愛鳥少女とキンヨク生活のすすめ。   作:田舎犬派

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75羽 チーム分け

 

 境内の広間に下級のカザヨミがそれなりに整列して集まり、その前に上級のカザヨミたちが並んでいた。上級は予定通りの人数が参加しており、対して下級のカザヨミたちの列はぽつぽつと空きが目立つ。

 

 チクブに集まったカザヨミは参加予定の三十名全員とはならなかった。土壇場で参加できないと連絡してきた者が数名、連絡なしに来ていない者が数名。結局合同訓練は二十名と少しが参加する程度にとどまった。

 

(まーったく、ホント何考えてんスかね。今までもドタキャンはあったっスけど連絡もしないなんてありえないっスよ)

 

 周りに気づかれないように小さくため息を零すヒタキはまともに連絡も入れない下級たちに辟易としつつもそれを顔に出さないよう務めていた。直前で不参加を言ってきた者たちは参加するカザヨミへと言伝を頼んだだけで先生たちへは何の連絡も無く、そもそも連絡をしなかった不参加者達は寝坊だったり遊びに行っていたり、そもそも参加していたのを忘れたという何とも言えない事情ばかり。

 

 直前で不参加を連絡したり、そもそも連絡さえろくにしなかった者たちと比べれば、悪態を付いていても参加した下級カザヨミの方が幾分マシだなとヒタキは呆れたk感情のまま訓練の開会式を執り行っているミサゴと、目の前に並ぶやる気のない下級カザヨミたちを見つめていた。

 

 合同訓練の開会式はそこまで形式ばったものではない。雲海調査計画のような全国に放送されるようなものでは無く、特級であるミサゴが訓練の理念やこれからの訓練日程を軽く説明するだけだ。一応は参加都市間の協定なので無関係な都市へと訓練内容が漏洩しないようにと携帯端末などによる撮影は禁止になっている。もちろん配信なんて出来るはずもない。

 

 基本的に合同訓練には先生をはじめとした都市の訓練所職員は参加しない。計画の骨組みは先生が組み立てるのだが、それを肉付けして実際の訓練内容にするのは特級や上級のカザヨミたちだ。合同訓練はあくまでカザヨミ同士の交流が目的となっているので、よほどの事が無い限りはこの小さな島で二十数名のカザヨミたちの共同生活が行われる。

 

 一泊二日という短い共同生活の中で下級は空を飛ぶ厳しさと危険性を教えられ、上級はリーダーとしてカザヨミを指揮する経験を積む。

 

「ツグミちゃん、あそこ見てくださいっス」

 

「なんですかヒタキ先輩……、あ」

 

 ヒタキとツグミは他の上級カザヨミと共に下級の前に並び、ミサゴの話を聞いていた。ヒタキは隣に立つツグミに小声で話しかけ、視線の先に見える人物を見やる。

 

 そこに居たのは緊張した面持ちのユナだった。周りの下級カザヨミがダルそうにしているのに対してユナは背筋をピンと伸ばしてミサゴの話を真剣に聞いているようだった。

 

「初々しくて可愛いっスねえ~」

 

「ふふ、確かにそうですね……でも、周りの方々は……」

 

 ユナのように真面目に話を聞いている下級はそれほど多くない。なのでユナの姿勢は自然と目立つ。勉強不足なカザヨミはユナを見て生意気だと睨み、多少座学を真面目に受けているカザヨミはユナがBWで有名なハヤブサの片割れであることを薄々察し、(いぶか)し気に注目している。

 

 結果としてユナは周囲から浮いていた。まわりは興味深そうにしてはいるが自分から近づこうとする者はおらず、孤立しているように見えるがどうもユナは気にしていない様子だった。周りに視線を向かわせる事も無く、不意に目が合ったヒタキににこりと笑みを向ける程度だ。

 

「意外と肝が据わってるっスよねえユナちゃん。まあ、あれくらいじゃないと雲海を飛ぶなんて出来ないということっスかね」

 

「でも大丈夫なのでしょうか? これでは他の子たちとの交流が……」

 

 今更ユナに都市の飛行技術を教えたところで意味は無いだろう。これからもユナは単独で空を飛ぶことが基本になるだろうし、周囲をほぼ完璧に把握できるユナならば他のカザヨミと合わせて飛ぶ程度は楽々やってのける。

 

 なので保護者たるクラコが求めているのは都市の持つカザヨミの技術では無く、同じカザヨミとの交流であることはツグミたちも薄々察してはいる。ツグミの懸念はユナが今回の合同訓練でその目的を達成できないのではという思いからだった。

 

「ユナちゃんにも友達を選ぶ権利はあるって事っスよ。ほら、見るっス」

 

