愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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6羽 個人商店

 

 周防由那ことユナは、倉本桜子ことクラコと共に生活を始める上でまず最初に挨拶をするべき人物のもとを訪れていた。そこはクラコがバイトをしている個人商店であり、現在働いているのは店長とクラコの二人のみ、つまり二人が会いに来た人物とはこの個人商店の主である店長のことだった。

 

「店長おられますかー?」

 

 がらんとした店内は元々コンビニとして利用されていたもので、都市内に存在するコンビニと同等の広さを誇っている。その代わり店内は人が一人通行できる程度にみっちりと陳列棚が追加設置されており、比例して取り扱っている商品の種類はかなりのものになっている。

 

 惣菜のたぐいやレトルト、缶詰などの保存食はもちろん、タオル、下着、歯ブラシなどのアメニティ、ペンやノートなどの文房具。そのほかにも店の利用客がリクエストして店長がそろえた品の数々が並び、そんな商品棚の合間からクラコの声に答える人物が現れる。

 

「はいはい、私はいつでもいますよ。どうしたのクラコちゃん? 今日はバイトはお休みにしてたはずだけど……あら?」

 

 現れたのはかなりの歳であろう女性だった。柔らかな笑みを浮かべるその顔にはいくつもの皺が寄り、腰はかなり曲がっている。杖をついてこちらにゆっくりと歩いてくるその女性は突然現れたクラコの姿に疑問を口にするが、クラコの足にくっついて隠れている小さな影を見つけ、なんとなくクラコの訪問理由を察した。

 

「ええとですね、実は……」

 

「あらあら、かわいらしいお嬢ちゃんねぇ。お名前は?」

 

「あの、あの……ゆ、ユナです……」

 

「ユナちゃんっていうのねぇ。あらあら~隠れなくても大丈夫よ~。ふふ、ここに来た頃のクラコちゃんを思い出すわねぇ~」

 

「ちょ、店長」

 

 店長はクラコの初々しい頃のエピソードを本人の前で語りながらユナへ飴を手渡していく。渡された飴を見て、その後クラコを見上げてどうすればいいのかと困惑した様子のユナにクラコは苦笑しながらうなずいてやる。

 

 ユナが手渡された飴玉は四角いキューブ型の飴が二種類小袋に入れられており、ユナは遠慮がちにそのうちの一つをつまみ、恐る恐る口の中に放り込んだ。

 

「んっ……!」

 

 途端ユナはその甘さに目を輝かせる。口の中で飴をころころと楽し気に転がすユナはうれしさをこらえ切れないようで、しきりに手をぱたぱたと動かしたり、うれしそうな声を漏らしている。

 

「あら、そんなにおいしかったかしら?」

 

「……甘いものを、これまで食べたことがなかったらしくて……」

 

「……そう。クラコちゃん、話は奥でしましょうか」

 

「はい。……ユナ、私は店長と少しお話してくるから、日用品の方、あるか見てきてくれる?」

 

「はい、わかりました」

 

 返事をしたユナは店長と共に店の奥に消えていくクラコを名残惜しそうに見つめていたが、今までの生活環境から大人の様子を伺い、空気を読んで生きてきたユナは我儘を言うことなくクラコの言葉に従う。その従順さにクラコは言葉を詰まらせるが、ユナは笑顔を貼り付け、そのまま店の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラコちゃん、詳しい話は聞かないわ。同じようなことは私が生きてきた中で何度かあったから」

 

「すみません……」

 

 店長はただそれだけ言ってクラコへ椅子に座るよう促す。前日クラコが店長の元を焦った様子で訪れ、子供用の服がないかと聞きに来た。その時はサイズも聞かず、とにかく着られればいいと言っていたので店の隅で埃をかぶるだけだった子供服を持って行かせた店長は、おそらく近いうちにこうなるだろうとある程度予想していたが、実際に少女を連れてやってきたクラコを見ると多少の驚きは感じてしまう。それを感じてか申し訳なさそうにクラコも頭を下げる。

