愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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39羽 都市からの使者

 

 店長が紹介した風花ツグミという少女はユナを除き、クラコがこれまで出会ったどのカザヨミとも異なる雰囲気を持っていた。都市外の人間を見下すような発言をせず、その視線もクラコを下に見るような感情は一切感じられなかったし、翼もしっかりと収納している。

 

「あの、初めまして。風花ツグミと言います」

 

 頭を下げてお辞儀するツグミの所作は身綺麗であることも相まってまるで育ちのいいお嬢様のように感じられた。カザヨミならば都市に住んでいるだろうし、あながちお嬢様というのも間違いでは無いかもしれない。

 

「え、っと……倉本桜子と言います。この店はよく来てて……時々バイトもしているんです」

 

「あ、そうなんですね……それじゃあ店長さんの……お友達ですか?」

 

「いやあ……お友達というか、相談相手というか……」

 

「この辺りに住んでいる人間は皆そんな関係さ。持ちつ持たれつ、支え合って生きていくのが都市外のやり方なのさ」

 

 座らせてもらうよ、と店長は一言断りを入れてからそのあたりに置かれていた丸イスに座って一息つく。同じようにクラコとツグミに座るように促す店長は少し疲れたような表情を見せてはいるが、決して少女を邪険にしているわけではないようだった。

 

 とはいえ突然現れた都市からの使者、風花ツグミの存在に警戒心を抱くなというのは無理な話だろう。

 

「それで、ツグミさんはどうしてここに? 品揃えなら都市のお店の方がいいと思うけど」

 

「おや、それはこの店の品ぞろえが悪いって言っているのかい?」

 

「あはは……」

 

「否定せんか!」

 

 手に持った杖で足を小突く店長に謝りながらもクラコは徐々に距離を詰めてはツグミの真意を探っていく。クラコから見てツグミは何かを企んでいるようには見えない。嘘をつくのも下手のようで、クラコがちょっとした質問をするだけで視線がすっと下にさがったり、あらぬ場所に彷徨わせる。だが、少女はオウミの都市のカザヨミだ。それも自身の能力を笠に着て横柄な態度をとるカザヨミとは異なる、真に実力を持つカザヨミのように見えた。

 

「ええと……実は、先生に頼まれごとをされまして、そのために店長のお力添えをしていただければと思いまして」

 

「先生? それに店長の……?」

 

「はい、店長さんは元々オウミでカザヨミの指揮をされていたと聞いています。私が都市に入った頃にはもう先生がおられたので、詳しくは知らないのですけど……」

 

「ふん、こっちは引退した身だというのに、いつまでも頼ってばかりなのはどうなんだい? と、あの子に言っときなさいな」

 

「店長、都市に居たんですか?」

 

「昔の話さ……それこそ、ツバメが現役時代のね」

 

 その後語った店長の話はクラコにとってかなり衝撃的な内容だった。店長はかつてキョウトの都市でカザヨミをまとめる、責任者の地位に居た。都市というシステムが発展途上なうえ、まだまだカザヨミの能力が疑問視されており、飛行機械の信頼性が根強く残っているそんな時代にだ。

 

 店長はそんな時代に都市で初めてのカザヨミ管理機関の創設に邁進した人物だった。それまでいくつもの組織や団体へバラバラに所属していたカザヨミたちを、当時発表されたばかりのカザヨミ情報共有サイトBW(バードウォッチ)を用いて一つにまとめあげ、都市の中にカザヨミ管理部の前身となる部門を設立するに至った。

 

 設立には店長のカザヨミに関する造詣の深さと、店長と共に活躍していた始まりのカザヨミたるツバメの存在が大きく関わっていたのだが、各都市がそれぞれ都市内にカザヨミの専門部署を設立してから数年後、ツバメは空に消えた。

 

「ツバメが居なくなってどこもかしこも大騒ぎだったさ。私は実質ツバメのパートナーみたいなものだったからね、その責任を取って辞めたってわけさ」

 

