ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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ミョスガルドとホーミング

世界会議(レヴェリー)とは、聖地マリージョアにて4年に一度開催される大規模な会議である。

 

会議の参加権を持つのは世界政府の170にも及ぶ加盟国の国王たちであり、毎回代表の50か国が出席している。王たちは巨大な円卓を囲み、世界中の種々の案件について討論する。

 

会議が始まる前には50か国の王族が1か所に集まるためちょっとしたお祭り騒ぎになる。しかし「世界会議はいつも大事件を呼ぶ」とも言われており、会議の終了後には世間を驚愕させるニュースが飛び交うことが多い。

 

会議の流れとしては、各国の王たちは2つある赤い港(レッドポート)のポンドラを利用してマリージョアまで移動し、会議が行われるパンゲア城の内部にある「虚の玉座」の前で「独裁をしない」という誓いを立ててから、会議に臨む。

 

会議の進行を務める議長は持ち回り制であり、今年開催される会議ではバリウッド王国のハン・バーガー王が担当し、会議は1週間という長い時間をかけて行われる。

 

世界中の国の王族がマリージョアに集うため、各国の屈強な護衛に加えて三大勢力の一角を担う海軍本部が最高戦力の大将まで動員して護衛を担当する。

 

また、世界会議には世界各地の王族が揃うこともあり、王が会議に臨んでいる間は社交の間で親交を温め合うことが多い。

 

今回の目玉はやはり、4回目となるリュウグウ王国の大規模な移住計画に対する是非だろうか。オトヒメはこの4年間でさらに偉大なる航路新世界以外の楽園、そして東西南北の海の主要な王国の署名を集めきったようだし、内乱が終結して復興を果たしたアラバスタのコブラ王からの署名を得たらしい。決議に臨む時に共同で宣言したいようだ。天竜人でないとはいえ、最初の20人に名を連ねていたネフェルタリ家の発言権は無視できないはずで、動向が注目されている。

 

それともいよいよ加盟国の誰もが頭を悩ませている穏健派でありながら、啓蒙を主体にしている革命軍。あるいは過激派を陽動していることが明らかになったロックス急進派への対応か。

 

今までは非加盟国の難民保護や奴隷解放が主体だったのが、啓蒙と陽動が相乗効果を起こし、人々が好きな方に所属することで武器なり言論なりで世界政府に対する革命の火を掲げはじめている。非加盟国だろうが、加盟国だろうが、治安が安定している国の方が少なくなっていた。

 

少数民族をかかえる王国は、民族自決から独立を求めて反乱を起こす場合もある。世界会議どころではない王国もあり、ワポメタル発見による新たな加盟国がいきなり代表の50国に選ばれたのもそういう背景が少なからず反映されていた。

 

議題が増えれば増えるほど、持ち回りである議長の負担は増えるし、会議が長引いていく。拘束時間が増えれば、社交の間のトラブルにいち早く反応できなくなり、戦争の火種になりかねない。どちらに護衛を割くか、各国は頭を悩ませていた。

 

実はある種の落とし所が各国間で既に存在しているとはいえ、民族も宗教も思想も違う国々が集まっての会議だ。議題によっては白熱することが予想され、本当になにがおこるのかわからないとされていた。

 

ミョスガルドは迷っていた。リュウグウ王国の移住計画に対して、代案の提案や譲歩もなく、否決だけ突きつけてきた16年に対し、同じドンキホーテとして33年前に人に堕ちたホーミングから最期通告がガープからもたらされていたのだ。

 

否決されたらロックス急進派に合流して戦争を始めるつもりらしい。リュウグウ王国の随伴戦力として同行することになっているドンキホーテファミリーのコラソンは、世界政府の元エージェント。内部工作や隠匿工作は通用しないからそのつもりでいろ、戦争の建前を目撃した時点で、リュウグウ王国は世界会議を離脱するからそのつもりでいろとのことだった。

 

それは暴力の世界を標榜するカイドウ達とまたロックスを復活させるという地獄のような宣告だった。

 

ため息しか出ない。

 

ホーミング聖は天竜人時代から立ち回りが上手い男だったことを思い出す。問題はただ一つ、世界の仕組みについて知らなかったことにつきる。今のホーミング聖は全てを知った上で宣告してくる。誰もが今のホーミング聖の中にはもはやバハンの王直しかいないと絶望しているが、本当にそうなのか、ミョスガルドにはわからなかった。

