ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
ウミットに持ちかけた儲け話のために、宇宙船の電気探しの旅の途中だった。シャボンディ諸島でモコモ公国との見習いあるいは奴隷システム導入後、今度はイール達を乗せて、おれ達は、リュウグウ王国にやってきた。ミンク族の子供がいるためか、魚人や人魚達はロボット2体をタヌキと間違えていた。タヌキの方がめずらしくないか?
おれ達は電気がつかえる魚人や人魚しかいらないんだけど、ウミット海運が貴重な人材として欲しがっていた。たしかに深層海流に潜るなら、海底1万メートルでも世界最速の人魚や海戦が得意な魚人はいた方がいい。なんで海軍にはいないんだろうな?父上から聞いた限り、いないのはおかしいと思う。
会談にはおれも呼ばれた。オトヒメが14だかららしい。父上は元天竜人だから信用できないだろうし、ビジネスの話をしようと提案した。お金がからめばそれは仕事だ。無性よりよほど信用できるはずだ。
シャボンディ諸島で人魚か魚人の奴隷を送り届けるから、リュウグウ王国に支払いを立て替えて、国内で働いて返すか、ウミット海運で働いて返して欲しい。そういったのだ。
「ひとつ、問題があるじゃもん。リュウグウ王国には軍人になる以外に働き口がないじゃもん。あとは冒険家という名の海賊になるか、用心棒という名の海賊しかない。それに天上金のこともある」
「おや、そうなのですか?国内を団結させるために力を入れると聞いていたのですが」
「ええ、その、ごめんなさい......お父様が5年前のことがショックすぎて、まだ立ち直れていないの......。寝込んでしまっていて。代わりにネプチューン隊長が王太子としてお仕事を」
「5年前?」
「世界が信じられないから、自分達で変えようとした海賊がいたじゃもん。残念ながら達成できずその名は闇に葬られたんじゃもん」
「......なんかロックスみたいだな」
オトヒメとネプチューン隊長がこっちを見てきた。なんだよ、こっちみんな。父上が笑った。
「天上金ってあれか、おれ達用に払ってたやつか」
「そうだよ、ドフィ。この世は残酷な程に貧富の差が生まれるようにできているんだ。世界政府加盟を拒んだ国はテキーラという終わらない橋作りに国民を拉致され、天上金が払えなければ非加盟国に転落し、天上金を払うために国民に無理を強いるか、周りの国に無理を強いるか。よほど強気にいけるだけの技術や資源、金儲けの仕組みがなければ、天上金を払いながら国内を充実させることは不可能だ」
「......そこまでしろっていってねえだろ。まさか、リュウグウ王国が奴隷について、つよくいえねえのはそのせいか?支払うのが手一杯だから?」
「そういうことだ。だから私は儲け話を持ってきたんだよ。リュウグウ王国さえやる気なら、空島ビルカみたいにできる。天竜人の時は、誰も教えてくれなかったからね」
「なんじゃと......?」
「天竜人のみなさんは、知っているから、ああいう態度がとれるんじゃないのですか?」
「残念ながら、知らないんですよ、誰も。恐ろしい世界じゃないですか」
父上の言葉の意味を理解したのか、ふたりともこの世の終わりみたいな顔をしていた。
「そして、ネプチューン隊長、オトヒメ様、あなた方にはまず残念なお話をしなければなりません。私達親子は覇気が使えるんですよ、元天竜人にもかかわらず。どうやら、初めから私達は人間なようだ」
父上の言葉に謁見に臨んでいたふたりは凍りつき、周りの警備からどよめきが走った。
「私達は初めから人間ですよと事実をいったら、北の海の非加盟国に降ろされてしまいました。オトヒメ様への署名を無効にしたいのは明らかでしょうね。遅かれ早かれ、待遇は変わらなかったでしょう。申し訳ありません」
