ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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ひみつをまもるものたち

20年前のベガパンクとの密約、長年出資してきたMADSの研究成果をもとに、世界政府と繰り広げてきた科学の代理戦争。そのすべてをつぎ込んできたホーミングが20年前リュウグウ王国と1年前アラバスタに持ちかけた儲け話。医療部門と軍事部門の支援。その先にあるのはドラム王国出身の忠義ある医者が不老の兵士のために人工オペオペの実でしに、豪水あるいはESのデメリットを打ち消し、未来の海賊王がもたらすであろうこれからの戦いに備えるというものだった。

 

オトヒメ様はただの保険であってくれと願っているが、ホーミングは戦争を起こす気だからにすぎない。オトヒメ様はホーミングの心だけはよめない。

 

もっともそれは最終手段だ、とホーミングはいつもの強固な建前である人堕ちホーミングのままいうのだ。使わせる気満々なのだが、ありもしないことをもっともらしい顔でいうのは慣れていた。刻一刻とホーミングに提示される見聞色は変化を続けている。それに対応し続けているにすぎない。

 

リュウグウ王国とアラバスタは、医療部門の強化では、人工臓器、あるいは人工生体、クローンという技術を手に入れた。これはさくら王国との繋がりとウミット海運の多額な支援から生まれた副産物で、特にアラバスタは長年の内乱で体の一部が欠損した者達が多く、その恩恵に預かった。人間だけならそれでいいのだが、人魚や魚人はそうもいかないため、そちらはリュウグウ王国が用意することになった。ミンク族やトンタッタ族に関してはドレスローザの医療関係の経済特区が担っている。

 

「ホーミングさん、そのクローンさん達はどうしても必要なの?」

 

「生きているのは事実ですから、出番がないに越したことはないんですがね、オトヒメ様。もしイールがオペオペの力で体を戻すための手術中の人格の避難所としてクローンを得たとき、人間だったら死ぬでしょう」

 

「それはそうかもしれないけど......クローンさん達は生きてるんでしょう?」

 

「そうですね、何もいじっていない場合は、ただの素体とはいえ、実験台として生み出した子はもう16ですか。来年は17ですね」

 

ポセイドンが生まれてくる年はわかっているため、ようやくクローン技術が再現できたとき実験をするのはその年しかなかった。また17かとホーミングは思っている。実験台のため、ただの人魚の血統因子が使われた。さすがにポセイドン2体は笑えない。さいわい、その子はしらほしの年子の姉として育てられている。ホーミングやオトヒメからその出自は知らされており、自らの使命にまっすぐな子に育ってくれた。主にしらほしの護衛をしてくれている。

「その先はどうなるの?」

 

「わかりませんね、ジェルマと違って自我を操作しているわけでも、身体を操作しているわけでもないので。オペオペで使うのは自我がないはずのクローンだからこうして溶液につけて保管してるわけですが。クローンに自我があるかどうかは、冷凍保存から出して、実際に試してみないことにはわかりません」

 

「死なないのが一番ね、そしたら元に戻るんだから」

 

「そう言うことです。だから実験台として生み出した女の子には、先に世界のことを知ってもらっているわけですから。なんだって人魚じゃないとダメだとベガパンク博士から指定されてるのかは不明ですが」

 

基本善人のベガパンク博士とドラゴンの間でどんな密約が交わされたのかはわからない。だいたい察してはいるがホーミングは見て見ないふりをしていた。当事者がホーミングの前で本心を吐露しないとホーミングの見聞色の精度はあがらず確定した未来ではないのはよくわかっている。革命家としてのドラゴンと天才科学者としてのベガパンク博士は好きだが、それ以外にホーミングは全く興味がなかった。

 

「あの子は理解してくれたけど、なにも知らないままのクローンさんと人格を入れ替えるのは可哀想だわ。説明してあげないと」

 

「おっしゃることはもっともですがね」

 

ホーミングは苦笑いした。

 

「人間が人魚や魚人を差別するように、逆の差別が存在する以上、そう簡単に物事は運びませんよ」

 

「......ええ、わかっています。あなたがその犠牲になりかけているのはよく存じています」

 

白ひげやホーミングがリュウグウ王国の後ろ盾になって、オペオペの実の存在を明かした段階で、実は少々困った思想が水面下で芽生えてしまっていた。

 

人魚や魚人は基本的に親の遺伝子を受け継ぐメンデルの法則が適応せず、先祖の遺伝子がランダムに子孫へ受け継がれ生まれる特異な生態を有する。

 

つまりイカの人魚からサメの人魚が生まれることも珍しくない、親子で外見や体長が大きく異なる生態が築かれている。この種族背景から、兄は魚人(ノコギリザメ)で妹は人魚(アオザメ)のサメ兄妹、人間の子供のような小ささで成人に達している者、巨人族に匹敵するかそれ以上の体躯の者もいる。

 

こういった種族背景から、魚人族と人魚族は基本的に外見で差別するという思想は生まれず、人間のように容姿・姿形の異なる種族(存在)を忌み嫌う発想を理解することが困難な認識を持つ。

 

そのため、一部の過激な連中は、殊更に「そんなことしかできない下等生物」として人間を見下している。

 

そんな連中でなくても、ホーミングみたいに現れる人間の理解者に対し、世界の差別に一度でも晒された者達は思ってしまうのだ。オペオペを人魚や魚人が食べたらいい。ホーミングみたいに強いと覇気で無力化されてしまうが、その能力者以下の覇気しか持たない気に入った人間とクローンの人魚や魚人を人格的に入れ替えるような夢のような悪魔の実があるなんてと。いや、ホーミングだって寝てる時だけは防げないのでは?そんなことを考えるアホがいたのだ、16年前。今も思っているのは知っている。

 

「ほんとうに大丈夫になった時でお願いしますよ、オトヒメ様。なんのためにこの分野をあなたとネプチューン王だけに明かして、お任せしていると思っているんですか。うまく運ばないとイール達みたいにみんな魚人か人魚だったらいいのにをやらかしかねないのでね。諸刃の剣なんです。技術に罪はない。結局は運用する者達次第だ」

 

「わかっています。大丈夫、もうES事件は起こしません」

 

ホーミングがイール達を排除した理由をよくしるオトヒメ様はうなずいたのだった。

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