ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
凪の海域、女ヶ島から北西にある無人島ルスカイナ。1週間で季節が巡り、1年で48季節もまわるとんでもない魔境である。
「さくら王国を晴れにする程度の実力で挑むべきじゃなかったが、きみが急いだ理由はわかるよ」
レイリーはそういってエースの頭を撫でた。
「矜持の問題だからな。なにもしらないまま友情を結んで、希望と絶望をあたえてしまったんだ。責任をとらなきゃならない。そう考えたんだろう?エース君」
「......」
エースは無言のまま、視線を彷徨わせる。目の前の生ける伝説を前に、隠し立てすることは無理なのだと悟ったのか、ようやくうなずいた。そして、そのまま泣き出してしまう。レイリーはうなずいた。
今のワノ国をとりまく状況をつくりだすきっかけになってしまった者として、冥王シルバーズ・レイリーは、エースにも本気であらゆるものを叩きこむことを決意する。白ひげ海賊団に帰すのはそのあとだ。
「厳しい修行になる、覚悟するんだよ。さて、なんて呼んでもらおうか。ルフィ君は呼び捨てみたいだが」
「よろしくお願いします、師匠」
「よし」
ちょっと師匠と呼ばれることに憧れていたレイリーはわりと本気で喜んでいた。
まさかあの人堕ちホーミングがカイドウのワノ国乗っ取り計画を破綻させた真の理由が、モコモ公国と友好関係を結ぶワノ国のためじゃないなんておもわない。可愛い見習いのためだなんておもわない。
おでんがあんな形で死ぬからロックス時代から可愛いがっている見習いが曇って死にたがりになって呪縛に囚われてしまうことが気に入らないからだなんて夢にもおもわない。
ワノ国はカイドウとロジャー、あるいは白ひげ達の代理戦争の舞台となってきた。いつしか四皇の勢力争いにさらされることになり、20年ほど白ひげとマムとカイドウ、あるいは赤髪が本気で戦争して、主な舞台となってしまったワノ国は、情勢が非常に複雑化しているのだ。まるで世界の火薬庫のようなありさまだった。
カイドウは今だにレジスタンスを率いるおでんに一目おいている。憧れを口にしたヤマトがおでんになろうとしても、よく知らねえくせに生意気なと見聞の旅に放り出すくらいには。そしてヤマトは花魁しながらスパイをしていた。おでんについて知るために。そんなある日のこと、ワノ国の情勢をよくしらないエースやスペード海賊団と友情を結んでしまい、すべての話が拗れ始めたのだ。
20年も前にカイドウと黒炭の陰謀が早期に破綻した時点で生き残り達に向かう差別意識はどれほどかレイリーにはわからない。そこにエースがきて、美人でナイスバディな忍びになったら乗せてあげるって約束して旅立った。白ひげ海賊団に入ってから、エースはどれだけあんなに小さな女の子に希望と絶望プレゼントしたんだと悟って青ざめた。
さすがに責任を感じてウミット海運と手を組んで黒ひげに挑んだ。勝てたらよかったんだが、負けた。手を貸してくれたミンク族部隊は、隊長以外全滅した。しかし、負けたら負けたなりの仕事があるのだ。今の火拳のエースは、自分がいる2番隊長の重さを知っているし、自覚しているから。白ひげや人堕ちホーミング、あるいはカイドウや黒ひげの期待している、新時代幕開けの引き金を引く役割にまわったのだ。
もう役割は終わった。またリベンジしなければならないのだ。それが生き残ったエースの責任だ。今度は負けないように準備をしなけならないが、自分が強くならなければ話にならない。
親父がいってたのだ、とエースはいう。父さんがもたらすであろう新時代は弱者に人権はないが強者は望めば再起できる世界である。その強者はマンパワーだけではない。挑戦者が数の暴力を選ぶならそれもまた強者たりえる資格がある。自ら選ぶべき道すら理解できないミーハーは死ね。
レイリーは苦笑いした。あいかわらずあのロックスかぶれは筋金入りのミーハー嫌いだと。
ロジャー、お前の息子は残念ながらお前がいっていたように、海賊王にはならないようだが、一番大事なものがわかっている男になったぞ。久しぶりにいい酒が飲めそうだった。