ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
ドフラミンゴが世界会議中にドレスローザを訪れたのは、色々理由があった。
世界規模で警備が手薄になる数カ月をカイドウ傘下の海賊達が好機とする。あるいは中立地帯となっているドレスローザを奪取したい敵対組織の工作に対する注意喚起をリク王朝側にする意味もあった。
ドレスローザとドラム王国の関係悪化に伴い、代わりに動くことになったドラム王国出身の医者家族の移住計画の進捗確認。新しい医療分野に必要な設備投資の追加申請。
リク王が不在であろうが世界情勢は目まぐるしく動いていく。ドフラミンゴファミリーは、動かす側であるが故に対策が事前に建てられる。それによりドレスローザは中立地帯として確固たる地位を築いてきたのだ。
今回もその一環にすぎなかった。
いざ会談に入ろうとしたら、ヴィオラがやってきて、ドフラミンゴファミリーとドレスローザが交わした協定内容にある20年間はなんだと聞いてきた。非加盟国には特に期限はないはずなのに、ドレスローザにだけはある。
この言葉の意味を問いかけたヴィオラに、あいかわらず勉強熱心な小娘だと思いながらドフラミンゴはいった。
思えば初めて会った13のときからドフラミンゴとリク王の会合に出席したがるほど国について想っている王女だった。自らギロギロの実を食べて、国防に貢献しているほど勉強熱心だったし、ドフラミンゴが提案する政策について、わからないことがあると今みたいに聞いてくる。もう21になっている小娘を前に、少し懐かしくなった。
「さっきも言ったが、非加盟国を拠点にするはずのドフラミンゴファミリーが何故わざわざ加盟国であるドレスローザを選んだか。それは世界政府への上納金を稼ぐためだ。それ以外に理由はない。その理由がなくなる可能性がある。それにおれはドレスローザの政治に興味はねえ。ありもしねえ妄想をしてお前らを攻撃しそうな奴らへの牽制も兼ねてるが」
その理由がなくなる可能性について、さらにヴィオラは再度問いかけた。
「詳細は省くが、簡単に言えば、七武海って制度自体が世界政府や世界会議の意向で簡単に潰される可能性をはらんでるからだ。非加盟国は関係ねえが、ドレスローザは加盟国だ。どっちにも逆らえねえだろう。ドレスローザに嫉妬した他の加盟国が結託して七武海廃止を訴えたら?あん時みたいに世界政府が手を回して旧ドラム王国支援を否決した時みたいな動きをしたら?リュウグウ王国の件だってあんだけ反応よかったのに否決されたじゃねえか。用心しとくに越したことはねえだろう。どのみちドレスローザは加盟国だ、海軍が守ってくれるじゃねえか。それが心配なら、頑張って国を強くするんだな」
ヴィオラが泣き出したのでドフラミンゴは笑った。
「いつまでも守ってくれるなんて思わねえことだな、所詮はドフラミンゴファミリーも海賊だ。七武海だから心象はいいだろうが、実際は海賊の支配下になることで防衛してる以上、四皇とや準四皇となんも変わらねえんだ。おれ達がどっかで死んだら、どのみち一蓮托生の運命だってこと忘れんなよ」
「わかってるわよ!そんなこと!私が泣いているのはあなたに会えなくなるのがいやだからよ!」
「..................は?」
ドフラミンゴは絶句した。ヴィオラの突拍子もない愛の告白だけではない。警備連中も、会談に臨む関係担当者も、キュロスも、誰も驚いてないからだ。まさに四面楚歌である。即座にハニートラップを警戒するドフラミンゴに、ヴィオラはそんな陰謀とは無関係のまさに豪速球をぶん投げてきた。
「どんなに頑張ってもあなたはファミリーに入れてくれないじゃない!」
「言うに事欠いてまたそれかッ!!つーかそれが目的だったのか!?お前も所詮はドレスローザの女ってことか、失望したぞ、ヴィオラ王女!てっきり、まだドフラミンゴファミリーを警戒してる賢い小娘だと思ってたんだがな。あたりまえだろ、何度も言わせるな。おれは海賊でお前は王女だ」
