大体一話完結くらいの闇鍋ファンタジー集   作:あほずらもぐら

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今回の主人公は料理好きな少女「ゴアメ」です。
料理を題材にする関係上、ややグロテスクな場面が
ありますが、予めご了承下さい。





武装地帯

 

 

 

 

 

 

 

 

『何処だ……何処にいる……!』

 

 

少年は仲間たちと組んで狩りをしていた。

しかし大型魔物の襲撃によって分断されてしまい、

不幸にもたった一人で森を彷徨っていたのだ……

 

ならば狼煙で救助を要請すれば良いと思うかも

知れないが、そうは出来ない理由があった。

彼は密猟団の一員であり、万が一にも救助など

呼んでしまえばその場で殺されるかも知れない。

 

恐らく、暗くなる前に脱出するのは無理だろう。

地図や灯りを持っていた仲間とは逸れてしまい、 

隠し道を通らず迂闊に外へ出れば巡回に捕まって

牢獄に放り込まれる。

 

 

『やはり、どこかで野宿するべきだな……』

 

 

少年が溜息を吐いた次の瞬間、悲鳴が聞こえた。

それも仲間のものだ、只事ではない!

 

 

『やばいな、魔物が追って来たか!?』

 

 

密猟団同士で仲間意識や友情がない訳ではないが、

生きるか死ぬかの瀬戸際であれば話は別だ……

上着を脱ぎ捨てて全速力でこの場から離れる為に

少年は走り出したが、彼は足元の確認を怠った。

 

 

『うわっ!』

 

 

仕掛けられていた金属製のロープに足が絡み付き、

滑車で空中に吊り上げられる……罠だ。

自分達の組織が仕掛けたものではない、恐らくは

無数にいる同業者の誰かが設置したものだろう。

 

金属ワイヤーで編まれた細く頑丈なロープは

普通のナイフでは切る事が出来ず、結び目は

アイロンで潰されている為に脱出も不可能。

 

 

『畜生……どうすれば!』

 

 

このまま頭に血が上って死ぬか、足首が腐り落ちて

死ぬか、魔物の餌になって死ぬか……あるいは、

密猟者の銃の的にされるか、サキュバスに攫われて

残りの人生を奴隷として過ごすか。

 

 

『神様お願いします、許して下さい……』

 

 

少年は空中に吊るされたまま指で十字を切り、

手を合わせて祈った。30分、1時間、2時間、

5時間、10時間、涙を流しながら祈り続けた。

いつのまにか夜空には月が昇っており、野獣の

咆哮や何かの足音だけが聞こえる。それは

ブーツの音によく似ていたので、彼は叫んだ。

 

 

『誰かそこにいるのか!?頼む、助けてくれ!

何でもするからお慈悲を!』

 

 

少年の目の前に背の高い誰かが現れる。

真っ暗な森の中で顔は見えないが、こちらを

じっと見つめているようだった。

 

 

「……だ、だれ?勝手に入ったらいけない。

あっ、聞くなら自分も名乗らなきゃダメだね……

わたしの名前はゴアメ。」

 

 

目の前にいるのは女性のようだが、真夜中の森を

うろついているような者など異常者しかいない。

少年は彼女を刺激しないよう、全て白状した……

 

 

『ロウだ!密猟しに来たら括り罠にかかって

動けなくなった!憲兵に突き出しても構わない、

何でもするから助けてくれ!』

 

 

彼女は刃物を振り上げ、縄を一撃で切り裂いた。

両手ではなく片手で、固定もされていないのに

キュウリか何かのように容易く切ったのだ。

 

 

『あぁクソ……』

 

 

少年の足は暗がりでも分かる程に変色していた…

暫くどこかで休まなければ、歩く事すら出来ない。

それを察したのか、彼女は少年を担ぎ上げて

どこかへ歩き始めた。

 

 

「あっ、あし、痛いね……少し、休もう……」

 

 

暫く歩くと彼女はそう言って古い小屋の扉を開け、

彼を柔らかいものの上に寝かせた。木を擦る音が

何度か聞こえた後、部屋が明るくなる。

どうやら自分は革のソファに寝かされているらしく

小屋の管理も行き届いているようだった。

 

 

『同業者じゃないよな……何者だ?』

 

 

