ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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仏のセンゴクvsババンの王直

私の肩書きである仏のセンゴクは、悪魔の実であるヒトヒトの実モデル大仏を食べたことによるものだ。

 

平和を重んじ、自分達が絶対的な脅威として存在することで海賊はじめ悪党たちを畏怖させ人々を守る「君臨する正義」を掲げていることも由来につながっているのかもしれない。

 

本当は「仁義ある正義」を掲げたかった。

 

しかし、それは加盟国に生まれ、いずれは海軍元帥の座にすわることを約束された家柄が許さなかった。おかげで海のクズどもとは違い、熱い信念を秘め海賊をしている奴等をみると憧れてしまう羽目になっている。

 

知将と呼ばれることもある。任務には私情を一切持ち込まない謹厳実直を主義としているからだ。海軍の職務においては的確な指示で海兵たちを動かし、間接的ながらも王直の一味を幾度となく危機に追いやっている。

 

私が王直という男を苦手としているのは、覇気を完全に殺すために、なんらかの目的で襲った加盟国出身の海兵や加盟国の船の全員を生捕りにした後、えぐいことをして心をバキバキにおり、奴隷として売り捌くためだ。非加盟国には絶対に手を出さない男だった。

 

「私と戦いたいならそちらから来てくださるのが筋でしょう。そしたら私もこんな真似しなくていいんですよ、仏のセンゴク」

 

自ら火にくべたと思われてる正義の白いコートはすでに灰になりかけている。非加盟国出身の可哀想な元新人海兵達は泣きながら私に刃を向けてきた。

 

「ごめんなさい、私の中の正義はもう死にました」

 

またか、と思った。王直の常套手段だった。

 

「私たちの本懐を理解しているかと聞いたら、てんで話にならないのでね。あなた方が意図的に伏せていることをお伝えしました。そしたら、彼らが自ら望んでしたまでのこと。咎めないであげてくださいね、仏のセンゴク。彼らは私が責任持って一人前に育て上げますので」

 

「だからいつも金に困ってるんだろう、王直」

 

「知ったような口を聞かないでいただけますか、仏のセンゴク。税金で偏った教育をするあなた方よりはよほど立派な人間に育て上げて見せますよ、ハバンの血の掟に従ってね」

 

ハバンとは、王直曰く、出身の非加盟国における海賊のことをいうらしい。外海に略奪に行くことをバハンといい、また他国へ略奪に行く海賊の船のことを王直はバハンブネと称している。

 

バハンの語源については、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)の信仰に由来するという説と、ババンの被害にあう外海の言葉に由来するとの二つの説がある。

 

前者は、ワノ国の男が「わが国の賊船が八幡宮の幟(のぼり)を立て、洋中に出て、西蕃(せいばん)の貿易を侵して財産を奪った。その賊船を八幡船とよんだ」と記しているのが出所である。

 

その非加盟国では海上安全を祈願して八幡大菩薩の幟を立てたことは一般的な風習だが、そこにバハン船の語源を求めていいのかはわからない。外国語に由来しているとみたほうが妥当であろう。

 

のちにバハンは海賊行為や略奪行為一般をされるようになったそうだ。

 

敵対する人間のこともろくに知らないで捕まえるのかと冷笑しながら、王直は私たちの前に立ちはだかってきた。おかげで私は王直の博識さに多少ながら恩恵に預かることになった。ロジャーは戦いから絶対に逃げないが、王直はそのババンの血の掟というやつのために配下の海賊達が逃げきるまでという時間制限をつけて戦う男だった。

 

「仏が菩薩を捕まえるとは神もなにもあったものじゃないですね」

 

王直の船はドクロではなく、八幡大菩薩をかかげていた。近海の商業船にはよくある旗だった。偽装工作という向きが強いが、この旗をかかげて真っ当な仕事がしたかったのにという無念さを感じる。

 

「お前は立派な菩薩だろう」

 

「二度といわないでいただけますか、仏のセンゴク。あなたにだけは言われたくない。虫唾がはしる」

 

「そういうな、他ならぬお前が教えてくれたんじゃないか。八幡大菩薩は、そもそもお前の生まれた国で宗教政策を巡って、民衆への布教を重視する路線と国家の鎮護を優先する路線の対立があって生まれたと。八幡神自体が政治的な抗争に巻き込まれてしまったと嘆いていたじゃないか。挙げ句の果てに不審死が相次いで祟りを鎮めるために神格をあげた結果、海上安全を祈願して八幡大菩薩の幟を立てる風習が根付いたと。お前はたしかに菩薩になってるよ」

 

舌打ちをした王直は銃を抜くのだ。この男との戦いは部下に手を出さなければ絶対に殺し合いにはならない。だから私はいつも楽しみにしていたのだ。

 

そもそも今回の王直の本懐は、傘下の非加盟国に略奪行為を働いてきた加盟国への報復であり、加盟国もそれを公的に認めている。私たちは追っ払うだけでいいのだ。もともと私の船にのる海兵達すらも士気はどん底状態だったから利害はすでに一致していた。王直の精神攻撃に屈する程度では海賊達に太刀打ちできる海兵になる見込みはもともとない。奴隷になるほど心折られた海兵も民間人もだ。すでに奴隷船を拿捕する手筈はすんでいる。

 

「あなたが出てくると私の儲け話がすべてご破産になるから本当に嫌いですよ」

 

「そんなに金に困ってるなら、うちに入れ」

 

「死んでも嫌ですお断りだ」

 

覇気が空をわる。天候が激変する。私は王直の見聞色には及ばないが立脚した作戦がある。今回はどちらが勝つか、それだけが楽しみだった。

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