「……それは、もっと大騒ぎになりそうですけど……」

 

「周囲の圧があったからねぇ、キョウトに対する責任問題の追及が過激化してね。辞めなきゃキョウトは今ほど発展してなかったさ」

 

 クラコが想像した通り、ツバメの失踪と共に当時カザヨミ関連で最も権威のあった店長が責任を取って辞めるという事実は当時の各都市に大きな衝撃をもたらした

 

 

 停滞雲や雲海を実際に調査出来るツバメと、得られた調査結果を精査出来る店長の二人によってキョウトのカザヨミ研究は他の都市より数歩前にいた。そんな中、ツバメが失踪した。

 

 当時のキョウトは大いに荒れたらしい。カザヨミ研究は一時的にストップし、停滞雲や雲海調査もままならない状況にまで混乱が広がっていた。そのうえ大きすぎる権力や能力にはやっかみや嫉妬が付きまとうもので、当時すでに大都市として君臨していたキョウトの足を引っ張ろうとする都市や団体、個人は数多く存在していた。

 カザヨミという、人類が停滞雲に唯一対抗できる人材の中でも突出したレベルであったツバメを喪失した事はキョウトを糾弾するのにうってつけな事実だったのだろう。

 

 ツバメの喪失はキョウトがツバメに要求した過度の停滞雲調査が原因であり、キョウトが優秀な人材を独占したことで発生した人災である。と周囲の都市は言い出した。何を言っているのか理解できない宣言であったが、つまりはツバメ喪失という事件を利用してキョウトが保有している技術や知識、人材を手に入れようと各都市がキョウトに干渉し始めたのだ。

 

 それに対して店長は一言、"権力が集中しているのなら自身が退くことでバランスが取れるんじゃあないかい?"

 

 無茶苦茶な言いがかりには無茶苦茶な解決法というべきか、店長はキョウトの影響力が他より高いのなら、その原因の一端である自身が退けば同じレベルになるんじゃない? と言い出したのだ。

 

 これにはキョウトに干渉していた各都市も大慌てで取り繕いだす。当時のカザヨミ関連の技術、技能、知識、経験などあらゆる情報の最先端に店長は居た。今後過酷さを増すであろう降害による被害を回避、もしくは抑えるのに店長の知識は無くてはならないものだ。たとえ忌々しいキョウトの所属であったとしても居てもらう必要がある。

 

 それを、こんないざこざで失うわけにはいかない。

 

 各都市の上層部はそのように考え、キョウトへの攻撃的な干渉を停止、逆にツバメの穴を埋めるためにキョウトとの連携協定を結ぶなどのすり寄りを見せたが、結局店長の言葉が覆ることは無く、店長は翌年キョウトからオウミの都市へ異動。オウミで引継ぎを完了させた後、完全に都市から離脱した。

 

 そして現在、店長の居場所を知っているのはキョウトのごく一部の人間と、オウミで引継ぎ相手であった先生のみだ。

 

「あん時は私も荒れてたからねぇ、ツバメは居なくなるし、捜索隊を出そうにもまだカザヨミに懐疑的な勢力が各都市に居るせいで捜索範囲を広げられなかった。そのうえツバメ喪失の責任をとれと言われたんじゃねえ……まあ、だからってやけくそになって辞めたわけじゃないよ、私の後任は何人も育っていたし、事実として私にカザヨミ関連の計画に関する権力が集中していたのは事実だったからねえ」

 

「だから……」

 

 クラコは店長の話を聞き、これまで店長に抱いていた疑問が氷解していくのを感じた。店長はただの店の店主としてはあまりにも都市内外との繋がりやコネが多く、カザヨミに関する知識も豊富だった。ユナが初めて翼を発現した時や、ユナが結晶まみれで墜落した時も医者ではないと言いながらも的確な対処を行い、手助けしてくれた。

 