「密猟団が大勢来るから、色んな山や森を回って

見張りをしてる……主に、冒険者ギルドの依頼。」

 

 

少年の背筋が一気に凍りついた。

彼女は気分次第で自分の事をバラバラにして、

野生動物のエサにしてしまうかも知れない……

くれぐれも機嫌を損ねないようにしなければ。

 

 

『……俺以外の密猟者、いなかったか?』

 

 

「わたしを見たら、みんな逃げ出しちゃった。

もう、この森にはいないんじゃないかな……」

 

 

彼女の身長はとても高く、防具も異国の狩人を

思わせる刺々しい装飾が多い……森の中で急に

出てきたら魔物と勘違いするかも知れない。

 

 

『その……密猟者を見逃しても良いのか?

捕まえないと怒られたりするんじゃ……』

 

 

『わたしが見張ってるって話がちゃんと伝われば、

怖がって悪い密猟者、いなくなる……それに、

密猟者のソシキ的な動きを、ヨソク出来るから。

だから、何割かは見逃すようにしてる……』

 

 

『なら……俺がいる組織の事を知りたくないか?』

 

 

「教えてくれるの?」

 

 

『その代わりとしちゃ何だけど……その、捜査に

協力したって事で、出来ればで良いんだが……』

 

 

「いいよ……私も、ロウに乱暴したくない。」

 

 

彼は安堵し、初めて自分の空腹に気付く。

思えば半日近く何も口にしていない。

 

 

「ご飯、作るね?」

 

 

『待った、お世話になってばかりじゃ悪いよ。

何か手伝う事はないのか?』

 

 

「足、悪くなるといけない……待ってて?」

 

 

そう言うと彼女は地下室に降りてゆき、内側から

かんぬきを掛けた後に鍵を閉めてしまった。

 

 

「塩と胡椒……ローズマリー、レモン、唐辛子、

それからホースラディッシュと、キャベツも……

アレルギーが無いか、ロウに聞いてこなきゃ。」

 

 

『うぅっ!むぅーっ!!』

 

 

フックで吊るされた大きな布の塊が唸る。

それはちょうど人間ほどのサイズでその声は

大きな袋に詰め込まれた男性によく似ており、

視覚と聴覚だけは自由になっているようだった。

 

 

「もう……ダメだよ?次暴れたら、残った

もう片方も食べちゃうからね。」

 

 

『あうぅ……っ……!』

 

 

それは困る、と言うように塊は首を振った。

塊には幾つか赤い染みがあり、つい最近まで

何らかの暴行と治療を受けていたようだ。

 

 

「うんうん……大人しくしてれば、後でちゃんと

わたしがギルドまで送ってあげるからね!」

 

 

『……ぅ……うぅっ!』

 

 

今度は肯定するように激しく頷く。

ゴアメは彼の頭を優しく撫でると、巨大な刃物を

背中の鞘から引き抜いてテーブルに置いた。

 

 

「ロウって苦手なものとかアレルギーとかある?」

 

 

『いや、ないよ……強いて言えば蜘蛛かな。』

 

 

「わかったー!ありがとね!」

 

 

扉越しにロウの声を耳にした布袋は目を見開き、

大量の脂汗と涙を滝のように流した。

 

 

「大丈夫、ロウには指一本触れたりしないよ……

他の皆と違ってちゃんと自首してくれたからね。」

 

 

ゴアメは別の部屋から違う布袋の中身を持ち出して

表面を軽く洗った後、テーブルに乗せる。

 

 

『むぅ……っ!?』

 

 

「よしよし、ちゃんと我慢出来たね……」

 

 

ゴアメは袋の中身を取り出すとナイフを入れて

素早く皮を剥ぎ取り、地下水で汚れを洗い流す。

 

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 

巨大な刃物が肉塊に叩きつけられる。足先や

胸肉、股肉、首肉、スジと切り分けられていき

布袋の中身が徐々に原型を失っていく。

 

 

『フゥッ……ウゥッ、オエエェ、エェェッ!!』

 

 

突如として、並んだ布袋のうち一つが悶え苦しみ

身体を折って激しく暴れ出した……どうやら

耐えられずに吐いてしまったようだ。

密閉された袋の中である為、悪臭は全くしない。

ゴアメは深い溜め息を二度吐き、刃物を置いて

彼を担ぎ上げる。

 

 