 しかしヒタキはそこまで心配してはいなかった。カザヨミの中でも大半の下級のように承認欲求を満たす為に翼を広げている者もいれば、ユナのように翼を収めてこの後の飛行訓練に備えている者もいる。下級であっても思慮深い者たちはその程度の考えは心得ているし、ユナの印象的な髪色から同じく印象的な翼の色を結びつけて考えられる程度には勤勉だ。そんな者たちの中でもヒタキたちが最も信頼しているカザヨミが、その信頼通りにユナへと向かっていく。

 

「あ、瀬黒先輩……」

 

 瀬黒と、瀬黒の背中にくっついているセキレイの二人は他のカザヨミと異なりユナに好意的な視線を向けている。感心するような瀬黒の視線と、憧れが混じったセキレイの視線。あれでは開会式が終わってすぐにでも声をかけに行く事だろう。

 

「流石瀬黒先輩っス、見る目はカザヨミ随一っス」

 

「……訓練中はチームを組むことになっていましたね」

 

「でスね。予定より下級の人数が少ないからひとチームに上級一人、下級が二人から三人、ってとこでスね」

 

「ユナちゃんは……瀬黒先輩とでしょうか?」

 

「ぽいでスね。とはいえ予想外ではありまスね、ユナちゃんほどなら大人気かと思ったんスけど」

 

「まだ半信半疑なのでしょう。本当にユナちゃんがあのハヤブサなのかどうか……」

 

 ユナはあくまでただの参加者の一人である為事前に参加が告知されるような事は無かった。対して都市管理部所属と表向きなっているイスカが参加するという告知は普通に報道され、ユナ参加の情報が拡散されなかったというのもあり合同訓練に参加した下級たちはユナが本当にあのハヤブサなのかと疑っているのだ。かの有名なハヤブサが何の告知も無く唐突に都市の合同訓練というイベントに参加するなど想像できないという思いが現実を受け入れられない要因となっていた。

 

「それもすぐに分かるさ」

 

「ミサゴ先輩、お疲れ様です」

 

「お疲れっス。どれくらいでした?」

 

「ユナを除いて三、四人程度だな。瀬黒の周りは優秀なのが多そうだ。流石だよ」

 

 合同訓練の概要を説明し終え、早速最初の訓練内容へと赴くカザヨミたちを見ながらヒタキとツグミは壇上を降りたミサゴと合流した。一段高いところから話をしていたミサゴの視点からは集まった下級カザヨミの様子がよく見えた。隠れて携帯端末を触っていたり、あくびをして眠気を噛み殺しまともに聞いていなかったり、反対にミサゴへと興味の視線を送る青灰色の髪の少女の姿だったりと、とにかくよく見える。

 

 ミサゴが見たところでは、まともに話を聞いていたのはユナを含めて数名程度という有様だったが、これはいつもの事なので今更呆れることでは無い。むしろ瀬黒が参加してくれているおかげで多少マシな人材が共に参加してくれているのが有難い。

 

「それじゃあ後は各個人に任せまスか。人数調整はこっちでやるってことで」

 

 

 

 

 

 

 

 合同訓練の開会を宣言するミサゴを遠目に見ながらユナはワクワクする気持ちを抱いてミサゴの話に聞き入っていた。前日までに合同訓練の内容は頭に入れていたものの、実際にこれから始まると思うと気持ちが(たかぶ)るというもの。何より大人数で空を飛んだことの無いユナにとって訓練の内容は新鮮でやりがいのある内容であると言えるだろう。

 

 しばらくしてミサゴが今後の日程に関して話し終え、早々にチームを組むようにと言って開会式は終了した。周囲のカザヨミは既に親しい者同士で集まり、ユナは遠巻きにされているような状況だ。

 

 ユナが自分から寄っていったとしてもあからさまに避けられ、怪訝な顔をされるので自主的にチームメンバーを集めるのは早々に諦めた。

 

「……残ったらミサゴお姉ちゃんたちが調整してくれるって言ってたっけ」

 

 しかしユナは動じる事は無い。こうなることは予想できていたし、一人だからといって訓練を受けられない訳ではないと知らされていたからだ。

 

「あのー……」

 

「んー?」

 

 そんなユナへと声をかけるカザヨミが居た。ユナより頭一つ分は背の高いそのカザヨミを見上げるようにユナは顔を上げ、首を傾げる。他のカザヨミのように探るような視線は向ける事無く、どちらかと言えば申し訳なさそうな声音で語りかけるカザヨミの様子にむしろユナの方が少し困惑してしまう。

 

「えーと、私は瀬黒って言うんだけど……もしよかったら一緒のチームになってくんないかな?」

 

「……いいの、ですか?」

 

