの言葉に反応を示す。まだ何処かおどおどしている様子であるが、逃げようとはしない。胸元で両手を所在なさげに弄り、視線は下を向いたまま。けれど反応してくれた事にクラコは少しばかり安堵する。

 

「ごめんね、私の名前は桜子って言うの。良ければクラコと呼んで」

 

「わたし……ユナ……」

 

「ユナちゃんね。とても可愛い名前だわ……」

 

「う……?」

 

 ユナと名乗った少女はクラコの言葉に首をかしげる。今まで生きてきた中で可愛いなどという言葉をかけてもらったことの無い少女にとって、その言葉が自身に向けて発された言葉だと理解出来なかったのだ。

 

 幼いユナの容姿も相まってその首をかしげる姿は中々に可愛い。思わず笑みが口元から漏れてしまうくらいには愛らしくクラコには見えた。ユナはそんなクラコの温かい視線にどこか落ち着かない様子だ。逃れるように視線を別の場所へと移すユナの視線はその後クラコの足や腰、胸元などを通り、最終的にぶら下げた袋へと固定された。

 正確には、その袋から覗くいっぱいの食料に。

 

「ふふ……ねえユナちゃん」

 

「な、なに……?」

 

「一緒にお夕飯どう?」

 

 微笑むクラコ。手招きするような誘い方にユナは再度首を傾げ、そして目の前のクラコ……いや、怪しげな誘い文句を口にした不審人物を見た。

 

(あー……なんだかこのセリフは危険な気がするわね。これってナンパ……というより幼女誘拐、になるのかしら……)

 

 口走った直後に顔を青くして後悔しているクラコをよそに、ユナは目をまん丸にして驚き、しばらく下を向いて「あ、う……」と何度か呻くように声を発し、そうしてまたしばらくした後に小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「適当に上がってて、くつろいでていいからね」

 

「……お邪魔、します……」

 

 クラコは公園に隣接する集合住宅の一つに住んでいる。当時再開発によって幾つもの団地が建設され、ほどなくして停滞雲の危険地帯に指定され放棄された、ニュータウンの夢の跡だ。

 クラコの住む棟にはクラコ以外に居住している者はおらず、当然管理者もいない。言ってしまえばクラコが管理しているようなものだ。一週間に一度程度団地全体の見回りや掃除を行い、老朽化が目立つ場所は立ち入り禁止の看板を設置したりしていた。

 

 さすがに電気関係はクラコの手に余るので店長の紹介で知り合った都市外の住民に頼んで繋げてもらっているが、それ以外の団地の機能のほとんどをクラコは一人で維持していた。

 

「ちょっとボロいけど、まあ心理的な安全が確保できるのは大きいからね」

 

「?」

 

「あ、ごめん。うーんとね、家の中だと安心できるね、って話だよ」

 

 クラコは五階建ての団地の二階に住んでいる。見晴らしがいいからと一階では無く二階に住んでいるのだが、それならばなぜ最上階である五階に住んでいないのか、それはやはり降害が理由だ。

 

 一人暮らしをしている以上どこかに居住する必要があるわけだが、クラコがこの巨大な団地に住んでいるのはその巨大さ故に降害の被害からある程度免れるのでは無いかという考えからだった。団地の中でも下の階に住んでいれば、例え上から瓦礫が降り注いでも上の階が盾になってくれるだろうという、希望的思考によってクラコは此処に住んでいる。

 

 もちろんその考えはクラコが述べたように心理的な安定を保持する面が強い。多少の瓦礫ならば三階分の床と天井を貫通してクラコに被害を及ぼす可能性は低いだろうが、それ以上となれば何の意味もない。

 例えば、クラコが帰り道で目にしたビルの瓦礫などが降り注げば、団地そのものが完全に破壊される事だろう。だからこの団地にはクラコ以外に住民が居ないのだ。建物が盾になる可能性よりも、中途半端な降害によって瓦礫と化した団地に埋まる可能性の方が高いと分かっているから。

 

 そしてそれはクラコも理解している。だが、だからといって都市内以外でこの世界に降害を避ける事のできる場所は存在しないのだ。

 

 つまり、この団地に住んでいるのはクラコなりの災害に対する僅かな抵抗なのだ。少なくとも空と自身の間に障害物が存在しているという事実が、クラコを安心させている事は間違いない。

 

 

「あの……あのっ」

  

 ユナはそんなクラコの家に入り、そのまま靴を脱ぐことも無く玄関で立ち尽くしていた。癖なのか胸元で自身の指先を弄るユナは不安そうに玄関から部屋の中を伺い、そうしてクラコへと視線を移し、困ったように顔を暗くする。

 

 本当に自分が此処に居ていいのか? そう訴えるような瞳の揺らめきに、クラコは笑みを向けて手招きする。クラコの手が動いたことで体を強張らせるユナだったが、その顔を見て、恐る恐る靴を脱ぎ部屋の中へと入っていく。

 

 クラコの家はそれなりに整った様子であった。ひと月に一度やって来るゴミ収集の日を逃さぬようにゴミはまとめられているため床も机の上も綺麗なものだ。貴重な食料などもしっかり使い切るように計算しているので無駄もなく、台所周りや冷蔵庫の中身もそれなりに片付いている。一人暮らしとは思えないほどにキッチリした部屋を維持しているからこそ、クラコはユナを家へと招き入れたのだろう。

 

 

「さて、それじゃあちょっと待っててくれる? あ、テレビ見てていいからね~」

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

「わたし、も……何かします……」

 