「君が騒ぐのは、もう5回目だったよね……」

 

 

『ゆう、いえっ……もういあ、あぁっ!!』

 

 

分厚い袋に遮られてよく聞こえないが、彼が

命乞いをしている事だけははっきりと分かる。

 

 

「落ち着いて、チャンスはあと一回あるから……

良かったねお兄さん。これだけ派手に吐いたら

もう上からは出せないでしょ?」

 

 

別室に連れ込まれた彼が袋から出される。

 

 

『おいよせやめてくれ、きっと不味いって!』

 

 

「わたしは好きだよ?じゃあ、貰うね……」

 

 

『ちょっ……ちょ、ちょっと待って下さい、

待って、助けて、待って下さいお願いします!』

 

 

『ウ”ワ”ァ”ァァァア”ァァア”ァッ!!』

 

 

 

次の瞬間、凄まじい悲鳴が地下室中に響き渡る。

彼がひとしきり叫び終わると、今度は焼きごてで

切り取られた傷口が潰される。

 

 

『あぅ、う、うぅっ……』

 

 

涙と鼻水と涎を垂らし、朦朧とした意識の中

一度だけか細い悲鳴を上げると彼は気絶した。

医療用の強心剤を打たれているにも関わらず、

死ぬ前に意識を手放せたのはかなりの幸運だ。

 

……廃人になっていなければ、の話だが。

 

 

「うーん、ちょっと小さめかな……?」

 

 

ゴアメの口は犠牲者の生き血と体液に塗れ、

鋭く尖った牙が並んだそれは地獄の釜のようだ…

目の前の悪漢たちは、心の底から震え上がる。

 

 

『おい、大丈夫なのか!?』

 

 

「ごめんね……久しぶりにオーブンを掃除したら、

中に大きなゴキブリが隠れてたみたいで……」

 

 

『良かった……ケガはしてないんだな?』

 

 

「うん、大丈夫だよ……ロウは優しいね。きっと

私なんかと違って、友達も沢山いるんだよね……」

 

 

『そうかも知れないけど……友達は数より質だろ?

誰とどれだけ仲良くなれるかが一番重要だって、

俺たちの母ちゃんは言ってたぜ。』

 

 

「………良いお母さんだね。」

 

 

『あぁ、おっかないけど俺の自慢の母ちゃんだ!

でも今頃、心配してるだろうな……三人の子供を

貧乏な中、たった一人で不自由なく育ててさ、

でもやっぱり金が足りないみたいで。』

 

 

「理由があっても無茶したらダメだからね?」

 

 

『肝に命じるよ……あっそうだ、家に帰ったら

この恩は絶対返すからな!』

 

 

「うん……期待しないで待ってるね!」

 

 

 

ゴアメは母親を心から愛していた。

とても美しいアルビノのハイエルフだった……

母親も今の彼女と同じ腕利きの冒険者であり、

国よりも広い森を密猟者や魔物から守っていた。

 

だが死んだ。ゴアメが11歳の頃、密猟者の矢から

ユニコーンを庇って殺されたのだ……それだけなら

まだ良かった。死体の半分でも回収に成功すれば

蘇生の奇跡でどうとでもなるからだ。

 

しかしハイエルフ、それもアルビノの肉ともなれば

何でも治す万能の妙薬として莫大な高値で売れる。

結局、彼女は髪の毛一本残らずに売り飛ばされ、

形見の人斬り包丁だけが手元に残った……

 

母親が望んでいない事を承知でゴアメは復讐した。

悪名を聞きつけた腕利きのはぐれ冒険者と組み、

彼女の肉を口にした者たち……貴族や富豪、王族に

至るまでを皆殺しにし、母のように喰らって来た。

そして遂に母親殺しの実行犯である密猟団の居所を

嗅ぎつける事に成功したのだ。

 

 

「でも……やっぱり、止そう。」

 

 

出来上がった二人分の赤黒いスープ……

長らく迷った末、その片方に彼女は肉を入れず

代わりとして沢山の豆と魚を入れる事にした。

 

 

「……地獄に行くのは、私だけで良いや。」

 

 

二つの鍋を抱え、ゴアメは階段を上がった。

 

 

『うぉッ……すっげぇ美味そうじゃん!

やっぱ冒険者ってみんな金持ちなんだな!