 まさかここで声をかけられると思っていなかったユナは思いのほか狼狽し、思わずクラコに助けを求めるように耳元へ手を動かすが、クラコは無言を貫く。こう言った交流の為に合同訓練に参加したのだからと、そっと背中を押すようにピアスが煌いた。

 

 そうして硬直しているユナの様子を拒絶なのかと慌てている瀬黒の後ろからまた別のカザヨミが顔を覗かせユナを見つめる。

 

「むしろ、お願いしたいくらい。……あなたは、ユナでしょ……? 私は石白……セキレイって呼んで」

 

「実はセキレイちゃんがユナさんと組みたいって言っててさ、この子が一級で、ユナさんが入ってくれれば丁度良さそうでさ」

 

 ユナへと言葉を紡ぐ瀬黒は他の下級とは異なり上から目線の言葉を用いない。あくまで対等か、むしろ下からの発言のようにさえ感じさせる。セキレイにしてもそこまで畏まった感じではなく、二人ともユナの素性をある程度理解しており、その上で声を掛けてくれたのだと分かる。

 

 自身を気にかけてくれて、期待から勧誘してくれたのならばユナには願っても無い事だ。拒否する理由もない。

 

「ええと、私で良ければよろしくお願いします……!」

 

「! ホントに!? いやーよかった~。しょっぱなチーム組めとか難易度高いっての」

 

「みれー人気ない」

 

「何を言うかなこの子はー」

 

 セキレイの頭に手を置きぐりぐりと力を入れる瀬黒だがセキレイはあうあうと言葉を零すだけでされるがまま。恐らくはいつものやり取りなのだろう。

 

「あ、あの……それなら私も人気ない、ですから」

 

 ユナがそんな事を言うが、セキレイは眠たげな瞳を少し見開いてくびを横に振り否定する。

 

「ん……ユナは人気ある。ありすぎてオーラ出てる」

 

「おーら……?」

 

「気安く声かけられないオーラ出てる」

 

「そう、でしょうか……?」

 

 抑揚の抑えられたセキレイの声音は、けれど断言するような力強いものだった。事実としてユナが不人気だから人が寄ってこないという訳では無い、むしろ逆だろうとセキレイは理解しているし、瀬黒も同意見だった。

 

 とはいえそんな誤解を解くほどに会話できるカザヨミが居なかった訳で、瀬黒は意識してユナと距離を縮めるように立ち振る舞う事にした。

 

「ほらほら、二人とも行くよー。ユナさんは合同訓練初めて、だよね?」

 

「はい、初めての事ばかりで……教えて頂けるとありがたいです」

 

「おおー……真面目だ……」

 

「みれー、なぜこっちを見る?」

 

「いやー? なんでだろねー」

 

「むう……」

 

 わずかしか変わらないセキレイの表情、けれど拗ねたように膨らむほっぺたは瀬黒に明らかな不満を表明している。いつもの事と軽く流す様子の瀬黒。親と子の関係でも、先輩と後輩の関係でもない。けれども姉妹のように真正面に居るわけでもない。いうなれば隣を歩いている仲間のような雰囲気。

 

「あ、あの……」

 

「どうかしたユナさん?」

 

 ユナはそんな二人の関係性に暖かな感情を抱く。クラコとも、ツグミ達とも異なるような、同じ目線にいるように思える同族(カザヨミ)との距離感に、ユナも仲間に入りたいと無意識に思った。その第一歩としてユナは同じ目線で言葉を交わそうと言葉を紡ぐ。

 

「私の事はユナと呼んでください。お姉ちゃんたちにはそう呼ばれているので」

 

「お姉ちゃん?」

 

「はい」

 

 ユナとしては距離を縮めたいという思いからの言葉だったが、それは瀬黒の口元を引きつらせるには十分なプレッシャーを含んでいた。ユナの口から出てきた"お姉ちゃん"へとユナが視線を向け、手を小さく振れば、すぐさま応えるように特級二名が笑みを向けたり手を振り返している光景が目に入ったからだ。

 

「あー……なるほど、まじか」

 

「上級の目が光ってる……私たちのチームの採点、厳しくなる可能性ある……?」

 

 実際のところユナの加わったチームは特級レベルのユナ自身と、一級の中でも有望な若手カザヨミであるセキレイ、上級カザヨミからも一目置かれる瀬黒という、注目しない訳にはいかないような三名が集まっていた。第十七飛行隊の面々はもちろん、他都市から参加してきた上級カザヨミも自然とこのチームへと視線を向けてしまう。

 

 とはいえだからといって訓練内容が彼女たちだけ厳しいものになることは無い、と思われる。……あくまで、彼女たち基準では、あるが。

 

「えっと、それじゃあユナ、ちゃん一緒にがんばろうね」

 

「はいっ!」

 

 

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