父上は笑いながらいうのだ。
「あなた方が気にやむ必要はありません。私は初めから善人ではありません。人を殺せるタイプの人間だ。元天竜人だとバラそうとする工作員や暗殺者から家族を守るにはそうするしかなかっただけです。妻子を匿ってもらい、この子は一緒に地獄に堕ちるといってくれたから一緒にいます。そして、軽率でした。もっと慎重に動くべきだった」
父上の初めての理由だった。天竜人から人間に堕ちた理由を聞かれたとき、いつもはリュウグウ王国のオトヒメ様の署名に感化されて人間だといったら北の海の非加盟国に降ろされたといっていた。今回はさすがに本人を前にするといえなかったようだ。
おれは頭を撫でる父上にされるがままだった。かわいそうに、とオトヒメは涙ぐんでいる。ネプチューン王太子は複雑そうな顔をしていた。
おれは別の意味で泣きそうだった。世間知らずな元天竜人一家と1ヶ月だけの付き合いなのに、熱出す前の父上のことまで、この父上は庇ってくれるのだ。
「......なに当たり前のこといってんだよ、父上。おれ達が偉かったのは世界貴族だからだろ、神みたいなもんだけど、神じゃねえよ。世界政府をつくった20の連合国なんだ、人間なのはあたりまえだろ」
「まあ」
「ふむ、人間になれてよかったじゃもん」
「??......いやだから、世界貴族やめたんだから人間だろ?」
「いい子でしょう?自慢の息子なんですよ」
あたりまえのことを言っているのに、なんで褒められるのかよくわからなかった。
「ロックスの革命の火は、聖マリージョアにまでとどいたんじゃもん......」
「?」
なんで壊滅した大海賊が革命の火なのかよくわからなかったが、褒められているのはわかったから、おれはなにも言わなかった。どうやったら国内の荒廃を直しながら、金が稼げるか、ネプチューン王太子と父上が熱心に話し始めたからだ。
「ドフラミンゴさん、あなたも署名してくれない?」
「おれ、元天竜人だぞ?なんの効果もないと思うけど」
「いいのよ。リュウグウ王国以外にも賛成するひとがいてくれる方が大事だから。ご夫妻に続いて3人目ね」
「頭いいんだな」
オトヒメは首を振った。
「教えてもらったの」
「なにを」
「信じるって難しいけど、尊いものだってこと」
「?」
「復讐にかられてても、救われる誰かがいるなら、それは誰かにとっての救いになるってこと。それは神様にみえるかもしれないし、悪魔にみえるかもしれない。結局は救われたか、酷い目にあったかの立場によるんだってこと」
「14でそこまでわかるってすごいな」
オトヒメは首を振った。教えてくれなかったが、価値観がひっくり返るようななにかがあったらしい。おれみたいに。
オトヒメにそれを教えてくれたやつは、人間に対する不信感のあまり、極少数の人間で、人間を判断しようとしたそうだ。そして悲惨な最後を迎えた。
だから、オトヒメは思ったという。人間を判断するにはたくさんの人に会わないといけない。
自分達の方から歩み寄り人間を理解していくべきだ。また、大人達が恨みや憎しみを子供達に残すことは偏見を生んでしまうと考え、憎しみの根絶も大切だ。
だから、際限なく光の恩恵を受け取れる地上に島民が心惹かれていることを理解しており、そのための署名を集めていた。
オトヒメは見聞色で結構な精度で心の声を聞けるので、魚人や人魚、人間、それらを襲う海賊に至るまで、それらすべての本心を誰よりも理解する事が出来ているらしい。
「じゃあ、おれも?」
「あなたが、私達の国が虐げられてる意味がわからないって素敵なことを考えていることはよくわかったわ。おしえてあげる。この国がどんな歴史を歩んできたか。ジョイボーイが来てくれるまでに素敵な国にしないといけないって思いながら、うまくいかなかったか。腰抜けって笑われちゃった私たちも悪いんだけどね」