ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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ロジャーとニューゲート

ロジャー海賊団解散を宣言した後、一番に船から下りたロジャーはかつてのライバルであったニューゲートと二人で酒を酌み交わし、己の死期が迫っていることや、自身の名前にもある“D”の意味について語るなど、しばしの交友を育んだ。

 

また、ラフテルへの行き方も教えようかと持ちかけたが、白ひげからは「知っても行く気はねェ」と返された。

 

「おれの町、ローグタウンにはな、ARMSHOPっつー創業176年になる武器屋があるんだ。なんでも偉大なる航路から来た奴が開業したってんで、一番腕がいいし、品揃えがいい。おれがこいつを買ったのもそこよ」

 

ロジャー曰く、ローグタウンは東の海から偉大なる航路へ行く時の玄関口となる町である。そのため、東の海中の無法者達が偉大なる航路を目指しこの島に集結している。「始まりと終わりの町」として有名だそうだ。

 

「なんのだ?」

 

「知らねえ、生まれた時からそうだったからな。今思えば、ガープとの出会いもあの町だった。世界会議に向かう途中、ゴア王国の国王夫婦がこの町に停泊してたんだよ。おれは行きつけの武器屋に剣買いに来ただけだったんだがよ、なんか目をつけられちまってな。おれはただ旅立ち前に、見納めに処刑台を見にいきたかっただけなんだ」

 

「まァ、お前なら行きてえだろうな」

 

「ああ、200年も前に処刑された奴の名前なんて誰も覚えちゃいねえだろうさ。革命の火が潰えた場所だなんて誰も知らねえ。マリンフォードじゃなくローグタウンで処刑しなけりゃいけない意味を知ってる奴ら以外はな。想像するだけで悲惨だ。見当違いな罪を着せられて処刑される男、同志は潜伏の道を選んだから誰もが最期を看取れねえ。なにも言えねえんだ、真実を口にしたら迷惑かけちまう奴らが多すぎるからな。おれだってガキのころ、この病にかかって心配した武器屋のオヤジがあの漫遊記を見せてくれなきゃ想いもしなかったさ。かつて世界を本気でひっくり返そうとした男がいたなんて」

 

現在でもローグタウンの広場に存在し、なぜか観光名所となっている処刑台は、世界政府の特別管理下にあり、登る事は厳しく禁じられている。なおロジャーは旅立ち前に勝手に登った際は警官に厳しく咎められたという。

 

「おれァ、いずれ自首するつもりだぜ、ニューゲート。おれがしでかしてきたことを考えたら、世界政府は絶対にローグタウンで処刑したがるはずだ。世界中にDは関係ねえ、おれの時代は終わった、そう宣伝にしてえはずだからな。おれがなにをしようとしたか勘づいてる奴らにまた絶望を叩きつけるためにも。おれはまけねえぞ、ニューゲート」

 

にやりとロジャーは笑った。

 

「たった一冊の本が人生を変えちまうんだ。たった一曲の歌が人々を海に駆り立てるんだ。おれは全世界を海に駆り立てる。大丈夫、おれは死なねえ。おれの意思を受け継いだだれかが必ず見つけ出すはずだからな。おれの息子であってほしいが」

 

漫遊記についてはあまり教えてくれなかったが、ロジャーはひとつだけ教えてくれた。武器屋を開業することで身を潜める道を選んだかつての仲間は、その処刑された男についてこう記しているそうだ。

 

いつか思い出してもらうときには笑顔がいいから、笑顔で死ぬつもりだといって別れたそうだ。死んですまないといわれたそうだ。仲間はこう書いていた。人間ですまないと。

 

「それをいっちゃあおしまいだろうよ、本人には言わなかったようだが、書かずにはいられなかったんだ。可哀想になあ、そのページだけぐしゃぐしゃになってたぜ」

 

