ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング 番外編)   作:アズマケイ

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シキvs鷹の目 黒い船について加筆

ゾロをシャボンディ諸島まで送るために共に旅立ったペローナを見送り、鷹の目のミホークことジュラキュール・ミホークは、長らく拠点にしていたシッケアールに別れを告げた。行き先はもちろん2年前密約を交わしていた砂漠の王サー・クロコダイルの潜伏しているバギーズデリバリーである。

 

クロスギルドを宣伝するチラシ片手である。最大の特徴は、海賊や犯罪者ではなく海兵を賞金首にするという、前代未聞の事業を行なっている点である。

 

従来の常識であれば、海兵を前にした場合の海賊の行動は「逃げる」のが基本であり、「襲う」などまずありえなかった。

 

これは、そもそも海賊からすれば「返り討ちにされかねない」「徒に懸賞金が上がり、危険視されて優先的に排除しに来られる可能性が高まる」「物資の略奪なら民間を襲えば良い」等の理由から、海兵を襲うメリットがほとんど無いため。それでも海兵を襲撃するとすれば「海兵個人への復讐」「護送中の重要物品や仲間の奪還」「緊急時」など、何らかの特殊な動機が必要であった。

 

だが、海兵を賞金首にするシステムが完成したことで、海賊にとっては、海兵を積極的に襲うことに大きなインセンティブが生まれた。

つまり、海兵からすると、海賊との戦闘の機会が大きく増え、対処がこれまで以上に困難になる。

 

また、海軍本部で最も恐れられているのは、この組織の存在による政情不安の拡大。

 

ブランニュー准将は、天上金を納められない国による混乱・革命軍主導による世界政府に対する反乱が多発している中で、海軍と敵対する者を増やすこの組織を「極めて危険な組織」と評しており、この組織の出現が如何にとんでもないものであったかが窺える。

 

実際海兵にとっては、海賊に襲われる危険が飛躍的に増えるだけでなく、市民にさえ狩られる恐怖を味わううえ、市民から敬愛されてきた海兵でさえ例外でないことから、全体の士気も大きく削がれてしまう可能性がある。

 

これはつまり、一般民が新たに海賊や犯罪者になる土壌を与えたことになるため、大海賊時代を生み出して世間から憎まれたゴール・D・ロジャー同様に、民衆を混沌の方向に煽動し社会秩序を根底から覆しかねない危険性を持つ。

 

海兵を狙う犯罪者は、Tボーンを殺した男のように、国の崩壊などで家族をまともに養えない環境の中で愛する家族を養うために狙う者が多く出てくる可能性が高い。他者の愛を利用するというクロコダイルがアラバスタ王国転覆でしてきた手法にも連なっている。

 

なお、この懸賞金システムの発起人はクロコダイルであるが、ミホークは以前から個人的趣向として海兵狩りを行ってきた。

 

つまり、ミホークの趣向とクロコダイルの組織転覆術とバギーの海賊派遣の合わせ技がこのシステムとも言える。

 

問題はどこをどうみてもミホークとクロコダイルがバギーの部下にしか見えないことだろうか。借金の取り立てのタイミングも最悪だった。クロスギルドの広告をみた海軍が派遣した戦艦を2人がたまたま沈めてしまったために、どこをどうみても広告が事実にしか見えなくなってしまったのだ。

 

ミホークもとんでもない屈辱なのは間違いなかったのだが、ミホークが王下七武海を脱退したと世界政府と海軍が判断することの方が大事だった。ようやく正々堂々と四皇や準四皇に挑むことができるようになったからだ。

 

「何とか、なんとか堪えて、ワニちゃん!今動いたらダメだから!シャンクスやホーミングさんが面白がって乱入してくるから!」

 

「おれの決闘を邪魔するというならば、クロスギルドから抜けるぞ」

 

「..................ちッ」

 

心底面白くないという顔をしながらも、なんとかミホークとバギーの仲裁により、クロコダイルは矛を収めたが、超絶不機嫌である。

 

ミホークは邪魔が入らないことを確認すると、そのまま建物から外に出た。空を見上げた。

 

「......あれ、まさか決闘ってこの島でする感じ......?」

 

「なにを当たり前のことをいってんだ、てめーは」

 

バギーは冷や汗がダラダラである。ミホークの覇気にあてられて、覇王色でもないのに、その威圧感にばったばったと部下達が倒れ始めたのだ。今日も今日とてクロコダイルからの取り立てのためにバギーズデリバリーはフル稼働じゃなければならないのにだ。あわわわわ、となっているバギーにクロコダイルは舌打ちをした。

 

高度一万メートルにあるはずのメルヴィユを囲う積乱雲は次第に近づいてきている。

 

「追う側なのは久しぶりだ」

 

にやりとミホークは不敵に笑う。本気の時だけ抜くことが知られている背中の名刀「夜」が音もなく抜かれ、真っ直ぐに空に向けられる。

 

「いざ、尋常に勝負だ、金獅子のシキよ。この一撃をどう捌く!」

 

高らかに宣言されたと同時にバリバリバリと覇気を纏いながら「夜」が振り下ろされ、飛ぶ斬撃が空を二分した。真っ二つに裂かれた積乱雲の向こう側には、メルベイユが姿を現した。しかし、そこまではとどかない。

 