 これまで他人の過去を詮索するべきでないとそのままにしていた店長の謎は、そうしてクラコが納得する形であらわとなった。もちろん目の前にいる優しく良きお祖母ちゃんといった風の店長が、まさかそのような重要人物だったという事実は未だ受け止めきれない事実ではあるが。

 

「ふむ……それで、あの子は何を聞きたいと言ってきてるんだい? テレビでさんざん宣伝している雲海調査の事かい? ……それとも、"ハヤブサ"についてかい?」

 

「っ!」

 

「……先生からは、ハヤブサの動画について気づいた事があれば、ぜひ参考にさせてほしい、と」

 

「ふんっ、相変わらず言葉を選ぶのが上手いね。はてさて、何処まで知っているのやら」

 

 店長は鼻を鳴らし、隣で息をのむクラコにちらりと視線を移す。クラコは出来るだけ感情を表に出さないように努めているが、それも都市の上層部暮らしの長かった店長ならば察せる程度の拙さだ。

 

 店長はツグミの言葉やツグミが此処にわざわざやってきた理由を考える。ただこちらの意見を聞きたいだけなら所在を知っている先生が携帯端末で連絡を取ればいいだけだ。あと数日という所に迫った雲海調査のせいで多忙だろうが、携帯を使える程度の時間はあるはずだ。

 

 にもかかわらずわざわざ貴重なカザヨミという人材を一人寄越したのは、つまりそれだけこの土地へ出向くだけの理由があったからと考えるのが自然だ。

 

 例えば、ハヤブサというカザヨミが、この地域周辺に住んでおり、それを同族であるカザヨミなら察知出来るのではないか、と。

 

 BWにて投稿されたハヤブサの動画、つまりユナの飛行している動画は既に百万回再生を突破している。その動画のみの投稿であるチャンネルも同様に数字を伸ばし、多くの視聴者に認知されている。

 

 その中には当然、各都市のカザヨミ管理部の人間もいる。ハヤブサがどの地域で活動しているのかを特定しようと躍起になっている都市の中で、最も可能性の高いと言われているオウミが管理している地域。オウミに所属する先生は動画に見え隠れする瓦礫の様相から正解に最も近い選択を引き当てたのだ。 

 

 ずばり、ハヤブサはオウミの都市からほど近く、おそらく南部の土地を拠点に活動している。そして、もしも南部で活動しているとしたら、同じく南部に住まう店長の助力を得ているのではないか? と。

 

 この地にカザヨミを派遣したのはカザヨミしか知り得ないような、カザヨミが活動しているであろう痕跡を見つけるためだろう。例えばオウミに所属する下級のカザヨミは飛行訓練中に迷子とならないように高い柱や煙突の角に派手な色を塗ったり布を括り付けたりして方角を知る方法を取る。もしもカザヨミがこの地域で活動しているのならば、そういった"空を飛ぶ者特有の目印"があるかもしれない。さらにはオウミの訓練施設にあるような、人為的に整備された滑走路のような開けた空間があるかもしれない。それこそ動画にあった屋上などが見つけられれば儲けものだ。

 

「なるほどねぇ……まあ、その辺りは自由にやればいいさね。私はここで店をやっているだけで、土地の責任者ってわけじゃないからねえ」

 

「ありがとうございます」

 

「まあこっちに着いたばかりなんだ、少しゆっくりしてからでいいじゃないかい、今お茶を淹れてあげるから、クラコちゃんちょっと話し相手になってあげてね」

 

「ええっ!? ちょ、ちょっと店長!?」

 

 突然名前を呼ばれたクラコは大いに慌てるが、構わず店長は店の奥へと行ってしまう。気まずい雰囲気を感じながらも、クラコは横目でツグミの様子を見る。視線が合うとツグミも若干気まずそうな表情をして軽く頭を下げる。

 

 そうするとツグミの茶褐色の髪がふわりと動き、その鮮やかさが店の照明に透けて映える。暗めの色であるはずのツグミの髪色は光に透かせばこれ以上ない美しさを放つ。

 