なお、処刑台はたびたび修復される。革命の火が潰えたことを見せつけられる王族のための特等席である処刑台が一望できるホテルがある。当時のスポンサーはどんな気分で広場の様子を眺めたのだろうか。ロジャーとニューゲートは思いを馳せた。

 

「......」

 

ニューゲートは息を吐いた。

 

「どうした、ニューゲート。さっきから気分悪そうだが」

 

「..................いや、今更どうにもできねえし、後悔もねえが、ほかにやりようはなかったのかと考えちまう」

 

「あァ、ジーベックのことか」

 

「......」

 

「おれもだぜ。嵌められて殺されるくらい弱いならなんであそこにいたんだよ、あいつは」

 

「......」

 

「なんか知ってるのか、ニューゲート」

 

「いや、しらねえ」

 

「そうか。王直も口を閉ざす道を選んだみてえだからな、やっぱりお前らには黒歴史か」

 

「......そうだな」

 

「おれも思うんだよ、もちっと早く会えてればな、もう少しうまいことできた気がするんだよな。結局、あいつは世界の真実に鍵をかけちまった男として名前だけ残るわけだ。ひでーことしやがるぜ、まったく」

 

ロジャーは酒をあおる。ニューゲートも飲んだが、全く味はしなかった。

 

人の心を教えてくれたやつが最後に教えてくれたことが、仁義に反しても人はやらなきゃいけないことがあるということだった。

 

それは自由を求める意思は無責任だから責任持てよ落とし所探せよと教育された男が必死に頑張ってる矢先に発覚した最悪のタイミングにおける最大の裏切りだった。

 

当時、利害が一致してる間は乗ればいいってことは、なにをしたいか、夢はともかく、その先でなにをしたいか本心を明かせない可能性もあることにニューゲートは気づけていなかった。特にデービーバックファイトのよせ集めで集めたらやつらには。それこそ最初期の仲間にしか。難しいものだ。

 

王直はジーベックにかなり感化されている。ジョイボーイが騙した側なのか否かはわからないが、疑心暗鬼に陥っていたジーベックには謝罪文すら疑わしくみえてしまっていたのだろう。普通に読めばそうではないことくらいわかるのに。

 

失望したろうな、とニューゲートは思った。あの日、体が血を拒絶するとまで言わしめたジーベックの人間に対する不信感をみるに、ジーベックの正体はともあれ、200年前の再来の先が本懐だったにちがいない。ニューゲートに対する不信感は察するにあまりある。人間を信じられないのは無理もない。空白の100年から続く歴史は神すら信じられない者達も産むだろう。たまたまそれがジーベックだっただけなのだ。

 

王直に自覚はないようだが、付き合いが長くなると自分の心すら自覚できない男は、思っていることがそのまま顔に出るのだ。

 

ロックスの儲け話をもってきた時もいつか裏切るんだろお前と書いてあった。そのくせエースやニューゲートを助けて、自分は遠回しに自殺しようとするのだ。色々と限界だったんだろうなと思う。

 

ニューゲートもまさか天竜人が覇気を使える存在だとは知らなかった。ニューゲートですらそうなのだ、王直もその衝撃は計り知れなかっただろうと思う。

 

ロックス勢のニューゲート達の根底には海賊にも破ったらいけない仁義がある。非加盟国や虐げられてきた者達には仁義が法律なのだ。大海賊時代になっても約束をやぶったら死ねの世界で生きながら、ゴッドバレーでニューゲートはロックスよりロジャー達をとった。

 

後悔はないし、謝る気もないが、もういちどやるというのなら最後までのってやろうと考えていた。ロジャーの息子を助けてくれた王直に対するせめてもの義理だ。あとは無自覚ながらも友情をつづける気があるらしい盟友に対する30年に敬意を表して。

 

ニューゲートのところに来ては今後について作戦を練りながら、終始不思議そうな顔をしている王直である。ニューゲートは苦笑いせざるをえないのである。あいかわらずこいつはなんにもわかってねえ。

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