ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
「......お前まで乗るのか、この儲け話」
「何驚いてるの、自分で振ったんじゃないの」
「いや、そうだが......レイリーの女だろお前」
「それとこれとは話が別よ。アンタが科学の代理戦争をしなくたって、いつかは世界政府はその領域に辿り着いてたってことじゃない。科学を独占して、私たちが魚人島との繋がりを分断されたまま。その点だけはほんとに感謝してるのよ、私。ロックスにいなきゃ何も知らないまま私達はいつか世界政府に潰されたんだから」
「......」
「アンタがリュウグウ王国の後ろ盾になって、クローンの子をその子に護衛につけるってことは、助けてくれるってことでしょ?外に出すつもりじゃなきゃ護衛なんかいらないもの。科学の進歩でいつか安全地帯じゃなくなる運命の私たちの国を」
「ロックスだったからな」
「ほらやっぱり」
シャクヤクは笑った。
「ずっと怖かったのよ。繰り返してるんなら、絶対私たちはまた奴隷になる運命だもの。人堕ちホーミングはなに考えてるんだろうって」
「悪かったな、ドフラミンゴが想定以上に長くいたから遅くなった。ますます38年前、ゴッドバレーで壊滅したのが悔やまれるな」
「まあ、ロックスの儲け話の大前提が仮説な時点でわかんないし仕方ないわよ。あの人から聞く限り、ロジャーのバカ笑い考えたらいよいよ信憑性帯びてきたけど」
「あいつの本懐は最後までわからなかったが、本気で海の王になろうとしてたのはたしかだからな」
「まあねえ。で、アンタはあの時のことを反省して、奴隷解放に協力して、奴隷の待遇改善して、リュウグウ王国やモコモ公国、あんだけ嫌いなのに譲歩してワノ国を繋げてきたわけだ。内紛続いてるあたり殺意がかくれてないけど。そして合法的に世界をひっくり返した。ほんと歴史の本文の継承者が責務から解放されるとえらいことになるわね」
「後の祭りのはずが、案外祭りの時間じゃなかったのがダメだった。己の人生を振り返ったとき、歴史の本文の継承者として伝説に幕引きする引導を渡せた。案外悪くなかったが、自由になれた7年間がおれの全てだったと気づいちまったからな。あれだけロックスが好きだったんだと自覚したとき、大海賊時代を諦めた前のおれが憎くなっちまってな」
「それだけ?それだけじゃないでしょ。王直殺しに行かなかったじゃないの」
「......あいかわらず勘がいい女だ」
「ただの女が冥王の女なわけないじゃないの」
「たしかにな......Dが信じられなくなっちまったのがある」
「は?」
「......いや、違うな。血統因子のせいだ。なにもかもが陰謀に見えて疑心暗鬼に陥ってるのが正しい。なんでニカの覚醒者は人魚姫に謝罪しなきゃならん事態に陥ったのかを考えたら怖くなってきてな。今が最後の抵抗の世代なのは間違いない、おれの責任ではある。このまま歴史を繰り返して戦争で儲けるのがおれの目的だが、赤髪が託した麦わらが同じ理由で負けるのは気に食わん。あまりにも芸がない。ウォーターセブンで会って気づいたが、ありゃロジャーと同じDだ。残された奴らのことなんざ微塵もかんがえずに夢の果てにいくやつだ。話なんざ聞きやしねえ。話を聞くのは仲間だけだ。それなのにダメだったの方がまだドラマがあるだろう?」
「あいかわらず生真面目ねえ、アンタ。悪魔の実や覇気まで仕組まれてると疑ってるわけだ。そりゃ見聞色の精度は跳ね上がるでしょうね」
笑うシャクヤクにホーミングは苦笑いした。さすがにあの日神を見たことはロックス連中にはいえていなかった。ホーミングは歴史を繰り返すのが目的であってこの世界では天竜人が神だからあいつらが皆殺しにできればそれでよかった。それだけで世界は100年ほど戦争するだろう。
なにせホーミングの切り札はすべて月由来だ。相手が月からきた神だったら、どこまで通用するかわからない。科学はいつでもクリアランスの問題がつきまとう。麦わらがそいつにまで喧嘩をうるなら話は別だが、そこまで到達できるかわからない。
