ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編) 作:アズマケイ
今から12年も前のことだ。
北の海のとある国に生まれたシュガーとモネは、視察に来ていたある天竜人に気に入られ、そのまま聖マリージョアに奴隷として拉致された。悪魔の実を食べるか、奴隷の焼印を入れるか選べと迫る悪辣な遊び。虐待で心身共にぼろぼろになっていた彼女達は、それぞれホビホビの実とユキユキの実を食べることになる。
そして、モネはSSGのある研究所で両手を翼にする手術を受けることになる。なんでも4年前に突然消失した空島には腕に翼が生えた人間がいて、それが欲しくて再現して欲しいとのことだった。あまりにもふざけた理由だったが、半年にわたる奴隷生活は正常な思考回路を奪うには充分で、モネはされるがままだった。
望まぬ形で両腕を失い、翼を手に入れたモネを待っていたのはその研究所の実験台としての日々だった。
「うちのシマの住人を奴隷にしやがって」
ある日のことだ。サングラスをかけた男と率いる黒スーツ達が訪ねてくるなりそういって、モネをみて怒り出した。モネは敵わない事はわかっているが奴隷として命じられるままに男と戦った。モネが空島の住人ではなく北の海の生まれだと知った男は、恐ろしいまでに強かった。
捕虜となり研究所を案内させられたモネに、男はドフラミンゴと名乗った。王下七武海にして闇の物流を牛耳り、あらゆる取引はドフラミンゴを介しないことは不可能とまで言われた闇のシンジゲートの頂点に君臨する男が目の前にいた。この瞬間にドフラミンゴは王下七武海の仕事をしていることになり、モネはその庇護に入れることに気づいて,研究所を裏切った。妹を助けてくれと懇願した。
タチの悪いことに、その天竜人は天上金を湯水のように使い、防犯用にキメラ人間を飼っており、モネもゆくゆくはそういう飼われ方をされるはずだったため、彼女は望む望まざるに関わらず戦う術を叩き込まれていたのだ。ドフラミンゴは飛行能力とその索敵能力を気に入り、モネの入団を快諾した。
モネ曰く本来夏島だったはずの研究所のある島はユキユキの前任者により冬島に変えられ、ホーミングがMADS時代からDr.ベガパンクに貢ぎまくったために完成した土暖房用に電気を作るためにたくさんの奴隷達が働かされていた。人工的に発電する人間や動物を作りたかったようで、奇妙な実験のなれの果てはたくさんいた。
モネも自分がユキユキの実を食べさせられたのも、雪発電の要員が欲しかったからだという。雪がためられたプールの中には不凍液が通る管が埋められこの中で10度ほどに冷やされた不凍液が管を伝って発電機に送られる。発電機の上の部分は太陽の光をレンズで集めて140度から220度ほどに熱せられていて、この温度差を活用してピストンが上下動する仕組みだ。
太陽の熱をうまく集め、雪の温度をより低い状態で実験すれば、さらに効率よく発電が行えるということで、実用化に向けた研究を今後加速させるところだった。ユキユキの実さえあればそれが可能になる。
覚醒していた前任者が死んで正規の手段で手に入れたユキユキの実を食べたモネは、たった一年で覚醒までいたっていた。それほどまでに苛烈な電気作りが行われていたのである。
うまくいけば除雪に膨大な予算が必要な道路や駐車場にたまった雪を溶かしながら、発電できる雪国ならでは発電方法の確立につなげられるはずだった。理論は立派だった。いずれの奴隷もシャボンディ諸島を経由していない奴隷だったため、全てが台無しになった。数百人分の損失である。
建前の上では翼が生えた人間という新しいカテゴリの奴隷がオークションを通らずに高値で取引されているという噂を耳にした天夜叉ドフラミンゴの逆鱗に触れた。翼をつける文化があるのは空島の住人だけである。4年前に青海に落とされた空島の住人が奴隷になっている可能性があるのだ。それは空島を庇護下に置いているウミット海運とドフラミンゴファミリーの怒りをかったということになった。
