ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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おでんと王直(原作時空)

それはロジャー達がハチノスに歴史の本文を求めてやってきた時に遡る。残念ながらロードポーネグリフではなかったが、古代兵器ウラヌスの概要が記されていた。場所は不自然にえぐられていた。王直曰く、継承した時にはすでにこの状態であり、ハチノスはいまの故郷にすぎない。なぜなら同じ兵器で故郷を抹殺されたからだという。

 

「おれの人外じみた見聞色がなければ一族もろとも今頃海の底だろうよ」

 

本人に自覚はないのだろうが、今にも泣きそうな顔のまま王直は笑っていた。そして歴史の本文で継承するはずの古代兵器ウラヌスに滅ぼされた故郷について話してくれた。

 

「なにが逆鱗に触れたのかは、いまだにわからん。とりあえず、おれ達はそれから商人として身を偽って生きてきた。商いをするやつにバカはいらないが親父の自論だったからな。ウミットに負けたせいでそのうちバハンになっちまった。ワノ国には迷惑かけたこともあったろうな、謝らねえが」

 

「バハン!やっぱりバハンの王直っておまえか!どっかで聞いたことあると思ったら!」

 

キレたのはおでんだ。かつてワノ国に仇なす大海賊だったのだ、キレてあたりまえである。

 

「現役はとっくの昔に引退してんだ、安心しろよ。もうしねえよ」

 

「ほんとかぁ?」

 

「しねえっていってんだろうが。おでんっていったか、今いくつだ?」

 

「む......39だが」

 

「39か......若えな。1世代が30年で換算するなら、お前はほぼ3世代前なわけだな」

 

「なにがだ?」

 

「黒炭の迫害が始まったのは、だ。おまえの祖父の時代だ、おまえの父親をめぐるいざこざが全ての始まりだ。どこまで聞いてる?おれは知ってる。ロックスに黒炭が乗ってたからな」

 

「そうなのか!?今どこにいる?黒炭の境遇は前々からなんとかしないとならないと思ってんだよ!」

 

「しらん。ロックス壊滅以来それきりだ。もう14年も前になる」

 

「そうか......謝らなければならないことが多すぎる。許してもらえるとは思えねーが」

 

「正義は価値観、世代は超えられねえ。だが困ったことに差別は平気で超えるからな」

 

「ほんとうにそうだ」

 

おでんは頭をかかえた。ワノ国における黒炭家への迫害が光月家が深く関わっているのだ。

 

実はおでんの父、スキヤキの誕生前、当時の将軍家では男児がなかなか生まれず後継者問題が勃発。各大名家の中から次期将軍を選出する案が挙げられていた。

 

当時、大名の一人だった黒炭家は黒炭を将軍家にのし上げようと策謀し、他家の候補者を次々に毒殺していった。

 

しかし、いま一歩というところで、将軍家に待望の男児・スキヤキが誕生。国盗り計画は水泡に帰し、さらにはこれまでの暗殺計画が明るみとなり、祖父は切腹、黒炭家は大名の地位を追われる事になる。

 

そこまでが光月家が下した処罰だったのだ。それで終わるはずだった。ただ、そこから一族郎党罰しようと私刑に走る民衆の暴走が始まる。彼らは脅威に晒され、眠ることにも怯える日々を送ることになった。あまりの苛烈さに鎖国中にもかかわらず国を出た人間もいたという。

 

まさかこんなに遠いハチノスまで来ていたとは思わなかったようで、おでんは深いため息がもれた。それだけおでんの祖父の代の罪人の親族・子孫すら許さぬワノ国の激しい憎悪は深く、世代を経てもなお苛烈さは薄まってはいても、ひそめることはない。それはおでんもスキヤキも、なんとかしようとしても、非力さを痛感するくらいにはわかっていた。

 

「おまえはいつかワノ国に帰るんだろう、おでん。お前は国を変えられるか。黒炭がいいか、悪いかはこの際どうでもいい。くだらないことで国民が争ってるようだと、開国したところで外海に付け入る隙をあたえるぞ。諜報部隊が潜入してみろ、どうなると思う」

 

「王直の国がそうなったのか」

 

「あぁ、おれの国の場合は、八幡大菩薩を国の鎮護に使うか、国民の安寧のために使うかで揉めたのが始まりだった。そのうち不審死があいついで、祟りだと騒ぎになり、八幡大菩薩の格があげられた。国が広すぎた。多民族国家だったのもあって紛争や内乱があいつぎ、挙げ句の果てに無政府状態になった。おれは無政府状態のころに生まれた」

 

「壮絶だな......」

 

「そうか?天上金が払えないほど貧乏な非加盟国にはよくある末路だ。母親はその国で身を潜めてたDだ。なんで王を名乗ってるのかはしらねえが、あの国でDは浮くからな、王で代用したのかもしれん。そして奴隷としてシャボンディに売り飛ばされ、買ったのは黒炭の分家筋だ。色々あって母さんはおれを孕ったせいで同じ国に捨てられた。そして、拾ってくれたのがバハンなわけだ。歴史の継承者として、助けてくれたんだろう」

 

「......黒炭なのか」

 

「あァ、そういうイカれた男に捻じ曲げるだけのもんがあったんだろう、当時のワノ国には。ロックスでそいつから復讐に加担しろと持ちかけられたこともある。断ったがな、おでんには悪いがおれは黒炭もワノ国も悪いが嫌いだ。気を悪くするなよ」

 

「......いや、貴重な話をありがとう」

 

「まともそうで安心したぜ。なにせ敵は歴史の本文のためだけに、そこまでするには飽き足らず、バハンがまだ残ってるからと、おれの国を地図から物理的に抹殺したんだからな。バスターコール程度なら今のおれならなんとかなるが、あれはダメだ。ウラヌスだけはダメだ。国が団結してねえと付け入る隙を与えるぞ。開国するつもりなら、国をなんとかしろ。そうじゃないとどのみち太刀打ちできねえぞ、おでん。おれの国の二の舞になるなよ」

 

これと同じ話を次は宴でおでんにだけ話すことになった王直である。あの時は遅すぎたから。ワノ国も黒炭も嫌いだがおでんとスキヤキにだけはまだ、王直は期待していた。

 

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