ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
「なあ、くま。お前は何を見てきたんだ?」
「オオセノトオリニ」
「......」
あいかわらずドラゴンとバーソロミュー・くまのやりとりが噛み合わない。それもそのハズ、完全な人間兵器となったバーソロミュー・くまにはもはや人として生まれた記憶もない。もう元には戻らないのか。一体バーソロミュー・くまは何を見て来たのか。南の海の技術者達は頭をかかえている。
バーソロミュー・くまは元王下七武海の一人だが、その正体は革命軍の幹部。 ホーミングは詳しい過去をよく知らないが、ドラゴンだけは知っているようだ。ホーミングが知るのは南の海の世界政府加盟国であるソルベ王国の国王であった経歴を持つということだけだ。
くまは南の海にあるソルベ王国の王座に就いていたが、国民からの評判は低く、やがて追放されてしまう。 海賊となったくまはモンキー・D・ドラゴンが結成した革命軍にも所属し、やがて“暴君”という異名で世界に知れ渡るようになる。
その後海軍に捕まり終身刑を言い渡されるが、海軍の科学者ベガパンクがくまの特殊な種族としての筋力及び潜在能力に惚れ込んだため、くまは“身体改造”と“クローン開発”への参加を求めされる。この要求に応じたくまは王下七武海の立場を与えられ、再び海に戻った。
なお、革命軍のメンバー曰く決して暴君と呼ばれるような性格ではなかったらしく、上述の経歴は一部疑わしい部分がある。
12年前にはドラゴンやエンポリオ・イワンコフと共に、革命軍の一員としてゴア王国を訪れ、国に殺されかけた人々を救出し、革命軍のメンバーに加えている。 その時助けられたサボ曰く、穏やかに笑う人だったようだ。
革命軍幹部の身を隠しながら七武海入りした彼は、ドフラミンゴ曰く、世界政府直通の電伝虫を渡され、有事の際にはこれを用いて政府に直接報告したらしい。
ただし、本人も革命軍の一員であり、彼の昔を知るエンポリオ・イワンコフ曰く「世界政府嫌い」だったとのこと。
世界政府に従っているのも何らかの思惑の元であり、政府の与り知らぬ場所では抹殺対象とされた人物を密かに見逃していたりする。 彼にも表立って政府に逆らわない事情はあった様子。
今思えば特殊な種族ゆえに、実の娘であるジュエリー・ボニーを人質にとられていたのかもしれない。
その後政府の科学者Dr.ベガパンクに肉体提供を行い、改造人間“平和主義者(パシフィスタ)”の第1号「PX-0」となる。 頂上戦争直前の最後の改造手術によって脳も改造され「人格・記憶」も全て失った為、人物としては死亡に等しい状態になってしまっている。
Dr.ベガパンクの最後の改造により完全な人間兵器となったバーソロミュー・くまは、ドフラミンゴに言わせればよると「ただ政府の言いなりに戦うだけ」になってしまった。
しかし今回、聖地マリージョアにて天竜人の奴隷にされていたのを解放してカマバッカ王国に連れて来た。くまは革命軍の者達を敵と認識して攻撃したりしない。
どうやら誰からの命令にも従う様にプログラムされている。それが世界政府の味方であっても敵であっても。それがまた悲しみを誘う。
なにしろ何ら判断基準を持たないのだ。誰であっても「攻撃しろ」と言われれば危害を加える。銃器や大砲、戦車などと何ら変わらない兵器となってしまっている。
革命軍の科学担当リンドバーグはそう結論づけた。パスワードを話しかければ彼の意思を司るところにアクセスできるのかもしれないが、セキュリティが強固すぎてわからないのだという。せっかく奪還できた革命軍最初期の幹部だというのに、暗礁に乗り上げていた。
そんな矢先だ。くまがいきなり動き出し、マリージョアの方向に向かい出したのである。報告を受けたドラゴン達があわてて向かったが、すでにくまの姿はなかった。
「くまさん、どうして......」
サボは呆然と立ち尽くしている。
「ドラゴン、あなたこれからどうするおつもりですか?それ次第で私の動きが変わってくるのですがね。マリージョアに行かれますか?それともエッグヘッド?」
天竜人の間で話題沸騰中の無敵奴隷とかしたバーソロミュー・くまは、今や自我すら存在しないロボットと化している。世界会議中に革命軍が奪還したはいいものの、南の海の技術で人間に戻そうとした矢先、いきなりいなくなったのだ。レッドライン目掛けて飛んでいき、かつてのフィッシャータイガーのように自力で登り始めているという。
一方で、サボがバーソロミュー・くまの戻し方を聞いてくるとマリージョアで別れたジュエリー・ボニーがいるエッグヘッドは,今とんでもない大事件の号外がばら撒かれていた。ニュースだけみるなら、エッグヘッドにいる大発明家のDr.ベガパンクが麦わら一味に政府高官達と監禁されている。
革命軍の持つ情報を精査するなら、いよいよDr.ベガパンクの研究が空白の100年に到達したと世界政府に判断された。ずっCP達を差し向けられているが退けていたが、とうとうCP0を派遣された。たまたま麦わら一味がやってきて、Dr.ベガパンクは、ホーミングを頼ると戦争の火種に成りかねないから、まだマシな麦わら一味に助けてくれと頼んでいる。
こんなところだろうか。
ドラゴンはため息をついた。
「ホーミング、アンタはどう思う。今のくまがマリージョアを目指している理由は」
「Dr.ベガパンクとバーソロミュー・くまの密約によりますね、なにか掴めたんですか?」
「おれは知ってる、知ってるが......うむ......」
「おや、ご存知なのですか、彼の覚悟の理由とやらを。それを受けて行ったはずのDr.ベガパンクのプログラミングによりますね。世界政府に囚われている娘をたすけに向かったか、奴隷を解放しに向かったか、今の主人である天竜人のところに向かったか。どのみち、エッグヘッドにあるはずのニキュニキュで抽出し、保管されているはずの彼の精神を入れなければロボットのままでは?この世界の人間は、魂と精神と肉体でできています。感覚的にわかるでしょう?今の彼は精神......つまり自我、あるいは心が欠落してるんですよ」
ドラゴンは苦々しい顔をしている。
「なんらかの信念に殉じたであろう彼の残骸にすぎませんからね、今の彼は」
「......」
「もはや千両道化のバギーが鷹の目のミホークと砂の王サー・クロコダイルとクロスギルドを立ち上げ、七武海制度は実質崩壊していますからね。ドフラミンゴは律儀にまだ秩序側にいるつもりのようですから、私は単身ミョスガルドの待遇をリュウグウ王国に報告せねばなりません。戦争の火種はすでにばら撒かれた。あとは回収するだけです。神の騎士団が出てくるまで淡々と準備を進めていきますから、そのつもりでいてくださいね、ドラゴン」
「ああ、わかっている」
「先程の質問に戻りますが、革命軍はどちらに行かれますか?マリージョア?エッグヘッド?」