ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
北(ノース)の闇という言葉がある。
少なくてもドフラミンゴファミリーが闇のシンジゲートを牛耳るようになるまではシンプルに北(ノース)の闇だった。
世界政府に加盟するには王でなくてはならないという法が定められている。加盟国になるのは非加盟国の悲願だから、世界政府に強いられたら断れないのだ。たとえば、北の海が荒れる原因になれといわれたら。
それは世界政府が作られてから構築された、もしくはそれ以前からあった絶対的な構造でもあった。入れ替わりこそ激しいがいつの時代も存在していた。
需要をささえる世界政府がまずあって、闇の帝王という闇のシンジゲートを支える5つの帝王がいて、武器や奴隷市場など違法なものを提供する供給もと達がいる。主に犠牲になるのは非加盟国の人々。海軍は世界政府の指示に従い、その一旦を担う。
全てが繋がっていて、互いに見て見ぬ振りをしながら仕切っている。その基盤が全て北にある。だから、北の海はあれるのだ。下手をしたら意図的に荒らされているといっても過言ではない。なにせ北には戦争屋のジェルマがいるのだ。
変化が生じたのは、やはり人堕ちホーミングがウミット海運に入ってからになるだろうか。なんらかの儲け話により、ウミット海運は、全世界どこでも数時間で輸送できるというとんでもない革命を起こした。当然ながら運輸王になり、闇のシンジゲートの一角を担うようになる。
息子のドフラミンゴが独立し、ドフラミンゴファミリーを結成。北の海を物理的に制して、ウミット海運の販路を広げた。この時点で北の闇の根幹は当然ながらドフラミンゴファミリーとウミット海運が握るようになる。それだけ輸送が早いというのは魅力的だった。
問題はウミット海運もドフラミンゴファミリーもそれを盾になにかと物申す立場だったことだろうか。非加盟国に見せしめに下された事実から親子は世界政府に従順ではなくビジネスをするようになった。
魚人族やミンク族に手を出すなという主張はもちろん、奴隷市場に特に熱心だった。まず商品の品質が向上した。販路が迅速になる代わりに奴隷達は販売元と買い手の環境の落差に絶望したり、不満を覚えたりする。買い手は気軽に返品するようになる。なにせタダだからだ。気に入らなければまた買い直せばいい。一部の勘違いした者達はウミット海運やドフラミンゴファミリーに入りたがり、ふさわしい部署に配属されていく。
ドフラミンゴファミリーは非加盟国ばかり傘下におくため、当然ながらそちらからの供給も牛耳られるようになる。
親子はビジネスにしか興味がなかった。金になるなら世界政府だけでなく、革命軍にも、非加盟国にも、加盟国にも、闇のシンジゲートにも、表の物流業界にも、すべてをばらまいた。公然と北の闇と同じことを表でもはじめて、さらに市場に金さえあれば誰でも参入させ、暗黙の了解すら守らない。
そこに25で世界政府に直接危害を加えなかったはずのドフラミンゴが、天上金を襲う大事件を起こす。理由を聞いたら、七武海になりたいという。コング元帥は理由を聞くのだ。
「なんとかしてくれ、困ってんだよ」
言外に北の闇から手を引きたいから何とかしてくれという海軍への直訴であり、その全貌を掴めずにいた海軍への暴露だった。この瞬間から海軍の上層部は闇の帝王達の本音を知ることになる。そりゃそうだ、誰だって危ない橋は渡りたくない。バレたら終わりだし、世界政府やカイドウ達四皇達に脅されながら、振り回されたくはないはずだ。ドフラミンゴファミリーがいるから抵抗していることもあるはずだ。そうでなければ、北の闇の全貌を暴露するわけがない。そう、判断した。
ドフラミンゴとしては七武海失脚を防止するための先手にすぎなかったが、建前は大事だった。海軍がそこまでドフラミンゴに善性をみたのは、15年間直訴状を出しているのもあるが、ドフラミンゴが初めて七武海の会議に出席したとき、早速嫌味を言われたのもあるだろう。
「よくきたな、天夜叉ドフラミンゴ」
「いい子にしてるんだよ」
「フッフッフ、おい、コング元帥。なんでおつるさんがいやがる......」
「北の海でアンタが天上金乗った船襲うからだよ。そんなに慌てなくても、勧誘はきたろうに」
「フッフッフ、闇のシンジケート牛耳る上に、世界の運輸王が古巣のおれを引き入れないとか宗教上の理由でもあんのか、世界政府は?仕方ねえから来てやったんだよ」
コング元帥もおつるもその発言の意図に気づいて、ひきつった笑いを返すしかなかった。
こちらが情報提供するまで北の闇の全貌に気づかなかった癖になにをぬかす。世界政府はドフラミンゴファミリーの意図に気づいてるんだから、初めから七武海入りなんか打診するわけがないだろう。だから天上金を襲ってまで七武海に入りたかったんだよ。直訴したらなんとかしてくれるだろ?
