ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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ビルカの英雄

ツキミ博士の研究室にて、父上はずっと難しい顔をしていた。壁画の写しを前に唸っている。

 

「どーした、父上」

 

「......いや、世界は私の想像以上に複雑なのかもしれん」

 

「なにが?」

 

「私はずっと悩んでいたんだ、月の民はなぜ青い星にきたのか。その答えがここにあるんだとしたら......」

 

父上はそういいながら、ツキミ博士の仮説を話し始めた。

 

高い科学力をもつ月の民が、なぜ未開の青い星に来たのか。おそらく資源が足りなくなったからだ。壁画にかいてある。その月の資源とはなにか。何を作り出すための資源が足りなくなったのか。ツキミ博士が研究対象にした空島ビルカに定住した者達がいて、月の都市と同じ名前をつける時点で、目的は達成されたはずだ。

 

つまり、何らかの「資源」を利用して「電気エネルギー」を生み出していた。

 

例えば爆弾でいえば、火薬を燃やして、爆発エネルギーを生み出す。月の民は、求める資源があった場所に定住したのだと思われるが、定住先は容姿ごとに3パターンに分かれている。

 

それを確かめるために、父上とおれは、電気を求めて儲け話をかくれみのに、空島ビルカに向かった。

 

月の都市と同じ名が付けられた「空島ビルカ」だ。同じ名前を付けるぐらいなのでかつての故郷を模して都市を作っていた。そこに求めた資源、または代用品があった。

 

潤沢なパイロブロインだ。ビルカは空島だから「島雲・海雲」が潤沢にあった。島雲を資源にして有効活用していた。

 

四神官オーム、シュラ、サトリ、ゲダツは、それぞれ鉄雲、紐雲、玉雲、沼雲と、パイロブロインを含んだ雲を加工して武器としていたことが、有効活用していたことを表していた。族長はいたが息子には会えなかった。

 

チリになったパイロブロインを中心にして水滴がくっ付いて出来たのが「島雲・海雲」。そして、パイロブロインは元々“海楼石”に含まれているもの。

 

ビルカ、スカイピアに定住した月の民は、元々月で活用していた“パイロブロインを含む資源”を探していたところ、空島にそれが潤沢にあったから定住を決めた。

 

つまり、月では何らかのパイロブロインを含む資源によって電気エネルギーを生み出していたということになる。

 

ではなぜ空島でも月でしていたように電気を使わなかったのか?それは、月から青い星に降りてくる時に使った風船をまた使おうとしたときに気づいたのだ。空島にはゴムがない。ゴムがなかったから月に帰れなくなったのだ。だから諦めて定住したのかもしれない。

 

電気を使うにはゴムは必須だ、安全に扱えないなら技術だけあっても意味はない。だから風船を含むゴムの概念ごと廃れた。空島には電気エネルギーに代わる便利なエネルギーがある。貝だ。

 

つまり、「電気エネルギー」から「貝エネルギー」に置き換わったから「電気とゴム」は必要なくなりどちらも時の流れで忘れ去られていった。

 

このパイロブロンを含む資源には「動植物を異常な速度で育む」という特性がある。ビルカで

異常に巨大なサウスバードや文明を飲み込む程に成長した樹木には驚いたけど、パイロブロインが原因らしい。

 

つまり、空島には水滴とくっ付けば人が立てる雲になる物質があり、動植物が取り込めば異常な速度で巨大化する環境があり、能力者を無効化する海楼石に含まれる成分が含まれている。

 

それが全部入った海楼石の様にパイロブロインを含む物質があり、それこそが月の資源だったのではないか。そうツキミ博士は考えていた。

 

 

なにせ、空島ビルカにはゴムと電気以外が全部あったのだ。先祖代々の魂が眠る墓も、その魂が宿るから神聖とされる「身縒木」も。陽樹イブも。問題は全てが形骸化していてゴロゴロの実を作るためだけに使われていた。

 

父上は樹熱について教えた。植物全般にかかる病。これにかかった作物を口にすると人にも感染し、死亡率は90%以上という鬼病。小さな島そのものを滅ぼした例もある。今は治療薬もある。族長は知っていた。知っていて貧乏を嘆いていた。空島ウェザリアと交流があった族長は金がないことを嘆いていた。ハレダス博士の支援すらおいつかないほど、空島ビルカな死にかかっていた。父上は立て替える代わりにウミット海運で働かないかと持ちかけた。それが全てのはじまりだ。

 