「ドレスローザには元殺人犯が王族と結ばれた前例があるし、恋に落ちた女王が代々海賊になる例があるって教えてくれたのはあなたよ」
キュロスは苦笑いしている。いや止めろよとこぼしたドフラミンゴに、キュロスは無理だとかえした。なにせ、ヴィオラが出した前例の当事者だからだ。
キュロスは、かつてドレスローザで親友を殺害したチンピラを乱闘の末に殺害し、自衛軍に逮捕されそうになったが、国王であるリク王ことリク・ドルド3世の目に止まって「100勝すれば罪を帳消しにする」という条件で同国の闘技場「コリーダコロシアム」の剣闘士として雇われた。
剣闘士になった後は無類の強さを誇り、わずか4ヶ月で条件の100勝を達成したが、観客から殺人犯呼ばわりされて出てくる事を望まれていないと感じたために自分の意志でコロシアムに留まった。
連勝記録を伸ばし続け、その活躍ぶりに観客席からの声も犯罪者への罵倒から剣闘士を称える声援に変化していき、剣闘士になってから9年目には対戦相手の変装したリク王だったことに動揺したことで初めて傷を負わされながらも勝利し、前人未到の3000勝を達成した。
リク王との戦いの後はリク王からの依頼により自衛軍隊長となった。当初は前科があるため、第一王女のスカーレットから嫌われていたが、彼女が海賊に拉致されたところを救うと関係は一変し、結婚を望み合う仲となる。
その後、リク王が二人の仲を祝いながらも元犯罪者と王女の結婚を世論が許さないと不安視したために、スカーレットの提案で病死したと偽装して王族から離脱した彼女と結婚した。 結婚後は王宮を出て人里離れた花畑で生活を始め、程なくして一人娘のレベッカが生まれた。
七武海の天夜叉ドフラミンゴから四皇カイドウがトンタッタ族を狙っているという密書を受け取り、国防の観点から様々な工作の末に、また元の座にすわっているのだ。
たしかにそこをつかれたら弱いか、とドフラミンゴは思った。
「リク王が許すか」
「もう了承はもらってるわ」
「なにしてんだリク王」
サムズアップしているリク王が見えた気がした。
「あなた、いつもファミリーに頭脳派がいないって頭抱えてるじゃない。私がドレスローザの政策にどれだけ貢献してると思ってるの。私がファミリーに入ったら三割は楽になるわよ」
「非常に魅力的な提案だが却下だ。そもそもおれはお前のことなんとも思ってない」
「だから泣いてるのよ!!!」
「だから頭ハッピーセットな国は嫌いなんだよ、くだらねえ理由で泣きやがって」
「それは愛と情熱の国ドレスローザを舐めてたあなたが悪いわよ、ドフィ。私はドレスローザの王女よ」
「勝手にドフィって呼ぶな、ファミリーでも古参連中にしか許してねえんだよ」
「あなたがファミリーに入れてくれたらやめるわ」
「脅迫にもなってねえ脅迫はやめるんだな、ヴィオラ王女」
「私、この前の闘技場で優勝したから、また利用価値が上がったわよ、ドフィ。ギロギロの実の有用性は、この国の要だって知ってるあなたならわかるわよね。なんのために優勝したのか」
「!?」
「あなたがいない間に鍛錬積んで強くなったの。政治面だけじゃなく、軍事面でもどれだけ貢献してると思ってるの」
「......なんだと」
「あなたが望まないからやらないけど、寝てる時だけは過剰な覇気で無効化はできないはずよね」
「......その有能さがあれば、余裕でどこでも嫁に行けるだろ」
「あなたが望むなら今すぐにいくわよ」
「おい、キュロス。笑ってねーでこの小娘なんとかしやがれ」
のちの恋はハリケーン事件である。ドフラミンゴファミリーの入団試験である儲け話など笑い話になるレベルで、ドレスローザにおける政策には少なからずヴィオラがかんでいた。紆余曲折ありヴィオラのあまりの有能さにドフラミンゴが根負けしてファミリー入りした。いつのまにかドフラミンゴの呼び方がヴァイオレットに変わっていたが指摘したやつは今のところ誰もいない。