俺も能力が覚醒すればこんなのが食えるのか!?』

 

 

ロウはスープが皿に盛られるなり飛びつく。

骨まで柔らかく煮込まれた魚はとても美味く、

寂れた田舎の都市で育った不良少年にとっては

考え得る限り最高の贅沢品だった。

 

 

『あれ……ゴアメ姉のは肉なんだな。』

 

 

「これ、腐りかけで危ないかも知れないから。

子供は食べたらダメなんだ、ごめんね……」

 

 

『マジかよ!まるで聖人みたいだな……

冒険者がヒーローだって話、嘘だと思ったけど

少なくともゴアメ姉は本物のヒーローだぜ!!

ビクトリーマグナムやスワッシュバックラーも

カッコいいけど、アンタには負ける。』

 

 

「そうかな……でも二人はわたしより強いよ?」

 

 

『実際に会ってみないと、そいつがヒーローか

どうかなんて分からないだろ?』

 

 

「……おかしいね。」

 

 

『何がだ?』

 

 

「わたし、森を傷つける密猟者が大嫌いでさ……

君を見つけた時も、本当は真っ二つにしたかった。

でも君が本当の事を言ってくれたの、嬉しかった。

ほとんどの人は雇った冒険者をけしかけたり、

嘘ついて逃げようとしたけど、君は違った。」

 

 

『俺も、本当の事言わせてくれ。』

 

 

「改まってどうしたの……?」

 

 

『伏せろ!』

 

 

 

次の瞬間、悍ましい唸り声と同時に山小屋の

上半分が吹き飛んだ!

 

 

「………ロウ、わたしの後ろに隠れて!」

 

 

ゴアメは人斬り包丁を構え、声の主と対峙する!

 

 

『チッ……仕留め損なったか、しぶとい女だ。』

 

 

月明かりに照らされて襲撃者の姿が浮かび上がる。

そこには一人の男と、見上げるような巨獣の姿が!

 

 

『ロイ君、よくやり遂げてくれましたねぇ……

仲間の為に損な役回りを進んで引き受ける姿勢、

まさにエイブレイン密猟団員の鑑です!』

 

 

黒衣の冒険者が大袈裟な拍手をすると、巨獣も

それを真似して鉤爪を打ち鳴らした。

 

 

『ゴアメ姉、今まで騙してた……ごめん!

どうしても金が必要で、エイブレイン密猟団の

依頼で、コイツに!』

 

 

『そういう事です……貴女の経歴から察するに

子供なら殺されずに済むと私は考えた訳ですが、

こんなに簡単に引っかかってくれるとはねぇ!』

 

 

「………彼の足、どうなってると思う?」

 

 

『あの罠は魔物用の特注品ですから……もしかして

足、斬れちゃいました?』

 

 

「……どこから、食べて欲しい?」

 

 

『それはこちらの台詞です……どうせ長生きしねぇ

アルビノの耳長ごとき、寿命で死のうが俺たちが

バラそうが変わらないんだよ!世間知らずが!!』

 

 

『ガハハハッ!大人を舐めた報いを受けろぉ!!』

 

 

エイブレインが首輪の制御装置を解除するや否や、

ゴアメ目掛けて巨獣が飛び掛かる!

 

 

『そいつは首刈り砂丘で捕まえたスフィンクス!

並の個体に比べて体長は1.5倍、体重は3倍ある!

高ランクの冒険者だって簡単に殺れる筈だ……!』

 

 

『グルルゥ……ガオォォォォッ!!』

 

 

『あいつ、さっき俺達を襲った魔物だ!!』

 

 

「何で、ロウは仲間じゃないの……!」

 

 

『おーおー、お前バレちまったのかぁ!!

こんなガキ取り逃して……よっぽど高級絨毯に

なりたいらしいなぁ、無能がよぉ!?』

 

 

エイブレインは剃刀めいたブレード付き電磁鞭で

スフィンクスを何度も打ち据える!

 

 

『この役立たずが!失敗が許される!立場か!

世話係のガキまで絆されやがって!クソがぁ!』

 

 

『グギ……ガギャアァッ!』

 

 

鞭程度、彼女にとっては微々たるダメージだが

恐らくは痛がる振りをしないともっと酷い目に

遭わされるのだろう……エルフには自然の声を

聞き取る力があり、エルフと人間の混血である

ゴアメも母親の能力を受け継いでいた。

 

 

「腐れ外道……生きたまま食ってやる……!」

 

 

『ゼェ、ハァ……どうだぁ、思い知ったか!!