 

リュウグウ王国の署名をした10年前から神の騎士団から睨まれているのは自覚している。ゴッドバレーの一件から、最高位にいるガーリング聖は海賊も魚人も嫌い抜いており、ミョスガルドはその度地雷を踏んでいる。神の騎士団の仕事は天竜人ではない者を処刑することだ。建前を得たら処刑されるから、ホーミング聖は非加盟国に逃げた。次は逃げられない状況に追い込まれる気がしてならない。

 

(......ロックス急進派はなにをしかけてくるんだ、マリンフォードの一件は始まりに過ぎないらしいが......世界政府の打倒が目的なら本気で無政府状態にしたいのか?神の騎士団が出てくるまで暴れるつもりなのか?今回は革命軍も穏健派も急進派も利害は一致しているし、どうにかできないものか)

 

頭を悩ませていた矢先、リク王を通じて、NEW MADSなる組織をカイドウが創立させたことをミョスガルドは知ることになる。戦争屋ジェルマと非人道的な兵器に定評があるシーザー博士が手を組んだという。かつて MADS時代には対立してそれきりだったのに。もう嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

そして、世界会議初日から事件は起きた。

 

 

 

いくら警備を強化しても、衛兵や海兵を増やしても、限界というものがある。はるか上空からパラシュートを装備した自爆目的のクローン兵が降りてきて、毒ガスをばら撒こうとする無差別テロを実行しかけたのである。人質をとって要求を通す従来のテロとは根本的に異なる恐ろしいものだった。

 

のちにシーザー博士のシノクニだと判明する。

 

それは狂気の天才科学者「マスター」シーザー・クラウンの作り出した毒ガス兵器。

 

他の毒ガスとは異なり、触れた生物の皮膚を即座に硬化させるという特殊な効果を有している。 即効性を第一に開発したのがこの「シノクニ」である。

 

シーザーはこの「シノクニ」を製品化して売りさばくため、「シノクニ」の噛ませ犬として世界会議の王族達を使い、全世界に映像電伝虫で映像を配信した。

 

「致死性を純粋に高める成分を付与する」のではなく「効能を確実なものとする成分を付与する」あたり攻撃力よりも確実性を重視したものだ。

 

ただし、表面が硬化して中の生物をマヒさせた事で毒ガスを吸い続ける事はなくなっている。

 

「一呼吸で死に至る毒ガス」ではなく「死ぬまで拘束する」方向に舵を切っている辺り少々発想が独特なのが窺えるが、「敵は拘束され続けるが、味方が誤って吸った場合のリカバリーが容易」という毒ガス兵器としては画期的な特性を持っている。

 

シノクニは即効性は非常に高いものの、あくまで相手の動きを止めるガスであり、即死させる効果はない。

 

そのため、硬化は表面にとどまり、毒が回る前に表面を砕けば患者は蘇生する。12時間も経てば皮膚から毒が体内を犯すため、なるべく迅速に救助する必要がある。

 

もし、さくら王国のマスター医者ことくれはがその特性に気づいていなければ。カイドウがシノクニの性能を向上させるために戦場で運用し、各国が必死で医療を発展させて防護服や薬を発明していなければ。もっと大変なことになったはずだ。

 

シノクニだと気づいた時点で王族も衛兵も海兵も逃げ出したし、防護服を着た者達が逃げ遅れた者がいないか探し回ったし、マリージョアの外の特設の医療テントは満員になった。Dr.くれはは天竜人だろうが奴隷だろうが解毒剤を振る舞ったし、治療した。

 

クローン兵と海軍大将達の戦場とかしたマリンフォードにて、世界会議はその時点で、数日の延期を強いられることになる。

 

そして、再開された世界会議だったのだが、今度は事件がおきた。100年前にインペルダウンに投獄されたはずの巨人族モーリー(今は革命軍の軍隊長として知られる)が、インペルダウンとマリンフォードのトンネルを開通させたのだ。サボが奴隷錠の鍵を盗み出し、革命軍が無敵奴隷くまと奴隷達を解放。それに加勢したイッショウに激怒した緑牛が大喧嘩、あたりは騒然となった。

 