わからないなら、想定するしかない。ホーミングが想定した神は唯一神に似ている。エネルがこの星から月にいったのは、この青い星が不浄だと考えたからだとホーミングは考えている。元を正せば月の民にとっては、奴隷や科学者や戦士をつれて、全てを束ねる王が資源を求めてやってきた未開の星、地図から世界を見るように空から見るのだ。見下さない理由がない。
青海に降りてから、全てが拗れたのだろう。なにせ世界は多神教、あるいは唯一神の国ばかりだ。しかも同じ種族から同じ種族しか生まれず、
理解できない理由で差別が横行し、争いばかりで自由を求める思想が芽生えていた。青海も空島も感化された奴らばかりが余計なことを考え始める。奴隷や科学者や戦士がそれぞれ自由を求めて争い始める。束ねていた神はどう思うだろうか。
導いてやろうという気概があるならまだマシだが、途方もない昔から繰り返されてきたのをみるに、諦めたか、初めから見下している気がする。だから五老星を平伏させていたのか。
それとも世間知らずの神を利用して、連合国側が情報規制をひいて五老星となり、2度と戦争が起こらないよう足掻いているのかはわからない。
ホーミングは自分の中にある神を想定するしかない。悪魔の実や覇気にトラップを仕込み、世界を海に沈めて皆殺しにしてほしくなかったらいうことをきけと五老星を脅す。覇気、特に覇王色を感知して情報収集し、自分の思惑に沿わない人間は謀略か古代兵器で潰す。そんな神を前提に動くしかない。
それを前提にした場合、1番儲かるのが歴史を繰り返して100年戦争を起こすことだった。秩序はほどよく残したいから、カイドウを牽制しながらになるだろう。だが、どのみち世界政府と敵対する以上、いつかはぶつかるはずだ。ロックスはいつでも秩序の崩壊とは不可分だ。
ゴッドバレーのロックス海賊団壊滅とカイドウ拉致に激怒した王直の研究所襲撃により発覚した血統因子の存在は、よくもわるくもロックス連中の世界観を変えた。生き方すら変えた。
血統因子とは、「生命の設計図」と呼べる代物であり、Dr.ベガパンクの偉業の1つである。
シーザー・クラウンの「SAD」及び人造悪魔の実「SMILE」、ジェルマ66の「複製(クローン)」兵士やヒトの「改造」研究などにその成果が用いられている。
ざっくり言うと血統因子は「物質媒体」、遺伝子はその中に記述されている「情報」、ゲノムはその情報の「総体」である。
ただ、ベガパンクが立てた仮説が厄介だった。「体験も血統因子に記憶される」という仮説だ。実際、超人系の悪魔の実の能力者の血統因子を読み解くことで「グリーンブラッド」という血液を生成でき、能力の複製が可能となっている。 前の能力者の練度を引き継げるのだ。
結局のところ、ロックス連中は誰も白ひげとバッキンの間になにがあったのかはしらないし、ウィーブルがクローンなのか、実子なのかわからない。
ただ、ウィーブルがクローンだと思っている者にはその仮説を証明してしまったのが問題だった。彼は若い頃の白ひげの強さをもったまま生まれてきた。実子だと思っている者は父親似だと思った。
バッキンがMADSに自分の血統因子を渡してクローン第1号となった。やはり彼女もバッキンの能力を得て生まれてきた。遺伝子上同一人物なだけで赤の他人だと考えた者は、科学の進歩が神の領域にまで手が届きそうだと思った。同一人物だと思った者は、結局どうやって生きるかが大事だ、覇気が最後の砦だなと思った。
そっくりな女が歓楽街の女王になった段階でロックス連中は自分の意思でやっているのか、世界政府の指示なのかはしらないが、CPだと思った。繁華街には行くが情報は落とさなかった。
「最終目標はやっぱりエニエス・ロビーになるの?」
「まあな、下見しかできなかったから」
「でしょうね。焦ったんじゃないの、あの子が襲撃した時」