また皮剥がされたくなきゃ真面目にやれよ!?』

 

 

『グオォォォォッ!!』

 

 

『ソイツらを殺して俺と一緒に夢を見ようぜ!

高飛びした後、サーカス団に転身して荒稼ぎだ!』

 

 

スフィンクスは神の遣いとして崇められる程の

力を持つ魔物であり、目の前にいるのは中でも

非常に好戦的かつ屈強な若年期のメス。

 

そんな強大極まる高位の神獣を前にして

子供を守りながらの戦闘はリスクが大きい上に

勝ち目も薄い……しかし逃走を選べば近隣住民に

甚大な被害が出る事は明らかだ。

 

 

「わたしが隙を作るから、ロウはギルドに連絡して

高ランクの冒険者を呼んで来て……!」

 

 

『馬鹿言うなよ……殺される!』

 

 

『うるっせぇ!もうお前らは終わりなんだよォ!

スフィンクス、そいつら食い殺せ!』

 

 

スフィンクスは暫く躊躇するが制御首輪を見て

覚悟を決めたのか、二人に飛び掛かる!

 

 

『ガオォォォォッ!!』

 

 

「やるしかないっ!」

 

 

両者の膂力は拮抗しており、スフィンクスの動きが

完全に止まる!しかしエイブレインが追撃!

 

 

『ガキを置いて逃げれば良いものを!!』

 

 

エイブレインの電磁鞭が槍状に変形し、

ゴアメの心臓を狙って一直線に飛び掛かる!

 

 

『ロウ、逃げて!』

 

 

『無駄だァーッ!!』

 

 

エイブレインは自らの輝かしいキャリアを想像し、

人生最大の高笑いをしながら突きを繰り出した。

 

 

キィィインッ!!

 

 

しかし、彼の予想に反してゴアメの絶叫が

今際の断末魔になることは無かった。

 

 

5万ボルトの殺人電撃鞭を素手で掴んだその男は

火傷一つも負っていない……冒険者だ。

彼の顔には何重にも渡って包帯が巻かれており

その歯は全て義歯に置換されていた。

 

 

『お前は……!』

 

 

『俺の仲間を勝手に殺して貰っては困る。』

 

 

彼はゴアメに協力するはぐれ冒険者であり、

その姿を見てエイブレインは激しく動揺した。

 

 

『どういう事だ、貴様は……』

 

 

『顔色が悪いぞ……幽霊でも見たのか?』

 

 

男の装着しているガントレットから巨大な鉤爪が

展開し、恐ろしい斬れ味で鞭を引き裂いた。

 

 

『ゴアメ、スフィンクスを頼む……悪いな。』

 

 

「……無理はしないでね。」

 

 

『まずはお前から殺してやる、チビ野郎!』

 

 

エイブレインが手斧を振り上げるが、既に彼は

敵の側面に移動している!回し蹴りを食らって

悶えるエイブレインに鉤爪で追撃!

 

 

『ひぃ!?』

 

 

エイブレインも手練れ、素早く回避するが

鉤爪で真っ二つに引き裂かれた大木の幹を見て

情けない悲鳴を上げた。この男は並の使い手

ではない……彼の本能が全力でそう告げている。

 

 

『お前如きに遅れを取る程鈍ってはいない。』

 

 

『面白い……元特殊部隊の俺に勝てるかなぁ!?』

 

 

『俺も彼女ほどではないが料理は得意な方だ……

特殊部隊のフルコースといこうじゃないか。』

 

 

手斧と鉤爪が激しく火花を散らし、真空波や

雷魔法が飛び交う!

 

 

「わたしも負けられないね……!」

 

 

スフィンクスの尾は猛毒を持つコブラであり、

仮に背後を取っても油断は出来ない……

 

 

『ガルルッ……ハウゥッ!!』

 

 

「うあぁぁぁぁ!!」

 

 

鋭い爪から放たれた真空波を躱し、人斬り包丁で

蛇の尾を弾き飛ばす!スフィンクスは飛行能力を

有する魔物だが、霧深い森では迂闊に動けないと

踏んで一気に距離を詰め、タックルで吹き飛ばす!