同時刻、オトヒメが天竜人に奴隷にされそうになるが随伴戦力だった海賊達がそれを庇い、麦わら一味の傘下だと名乗りをあげてそのまま逃げた。ミョスガルドはその全ての責任をとり、神の騎士団に拘束された。

 

当然ながら世界政府に処刑されない程度に捏造された大ニュースは世界を震撼させ、シノクニは飛ぶように売れたのだった。

 

 

 

その飛ばし記事を読み終えたミョスガルドは深いため息を吐いた。なぜかマリージョアではなく、彼はウミット海運の船にいた。ついでにいうならホーミングの船にいた。2日目の混乱に乗じて彼は拉致されていた。神の騎士団が拘束する前に彼は元エージェントであるコラソンにつれられて。

 

「......ホーミング聖」

 

「ホーミングで構いませんよ、私は人間ですから、ミョスガルド聖。お久しぶりですね」

 

「..................ホーミング、なぜ私はここにいるんだ」

 

「私に会いたいとコラソンに直談判したのは貴方でしょうに、なにをおっしゃるのやら」

 

「いや、今すぐというつもりじゃなかったんだが。戻してくれないか、オトヒメが心配だ」

 

「ご安心を。無事帰還されましたから。世界政府が古代兵器プルトンを復活させてカームベルトで試運転を始めたため、海王類達の危機だと彼女達は来ていませんから」

 

「私は全ての責任を取るといったんだ、逃げたら意味がないだろう!」

 

「そうですね。神の騎士団最高司令官のフィガーランドがあなたを処刑して、ロックス急進派か穏健派のせいにするでしょうね。神の騎士団に拘束されるのがわかってるのに返すわけないでしょう。あなたが死んだら署名は無効だ」

 

「行方不明になっても、人間になったとでっちあげられたら、おまえと同じだろう!」

 

「死ぬよりはマシでは?」

 

「......」

 

「どのみち今回が分水嶺なんですよ、ミョスガルド聖。Dr.ベガパンクは世界にエネルギーを届けたいという悲願のためにが古代兵器ウラヌスの動力を電気ではなく、火で再現してしまったのでね。あの男はどこまでも善人だし、性善説を信じてる。クリアランスは作るでしょうが、安全装置なんてつくるわけがない。世界政府は最悪のタイミングで古代兵器を2つも手にしてしまった。この世界にもはや安全地帯は存在しない。ひたすら拠点を転々とするしか生き延びる道はないんですよ」

 

「なぜ私だけにそれをいうんだ。私だけに逃げろというのか!?あそこで全てが動いているんだぞ!?神の騎士団を警戒するつもりなら、最終日でもよかったじゃないか!」

 

「私も初めはそうする気だったんですがね......コブラ王がオペオペもピュアゴールドも替え玉も拒否したあげく、今行方不明のようだから嫌な予感がしたんですよ。なんで五老星を皆殺しにいったはずのサボがコブラ王を処刑したことになっているのか意味がわかりませんが。とりあえず話を聞きにいこうじゃありませんか」

 

「コブラ王が......?たしかにワポル王と途中から先に会議を進めてくれといっていたそうだが......」

 

「ビビ王女も行方不明だそうですね。あいかわらずモルガンズは世界政府のご機嫌とりが上手だ。ビビ王女もワポル王も匿ってる癖にいけしゃあしゃあと」

 

「!?」

 

「妻が教えてくれましたよ、ビックニュースをね。さあ、カマバッカに行きましょうか、ミョスガルド。私は戦争を始めたいがドラゴンと色々調整したいのでね。ついでに話を聞きにいこうじゃありませんか」

 

「......ほんとに戦争がしたいんだな、ホーミング」

 

「雪辱戦ともいいますがね、38年前の。私達はフィガーランドに敗北して、ジーベックを失った。38年前から何も変わっていないようで嬉しい。あの島の一件があの男を王者にまでのし上げたからな。ジーベックを殺したのも、ゴッドバレーを地図から抹殺したのも、ロックスを崩壊させたのもあの男ですから。革命軍は神の騎士団が出てきたら本番だといいました。貴方が処刑されるのを待とうと思ってましたが、私に会いたいと直談判したようですから、なにかの縁だ。ミョスガルド、あなたは英雄におなりなさい。海軍の英雄になったガープのようにね」

 

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