「あの子はまた……いや、これは私にも責任はあるのかしら?」
ピアスより送られてくるユナたちの様子にクラコは諦めに近い感情を伴いながらそんな事を考えていた。おもむろに上着を脱ぎ、羽繕いをし始めた時はさすがのクラコも驚いて若干引きぎみの声が出てしまったものだが、冷静に考えるとこれはある意味チャンスなのでは、とも考えた。
現在の都市は下級カザヨミたちの雰囲気や都市管理部の知識不足によって羽繕いを重要視していない。それがユナの登場により徐々に興味を抱き始め、下級の中には羽繕いを実際にしてみたいと考える者たちも現れた。ユナの行動はそんなカザヨミたちの考えを肯定し、羽繕いは決して恥ずかしい事じゃないんだよと、認めてあげられるチャンスといえた。
羽繕いがカザヨミの能力を底上げする……なんてほどに劇的な効果が現れる訳ではないが、羽繕いが習慣化すればカザヨミのコンディションが上振れする頻度は高まるだろう。ストレスは緩和され、集中力が増す。集中力が上がれば技術習得の時間は短縮され、能力の向上は早まる。羽繕いはそういった能力を上げるための、基礎的な土台を構築する為に必要な行為と言える。
ユナが今後も都市のカザヨミたちとの交流を希望するのなら、そもそもとして都市のカザヨミの在り方……もっと言うのならば都市のカザヨミ育成の在り方から変えていく必要がある。他者を見下す事を当然と思えるような者たちをユナの友人としたくはない。
「ふふ……本当に楽しそうね」
その点、今回の合同訓練はクラコからすると満足のいく内容だったと言えるだろう。訓練に参加した一部のカザヨミのみとはいえ、都市カザヨミの翼を出す悪習や羽繕いを忌避する雰囲気を薄れさせ、ユナに好印象を持ってもらえたのだから。
送られてくる映像は広間に突撃してくるヒタキなどを映し出し、慌てて散っていくカザヨミたちが捉えられては正座させられていく光景が繰り広げられている。騒がしさが増す中、ユナは寝みたげにあくびを噛み締め、布団の上で丸くなって目を閉じてしまった。ミサゴたちに捕らえられた瀬黒とセキレイの悲鳴をBGMにして、映像はユナの寝顔がその後も映し出され続けるのだった。
「ふふ……さて、それじゃあ私の方も始めましょう」
ユナたちの深夜の騒動を横目にクラコは机の前に座る。足元に置かれた情報端末を操作し、机の真上にぶら下がるカメラの位置を微調整。
上から見下ろすように設置されたカメラの映像を確認したクラコは小さく頷き端末に表示されたブラウザを数回操作し、配信開始のボタンをクリックした。
「皆さんお待たせしてすみません。それでは事前の告知通り、配信のほうを始めさせてもらいます」
◇
現在、都市内外で話題になっている小説がある。それは美しく装丁された本ではなく、そもそも物として存在しているわけでも無い。それはとあるネットニュースを配信するサイトの、片隅を埋めるためだけに掲載されている連載小説だった。
一人の少女が翼を発現させカザヨミとなり、幼い子供らしい無邪気さと悩みを抱えながらも日々を生きていく姿が書かれている。カザヨミとしての空を飛ぶ雄大な姿と少女らしい愛らしさが内包された作品だ。
BWでのカザヨミ配信者の増加に伴い都市はカザヨミに関する情報を一般へと公開し始めた。カザヨミとそうでない者たちとの間に広がる確執を取り除き、両者の関係を軟化させる為に先生がそのように情報の発信を促し、配信などを通して都市外へも広がる兆しを見せていた。
それによりあらゆる娯楽の中にカザヨミを題材とする作品が現れるようになる。BWでカザヨミが配信者として活動するようになってから徐々に現れ始めたそれらは、ハヤブサという配信チャンネルの登場によって爆発的な増加傾向を辿った。
それまで特別な存在というだけでしかなかったカザヨミが、同じ人間のように喜怒哀楽を表現しながら年相応に振舞う姿は、カザヨミに興味がありつつも雲の上の存在だと感じていた者たちに興味を抱かせるには十分だった。配信という身近にいるような感覚を覚える形態と、都市カザヨミとは異なる物腰柔らかで幼くも聡明なユナの姿は一躍人気者としてBWのみならずあらゆる場所で名前を聞くに至った。