 

「謝ることはないわ。この年になるとこの程度の事はなんてことないからねぇ」

 

 よっこいしょ、と言いながら椅子に座った店長は温和な笑みを崩さず、クラコを見つめる。その瞳は決してクラコを責めているようなものではなく、うなだれているクラコを慰めるように、あるいは気にしなくていいと言うように優しいものだった。

 

 店長はクラコの姿を見て、改めてクラコとユナがよく似ていると感じた。それこそ、年の離れた姉妹や母娘のようだと思えるほどには。

 

「……本当に、とても良い子みたいね。言いたくはないけれど、ああいった子は生きるためならなんでもするといった考えの子が多いのだけれど……」

 

 店長とクラコが居る部屋からは店に設置された監視カメラの映像が確認できる。かなり年季の入ったものらしく、映像はシロクロであまり鮮明とは言えない。だが、そこに映っているユナの姿はしっかりと記録されている。

 

 映像の中でユナは手に持った紙切れに視線を落とし、並べられた商品を一つ一つ確認しながら歩いている。あの紙切れはユナが自ら書いたメモだ。これまで文字を書く機会さえほとんどなかったユナのために、クラコが文字を書く練習の一環として書かせたメモを頼りにユナは自身の日用品を探している。

 

 その間ユナは高価そうな商品やおいしそうな惣菜には目もくれず……いや、実際にはそちらへ視線を向けることもあったが、さして興味もなさそうに次へと視線を移し、探し物を探し続けている。

 

 

 店長は経営者としてそれなりに長い間この店を切り盛りしている。それこそクラコが生まれる前からずっとだ。その間に店長の店には様々な客がやってきた。ボロボロな姿で小銭を握りしめる家族や、大切にされていたであろう物品を売りに来た男性。涙をこらえて指輪と食料を物々交換してくれと言ってきた女性など。

 

 そしてそんな中には好まざる客の訪問もあった。

 

 販売されていた商品にイチャモンをつけて値引きしたりオマケをつけろとしつこく粘る者はまだいい方で、万引きや強盗まがいの(やから)も現れるのは珍しくなかった。そしてそんな強硬手段で商品を手に入れようとする者たちは、例外なく捨て子やそれに近しい身の上の者たちばかりだった。

 

 そんな経験から店長はクラコが連れてきた少女に多少の警戒心を抱いていたが、甘味をほとんど口にしたことのないはずのユナが飴を手渡されたとき、遠慮がちに口に含んだところでその警戒心は融解していった。ユナの瞳はこれまで出会った捨て子のように、あらゆるものに絶望し諦めている目ではなく、何かしらの希望を秘めた美しい瞳だった。

 生来の性格の良さか、ユナはあのような生活を強いられていたにもかかわらず店の商品を懐に入れる様子は微塵もなく、クラコに言われたとおりに必要な日用品を探しているようだった。

 

「クラコちゃん」

 

「はい」

 

「あの子のための生活用品を買いにきたのよね?」

 

「それもありますけど……一番は店長に紹介しようと」

 

「私に?」

 

「あの子は一人なんです。もう、私以外に頼る人が居なくて……。あの子には、私よりも頼りになる大人の手助けが必要じゃないかって思って……。すみません、迷惑でしたか……?」

 

 クラコの言葉に店長は首を横に振る。確かに店長はこれまで人の悪しき部分やどうしようもなく罪を犯してしまう(さま)を見てきた。だが、それと同じくらい人の暖かさと誠実さを目の当たりにしてきた。そんな店長だからこそユナをなんとなくだが理解できていた。

 

「いいえ、迷惑なんかじゃないわ。あの子は、私が思っている以上に純粋で、健気で……本当にクラコちゃんと似ているわね。でも、一つ訂正させて。あの子に一番必要なのは私じゃなくてクラコちゃんよ。それだけは忘れてはダメ」

 

「……はい、分かって、います」

 

