ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
それは、今から20年前に遡る。エルバフに運ばれたオハラの水没した資料のうち、翻訳や研究に協力してくれたお礼にいくらでも書物を預けるといわれたときだ。
ホーミングはそういうことなら遠慮なくと本を借りまくり、おかげでドラゴンもベガパンクもウミット海運の船に乗せてやるんだから、せめて手伝えと渡された。あまりにも膨大な数の本を研究室の本棚に詰めこむものだから、数時間かかった。ベガパンクとドラゴンは当然ながら文句をいった。
ホーミングはお礼に安い料理なら作ってやるといってきた。ドラゴンはボガディートというボリュームがあるサンドイッチが好きだったが、さすがになかった。結局中にカバの肉とチーズを挟んだシンプルなものだったが、コーヒーと食べることにした。
いよいよ明日出航とあって、ベガパンクは頭に叩きこむべき書物に漏れがないか不安で不安でたまらないようで、そわそわしていた。見かねたホーミングがサンドイッチとコーヒーの水筒をもたせ、送り出した。
「アンタはベガパンクの母親か」
「いやですよ、あんな可愛くないおっさん。ミンク族は毛の生えた肉を禁忌にする種族なのでね。しかも、今回は久しぶりに見習いの子供がふたりもいる。イールと二人がかりで父親がわりみたいなものですよ」
「ああ......そうだったな。だから手慣れてるのか」
「安い料理しかできませんがね」
ペドロとゼポだったか。歴史の本文の訳文を読むことができるのも今日限りだ。必死でかじりついているふたりのミンク族達に、せめてサンドイッチとコーヒー牛乳を飲んでからにしなさいと注意する。そして訳本を取り上げてしまった。しょんぼりした二人がしぶしぶ食べ始める。
ドラゴンはコーヒーを飲み干した。
「しかし......ほんとうにドラゴン、あなたって生まれる時代を間違えてるってよくいわれませんか」
「なんだ、いきなり」
「なんで今自勇軍やってるんですか。なんでもっとはやくやってくれなかったんですか。もっというならなんでもっと早く生まれてきてくれなかったんですか、あなた」
「さっきからどうした、ホーミング。そんなにおれのやりたいことが遅かったのか?そんなこといわれても困るんだが」
「うるさいですね......。ねえ、ドラゴン。あなた、今、いくつでしたっけ?」
「おれか?オハラでいっただろう、33だ」
「ってことは17か......また17か......なんでこの数字はいつも私を苦しませるんだ、クソが。15よりはマシだが。..................あっ」
「なんだ」
「..................念のため、もう一度聞かせてください。あなた、ゴア王国の生まれですよね?」
「そうだが。さっきからどうした」
「いや......私としたことがと思いましてね」
「?」
「ひとつ確認したいんですが。あなたが本来やりたいことがあるのに、バスターコールに打ちのめされてるのはよくわかったんですが、本当にうまくいくと思ってます?」
「うるさいな、だから悩んでいるんだろう。啓蒙だけではだめだ、限界がある。だが武力だけだと、おれのやりたいことが破綻する。だから」
「ほかに仲間はいないんですか?あなたはどうあがいても穏健派だ。革命は啓蒙だけじゃダメです、この世界は学問に精通してる人間の方が少ない。明日は我が身の生活をしている人間には、どうしても武力がわかりやすい。そっちを担当してくれる人はいないんですか?あなたの本懐を理解してくれそうな人は」
「......」
「まあ、出自をいいたい人の方がこの世界では少数派だ。私も元天竜人だから深くは聞きませんがね。しかし、まいったな、なんでこのタイミングで......」
「なんだ?」
「いえね、ドラゴン。私もやりたいことがあるので、お約束はできないんですが。もし、運命が噛み合ったら、考えてあげなくもありません。ただし、高くつきますよ。お金を準備しておいてくださいね。貧乏軍隊には高いですよ」
「......期待しないで待っておくさ」
「ついでにいいことを教えてあげますよ。あなたのやりたいことには、私並みに、いや、下手をしたら私以上に敵があまりにも多すぎる。内部崩壊を狙ってくる奴らもいるでしょう。気をつけることだ、少なくても私は4回やられた」
「4回もか」
「そうです。パターンは3つですけど。1つめは言えません。2つめは出会うのが遅すぎて手遅れ。3つめは私がそこに行けなくてダメだった。あなたの場合は、出会うのは間に合ったが私に時間がない初めてのパターンだ。だから期待しないのは正しい」
「......」
「これもなにかの縁だ。奴らの常套手段を教えてあげましょう。まずはマスコミ連中を抱き込んで、情報操作で先に先手撃たれる。情報規制されて、なにもしらない民衆が勝手に盛り上がる。私達の意図しない事件を起こされる。責任転嫁されたあげくに、これが私達のやりたいことだとレッテルをはられる。さらに民衆が熱狂する。そしてすべてはかき消されて闇の中。見誤らないことが大切です。狙われていると気づいたら真っ先に動かないと封殺され、完膚なきまでに叩きのめされる。そうなったら最期だ、沈黙するしかなくなる」
「......よくわかったな、4回もやられたと。すごく巧妙な手口だ」
「散々失ってきたんでね。気づいたときにはいつも手遅れだったから、なんとかうまくやろうとしたのに、2つめにいたっては、2回目だ。さすがに堪えた。盟友から間接的に聞いた情報しかなかったから、ジャヤを拠点にするしか方法がなかった。これだから儲け話に縁遠い奴らは嫌いなんだ。なかなか捕まらない流浪の民みたいなことをする。拠点を作る奴らの周りは平和になるからこれはこれで儲からないから嫌いなんですがね」
「......そうか」
「私は巨悪になる運命を選びました。1番助けたいやつがわかってくれるならそれでいい。周りになにを言われてもいい。おとなげなくなろうと決めたんです。やり切ると決めたんだ。だから、もし私とあなたの運命が交わる時がくるとしたら、それは私の世界で1番大切な家族が危機にさらされた時だという確信があります。そのときは互いに全力を尽くしましょうか。私達が欲しいものはなんであれ、主張したきゃ命がけになるしかないんですから」
「そうだな」
「私はいつもモルガンズが発行してる世界経済新聞で予告をすることにしてるのでね。頭の片隅にでも置いておいてもらえると助かります。運命が交わるといいですね」
それがドラゴンとホーミングのたった一度の出会いである。
そして、ドラゴンは運命が交わったことを世界経済新聞で知ることになる。ロックスの旗をかかげた民衆が革命軍の急進派だと名乗りをあげたのだ。今まで情報規制にひっかかっていたはずなのに、流血革命が頻回し始めたあたりで狙ったようなタイミングで、大々的にロックスの旗を写真付きで載せながらホーミングが首謀者は私だと声明を出したのだ。
ロックスは再来した。だから復活させる。そう宣言したのだ。記事を書いているのはホーミングの妻のはずだ。きっちりドラゴンが率いる革命軍は穏健派であることをはじめ、ドラゴンがやりたいことが全部紹介され、世界政府が一緒くたにしていると非難する論調で書いている。
ドラゴンは口元が緩むのが抑えられなかった。
「......できればおれ達だけで成し遂げたかったんだが、大きな借りができてしまったな。白ひげもこんな気持ちだったんだろうか」