「あの……?」

 

「あ、とごめんなさい。とても綺麗な髪だなあと思って。……翼も同じように綺麗なんだろうな、と」

 

「あ、ありがとうございます。その……倉本さんはカザヨミについて詳しいのですか?」

 

「え? どうして?」

 

「翼と髪の色が同じという事はあまりご存じで無い方も多いのですが、自然と翼の事を仰られたので」

 

「ああ……まあ、ね~。ほら、この店で働いているから自然と店長から話を聞いたりしてね」

 

 ツグミの疑問にクラコは思わず焦りをにじませる。ユナの青灰色の髪と翼、それにカザヨミの動画を漁っている最中に知った髪と翼の色について自然と口にしてしまったが、どうやらそれは都市でも常識ではなかったようだ。苦し紛れの言い訳を口にするが、ツグミはそれに納得してくれたように頷いた。

 

「そうだったんですね。都市でもあまりそういったことに関心のある方は珍しいので、驚きました」

 

「あらそうなの? 都市はカザヨミの人と他の人が共存してるって聞いてたけど……?」

 

 クラコにとって都市とはカザヨミと、カザヨミに選ばれた人々とが生活する空間という認識だ。互いに助け合い、尊重して生きている。だからこそ都市というコミュニティに属さない都市外の人間に対して下に見るカザヨミが多いのだと。

 

 だがその言葉を聞いたツグミの反応は芳しくない。言うべきでは無い、けれども嘘はつきたくないという複雑な心境がツグミの中で渦巻いていた。

 

「どう、なんでしょうか……今の都市は共存と言うには……」

 

「? そういえば風花ちゃんは翼を出していないのね。都市から来たカザヨミは皆翼を出しているけど」

 

「……あの、ごめんなさい」

 

 次のクラコの言葉を聞いて、もう誤魔化す勇気もなくなったツグミは思わず頭を下げてしまった。

 

「? どうして風花ちゃんが謝るの?」

 

「その……本当は私たちが諫めないといけないのに……」

 

 ツグミはオウミの都市の現状をかいつまんで説明した。都市ではカザヨミが至上という風潮が出来上がりつつあり、それをカザヨミもそれ以外の住民も受け入れている。一部の上級カザヨミやカザヨミ管理部はそれを問題視しているが、根本的な解決方法は見出せていない。都市管理部の、カザヨミを利用した影響力拡大政策もそれを後押ししている始末。

 

 都市外の人間に恨まれていても仕方がない状況だった。どれだけ都市が都市外へと保障をしようとカザヨミの態度が変わらなければ意味がない。都市外の人間にとって都市所属のカザヨミは憎むべき対象と言っても過言ではない。

 

 しかし、そんな話を聞いたクラコは笑ってツグミの頭を上げさせた。

 

「ふふ、いいのよ。カザヨミだって全員同じじゃないって分かっているもの。風花ちゃんみたいなカザヨミもいるって知れただけでお話しして良かったわ」

 

 クラコがこれまでバイト先などで見たカザヨミはいずれもクラコ達に侮蔑の視線を送ってきた。直接口にする事は無かったが、それでも嘲笑の表情を向けられ、あるいは睨みつけられることさえあった。

 

 対してツグミの態度は非常に丁寧であり、都市外住民だからといって差別的な視線を送る事はなかった。クラコが知るカザヨミの中でもここまで印象の異なるカザヨミはユナに次いで二人目だ。

 

「ありがとうございます……倉本さん」

 

「私の事はクラコって呼んで。そっちの方が呼ばれ慣れてるの」

 

「それなら、私の事もツグミと呼んでください。先輩達からもそう呼んでもらっているので」

 