おれは悪魔の実が願望を持った者の魂が陽樹イブに宿り、何らかの形でパイロブロインを加えれば、生まれることを知った。なんで悪魔の実なんだ?と族長に聞いたら、海に嫌われるからだと教えてくれた。

 

「ゴムと電気なら提供しますのでね、かつてのビルカを再興しませんか?」

 

族長は乗り気ではなかった。全てが形骸化していたビルカと共に滅びゆく定めだと諦めていた。月の信仰に熱心だった息子は冷めた目で父親もおれ達も見ていた。

 

世界政府と同じような道は歩みたくないと父上は交渉を諦めて宇宙船づくりに必要な電気さがしの旅を再開した。なんとかミンク族やリュウグウ王国との繋がりをもとに電気探しの旅がおわり、宇宙船が完成した時だ。

 

ウラヌスがおれ達の拠点を消し飛ばしやがったのは。

 

おれは青ざめた。父上は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。おれ達は必死だった。ビルカがあぶない。父上がいうようにツキミ博士が安全地帯なはずの空島ビルカを研究して発表しながら族長達がやる気がないからってほっといたせいで世界政府に空島ビルカがばれたのだ。研究所すら消されるなら空島ビルカがあぶない。

 

父上はそのまま空島ビルカにいって今すぐに乗れといったのだ。移住計画は暗礁に乗り上げていたから計画は途中だ。そのままウェザリアにいくから匿ってもらえ、働く気がある奴らは雇うから。

 

ほとんどは乗ってくれた。ゴロゴロの実以外の全てを船に積み込んだ。いくら全てを忘れた月の民でも、空島ビルカが青海に落とされて海の底に沈んだらどうなるかなんて、誰もがわかっていた。信仰を捨てられない少年と彼を慕う者達は残った。父上はため息をついていた。これだから信仰は嫌いなんだ。やけに実感がこもった憂鬱だった。

 

そして、空島ビルカから空島バロンターミナルへの移住計画は始まった。父上は世界政府となんらかの密約を結んだみたいで、族長と話し合った結果、悪魔の実の秘密について一部情報提供をしたらしい。ツキミ博士の研究についてはなにも明かさなかった。ビルカの人々が助かるならよかった。

 

おれ達もビルカの人達も世界政府に対する不信感は頂点にたっしたまま、今だに降りてくることはない。

 

ただ、ツキミ博士の研究やおれ達のせいで空島が危ないのは事実だから、ウェザリアを通じてほかの空島に注意喚起すると父上はいってた。

 

「あいかわらず、みんなが人間だったらいいな病にかかりやがって。輸血できるとはいえ、それとこれとは話が別だろうが」

 

世界政府は人を巨人にしたがっていると父上は苦々しい顔をしていっていた。

 

「......リンリンがエルバフと因縁があるのが悔やまれるな。どうやって繋がりをもつか......」

 

「母上以外の女の人の名前出すなよ、しかも呼び捨て」

 

「うん?ああ、すまない。リンリンは四皇のひとりの本名さ」

 

「なんだ、びっくりした」

 

ちなみに、10年後のオハラの縁でエルバフにウミット海運の支社を置くほど交流ができたから、この心配は杞憂で終わることになる。

 

「......なんでおれのおかげになってんだよ、ハレダス博士」

 

「いやあ、さすがにそのままウラヌスや世界政府について話すのはマズいじゃろ?お前さん達ウラヌスは知らないことになっとるんじゃから。スカイピアには見聞色しかないんでな?しかも子供が発現しやすい。信憑性をとるなら、なあ?」

 

「おかげで空島でサングラスと麦わら帽子と風船が流行ってんだが?どんだけ紫外線気にしてんだよ!」

 

「あっはっは」

 

「笑うな!だいたいあの時、エネル達を無理やりにでも乗せたらめんどくせえことにならなかったんじゃねえか!!」

 

ちなみに、あの時、おれ達は月→空島→ジャヤ→ワノ国と月の民は放浪したんだと思っていたが、ベラミーとバロンターミナルのおかげでわかった。最初にジャヤにおりて黄金卿をつくり、ワノ国で空島をつくり、移住する気だったのだ。そこに敵が攻めてきて、ジャヤは滅亡。ワノ国を鎖国してミンク族と共に封鎖し、見張りをする。生き残りは空島ににげた。なんの偶然かジャヤの末裔が空島に打ち上げられ、長すぎた月日が戦争を内乱をうむ。エネルが失望して滅ぼそうとしたら、麦わら一味とベラミー達が助けたのだ。偶然てのはあるんだな。

 

その全てを今の国々は知っている。30年はきっと無駄じゃなかったはずだ。

 

 

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