 

 

『ガオォッ!?』

 

 

木の幹に叩きつけられるスフィンクス!しかし

この程度で倒れるような弱敵ではない……

口から光弾を放ち、辺り一面を焼き払う!

 

 

「うぅっ……!?」

 

 

人斬り包丁の防御ごとゴアメを吹き飛ばし、

爪で腕を深々と切り裂いた!

 

 

「しまっ……」

 

 

包丁を弾き飛ばされ、防御手段の無いゴアメに

スフィンクスの尾が牙を剥く!

 

 

『その人に手を出すなクソ野郎……!

お前の相手はこの俺様だ、バケモノォ!!』

 

 

ロイは狩猟用の連装クロスボウを構え、

スフィンクスに向かって引き金を引いた!

研磨されたボルトはスフィンクスの目元を

掠め、数滴の血が垂れる……

 

 

『うわあぁぁ!!許してくれぇ!』

 

 

コブラの吐いた毒液を転がって回避し、

再び引き金を引くが、硬い頭蓋骨に弾かれて

有効打にはならない!

 

 

『畜生!!』

 

 

『馬鹿め……もう死ぬ気でいるのか?』

 

 

更に血塗れの鉤爪を構えたはぐれ冒険者が

死角から忽然と現れてロウを庇い、

スフィンクスの首をワイヤーで絞めて妨害する!

 

 

『えっ、もう倒したのかよ!?』

 

 

エイブレインは両足の健を鉤爪で切断され、

頭に膝蹴りを食らって無様に昏倒していた……

決して弱い冒険者ではなかった筈だが、

あまりにも相手が悪すぎたと言うべきだろう。

 

 

『今しかない!あの技で俺ごと殺れ!』

 

 

前後からの同時攻撃で二つある脳が混乱し、

スフィンクスの動きが鈍る……ゴアメはこの

好機を逃さずに人斬り包丁を拾い、斬撃を放つ!

 

 

牛鬼刀(タウラスゴア)!」

 

 

『ゲギギヤアァァァァァァッ!?』

 

 

ゴアメの斬撃で前方100メートルの草木は

全て薙ぎ倒され、両断されたスフィンクスの

内臓が辺り一面に飛び散る……

はぐれ冒険者は右腕を失い、その場に倒れていた。

暗い森の中でも分かる程に出血している。

 

 

「あぁ、わたし酷いことしちゃった……!」

 

 

『エイブレインの奴は、俺が気絶させておいた。

これでお前の復讐もあと一人……』

 

 

『この兄ちゃんを早く教会に連れて行かねぇと!』

 

 

『いや、その必要はない……』

 

 

はぐれ冒険者はゴアメの人斬り包丁を掴むと

自分の胸に当てた。

 

 

『最後の一人は俺だ。』

 

 

彼は大きく咳き込み、血の塊を吐き出した。

ダメージが内臓まで達しているようだ。

 

 

「………………」

 

 

ゴアメは人斬り包丁を納め、彼を抱きしめる。

 

 

「いい匂い……でもお腹が一杯だから、

あなたの事は食べられないかな……永遠にね。」

 

 

『……涎。』

 

 

彼女は慌てて口元を拭い、彼の傷口にポーションを

かけて出血を止めた……忌々しい迷信の被害者を

増やさない為には、身をもって体験した者が必要だ。

 

それに、誰だって友達には生きていて欲しい。

彼は自分の為に命懸けで王族や貴族に立ち向かい、

何度も危ない所を助けてくれた命の恩人だ……

もう充分過ぎる程に罪を清算したと言って良い。

少なくとも、彼女はそう思っていた。

 

 

「あなたがまだ自分を許せないなら、わたしと

一緒にお母さんのお墓に行こう……?」

 

 

彼は無言で頷くと、煙玉を地面に叩きつけて

一瞬でどこかへ消えてしまった……何らかの

幻術だったのか?それは誰にも分からない。

 

 

「しまった、ロウに聞かれ……」

 

 

ゴアメが慌てて振り返ると、そこには……

 

 

『フゴーッ!フゴーッ!』

 

 

麻酔針を撃ち込まれ爆睡するロウの姿が!