そうしてユナをオマージュしたようなカザヨミ主人公の物語が続々と生み出され、それらは多くの人気を獲得していった。
そんな界隈の中でも特別視されている作品が、例の連載小説だ。ハヤブサチャンネルが人気となり多くの作品が生み出される以前より連載されていたそれは当時よりカザヨミに関する詳細な描写が評価されていた。単純に力を持つ個人としてではなく、カザヨミも一人の少女であるという作品の主題が多くの読者に物珍しさから評価され、ハヤブサの配信活動が活発化してからは"カザヨミも只の人である"という考えを根本に置いた作品の先駆者的存在として評価されることになった。
作者に関する情報は作品が掲載されているサイトの隅に小さく書かれたペンネーム以外は存在せず、そのためニュースサイト側に大量の問い合わせが届いているらしい。
『噂では都市住みの上位層が書いてるって噂だよ』『俺は地方のカザヨミ管理部職員って聞いたけど?』『ばっかお前、あんだけ詳細ならカザヨミ本人が書いてるにきまってんだろ』
「へえ、人気なのねぇ」
雑談より始まったクラコの配信はユナによる雲海調査配信と比べればそこまで視聴者の数は多くない。それでも一般的な生配信と比べれば多すぎるほどの人間が視聴している。
『クラコさんは気にならない?』『調べてみると昔っからそこのサイトで書いてたっぽいんだよね~』『カザヨミに詳しいとか親近感湧きません?』
「あはは、親近感かあ……。私の場合はみんなに親近感湧いてるかもですねー」
『これは嬉しい事言ってくれるじゃん』『私も勝手に親近感もってるんよ~』『あの子たちに近いって意味では同じかもねえ』
クラコの雑談配信は主にユナが寝静まった深夜帯に行われる事が多い。深夜作業の傍らに行われるクラコ個人の配信は意外と人気で、主に"カザヨミに近しい人たち"が視聴している。
それはカザヨミの家族だったり、友人だったり、恋人だったりと様々だが共通して"カザヨミをもっと知りたい"という者たちが集まり、自然とそういった者たちの集まりの場としてクラコの配信は機能していた。
カザヨミに近い一般人だからこそ得られる様々な情報が集積するクラコの配信ではこのようなカザヨミに関連する事柄の情報もよく雑談の話題として視聴者よりもたらされる。
『もしかしたら作者もこの配信見てるかもよ?』
「……あー、うん。そうだといいですね~」
とはいえその話題に挙がる小説の作者本人たるクラコの話が出てくるなど予想外もいいところだが。
ユナのサポートを最優先とした生活を始めてからのクラコの生活は時折店長の店でバイトをしながら食料を確保。ユナのサポートをしながらの配信、都市との交流。深夜は雲海の資料をまとめながら小説を書くバイト、あと今のように雑談配信も行うというのがここ最近の生活だ。
さすがにバイトの数をがくんと減らした事と、ユナとの二人暮らしを始めた事で貯金も少しずつ減り始めていた。先生からは都市との交流に対する見返りとして金銭を渡そうかという話もあったが、流石にお金による繋がりの重さを危惧しクラコは辞退した。
そうしてユナがキンヨク日で空を飛べないタイミングを狙ってバイトの数を増やそうかと考えていた最中、クラコが書いた作品が大きな話題となった。掲載される小説の内容も掲載規模も表面上は何も変わっていないが、小説を掲載しているサイトの管理者側とクラコとの間の契約は大きく見直され、クラコが受け取れるバイト代はバイト代とは思えないほどの金額となった。もちろん契約内容には他社への同時掲載の不可や掲載間隔についてなど、これまで適当にされていた部分が明確化され厳重化されたが、クラコとしてはこのバイトで名を売るつもりは無いので特に問題も無く契約はそのように更新された。
「ま、まあ? それだけ有名なら配信を見てる暇も無いでしょうし、気にする必要はないですよ」