 その後もクラコとツグミはちょっとした雑談を続けていく。時にはツグミが都市内の話を、時にはクラコが都市外での話を。互いに知らない話を興味深く語り合う内にクラコのツグミに対する印象は初対面よりは軟化していた。ツグミの雰囲気から演技をしているようには見えず、これが彼女の素の性格なのだろうと理解できた。都市所属のカザヨミも、こんないい子が居たのかと驚いてしまうほどだった。

 

「ふふ、そういえばツグミちゃんはその……ハヤブサについて調べに来たんだったわね?」

 

「はい、先ほどまで店長さんにお話しをお聞きしていたのですが、店長さんもあまり……」

 

「あら、そうなの……」

 

 おそらくはユナの情報が洩れないようにという店長の心配りだろう。先ほどからクラコの名前をあえて呼んでいなかったのも、極力ツグミが持ち帰る情報を制限するためだったのだろう。だがクラコはこれまでのように都市に関してそこまで警戒心を強く抱いてはいなかった。

 

 もちろんユナの叔母がいる都市管理部や下級のカザヨミは警戒対象であるが、カザヨミ管理部や上級カザヨミはツグミの話を聞く限りまともに思える。

 

 もちろん、そのようにクラコの心象を誘導するためにツグミを派遣して接触してきた"先生"とやらの策略という可能性もあるが、少なくともツグミの周辺のカザヨミたちは都市外の人間に悪感情は抱いていないように思える。むしろ罪悪感さえもっているように思えるほどだ。

 

「軽々しく他人の話をするほど口が軽いんじゃあ都市外で信頼なんて得られないということさ」

 

 そこへお茶を淹れてきた店長が帰ってくる。以外にも仲良くなった二人の様子に驚いた様子だが、さすがは長年様々な光景を見聞きしてきたからか、談笑する二人を呆れたように流し見ただけで再び椅子に座りなおした。

 

「ありがとうございます店長さん」

 

 邪気のないツグミの様子と、既に心許しているらしいクラコの様子に観念したようにため息をつき、店長はツグミを派遣した教え子(せんせい)の狡猾さに思わず舌を巻く。とはいえ教え子たる先生は基本的にカザヨミ第一の思考である。それは都市内外関係なく国内外さえも関係がない。先生が守るべき対象には当然のようにハヤブサ……つまりはユナも含まれているだろう。

 

 ならば、都市とユナが接触するのは問題があったとしても、先生個人とユナとの接触はそこまで問題では無いかもしれない。むしろ推奨されるまである。そこまで考えて店長はクラコに視線を合わせながらツグミに向かって、ゆっくりと口を開いた。

 

「まあ……私もハヤブサについてはそこまで詳しく知っているわけじゃあないからね。話せる事は全部話したと言っていいさね、情報が欲しいなら……そのハヤブサ何某(なにがし)が新しく動画でも投稿するのを待つしかないんじゃあないかい?」

 

 クラコは店長の言葉に目を丸くし、その言葉の真意をしっかりと理解した。小さく頷く様子のクラコにツグミは気づかず、少し残念そうな顔をする。

 

「そう、ですか……。分かりました、先生にもそのように伝えさせていただきます。今日は本当にありがとうございました」

 

「あらもう帰るの……?」

 

「都市に出している外出許可は一日だけなので今日中に帰らないといけないんです。クラコさんも、お話聞かせて頂いてありがとうございました」

 

「私なんて何も……」

 

「いえ……実は、こちらに来るまで少し不安だったんです。都市の外の人たちは、私たち(カザヨミ)に対して否定的だと聞かされていたので……でも、クラコさんとお話しして、そんな事はないって知れて……本当に嬉しかったんです」

 

 嬉しそうに微笑むツグミの顔は晴れやかで、どこか儚げにも見えた。ツグミはこう言ったが、決して都市外の住民がカザヨミに対して否定的な感情を持っていない、とは思っていないだろう。店長やクラコはあくまで例外で、きっと他の住民は心無い言葉を放つ事もあるだろうと覚悟している。

 

