ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
あっはっは
なにがおかしいんだよ!聞いたのはアンタだ!
いやー、ごめんなさい。ナオ。
ナオじゃない、チョクだ。ナオは黒炭思い出すから嫌だ。母さん捨てた一族の名前なんか名乗りたくない!ワノ国なんか嫌いだ!この国風にいうなら、チョクなんだろ!ならチョクがいい!
はいはい、わかりましたよ。いやあ、ごめんなさい。よりによって、私の後継者に見込んだ子供が、この世界でやりたいことが、解放軍の真似事だなんて笑うじゃないですか、そんなの。本来なら国を滅ぼしたいとか、国を再興したいとか、そういう方向にいくはずなんですがね。がんばれば平等になれる世界だなんて、どんな育ち方したらそんな高度な思想に行き着くんですか、あなた。
そういうアンタが育てたんだろうが
そうですね!あっはっは。そんなつもりじゃなかったんですが
ていうか、解放軍?なんだよ、それ。歴史の本文にはそんなの出てこないじゃねえか
なにをあたりまえのことを言ってるんですか。世界が信仰する神がすり替わり、王国と連合国が入れ替わるという歴史を伝えるのが歴史の本文の本懐ですよ。歴史の教科書にその時代を生きた民衆の動きや想いが出てくるわけがないでしょう。まあ、いたんじゃないかという私の単なる想像にすぎないんですがね、世界政府が100年の歴史を記憶から物理的に抹殺した以上、恐れているのはそっちも外せないんじゃないかと思いましてね
......?
私はある王国と連合国と解放軍の大戦があったんじゃないかと踏んでいます。
解放軍......
私の先祖は王国側ですが、元をただせば王国ができないことをやるバハンが起源だ。解放軍に絆された奴らがいたせいで話が拗れた気がしてなりません。それが私の先祖なんでしょう。そうでなければ支配側と支配される側が入れ替わるだけだ。歴史の本文だけ潰せばいい。王国側、連合国側、どちらにも組みしながら、どちらにも組みしない奴らがいないと100年も人は戦争はしないんですよ。誰だって嫌でしょう、戦争なんて。いつだってひっかき回す奴らがいるから戦争は長引くんだ。
......
かつて巨大な王国があった。20の王達が団結して連合軍に滅ぼされた。敗北を悟った王国側が未来に思想を託すために歴史の本文を遺した。世界政府が執拗に歴史の本文を狙っているから、連合軍側が勝ったのは間違いない。空白の100年は不都合だから消すんだ。古代兵器と王国の存在と思想が脅威なのは間違いない。ならその思想ってのはなんだとおもう?
え、そりゃあ、支配から解放されたいっていう思想だろ?
そう、自由を求める意思だ。感化されるやつは必ず現れる。王国側にも、連合国側にも。感化された奴らはどうなる?解放してやりたいとおもうだろう。助けたいと思うだろう。虐げられている者達を。それが解放軍だ。そして、世界はひっくり返ったとする。チョク、お前ならどう思う。かつて助けてくれた奴らだとしても、今や自分達は支配する側に回った。解放軍は自由を求める意思そのものだ。欲望そのものだ。人間は欲望を制御できない。怖くないか?かつて自分達を助けてくれた奴らが、支配する側に回ったからって今度は支配される側に回った奴らの味方をするんだぞ?なにせ奴らはそう思ったから味方についただけだ。次から味方になるなんて誰もわからない。
それは......
私は怖いですよ。自由を求める意思は途方もなく自由だ。なにせ守るものがないから身勝手だ。その時の気分であちらについたり、こちらについたりする。落とし所を見つける奴がいないとどうしようもなくなる。戦争が長引く。戦争当事者なら誰もが思うでしょう。そんな奴ら信用できない。いらない。怖い。だから、チョク、あなたはそういう思想に目覚めたわけだ。責任を持ちなさい。落とし所をみつけなさい。なにをしたいのか明確にしてどこまで自由にしていいか考え続けなさい。私はDの意思、自由を求める意思と王国の存在を継承する者として警告する。さいわい、あなたは人智を外れた見聞色を持っている。敵がなにをしたいか、自分達はなにをしたいか、とにかく知りなさい。そうすれば訪れる未来が見えるはずだ。それがあなたにとっていい未来かどうかはさておき。自由をひたすら求める奴らよりは大人だ。私は好きだね。
その日からおれはひたすら情報収集をするようになった。相手がどんなやつで、なにをしたいのか知ろうとするようになった。そうすれば見聞色が総合的にどうなるか教えてくれるからだ。
だから、彼はおれを後継者に指名したんだと思う。彼の誤算があるとすれば。
覇気は精神状態に左右される。人間不信が極まってる時はまだいい。ただ、自分好みの未来を選び、そのために行動すると大切な奴らがふえていく。生き残るからだ。
その代わり、彼を失った時みたいに精神がおかしくなると見聞色がつかえなくなる。ただでさえ人の心がわからないおれは、見聞色を頼りに普通の人間のふりをしているんだ。
使えなくなった途端に、おれはただの化け物になる。見聞色の精度をあげるために外面をよくして、効率よく情報を集めようとした人間関係がおかしくなる。破綻する。繕おうとしても無理だ。おれは普通がわからないから。
そうやっておれは大切なものを全部失って死ぬことになったわけだから。
「......あいつ、反乱軍になりたいのか、もしかして。王国側になりたいのか?解放軍じゃなく?」
ティーチがハチノスを中立地帯にしろと去ったあと、ふとそんなことを思いつく。あいかわらずなにがしたいかよくわからん男だが、それならありがたいと思う。おれがジーベックから託されたが無理だと諦めていた人の夢だ。当時、海賊王という言葉がなかった。海の王という言葉しかなかった。もしあったら、すれ違わずにすんだんだろうか。