「いや?ロジャーとにたような理由で、おれ達みたいなことするのは笑ったぞ」
「奇遇ね、私もよ」
ロックス海賊団の最終目標もエニエス・ロビーだった。
世界政府によって管轄されている「司法の島」だ。裁判所が設置されてはいるが、陪審員たちが全て死刑囚で構成されているため、罪人を道連れにしようと全てを有罪と判決する。
そのせいでここに裁判に訪れた際には、インペルダウンか海軍本部への連行が確定してしまうという、恐ろしい施設だ。
そんなことどうもいいテロリスト達は、こう考えたのだ。なにせ大なり小なり戦争を起こして儲けられたらそれでよかったので、脅す材料が欲しかった。破壊ついでに世界政府達がなにを隠してやるのか見てやろう程度だった。今となってはジーベックは割と本気だったのかもしれないとさえ、シャクヤクもホーミングも考えていた。
ジーベックは島の中央には超巨大な穴が空いており、その穴に向かって海が流れ込み、滝のようになっているところを非常に気にしていたからだ。
あの時はわからなかったが、今ならわかる。あのあたりにはおそらく古代兵器ウラヌスがある。つまり、エニエス・ロビーは巨大なドームに覆われた、人工的な「昼島」だ。どれくらいでかいかは空までカモフラージュしてるからかなりでかいはず。ウラヌスで照らすんだから相当大事なものがあるはずだ。
エニエス・ロビー付近の空は、たとえ近くが大嵐だろうが、いつも雨雲ひとつ無い快晴だ。これは、よく考えたらかなり不自然だ。エニエス・ロビーは周りの天気に左右されず、常に「快晴」であることになる。ハレダス博士は不自然を嫌う男だから常々疑問に思っていた。
ホーミングは海列車の通過する部分がドームへの入り口になっていると考えている。
「あはは、ラブーンちゃんみたいじゃないの」
「あの医者が描いたのはそういう意味だろ?少なくてもロジャーはそう考えてたってことだ。宴で確信もてた」
「やっぱり?奇遇ね、わたしもよ。なにがあるのかしらね?」
「さあな......少なくても、巨大な穴の底にある何かに本物の太陽の光を当てないためなのはたしかだ。魚人島みたいなものだろう。たとえば、巨大な穴の底にかつて栄えた王国や、最後の島「ラフテル」が存在しているが、そこに日の光を当てないように管理するためにドームで覆ったと考える方が自然だ。穴の底に王国や島があった場合、そこは日の出の無い世界のはずだ。それはおそらく、月の民の故郷の環境によく似てる」
「今思えば、ただの裁判所に常に1万人の兵がいるのもおかしいわよね。本来であれば海軍本部かインペルダウンの警備を強化すべきだもの」
「新しい元帥がセンゴクやコングみたいに違和感に気づいて直談判してるころだろうさ。それが奴らの限界だ。それなのに常に海兵を配置しているというのはそれなりの理由があるんだろう」
「ジーベックがいってたみたいに、世界が海に沈んだらえらいことになるわね。私たちの国以外みんな海の底じゃないの」
「なんの巡り合わせか、ウォーターセブンの浮島の工事も終わりそうだ。もう懸念材料はない。あとは世界政府が建前をよこしてくれさえすれば、心置きなくはじめられる。ただ......」
「なによ?」
「なんで今回の儲け話にニューゲートが乗ったのかわからん。ガープ達に明かす様子もない。本気で動くつもりもない。エースあたりは動くだろうがまあ、想定内だ。ほんとにわからん。なんなんだ、あいつ」
「あいかわらずねえ、アンタ。弟の危機教えてくれて、和解までさせてくれた。破綻したと思ってた友情を続けてくれて、ゴッドバレーの縁から故郷と重ねてた魚人島をゴッドバレー8年後に奴隷を救う儲け話もっていきなり現れるのよ、オトヒメの署名無効にするために北の非加盟国に見せしめに下されたはずの元天竜人が。ウミット海運に雇いたいって。しかもアンタと混じってる。それが仁義以外のなによ」
「......?」
「家族ってやつがやっとわかったのにそれなの?」
「..................こころってのは、本当にわからん」