───────いや、届いていたはずなのに、その斬撃はメルベイユに到達する前になんらかの防護壁により防がれてしまった。メルベイユを取り囲むようになにやら半透明の膜がはってあるのか、虹色にみえる。

 

「シャボンシールドか」

 

「ジハハハハッ、メルベイユ堕とされたら、ホーミングがおこるからな。悪く思うなよ、小童が」

 

積乱雲が取り払われたことでメルベイユを取り囲むようにたくさんの空島が浮かんでいるのがわかる。

 

「さあ、はじめようか。リハビリしたとはいえ、新しい足がどこまでやれるか」

 

ニヤリと笑ったシキは、次々と空島を投下しながら足場を確保し、攻撃を開始する。

 

この日、ハレダス博士の偉大なる航路全域の天気予報は大外れとなる。ウォーターセブンは浮島になっていなければ今頃沈没しているところだったという。

 

 

 

 

 

 

その日、凪の帯に安全地帯は消失した。その悪影響をもろに受けたのは、偉大なる航路前半部の凪の帯内に存在する女ヶ島にある国家。アマゾン・リリー。島の殆どがジャングルとなっており、島中央部の高い壁の中に町並みが広がる。君主は皇帝と呼ばれ、九蛇海賊団船長と兼任する形式をなしている。

 

島民は「九蛇」と呼ばれる女系戦闘部族。みな生まれながら戦士として育てられ、逞しく豪快でありながらどこか気品も漂わせている。本来ならば偉大なる航路などで活躍する猛者達のみしか体得出来ない覇気を、島の守備を行う戦士全員が会得しているという驚異的な戦闘能力の高さを誇っている。

 

九蛇海賊団のメンバーは、この戦士達の中から選抜されてる。海賊国家で世界政府非加盟国だが、“凪の帯”が外敵から護ってくれている。九蛇の海賊船は獰猛な毒海蛇「遊蛇」が船を引いているので海王類に襲われることがなく、島への出入りが自由。

 

だが凪の帯によってこの国が安全だったのは一昔前の話、現在は技術の進歩によりそうではなくなってきている。現皇帝ボア・ハンコックが王下七武海であり海賊を生業にしていても海軍は攻め込んでこない。女ヶ島の海岸より3キロ以内に侵入する事を禁止する協定が「九蛇」と「政府」間で結ばれていた。

 

「......」

 

アマゾン・リリーの住民で最年長の老婆、ニョン婆は苦々しい顔をして望遠鏡を覗きこんでいた。彼女はアマゾン・リリーの最長老兼ご意見番としてその発言力は強く、現皇帝ボア・ハンコックに唯一まともに諌言出来る。しかしその口うるささからハンコックに疎まれている。それでも強靭な精神力で一切めげない。

 

その正体は、アマゾン・リリー先々々代の皇帝。本名はグロリオーサ。

 

「またあの船ではニャいか......」

 

正体不明の真っ黒な戦艦が航海し始めてからもうすぐ2年になる。協定により3キロ以内には近づいてこない時点で、世界政府、もしくは海軍の戦艦なのは明らかだった。

 

ホーミングの見聞色により、王下七武海制度そのものの存続が危ぶまれる未来を見据えて、すでにアマゾン・リリーはリュウグウ王国と国交を結び、互いに防衛を固めていた。今のアマゾン・リリーに近づくには、事前に通知がなければ問答無用で凪の帯にいる海王類達により海の藻屑になることになっている。

 

ニョン婆は黒い風船にくくりつけた手紙を空に向かって飛ばしていく。それはやがてバロンターミナルの真下の雲に到達し、ウミット海運が回収することになっていた。

 

バロンターミナルに続々と黒い風船が届く。ひとつひとつを回収し、日時や方角から航路を算出する。バロンターミナルにあるウミット海運の施設の一角にて、海図を眺めながらホーミングは唸っていた。

 

「......まるでこちらを威嚇するように航行していますね。まったく、なにを考えているのやら......誰が乗ってるかわかったものじゃない」

 

ホーミングは真っ黒な戦艦が目撃された場所を地図に刻みながら思案する。

 

「アマゾン・リリーあたりが危ないか......?いや、トンタッタのことを考えたらドレスローザが......リュウグウ王国も天竜人殺害未遂事件という建前を得ている。問題は優先順位だな.....」

 

「グララララ、忙しそうだな、ホーミング」

 

「何の御用ですか、ニューゲート。そちらの移住計画は順調そのものだと聞いているんですがね」

 

「案外、試し撃するにしても、距離ってのはバカにできねえとは思わねえか?」

 

「ルルシアの件ですか?」

 

「近くにあったから、もありえるぞ。それだけの王がいたんだろう?」

 

「......まあ、否定はしません。だとしたら、古代兵器プルトンの試運転はアマゾン・リリーやルスカイナあたりが標的になりかねませんね。最悪を想定して動く必要があります」

 

「浮かせてしまうのか?」

 

「いえ、彼女達の国はその成り立ちからみても極めて特殊ですからね、現状は据え置きでいいでしょう。リュウグウ王国と絡めて凪の帯を海王類あたりに守らせます。今回の古代兵器ポセイドンの少女はやる気十分なんだ。警護には姉がついている、心配はいりません。まあ、なんだかんだで一番世界政府がなにもしなければいいのだ。まあ、希望的観測にすぎませんがね」

 

 

 

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