愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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68羽 配信の反響

 

 ユナとクラコの配信はあらゆる都市で大反響を呼んだ。これまでまともに探索が進んでいなかった逆灯台の先の領域、そこへ至るための道を見つけただけでなく、一つ目の衛星の探索を終わらせてみせた二人の実力は専門家であるカザヨミ管理部さえも予想外で想定外事象であった。

 

 披露されたユナの飛行技術やエーテル感知能力の高さ、クラコの情報収集能力と処理能力の異常さ。そして晶動体という雲海に生息する新生物の公表。

 

 それらは配信者界隈を超えて多くの都市が反応する程度には驚愕をもって受け止められた。雲海に近いオウミやキョウトの都市は配信が始まった直後からすぐさま情報収集として配信に張り付き、得られるすべてを記録するべく動き出した。

 

 配信後には公式的な発表が行われ、はいいろホテルという新発見の雲海廃墟や晶動体についても後日都市としての見解を述べると発言し、裏ではユナとクラコに接触しようと躍起になっていた。

 

 特にユナの陰に隠れ全く存在が認知されていなかったオペレーター(クラコ)に関する情報を得ようと各都市は他都市へと身元の照会を求め、全く手がかりを得られなかった事でクラコまでもが都市未所属の人材であることが明るみになり、さらに都市を混乱の渦へと突き落とした。

 

 雲海の探索において最前線に居るカザヨミとその協力者が共に都市に所属していないという事実は雲海調査を長年行っている各都市にとっては認めがたい事実であるが、そのようなプライドに固執し不快感を露わにしているのは都市管理部の人間くらいで、カザヨミ管理部はむしろ二人に好意的な印象を持っていた。

 

 ユナとクラコの配信によって逆灯台の先に在るはいいろホテルなる雲海廃墟の全容が明るみになった。加えてカザヨミと協力者との二人一組による安全確保とルート選定。それらの技術や知識は今後の雲海調査において安全と安定性を確保する非常に有用な情報だと判断されたのだ。

 

 加えて先生へと雲海廃墟や晶動体の情報が"事前"にもたらされていた事も大きいだろう。配信終了と同時に先生が各都市へと配信にて公開された新情報をまとめた詳しい資料を共有したことで混乱は大きなものにはならなかった。加えて即座の情報開示によって先生とハヤブサが何かしらの関係を構築しているのだろうと予想できる。

 

 ハヤブサはカザヨミ管理部でも知らぬ存ぜぬの正体不明な存在では無く、少なくとも先生という信頼ある存在と繋がりがあるという事実は他都市のカザヨミ管理部としては安心できる要素であった。

 

 そうして配信に関しては話題になりはするが騒動になるほどでは無く、とはいえ雲海の未知を公開したことでこれまで以上のカザヨミが雲海へ不法に侵入するのでは、という懸念も僅かに聞こえてきた。だが実際にはそのような事は起らず、むしろ不法に侵入するカザヨミの数は徐々に減少していった。

 

 その理由が二人の配信で披露された知識や技術があまりにも高度かつ難解だったことが上げられる。いくら自分たちがカザヨミという特別な存在だったとしてもユナという規格外な存在を目の当たりにすればその違いを嫌というほど思い知らされるというもの。ご丁寧にもユナとクラコが生配信によってそれらの技術の難解さを身をもって証明したことで説得力は段違いであった。

 さらには中層奥に広がる即死級のエーテルトラップ達。いくらカザヨミ配信者が承認欲求の為に未知へ挑もうと(たくら)んだとしても、さすがに命を差し出すほどでは無いと判断したのだ。

 

 加えて即死級の罠がそこらかしこに設置されていると分かればそれまで自都市のカザヨミがヒエイ雲海へ侵入するのを黙認していた他都市も雲海への侵入を黙認するわけには行かなくなる。貴重な戦力であるカザヨミを管理不十分で失えば都市住民や都市管理部より責任を追及されるのは目に見えているからだ。配信終了後に動きの早い都市はすぐさまヒエイ雲海への侵入を公式に禁止し、その流れは徐々に広がりつつある。

  

 そして不正な雲海侵入減少の最大級の理由として、現在の都市には逆灯台以降の雲海中層へリアルタイムで配信を行えるような機器が存在しないという点がある。ユナとクラコが未開拓なはいいろホテル内で互いに通信しさらには配信を行った事実はBW内のアーカイブによって克明に記録されているが、それがどうやって記録されたのか都市の科学者はまったく見当がつかなかった。ユナの体に固定されたカメラからの映像にしてはユナを俯瞰で見下ろす配信映像はあまりにもおかしく、中層奥の高濃度エーテルに耐えられる機器の開発など不可能だと認識されているからだ。

 

 目新しい雲海廃墟を誰よりも早く配信に映したいと考えても、そもそも配信で映せないという事実が不正な侵入の利を大きく削っていた。

 

 結果としてユナとクラコの配信は文字通りの伝説的内容としてすぐさま広がり、配信アーカイブはこれまでハヤブサアカウントで投稿したどの動画よりも再生回数を伸ばし、コメントも爆発的に増加し、二人の元へダイレクトメッセージが絶えず届けられることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

「うーん……思った以上に面倒な事になったわね……」

 

「何が面倒なの?」

 

