ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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ツキミ博士と王直

イベル博士という男がいた。

 

単なる鉄工所を兵器メーカーへと発展させた男だ。350もの特許を取得し、中でもある爆薬の主成分を発明したことで知られている。さまざまな爆薬の開発・生産によって巨万の富を築いた。

 

しかし、爆薬や兵器を元に富を築いたイベル博士には批判の声が上がっていた。あるとき、兄が死去するが、このときある新聞が「死の商人、死す」との見出しとともに報道した。

 

自分の死亡記事を読む羽目になったイベル博士は困惑し、死後自分がどのように記憶されるかを考えるようになった。そして遺言を残したのだ。

 

「私のすべての換金可能な財は、次の方法で処理されなくてはならない。私の遺言執行者が基金を設立し、その毎年の利子について、前年に人類のために最大たる貢献をした人々に分配されるものとする」

 

彼の遺言に従い、世界政府がイベル博士の遺産を使って創設したのが「イベル賞」である。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和の5分野で顕著な功績を残した人物に贈られる。

 

歴史の本文の継承者としておれは毎年この受賞者を必ず注視していた。世界政府の思惑に添う者は取り込まれ、拒否した者は消され、利用価値がある者は支援されるか放置されるからだ。ベガパンク博士がMADSごと取り込まれるきっかけにもなった。

 

このイベル博士が発明したのは、トリメチレントリニトロアミン(Research Department Explosive)。通称RDX。そう、ロックス・D・ジーベックの頭文字を並べたものであり、ジーベックは好んでこのサインを使っていた。だからおれは偽名だと思っていたし、これを使っていたからおれは儲け話にのったのだ。頭がいいやつしか考えつかない偽名だから。

 

ついでにイベル博士がいたから、おれはウミットに負けたあと、海賊落ちして密貿易である武器や奴隷の商人として歴史の本文の継承者としての身を隠すことができた。命の恩人でもあるわけだ。

 

そんなイベル賞の受賞者を遡っていたときだ、おれは一人の男を見つけた。

 

「......だれだ、こいつ?」

 

おそろしいことに物理学、化学、生理学・医学、文学、平和のすべてで一度は受賞しているにもかかわらずイベル賞への出席を頑なに拒否し続けている男がいる。簡単な略歴と出身地、そして年齢からして、ウェザリアのハレダス博士やベガパンク博士なら親交がありそうだが、おれは一度もその名を聞いたことがなかった。

 

論文がやたら空島に偏っている。ウェザリアしか見たことがなかったのに、受賞理由に並ぶ空島はおれが聞いたことがない場所ばかりだった。

 

「......うそだろ」

 

しかも名前がツキミ博士。出身は未来国バルジモア。今はカラクリ島という場所に住んでおり、ベガパンク博士と同郷だ。誰も知らない高度な技術を持っているとあるが空島にある巨大な王国の遺産を再現しているのだろうか。

 

「......なんでカタカナなんだ?」

 

通称”未来国バルジモア”。偉大なる航路のとある海域、流氷の漂う極寒の海の上に存在する冬島「からくり島」に存在する。現在海軍本部の科学班のトップを務める天才科学者ベガパンクの生まれ故郷。

 

国中常に雪が降りしきり、見渡す限り銀世界が広がる国。そしてもう一つ特徴的なのが、雪山中を徘徊しているサイボーグ化された動物たちである。これらは全て若き日のベガパンクが自分の計画と発明を実現させるための労働力として動物たちを改造したために生まれた存在で、現在は主人が居ない個体が野放しの状態になっており、不用意に接近すると危険。

 

なお、そうまでしてベガパンクが実現したかった「島ごと温められる土暖房システム」だが、形だけは完成したものの現代の技術力と当時のベガパンクの資金力では限界があり、結果的に長らく未完成のまま放置されていた。

 

また、ベガパンクが生まれ育った家兼研究所には世界の宝と言っても過言ではない天才的な発明の設計図(2、3百年先の技術がないと到底実現できないとされるものが大半)などがゴロゴロと存在していたため、ベガパンクが居ない現在では関係者以外立ち入り禁止とされた。もし中にある資料に傷を付けようものならそれだけで刑法に掛かるとされるほど貴重な資料であった。

 

 

「......かんべんしてくれよ」

 

おれは悪寒が走るのがわかった。血の気がひくのがわかった。おれはしらない。みたこともきいたこともない。なんだこのおとこは。空島は世界政府の監視が及ば無い数少ない安全地帯のはずだ、なんで研究なんかしやがるんだ。

 

そんなことしたら、ロジャーが空島スカイピアに残したらしい歴史の本文が未来の海賊王に届く前に消されるじゃないか!!

 

下手したら空島にある巨大な王国の遺跡が全てウラヌスによって青海に落とされるじゃないか!!

 

この瞬間に理解するのだ。この世界はなにかおかしい。いかれている。なにかが致命的に間違っているか、なにかがズレた世界なのだ。おれが生きていた世界じゃない歴史を歩んでいる可能性すらある。

 

おれの経験や知識がまるで役に立たない世界の可能性がある。かんべんしてくれ、おれはまえよりうまくやりたいんだ!いちばんすくいたいやつをすくえないなら、せめてそれいがいはぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ!!せっかく世界の真実に辿り着きそうな予感がして、前よりうまくやれると思っていたのに!

 

確認されている断片的な技術だけでも破格だ。もしかしたら、小出しにしているだけで、この男、意志を持ち、感情を持つロボットを一から何体も発明でき、しかも見聞色の覇気で感知できるレベルのロボットが作れるんじゃないか?

 

前の世界だと、せいぜい生身の生物を改造したサイボーグだったり感情の存在しない人間兵器だったりと、ツキミ博士が造っていたような完全自立思考型のロボットは、地上では今なお確認されていない。

 

感情を持つロボットを造ることが、非常に困難であることの証だ。おれが知ら無いだけで、表に出てきて無いだけかもしれないが。それこそ実現できそうな男は今の所ベガパンク博士以外に浮かんで来ない。

 

それ故に、あまりにもおかしい。それ程までに高度な技術を持っているツキミ博士が、あの世界政府に目を付けられず、ましてやどこの組織にも所属せずに単独で活動していたとは考えにくい。なぜ拒否し続けているのに消され無いんだ?

 

わからない、わからない。おれの見聞色は相手のことを知らないと将来このからくり島ってところごと買収されるか、地図から物理的に消される未来しかみえない。それだけで済めばいいがこの男のせいで空島が危ないんじゃないか!?

 

なんとかしなければならない。

 

散々考えた末、おれはウミットにまた助けを求めることにした。古代兵器の設計図の継承競争に負けたあの男ならツキミ博士の研究内容から古代兵器の技術を転用して世界の運輸王になる儲け話にのってくれるかもしれない。

 

おれは必死で手紙を書いたのだった。

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