 リビングにはいくつものぬいぐるみやらクッションなどが置かれ、年相応の可愛らしいクラコの趣味が見て取れる。机の上に置かれた小さな観葉植物とスティックタイプのアロマオイルの優しい香りが鼻腔をくすぐり、初めての香りにユナは不思議そうな顔をしてスンスンと可愛らしく鼻を鳴らす。

 

 だが、クラコがキッチンへと移動するらしい事を察したユナは立ち上がり、クラコの後を追おうとする。とてとてと小さな歩幅で近寄るユナはクラコを見上げて焦ったように口を動かすが、クラコはそれを優しく制す。

 

「あら、ありがとう。でもユナちゃんはお客さんなんだから、ゆっくりしてもらいたいの」

 

 近寄ってきたユナの両肩へ手を添えるクラコ。ユナは触れられた瞬間は少し体を強張らせたものの、その後は抵抗する事も無くクラコの手に押されるように机の前に座らされ、可愛らしいピンクのクッションをあてがわれた。

 

「この子は我が家でも中々の古参……ええと、付き合いの長い子で、寂しがり屋なの。ユナちゃんが見ててくれたら助かるんだけどな~」

 

「あ、え……わ、分かりました……」

 

 丸いピンクのキャラクタークッションは無垢な笑顔を浮かべている。ユナはそれを大切そうにクラコから受け取り、汚さないよう気を付けながらその両腕に抱いた。

 

「あ……わあ……!」

 

 ふわふわとした柔らかさに驚きながらもユナは恐る恐るそのクッションを優しく抱きしめた。僅かな反発を腕の中で楽しみ、無意識にクッションを抱きかかえるように体を丸めるユナは、顔を近づけ思わず笑みを零す。クラコと出会って、初めての笑った顔だった。

 

(お姉さんの……におい……やさしい、いいにおい……)

 

 そうしているうちにユナは瞳を閉じ、初めて感じる暖かさに身を委ねていった。

 

 

 

 

 

「ユナちゃーん、ご飯できたよー……って、あれ? 寝てる……?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 クラコがユナの名前を呼ぶが、返事が返ってくることは無い。もしかして帰ってしまったのかと焦りながらユナの居たはずのリビングに顔を出すとユナはしっかりとそこに居た。

 クラコの差し出したクッションを抱きしめ、胎児のように体を丸めているユナの眠りは穏やかだった。公園で出会った時のような、周囲のすべてに怯えているような雰囲気は無く、非常に安心した様子だった。

 

「相当疲れてたんだね。ゆっくりお休みユナちゃん」

 

「ん、んぅ……」

 

 ユナの細い体は小さい呼吸に合わせて上下し、時折身じろぎをする。起こさないように乱れた髪を優しく指先で直してやると寝ていながらもその指先を求めるようにユナの顔がすり寄って来る。

 

 クラコは寝室から取ってきた毛布をユナにそっとかけてやり、その横に寝転がって一緒に眠り始めた。

 

(……私に妹がいたら、こんな感じだったのかな)

 

 ユナの寝顔を見ながらクラコは今日一日の出来事を思い返す。ユナの事は数日前より気にはなっていた。それは事実であり、もしも再び出会う事があれば声をかけるだろうとは思っていた。だが、まさかこうやって家で一緒に眠る事になるとは予想外だった。

 

 ユナは家族が居る可能性が高い。だが、身に着けている衣類はかなり使い古されており靴もかなりボロボロで、そんな状態でユナは危険な外に一人でいた。夕飯をどうかと尋ねれば躊躇いながらも付いてきた事から、満足に食事をしていない可能性もある。

 

 ユナ本人は無意識だったろうが、その視線は常にクラコを目の端に留めるように動き、クラコの動きを観察しようとしているようにも見えた。なによりユナは体に触れられそうになると体を強張らせる。それはユナにとって体に触れられるという行為が、痛みを伴う行為だと考えているからだろう。

 

(話してくれたり、するかな……?)

 

 クラコはそんなユナの背景を察し、彼女を放っておけなくなった。クラコが初めて出会った理不尽に翻弄されている幼い少女。

 

 きっとユナと同じような、もしくはそれ以上の境遇に曝されている子どもはこの世界に数えきれないほど存在するだろう。その数えきれないほどの存在全てに手を差し伸べることなど不可能だとクラコとて理解している。

 それでも、クラコは目の前にいるユナを放置できなかった。儚く、瓦礫の灰と共に空へ散っていくような危うさを感じられる少女に、クラコは不思議と心惹かれていた。

 

 その姿、その佇まい。雰囲気、声、所作、笑み。それらはクラコの心を揺れ動かした。

 

(……ええ~……ちょっとまって。いやいやいや……こんな小さな子にそんな感情を、私が……!?)

 

 心の中で思い至ったまさかの事実に狼狽えるクラコは動揺を誤魔化すようにユナの髪を再度直してやるが、その指をユナが片手でぎゅっと握りしめた。

 

「ひえ」

 

 なぜかドキリとするクラコ。指先を握られて動くこともできず、振り払う事もできない。しばらくどうしたものかと辺りを見回すクラコだったが、結局すべてを諦め、ユナと共に夢の中へと旅立つことと決めた。ゆっくりと瞼を降ろし、聞こえるユナの寝息を聞きながら意識は徐々に遠ざかっていった。

 

 

 

 

 そして、目が覚めた時にユナの姿は何処にもなかった。

 

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