 それでもこの瞬間だけは、ツグミは都市の外に出てよかったと感じている。二人に出会えて、こんなにも優しい人たちも居るのだと知れて良かったと嬉しさをかみしめられた。

 

 その想いはクラコとて同じだった。……だからこそ、クラコは決心した。

 

「……私もよ、都市のカザヨミにはツグミちゃんみたいな子も居るって分かって、少し安心したの。それと先生という人も、悪い人じゃないってツグミちゃんの話を聞いて分かったし……それならいいかなって思えたの」

 

「? ええと……それなら良かったです……?」

 

「ほら、これ持っていきなさいな。都市と比べるとつまらないものかもしれんがね」

 

 クラコとツグミの話を遮るように店長は袋いっぱいのお菓子をツグミに差し出した。ほとんどが駄菓子と呼ばれるもので、量はかなりあるが重さはそこまでではない。ツグミほどのカザヨミならば楽々飛んで運べるだろう。

 

「わあ……! ありがとうございます! 同じ飛行隊にお菓子好きな子が居るんです、きっと喜んでくれます!」

 

「そりゃよかった。気に入ったなら都市から取り寄せられると思うよ」

 

 なんでも揃う都市であるなら、駄菓子程度いくらでも手に入れる方法があるだろう。だから、わざわざ此処に来なくともいい。暗にツグミの来訪を拒否するような物言いにクラコは非難の視線を店長に送る。

 いつの間にそこまで仲良くなったんだい、と視線を返す店長。二人が視線で会話しているのをよそにツグミはおずおずと言葉を返す。

 

「そう、ですか……でも、またお会いしに来てもいいですか……?」

 

 ツグミの言葉に打算的な意味合いは感じられない。言葉通りに、また二人に会いたいと思っているらしかった。それを長年人を見続けた店長は感じ取り、降参した。

 

「ふう、分かった。悪かったよ。……私は構わないよ。こっちは客商売をしてるんだからね、お客を拒む理由はないさ」

 

「ありがとうございます! え、と……」

 

 店長に次いでクラコの方を向くツグミ、不安そうな顔で見上げるツグミにクラコは笑顔で応える。

 

「私も歓迎するわ。また都市のお話、聞かせてね?」

 

「──はい!」

 

「あ、そうだ。ついでに連絡先交換しておく? 次こっちに来るときは連絡してね。私も連絡するから」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「あんたたち本当に仲良くなったねぇ……」

 

 二人が連絡先を交換し何度か言葉を交わした後、ツグミはその茶褐色の翼を初めて発現させ、日が大きく傾き始めた空へと飛び消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……店長、ツグミちゃんって、何級なんです?」

 

「二級だよ。所属している飛行隊は第十七。オウミで唯一特級が率いている隊だね。最近は"あの"姉妹の教導も行っていると言っていたよ」

 

「……そうですか……」

 

「……思ってたより悪くなかったかい? 都市のカザヨミは」

 

「はい。……私は、すごく勘違いしてたんだな、と思いました。都市のカザヨミは都市外の人間を下に見ているのが普通だと思って、出来るだけユナも都市のカザヨミと接触させないようにって……」

 

「その判断は間違いじゃあないさ。事実としてカザヨミの大部分は下級で、下級は都市外の人間を見下す。そいつらはそれが当たり前だと思っているからね」

 

 だが、それだけではなかった。都市にはツグミのようなカザヨミもおり、ツグミの周辺には同じような考えを持つカザヨミが居る。その事実はクラコにとある決心をさせるだけの威力があった。

 

「……店長、店長もハヤブサのチャンネル見てくれているんですか?」

 

「ああ。見覚えのある景色を見覚えのある子が飛んでいるのは見てて楽しいものだからね。付けられたコメントを含めて」

 

 苦笑いするクラコは幼いいたずらっ子のような笑みを浮かべ、ツグミが消えていった空を見上げていた。

 

「それじゃあ、次の動画も楽しんでくださいね」

 

 

 

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