ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
ドンキホーテ・ホーミング聖の噂は聞き及んでいた。ゴッドバレーでガープが助けたから勘違いしたんじゃないかと聞いたが、天竜人嫌いなガープがゴッドバレーにいたかどうか覚えているわけがなかった。
リュウグウ王国のオトヒメの署名をしたはいいが、人間になりたいと自ら天竜人の地位を捨てて移住すると聞いた。無効になるじゃないか署名。やっぱり天竜人は天竜人だなとおもっていた。
フーシャ村に里帰りしていたガープが、私を呼び出して人気のない場所で封筒を出してきた。
海軍の英雄ガープ中将へのラブレターは毎日山のようにくるが、フーシャ村あては非常に珍しかった。それを見つけたのはたまたまだったらしい。世界経済新聞をとっている村の住人からガープに渡してくれとニュースクーが届けてきたから渡されたそうだ。
とにかく異様だったのは覚えている。ガープの手元に届く前にすでに開封されたあとがあり、それがわかるように二重にも三重にも仕掛けがしてあった。明らかに世界政府の検閲にひっかかることがわかっている人間がガープにあてた手紙だった。
ガープは私に見せてきた。北の海にある非加盟国からだった。消印がなかった。代わりに世界経済新聞の社長であるモルガンズの印鑑がでかでかと押してあった。モルガンズがわざわざこの手紙を運んできたのだ。いくら金を積んだのか、あるいはコネがあるのか、何が目的なのか。封筒にはなにも書いてなかった。
ガープは中身は直接みせてくれなかったが、苦悩を押し殺したような顔をして、唸るような声を出してから教えてくれた。
要約すると、こんなことが書いてあったらしい。
この手紙があなたの元にとどいたら、きっと検閲にひっかかって、世界政府からの刺客や工作員を非加盟国に呼び込むことに繋がります。ただでさえ迫害を受けているのにもう耐えられない。私は世界で一番大切な家族のために残って非加盟国ごと滅ぼします。モルガンズに妻を匿ってもらうつもりですが、息子ふたりは海軍に入れることができれば身の安全は保証されるはずです。ゴッドバレーの密約でフーシャ村を安全地帯にできた海軍の英雄ガープ中将だからこそお願いしたいのです。私の息子であるドンキホーテ・ドフラミンゴとドンキホーテ・ロシナンテを海軍にいれるまで匿ってやってもらえないでしょうか。フーシャ村は世界で一番安全な村だと信じています。1ヶ月後までに返事をください。あなたの力を持ってしてもできないなら返事は不要です。
そう、ドンキホーテ・ホーミングからの手紙だったのだ。
「......おまえ、世界政府とそんな取引してたのか」
「例えどれだけ人々が憎み合っている状況だとしても、血が流れないならおれはそれを“平和”と呼ぶんだ。せめて生まれ故郷だけでも本物の平和を望んでなにがわるい」
「いや、切実な問題だろうな。ゴア王国から離れてるとはいえ、いつまでも平和とは限らないか。なにより、フーシャ村には、おまえの家族がいるもんな」
「ああ、マリンフォードだといつ海賊に襲撃されるかわかったもんじゃないからな」
「王直は引退したけどな」
「王直じゃなくてもそうだろ。あそこまで苛烈な報復は後にも先にもないだろうが」
「たしかに」
その日から、ガープはフーシャ村に帰る日を増やした。返事がもらえなくても現状を知ってもらうためなのだろう。ホーミングは淡々とその日殺した工作員や刺客達の末路と自白させたと思われる身分や経歴、本人達を確認できるだけの証明書を送りつけてきた。
おれ達はすでにそれが本物かどうかわかる地位についていたから、ちょっと調べればすぐ間違いなく本物だとわかった。天竜人という不倶戴天の敵の子供を引き取るかどうか、本気でガープは悩んでいた。
「なあ、センゴク。ここまで戦う覚悟ができてる奴が、なんで署名のこと思いつかなかったんだと思う?密約のことまで調べ上げるくらい頭回るのに」
「そんなの決まってるだろ、無理やり降ろされたんだよ。どうみたって見せしめだろ。そもそも本人達が望んだ移住だったのか?おつるちゃんがいうには、北の海の非加盟国は、考えうる限り一番悲惨な国ばかりらしいじゃないか。普通なら東の海の加盟国に降ろすだろう。ゴア王国なら元天竜人にはうってつけじゃないのか」
「......」
ガープは唸っていた。
「......なあ、センゴク」
「なんだ」
「......なんでこういう奴ばかりが天竜人じゃないんだろうな。なんでこういう奴に限ってこんな目にあうんだろうな。まともじゃないか、これ以上なく」
「因果関係が逆だろう、ガープ。こういう奴だから、こういう目に遭うんだ。こういうやつほど生まれた国や育ちに振り回される人生を送るんだ。その国に相応しい人間に生まれてこれなかった時点で詰んでるんだ」
ふかい、ふかい、ため息だった。
「あの天竜人すらその地位を手放した瞬間にこうなるのか。人間になりたいだけなのに、非加盟国を滅ぼして、家族のために一生人間を殺し続けなきゃならないとは知らなかった。こんなに今すぐに会いたくなるやつは初めてだ」
「おれもだ。引き取るのか?」
「ああ、ここまで覚悟が決まってるならおれも腹括るしかない」
「なあ、ガープ。前から思ってたんだが、ちょっと王直っぽくないか、こいつ」
「そうだな......。守りたいものに手を出されたら皆殺しにするなんて、普通王直みたいなやつしかいないと思ってた。こいつなら、友達になれるかもしれん」
後日、ロシナンテだけ引き取ったガープはため息をついていた。ロシナンテは覚悟を決める前のホーミングを思わせるくらい優しい子だと苦悩を滲ませていた。