実際はなにもできなかったので、ドフラミンゴは天竜人の傀儡を始めた。さらに闇を広げようとする四皇カイドウに先手を打つ形で加盟国ドレスローザを中立地帯にすると宣言。公然とカイドウと戦争をしながらビジネスを続けるようになる。
そんな最中にゼファーはドフラミンゴから呼び出された。妻子や可愛い新兵達を皆殺しにされた仇であるウィーブルが四皇白ひげのクローンの失敗作の可能性がある。同じ技術を使って生物兵器や人間兵器がつくられ、いずれ海軍に投入される未来が提示される。言外にはやく闇から手を引かせてくれ、海軍はその程度なのかという失望をみたがなにもかわらない。もちろんドフラミンゴにそこまでの意図はない。
そして、マリンフォード頂上戦争を四皇と手を組み引き起こした人堕ちホーミングが、王直と混ざっている人間なのだと海軍は知ることなる。
頭を抱えたのは王直がどういう人間なのか、同期のセンゴクから聞いて知っているゼファーだった。彼が若かりし頃、マリンフォードの家族が住む街は、王直の後継者をスパイにした報復に、苛烈な攻撃をされたことがあったのだ。警備はあの頃から考えたら信じられないほど強化されたがウィーブルに襲撃された。
なぜあそこまで効率よくできたのか、ようやく謎が解けたのだ。ウィーブルの母親はロックス時代、王直と同じ船に乗っていた間柄だ。ウミット海運のコネで入手した情報を横流ししたのは明らかだった。彼が非加盟国にまで手を出すのは家族に手を出された時だけだ。
あの時点でドフラミンゴが出す直訴状は13年が経過していた。
「非加盟国では誰かに銃を向けたら死を覚悟しろという暗黙の了解があるんですがね、あなた方にはないんですか?楽園に本部があるのは、あなたのような海兵がいるからだと思っていたんですがね。どうやら私は根本的に海軍のかかげる絶対的正義を履き違えていたようだ」
かつて、センゴクにそんな本音を吐露したことがある王直だ。海軍の矛盾に失望をさらに深めていたのは間違いない。
そして、同年、マリンフォード頂上戦争が起こったのだ。センゴクが王直の本懐を海軍の矛盾によるものだと考えるだけの下地と建前はあまりにも強固すぎて、もはや王直すら制御不能になっていた。
そして、2年後の今、ネプチューン王がホーミングを止めるために提供した情報を持ち帰ってきたガープ。彼は世界会議当日、ネプチューン王とオトヒメ様を護衛することになっている。ガープは革命軍がいよいよ本格的に絶対的地位にいる天竜人だけに宣戦布告し、人間兵器に変えられてしまった革命軍幹部のくまを奪還すると予告されている。様々な思惑が今の時点でわかるのだ。当日の小競り合いを考えたらどうなるのか。センゴクはSWORDの一室で息を吐いた。ロシナンテはナギナギを発動させながらつぶやいた。
「父上、オトヒメ様の署名のこと、そんなに気にしてたんだ。そこまでやるなんて......ほんと無茶苦茶だなあ。止める立場のことも考えてよ、もう......。今回は兄上動けないのにさあ」
「リュウグウ王国の境遇はずっと思うところがあったのは知ってたが、ここまでするのか。むしろ世界政府はなぜそこまで邪魔するんだ?ガープ、なにか知ってるだろ、お前。答えろ」
「誰がいうか、本人達の名誉の問題じゃ」
ガープは吐き捨てた。それがゴッドバレーに由来するものであり、ネプチューン王とガープが旧知の仲になるきっかけだったんだろうとセンゴクとロシナンテが把握するには充分な悪態だった。