 再度二人は監視カメラの画面を見る。一通り店に並んでいる商品を確認したユナは店長とクラコが消えていった部屋へ通じる扉をじっと見つめて動かない。何もない少女にとって店にあるものはすべて見知らぬ、魅力的な物として映っているはずだ。だが、ユナはそれらよりも大切で決して裏切りたくない存在が扉の向こうに居ることを理解している。

 

 この店はクラコのバイト先で、店長とクラコが知り合いであること、そしてクラコに連れられてやってきた自身(ユナ)が何か問題を起こせばクラコも責められるのだろうとユナはしっかりと理解している。

 

 他者のことを考えられ、思いやることのできる心優しい少女なのだと、今まで数多くの人を見てきた店長は自身の直感からそう判断した。

 

「ごめんなさいねクラコちゃん。あの子を試すような真似をして」

 

「いえ……私こそすみませんでした。いきなり何の説明もしないで連れてきて……」

 

「気にしないで。それよりあの子の為に買い物に来たんでしょう? 日用品はいいとして、服や下着のサイズはわかるかしら?」

 

「はい、家で計ってきたので……手に入りそうですか?」

 

「安心して。それくらいなら問題ないわ。さあ、ユナちゃんのところに戻ろうかね」

 

 クラコの不安をよそに店長の声音は穏やかなままだ。本来都市の外というのは食料品を手に入れるのさえ苦労するような場所だ。都市内よりも価格が上昇しているのもあるが、一番の問題はそもそも安定した流通ルートが存在していないからというのが大きい。

 

 だがクラコの目の前にいる店長は独自のルートを持ち、独自の人脈を築いている。その範囲は都市内にまで及び、それらの伝手によって店長の店はこの地域一帯ではまさに生命線のような役割を担っていた。

 店長もそれは理解しているらしく、訪れた客との商売は金銭だけでなく物々交換も行っている。ほかにも"ツケ"が効いたり、中には出世払いなんてのも交渉によっては可能という柔軟な対応をとっている。

 

 そんな謎の多い店長はどうやらこの地域では珍しい小さな子供であるユナを気に入ったらしい。まるで孫を見るような優しい目でユナを見る店長の姿に、クラコは安堵する。

 

「またいらっしゃい。こんな時代なんですもの。助け合わなくちゃね」

 

 

 なお、その後店長はユナを猫かわいがりしすぎて避けられてしまい、若干気落ちしてしまうのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 ユナとクラコは二人仲良く手をつないで家路を歩いていた。クラコの手にはコンビニで店長に手渡された食料が大量に詰め込まれた袋がぶら下がっている。廃棄予定だったものだからと持ち帰るように言われたクラコは店長の圧に抵抗することもできず、とにかくありったけの食料を持たされてしまった。中には廃棄予定と言いながらまだまだ新鮮な食材さえもあった。

 

(これじゃあ帰省した娘にお土産を大量に持たせるおばあちゃんみたいじゃない……)

 

 なんてことを本人の目の前で言えるはずもなく、クラコは次々に手渡される食材をはいはいと受け取るしかなかった。

 

 なお、ユナの手には同じく袋がぶら下がっている。中には今回購入したユナの日用品が入っているのだが、それ以上に詰め込まれているのはこれまた店長に手渡された大量のお菓子。ユナ本人が(かたく)なに受け取りを拒否していたのだが、拒否すればするほど手渡されるお菓子の量が増えていくことに気付いたユナは涙目でクラコを見上げ、諦めなさいと諭されてようやく首を縦に振ったのだった。

 

「クラコさん……あの、こんなにいっぱいもらっちゃいました……」

 

「よかったじゃない。でも、食べすぎはダメよ。御飯が食べられなくなっちゃうから」

 

「……食べても、いいの?」

 

「? もちろんよ? それはユナがもらったものなんだから」

 

「……」

 

「ユナ?」

 

「半分……。半分こしよう? クラコさんと一緒に食べたい、から」

 

「ふふ……それじゃあそうしましょう。一緒にね?」

 

「うん!」

 

 

 

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