 

 

 

「……最後までお世話になりっぱなしだね。」

 

 

ゴアメは彼が消え去った夜空に手を振ると

水晶玉を取り出し、ギルドに連絡した。

 

 

 

 

翌日、二人は山を降りた……結局、ロウは

大人たちに四時間もお説教され、ゴアメも母親の

仇を非常に美味なソーセージにする事が出来た。

 

頭を失った密猟団は解散、殆どが自首をした事で

噂が広まり、樹海の野生動物たちには平和が戻る。

スフィンクスは生物研究所で保護され、いずれは

故郷の首刈り砂丘へ戻ることも出来るだろう。

そして……

 

 

 

 

ー某国、エルフの森林墓地ー

 

 

 

 

ゴアメは仲間と共に母親の墓前にいた。

 

 

 

「お母さん、わたしにも友達が出来たんだ。」

 

 

ゴアメは生前の母親が好きだった蛇紋百合と

笛茎花を何本か束ね、魔法の花瓶に供えた。

 

 

『………』

 

 

包帯の男は紫色の飛竜草を幾つか持ち込み、

同じように魔法の花瓶へ供える。

 

 

『……これを、墓に埋めてくれないか。』

 

 

彼は遺灰の詰まった小さな瓶を取り出した。

 

 

「えっ!?」

 

 

『かなり少ないが、私が保管していた霊薬から

取り出したお母様の遺灰だ……旅で奪い返した

遺灰と、一緒に撒いてくれないか。』

 

 

「……ありがとう!」

 

 

彼女が遺灰を撒くと、白い花が地面から生えた。

花は一瞬で墓石を覆い尽くし、辺り一面に

雪景色と見紛う程の白い絨毯が敷かれる……

 

 

『エルフは文字通り土に還るとは聞いていたが、

ここまでとはな……』

 

 

「綺麗でしょ……エルフのお墓参りはね、遺灰の

花畑で歌や踊りを見せるんだよ。」

 

 

 

『成程、だから楽器を持って来る必要が……』

 

 

 

ゴアメは弓を模した白いハープを弾き始める。

 

続いて、包帯の男もハーモニカを取り出して

演奏を始めた。

 

 

 

 

ーアーマー・ゾーン 完ー

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラクター紹介:

 

 

 

 コードネーム: ゴアメ

 

 本名: エディス・グラニート

 

 種族: ハーフエルフ

 

 年齢: 14歳  身長: 199cm

 

 冒険者ランク: B

 

 使用魔法: 無属性魔法、炎魔法

 

 所属クラン: グルマンズ

 

密猟者の捕縛、殺害を専門に行う冒険者。

弱者や動物を食い物にする輩への意趣返しとして

抵抗する相手を解体、料理して食べてしまうので

裏社会の人間から非常に恐れられている人物だが

その存在自体が密猟者への抑止力になり得る為に

冒険者ギルドは彼女の行為を黙認している。

 

凶悪な犯罪者に対しては容赦なく制裁を下すが

平時は年相応の温和で不器用な少女であり、

義理堅く献身的な包帯の男に友情を感じていた。

 

 

 

 コードネーム: ???

 

 本名: 不明

 

 種族: 人間

 

 年齢: 推定23歳  身長: 166cm

 

 冒険者ランク: なし

        

 使用魔法: なし

 

 所属クラン: なし

 

「はぐれ冒険者」と呼ばれる無所属の冒険者。

経歴不明ながら圧倒的な戦闘能力の持ち主であり、

何らかの病を治療する為に霊薬を購入していたが

当時はその材料を知らなかったようだ。

 

半年にも満たない短期間でゴアメの仇を次々と

捕捉するなど調査能力も非常に高く、

彼女の復讐を大いに助けた。ハーモニカが得意。

 

 

 

 コードネーム: エイブレイン

 

 本名: 不明

 

 種族: エルフ

 

 年齢: 41歳  身長: 187cm

 

 冒険者ランク: なし

 

 使用魔法: 雷魔法

 

 所属クラン: エイブレイン密猟団

 

密猟団を率いるはぐれ冒険者で、元は自治領の

特殊部隊に所属していたが素行不良により除隊。

ゴアメの母親を殺害した実行犯のうち一人であり

商才や観察眼に長けていた。

 

その優れた観察眼を以て突然現れた包帯の男の

正体を看破するも、口封じに膝蹴りを喰らって

気絶し、物理的な意味でゴアメに食べられた。

 

 

 

 

 

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