作者を公開していない関係上そうしてクラコはすっとぼける。あくまで趣味、兼バイトとしてしか書いていなかった小説がこのような話題を産むとは思ってもいなかったクラコはユナの邪魔にならないように作者であることを隠した。
ユナとクラコがBWをもって表舞台へと姿を現したのは現在のカザヨミたちが危険地帯へと気軽に入り込み、簡単に遭難している現状を是正するためだ。それだけでも既にオウミの都市管理部より目を付けられているのに、これ以上目立つような動きをするつもりはなかった。
「さて、それじゃあ今日は一つ目の"衛星"からマッピングしていきましょう。先日の観測である程度の法則はわかったから、可能性のあるルートをいくつか考えていくわ」
『はーい』『どのくらい時間かかるかねえ』『前の暫定マップを使いまわせるならそこまでかかんないかな?』『とはいえほぼ作り直しなら同じくらいかかりそうだけども』
「構成してる廃墟はおおよそ把握してるので、組み合わせの種類ですね。骨格はぱぱっと作っていきましょう」
クラコは机の上に大量の紙束をざっと置き、数枚を広げて見せる。手に持ったペンで図面にいくつかの補助線を引き、合わせるようにして次の図面を広げる。そうしてクラコが当たり前のように作業を始めようとしたところで、初見のコメントが画面を流れていく。
『ちょっとまって?たしか「はいいろホテル」って構造が時間経過で変化してるんだよね?地図とか書けるの?』
『あ、初見さんだ』『初見さんおつー』『ようこそカザヨミ大好きクラブへ』『草』『なんか知らんうちに名前付けられてるんだけど!?』『人の配信内でクラブ作らないでもろて』『まあ此処くらいしか保護者同士で交流出来んからね~』『配信主公認クラブっす』
「公認といいますか、皆さんが勝手に集まってきたと言いますか……。ええと、時間経過で廃墟が変化するという話でしたよね? それなら問題ないです。どのように変化するのかおおよそ見当がついたので、今回は予想される廃墟構造からマップを作っていくつもりです」
はいいろホテル内は空間に漂う瓦礫がエーテルの特性によって互いに引き合い衛星のごとき廃墟のかたまりをいくつか形成している。それはエーテルの流れによって分解と集合を繰り返す。だが、どうやら分解と集合のサイクルにも法則があるらしく、ユナによる定期観測によると集合した瓦礫は三日ほどで分解され、翌日には集合し一定の大きさに形成し直される。衛星の数は変わることが無く、集合と分解の期間が三日から大きく変化する事はなかった。
さらには衛星内の状態も基本的に分解される前の廃墟がそのまま組み合わさっただけであり、新たな瓦礫が加わったり元からある瓦礫が離脱するという現象も見られなかった。
この事実からクラコは灰色ホテル内のおおよその法則を仮想した。
「多分なんですが、はいいろホテルの衛星はエーテルの濃淡によって軽い降害を起こしているんだと思います。けど空間全体のエーテル自体は濃いので、バラけた瓦礫はそのまま空間に固定されて漂っている、って感じなのかと」
はいいろホテルの領域に満ちているエーテルは濃い領域や薄い領域が
エーテルの薄い領域ではエーテル化した瓦礫が空間中に放出され衛星そのものを支えきれずに崩壊し、降害が起る。だが、細かく分解された瓦礫を支えられる程度にはエーテルが濃く、地上に落下する事はない。
衛星は衛星ごとに周期的に廃墟の集合と散開を繰り返す。それぞれがそれぞれにサイクルを繰り返すので他の衛星とは干渉しない。それ故に衛星を構成している廃墟は常に同じ衛星の材料として利用され、再構成される。
「衛星の集合と散開はエーテルの濃淡によって引き起こされるので衛星の外部ほど剥がれ落ちて散開しやすく、逆に中心部はほとんど変化していないようです。例えば……、この廃ビルと廃工場は以前とほぼ変わらない場所にあります。つまりはこの辺りが衛星の中心部という事ですね」
