ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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ロストマンのセイリング・デイ(番外編 ドフラミンゴとロー)

おれがドフラミンゴファミリーの船に居座っているのは、おそらく、一緒にいると自分の人生が一段階上に引っ張り上げられた気になるからだろう。それに気づいたとき、ドフラミンゴに捧げるべきなのは、尊敬だと感じはじめていた。口にしたが最後問答無用で降ろされるから絶対に言わないけれど。

 

フレバンス滅亡計画をお膳立てした悪のシンジゲートの頂点に君臨するドフラミンゴファミリーは、おれのまごうことなき仇討ちすべき相手だとわかっている。わかっているはずなのに、おれはいろんな理由をつけて、これから何をすべきなのか結論を出そうとする焦燥感に蓋をして見て見ぬ振りをし続けていた。全てを失い、もう二度と満たされることのなかった、そしてこれからも永遠に満たされることのないであろう少年期の憧憬ににている。

 

でもなんだろう、このむなしさは。通じ合ってはいても、ドフラミンゴファミリーがおれのことを好きでもなんでもないってことが伝わってくるからだろうか。

 

会話自体ははずんでいても、気が合えば合うほど、永遠に縮まらない距離が浮きぼりになる。気が合う、だからなに?とでもいわれているような気分になる。ふつうよりちょっとだけ距離の近い平行線、なんの火花も散らなければ、なんの化学変化も起こらない。どうしようもない壁が存在しているのは確かだった。

 

焦燥感だけがあって、何をしていいのかわからない。ただ、おれの心の奥に火を灯し、その炎は消えぬまま残り続けることはわかっている。

 

ドフラミンゴの部屋にある天井から床まで埋め尽くさんばかりに詰め込まれた本棚の前にやってくるときだけは、忘れることができた。カンテラをいつもの机において、背伸びをして、気になった背表紙をひっぱりだす。重い本だ。ずしりとくる重い本だ。なんとか机に置き、椅子を引く。おれはそのまま開いた。

 

周囲の音が吸い込まれるみたいにしてすーっと遠ざかる。本の世界に没頭していたおれは、いつものように現実逃避をはじめていた。

 

クローゼットの扉がひらいたのは、おそらくドフラミンゴが急いで戦闘を始めるために出て行って、ちゃんと閉めて鍵をかけなかったからだろう。視界の隅に服らしき色がちらついた。船は揺れから逃れることはできない。ぎいぎいいいながら、それはやがて開いて、何かがどさっと落ちてきた。ちょっと顔をあげたが、さっきの色が広がっただけだ。今いいところだったからすぐに視線を戻した。

 

さすがに勝手に私物を触っちゃいけないことくらいわかる。王下七武海天夜叉ドフラミンゴの部屋なのだここは。暗黙の了解だからって勝手に本を読み漁ってるおれのいえた義理じゃないだろうけど、暇なんだからしかたない。

 

そのうち外が真っ暗になる。深層海流に入ったようだ。ドアを開ける音がする。顔を上げると、いつものように無傷で平然とした様子でドフラミンゴが入ってくる。

 

「おかえり」

 

「おう......おい、なんだこりゃ」

 

「なにが?ああ、鍵の閉め忘れだろ。船の揺れで、なんか勝手に落ちてきた」

 

「そうか、ならいい」

 

どこをどうみても、勝手に扉があいて、服がおちて、ほったらかしになってる服数枚の団子。結構年季が入っているし、サイズがおれくらい。くたびれた感じがするから、ドフラミンゴがかつて気に入ってきていたのはわかる。それだけだ。興味なさげにいうおれに、ちょっと安心した様子でドフラミンゴはそれを拾い上げる。

 

「......ロー」

 

「?」

 

「ゲッコー海賊団て知ってるか」

 

「ゲッコー?モリアのことか?七武海の?海賊団の名前、初めて聞いた」

 

「そうか......そうだよな。もう7年も前になるのか」

 

「7年も前っておれまだ3歳だぞ、しらねえよ」

 

「そういやそうか、おまえ今年10か。おれがウミット海運から独立して、海賊始めたころだな」

 

誰がどう見ても、不自然なタイミングで、沈黙が降りた。おれがどうしたらいいか迷っていると。ドフラミンゴは衝動的ともいうべき速さで、クローゼットの中から、似たような感じの服を引っ張り出しては袋に詰め込んでいく。いつもの几帳面さは嘘みたいにクローゼットをひっくり返していく。パンパンに膨れ上がったものをかかえてドアを開いた。

 

深層海流を抜けた船は、すでにどこかの海域に出ている。ドフラミンゴがなにかしら行動を移すときは、いつもこうだ。神がかり的なタイミングのよさだ。

 

ドフラミンゴは、それを海に向かって投げつけた。指を引く動作をする。

 

「あ」

 

一瞬だった。幼少期の服が入っていたはずの袋ごと全てがズタズタに引き裂かれ、粉微塵になって海面に広がっていった。

 

「......」

 

おれはなにも言えなかった。ドフラミンゴは気が済んだのか、また戻ってきてぐちゃぐちゃになったクローゼットを片付けはじめた。せいせいしたという顔をしている。

 

あとから調べてわかったのだが、その年、ゲッコー・モリアとカイドウはワノ国で戦争をしたらしい。それがなぜ今まで大事にしまっていた服をあんなふうにしたくなるのか、今だにおれにはわからないでいる。

 

たしかなのは、年に数回、ドフラミンゴはそういう衝動にかられるたびに、その当時の私物をわざわざひっぱりだしてきて、粉微塵にして海に埋葬する儀式をしていることくらいだった。

 




なんだか許せなかった。かつて憧れて服まで真似した海賊が挫折して体格変わるまで落ちぶれるのが。父上に愛人の子の噂が流れ始めた時期に活躍した海賊だったから余計に気が立っていたのかもしれない。それともドラゴンの手紙のせいだろうか。唯一事情を打ち明けられる右腕はもう海軍にいる。
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