研究所の人間達はみんな口を揃えて天竜人に頼まれて人工的に羽と手を入れ替えただけだと説明したが、それがなおのことドフラミンゴの怒りを買った。翼を生やしていようが、いなかろうが、そもそも人間の奴隷市場はすでにシャボンディ諸島に存在している。好き勝手やられて価格の暴落や暴騰を招きかねないからだ。それができるのは本来仲介屋の頂点に君臨する天夜叉だけなのは暗黙の了解だった。
そのためモネはその研究室で作られた最後のキメラ人間になった。ドフラミンゴ達に救出された際、別の研究所に人質として囚われているはずのシュガーの助けを乞い、ドフラミンゴがそれを承諾。天竜人から言い値でシュガーを買い取り、そのまま姉妹はファミリー入りした。
シマを荒らされたと判断したドフラミンゴは、奴隷達ごと世界政府の倍の値段でSSGから研究所を買い上げる嫌がらせをして手打ちにした。全世界のすべての人達に公平にエネルギーを無償で届けたいと本気で願っているSSG最高責任者Dr.ベガパンクはいつでも資金援助を必要としている。
ドフラミンゴがかいあげた研究所はミンク族や電気が扱える魚人達が奴隷達にとってかわり、他の奴隷達は買い上げた分をドフラミンゴのシマのどこかで働いて返すシステムの対象となった。
モネとシュガーはそのままドフラミンゴファミリー入りとなった。
その研究所はドレスローザに移設された。
モネのユキユキの影響力で一部極寒の地となったドレスローザでは、太陽光発電に加えて雪発電も試運転が始まった。ドフラミンゴ曰く摩擦帯電を利用した物らしい。モノとモノがこすれ合って静電気が発生する現象のことだ。
冬に衣服を脱ぐときや、車から降りてドアを閉める時など、「パチッ」と音がする、あの現象である。プラスに帯電したものと、マイナスに帯電したものが近づくと、マイナスの電気はプラスに帯電した側に戻ろうとする。この動きがいわゆる「放電」であり、その時、ものとものの間に電流が生じているため、雪がモノに触れた時生じる摩擦の静電気を利用するものだ。
雪はプラスに帯電しており、地上に降るまでの間放電しやすくなっている。雪と衝突した時に放電が発生しやすい材料を探した結果、シリコンがもっとも良いという結果になった。
シリコンは入手も容易で、3Dプリンターでの成型も簡単だ。低コストで大量に生産することができる。電極とシリコンを積層させ、柔軟性、伸縮性、耐性に優れた薄型デバイスを作り上げた。「雪発電」を併用すれば、北国の太陽光発電所は発電効率を大幅に改善することができる。
この技術は他にも幅広い分野で応用が期待できる。ただモネのユキユキありきではある。
「そういうわけだから、勧誘はお断りさせてもらうわ、ベポ。13年前のあの地獄の日々から救い出してくれたドフラミンゴ様から引き抜かれるわけにはいかないのよ。そもそもシュガーと離れ離れになるじゃない、そんなの嫌よ」
ドレスローザの港周辺は極寒の冬島と化しているため、特別性の燃料で動く船の持ち主か、“世界最強の男”として名高い“白ひげ”エドワード・ニューゲート率いる白ひげ海賊団の傘下の海賊団で船長を務める「氷の魔女」ホワイティベイの砕氷船に乗せてもらうしか寄港する方法は存在しない。
今日も雪に沈められていく海賊船をみながら、ベポは残念そうに肩をすくめた。ハートの海賊団は極寒の北の海生まれの船員たちが多く、海戦を得意とする。もしモネが来てくれたら百人力なのだがけんもほろろである。無理もないが。
「あなた達が傘下に降ればいいじゃないの」
「キャプテンが海賊王になりたいっていってるから無理だよ」
「それは残念ね」