『まじか……まじだ』『単純にバラバラになってるわけじゃないのね』『中心が核みたいになってんのね、つまりはそれくらい衛星それぞれの中心はエーテルが濃い』『停滞結晶辺りが核になってそうにも見えるな』『じゃあそのあたりはマップ変えなくていい感じ?』
クラコは衛星の中心部を構成しているであろういくつかの廃墟の図面を手に取り、それらを机の中心部に置いた。
「この辺りは確定ですね、次は中心部より少し外側。ここもほとんど動きはありません。軽い瓦礫の位置に変化が見られますが、探索ルートを変えうるほどの大きさではありません」
机の上に置いた図面を囲むように新しい図面を追加し繋げていく。クラコの手の動きは淀みなく、既に何度も繰り返した作業のように逡巡することも無く図面を配置していく。
「……と、ここまでが変化しない探索ルートですかね。次はあくまで可能性の高いルートを選定して組み合わせていきましょう」
雲海廃墟を探索するユナにとって廃墟のマップは非常に重要な情報であることは疑う余地もない。最短の探索ルートを提示できればそれだけ探索にかける時間を短縮することができる。探索の時間を短縮出来るという事は、ユナの消耗をそれだけ抑えることが出来るという事だ。
体力を温存出来ればより先の探索が可能であるし、余裕をもって帰還できる。非常事態に陥っても温存した体力と、それによって保たれる冷静な判断力は事態を乗り越える一助になるはずだ。
クラコはそれを知っているからこそ、何度も何度もはいいろホテルの想定される探索ルートを組み上げては記録していった。廃墟の大きさや、飲み込まれてからの年月、あるいは領域内のエーテル濃度の移り変わりや集合と散開の詳細な周期と動向調査。
はいいろホテルの最外周にある衛星のマップだけでも既に十数通りのマップが制作され、保管されている。それでも構築される可能性の高いルートを全て網羅しているとは言い難く、故にクラコは雑談配信の傍らマップ作成を行っていた。
本来予測することなどほぼ不可能な事象をクラコはユナとの調査によって綿密に調べ上げ、それらの情報を基に可能性の高い雲海廃墟のマップ作成まで漕ぎつけたのだ。
『なんかすっげー速さで図面が組み上がってるけど……これって普通?』『いや全然普通じゃないぞ。本来都市の専門家が何かヶ月もかけて調査してそれっぽいマップを作るのが精々だし』『そもそも雲海廃墟のマッピングなんてハヤブサのチャンネル以外にやってなくて比べようもないのよ』『へえ~なんか凄いもん見てる気分だ』『と言うかマジで凄いのよ。ユナちゃんが飛んでるの見ながらマッピングするだけでもヤバいのに、まさか事前に雲海廃墟の予想マップ作るなんて』
視聴者の多くはカザヨミの関係者であり、当然カザヨミに関する情報に詳しい者たちも多い。クラコが現在行っている仮想マッピングがどれほど異常で未知な技法であるのかを深く理解している者も少なくない。
そうして知識と技術と記憶を基にしたクラコのはいいろホテル想定マップは驚くべき速さで形作られ、この配信だけで計三枚のマップが完成した。それでもまだ想定されるルートを半分も網羅出来ていないというクラコの言葉に、やはり視聴者は雲海の広大さに絶句する事になった。
ある程度のマップ作製作業を終えたクラコはカップに注いだココアを飲み、視聴者との雑残を楽しみながら何となしに配信を続けていた。深夜の静かな空気に溶ける穏やかな雰囲気。わずかに湯気の昇るマグカップを傾け、少々肌寒い夜の空気が窓から抜けていく。
「最近なんだか寒くないかしら?」
ふとクラコがそう呟く。まるで秋から冬へと変わる際に吹く一際冷たい風が、鉄臭い風の間を縫ってクラコへとたどり着いたかのような、僅かな冷風が窓の外から入り込んでくる。
『確かにここ最近気温が落ちてるってニュースで言ってましたね』『そか?ほぼ変わらん気がするが』『山のほうとか顕著よ、流石に雪は無いけど』『このまま冬になったりしねーかなー』
「冬、ねえ……」
この世界は停滞雲によって空が覆われ、太陽の光と熱は大幅に制限されてしまっている。各地の寒暖差が縮まり、かつて四季と呼ばれていた明確な四つの季節は曖昧な状態で停滞を続けていた。
