ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
ハバン、それは非加盟諸国との交易通商のために雄飛した船団の名だ。そして船首にひるがえる八幡大菩薩の旗印の蔭には、輝ける海の男道の伝説がある。
王直傘下の最大の貿易港の船問屋の息子が、繁華街の帰り道に王直の船の男たちに囲まれて、ある非加盟国の長の忘れ形見だと告げられる。
そして、船問屋こそが長を裏切り、“めくら船”を奪った謀叛人と明かされるが、息子は海賊たちのたわ言と全く信用しなかった。しかし、妹を誘拐され、妻を楼閣に売り飛ばされたことで仇討ちを決意。
ちなみにめくら船とは、王直の率いるハバンの軍船の一種。船の上廻り全体を楯板などでことごとく装甲して防御力を堅固にし、敵船に接近して攻撃する船のことだ。
ようやく決心した息子は、王直の船に乗り、妹を探し、父の復讐を果たすと王直に直談判。
高々と八幡大菩薩の旗印は上った。王直が指揮をとるめくら船と船団は潮に乗って矢の様に滑った。女人禁制のはずの八幡船には、彼の妹が密かに乗り込んでいた。
ある日、激しいスコールをついて、突然ニセのめくら船が出現した。船と船との体当り、激しい砲火、水柱、吹っ飛ぶ帆柱、激しい大海戦となったが、悪運強い船問屋はニセ船と船足を利用して水平線の彼方に逃げ去った。
王直のハバン船団は修理のため、熱帯樹生い茂げる非加盟国に寄港する。そこにはすでに密航していた船問屋の船があった。王直と彼は酒宴に狂う敵船に忍び寄り、捨て身の切り込みを仕掛けた。轟く火砲、風を切る白刃、南海の夜空を赤く染める激闘が展開された。そして彼は短銃を振り回して逃げる父の仇を討った。
彼の妹も無事だった。朝焼けの空に八幡大菩薩の旗は翻り、ハバン船団は追風を帆にはらんで出航する。胸を張り大海原をじっと見つめる彼の頬には海の男の誇りが輝いているかの様だ。
「今私が殺したのは、そんな男でした。残念なことですよ、仏のセンゴク。ゆくゆく私の後継者にもと考えていたのに。よりによってあなた方のスパイに仕立て上げるなんて。血も涙もないのか、貴様らは。おかげで何人死んだと思う。非加盟国の人間達をのせた奴隷船を襲ったのがそんなに気に食わないのか。だから嫌いなんだ、海軍に入れなんてどの口がいう」
この1ヶ月のあいだに、怒り狂った王直はハバンの血の掟に従って、その男を人質にとり、傘下のハチノス達と海軍に当時あったSWORDの前身にあたる組織に戦争をしかけた。甚大な被害をだして、組織を壊滅させた。ハチノス達も半壊した。
それだけでなく、1年かけてマリンフォードにある海兵達の家族が住んでいる地帯を襲撃し、年密に調べ上げたその組織に少しでも関係があった人間を皆殺しにした。王直が加盟国、非加盟国の出身問わず、老若男女を殺し尽くしたのは初めてだった。相手が誰であろうと、ひとりひとりに自分が殺される運命になった理由を説明し、泣き叫びながら殺して回った。殺された側はみんな泣いた形跡があった。人によっては自ら命を絶った者もいた。ひどいPTSDに苛まれ、辞職したり、離婚したり、婚約破棄したり、めちゃくちゃになった。
自らスパイを志願する者達が続出し、十数年に渡り海軍も世界政府も頭を悩ませることになった。非加盟国出身の世界政府士官、海兵達の士気はどん底におち、いよいよ私たちはハチノスに近づかない協定を結ぶことで怒りをおさめてもらうことにした。
「非加盟国では誰かに銃を向けたら死を覚悟しろという暗黙の了解があるんですがね、あなた方にはないんですか?楽園に本部があるのは、あなたのような海兵がいるからだと思っていたんですがね。どうやら私は根本的に海軍のかかげる絶対的正義を履き違えていたようだ」
この時の経験が間違いなくロックスに傾倒するきっかけであり、頂上戦争を引き起こすきっかけなんだろうと私は考えている。