 その日は天気も良く、多くのカザヨミが飛行訓練の為に空路を辿っていた。そのため今日のユナの飛行訓練はお休み、数日ぶりのキンヨク日をクラコと一緒に過ごしていた。小さく畳んだ翼で器用に浮かぶユナはまるで低重力空間のように浮きながら宙返りしたり、逆さまになってみたりしながら部屋の中を漂っていた。対してクラコはそんなユナに纏わりつかれながら目の前の情報端末を睨みつけている。

 

「こらユナ」

 

「えへ」

 

 難しい顔をしているクラコの頭の横に自身の頭をくっつけ、クラコが振り向いた瞬間を狙ってほっぺたにキス。いたずらが成功したとユナはささっとクラコから距離をおいて満足そうな笑顔を浮かべている。

 

「まったく……いたずらはほどほどにしないと後が怖いわよ~?」

 

 そう言ってクラコは何かを梳くように手を動かす。

 

「あ、だ、だめだってば! それやめて~!」

 

 ユナにとってその手つきはこれまで何度も身をもって体験した忘れられない動き。羽繕いをしている時のクラコの手だ。それを理解した途端ユナは大人しく床に着地し、それをクラコががっちり確保。ユナはクラコの腕の中にまんまと捕らわれる事になった。

 

「ほら、これ見て。BWのダイレクトメッセージ。半分はオウミからね、後はキョウトにワカサにヨゴ……遠い都市からのものもあるわね」

 

「へえ……」

 

 クラコとユナの二人が運営するBWのアカウントである『ハヤブサ.ch』には生配信開始直後から大量のダイレクトメッセージが届けられていた。その量はハヤブサのアカウントで初めて動画を投稿した時の数倍に登り、今なお増え続けている。

 

 そのほとんどはユナが拠点として活動しているオウミからのメッセージばかりだが、中には遠方の都市からのメッセージなども混じっている。

 単純にユナやクラコと面識を持ちたいと考えている都市が技術の共有やカザヨミ育成の名目でメッセージを送ったり、オウミやキョウトと同じように管理領域周辺に雲海が存在している都市が助けを求めていたりと様々だった。

 

 それらのメッセージにクラコは一応目を通していく。オウミの先生とは携帯端末で直接連絡が取れるのでこれらの膨大なメッセージに先生からの重要なモノが埋もれている心配はないが、それでもユナやクラコへと送られてきたのだからと無視する訳にも行かない。

 中には二人のファンという人たちからの応援メッセージもちらほら見かけ、それが楽しみなところもある。

 

 だが、ユナは端末に映るメッセージを一瞥(いちべつ)しただけで頬をクラコの胸にすりすりと摺り寄せ幸せそうに目を細めるだけ。

 

「クラコさん、明日は飛べるかな?」

 

「ん? そうねえ……天気はそこまで崩れないみたいだけど……雲海はもう少し図面が揃ってからにしたいわね」

 

「それじゃあ明日もキンヨク日?」

 

「そうなるわね。……ユナは大丈夫?」

 

「うん? 大丈夫だよ?」

 

 不特定多数からの大量の賞賛と、複数都市からの熱烈な勧誘。それらを目にしてもユナは特に思う所は無く、明日クラコと過ごす日々について考えている。これがツグミたちのような見知った者たちからの言葉ならば照れて顔を桜色に染める程度にはユナも喜んだ事だろう。

 

 しかしユナにとって見知らぬ者たちからの言葉は嬉しくあってもそこまで心動かされるものではないのだろう。今までの動画投稿や先日の生配信、それらは全て見知らぬ者たちを手助けするための行動であったが、その後に返ってくる見知らぬ者たちの反応をユナは無意識に不要だと感じているらしかった。

 

 対価を要求せず、良き行動の為にカザヨミの力を振るう。それは都市という恩恵に甘んじ、都市ありきの飛び方しか出来ないカザヨミにとっては物語に登場する理想的なカザヨミとして映るだろう。

 

 だがユナを育てるクラコとしては自身を犠牲にしてまで周囲を助け相応の賞賛を不必要としているユナの在り方に僅かな危うさを感じてしまう。何より、そう行動する理由がクラコに褒めてもらいたいからというのがまたクラコを悩ませる原因でもあった。

 

「……やっぱり、友達が必要よね」

 

 クラコはあくまでユナの親代わりであり、彼女を育てる責任を持っている。クラコが言えばユナはその通りに行動するだろう。自身の身の安全を最優先し、無茶な人命救助は止めるようにと言えばユナは従う。だが、それも結局はユナの意思を命令で捻じ曲げているだけに過ぎない。ユナが自身の意思を犠牲にしてクラコの指示に従っているだけでは何の意味もない。

 

 だからこそユナには同じ価値観を共有し、同じ空間、同じ時間を共にできる友人が必要だ。保護者であるクラコや店長、姉や先達としてのツグミたち、そういった存在とは別の、ユナと同じ目線でいてくれる友人らしい友人が。

 

「あ、そういえば……」

 

 ふと何かを思い出したかのようにクラコは携帯端末に送られていたツグミからのメッセージの内容を思い出した。都市で行われるカザヨミ関連の訓練や行事などが記載されていたその内容から、クラコはとある案を思いつく。

 

「……ねえユナ」

 

「なにクラコさん?」

 

「合同訓練、参加してみる?」

 

 

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