とはいえ雲が日光を遮るだけで
クラコは壁に掛けられたカレンダーへちらりと視線を移す。日付は本来ならば霜降りる文字通り
まるで、雪が降った事を喜ぶ幼子のような視聴者たちの様子にクラコはくすりと小さく笑い、マグカップに口を付ける。
『そう言えば寒いからってうちの子がベッドにもぐりこんできたことがあったなあ』『カザヨミの?』『カザヨミの』『まじ!?どんだけ仲いいのよ』『カザヨミと同棲とか都市外住みの妄想だと思ってたのに……』『そんなに寒い日あったっけ?』『カザヨミの平熱が低めだからとか?』
「……あの子たち、平熱は少し高めよ」
一般的に鳥類の体温は人間よりも高く、40℃以上はあると言われている。カザヨミは鳥類では無いし、翼だけで空を飛ぶというよりエーテルによる補助が多分に効いているので鳥類ほどに高温ではないが鳥と同じく空を飛ぶ為に多大なエネルギーを必要とする関係上、体温が高くなっている。
そもそもとしてカザヨミは肌が凍てつく高高度を飛んでいたりする。一般人が感じるような肌寒さに耐えられないような体のつくりはしてはいない。
そんな寒さに関しては強いはずのカザヨミが、わざわざ寒いからという理由でベッドに潜り込んできたというのは……つまりはそういう事なのだろう。
「みんなのトコも仲いいのねえ」
『最初はぎこちなかったけどね~』『どう接するのが正解なのか手探りだったし』『というかこっちが悪かったところのほうが多い気がするんよ』『自分の子供がカザヨミになった時はどうすればいいのか正直分からなかったし』
ほとんどのカザヨミたちは都市に所属し、都市のカザヨミは教育期間の寮で生活している。決して親元から離されているというわけでなく、あくまで教育を施すという点において一か所に集まっていた方が効率が良いという話でしかない。なので寮に所属しているカザヨミは許可を取らずとも家族と会う事が出来るし、先生にあらかじめ言っておけば実家に泊る事も許されている。もっとも、そこまで簡単に外泊が許されているのは両親が同じ都市に移住しているからというのもあるが。
とはいえ都市のカザヨミと、彼女たちと近しい間柄の者たちは予想よりも近い距離で生活をしているが完全な同居ではない。そうなればカザヨミとそうでない者との差は文字通り明確になり、微妙な不和を生み出すきっかけともなる。
翼を持つことが特別だと感じるカザヨミも居れば、親しい者たちと異なる身体を持つ事がコンプレックスのように感じてしまうカザヨミも多い。それは周囲も同様で、両者ともカザヨミだからと距離を置き、一般的な家族のように甘え、甘やかす関係を構築できない家庭も存在する。
そんな者たちにとってクラコの配信は自信の悩みを相談できる唯一の場所と言っていい。クラコとユナの関係性はこれまでカザヨミと距離を置いていた者たちに勇気を与え、距離を置かれる事が当然だと思っていたカザヨミに親しい者たちへ甘える余裕を与えた。
『最近はよく話してるよ。休みの日は家に帰ってきてくれるし』『私も休みの日に一緒に遊びに行ったよ。お揃いのアクセ買ったw』『前に一緒に寝たいって言われて、同じ布団で寝たな……なぜか翼を出しちゃってたけど』『それは例のアレを待ってたのでは?』『え、まじで』『いいなぁ……羽繕いおねだりか~』
「みんなも一度誘ってみれば良いんじゃない? 意外とさせてもらえるかもよ、羽繕い」
『無理無理!嫌われたら絶望する!』『あまりにも接近しすぎて引かれそう……』『手を握るのがやっとです……』『翼に触るの緊張して手汗がヤバくなりそう……』『誘う時なんて声かけたらいいか分からない……』
「付き合い初めかしら?」
その後もクラコの配信はカザヨミの保護者達とクラコとの相談事や雑談が続き、特に何かが起こる訳もなく過ぎていった。日付が変わるだろう時間に配信はいつも通り終わり、いつもはユナが眠っているはずのベッドにひとり横になりゆっくりと眠りに落ちていくのだった。