大体一話完結くらいの闇鍋ファンタジー集   作:あほずらもぐら

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ロー◯ンのたい焼き美味しい。



キラークイーン

 

 

 

 

 

ー数ヶ月前ー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハッ……始めからこうするつもりだったか?

お前らの事は嫌いじゃあなかったんだがな。」

 

 

サングラスをかけた少年がスコップを杖代わりに

立ち上がり、血を吐いた。複数人の冒険者たちが

彼を追い詰めているのだ……

 

 

「おいおい、お前らの為に何人殺したと思ってる?

そこはもう少し仏心って奴をよォ……」

 

 

先頭にいた若い冒険者が長剣を振り上げようと

身構えた瞬間、彼は凍った唾を吐いて相手の

右目を潰し、全身から氷霧を噴射して逃走する!

 

 

『追いなさい!』

 

 

魔術師らしき女性が声を荒げるが、少年は

気にも留めず背中を見せて全力疾走し、

中指を立てながら冒険者たちを挑発した。

 

 

「だーっはっはっはっは!俺様をハメようなんざ、

テメェらアホ共に出来る訳ねェだろう、間抜け!

豚の尻から産まれた糞野郎共が、覚えてろよ……

全員、この下らねェ裏切りを後悔させてやる!」

 

 

彼は大量の血を吐きながら崖に身を投げ、

雲を突き破って地面に落下する!

 

 

「……まず、生きて帰れたらの話だけど。」

 

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

「う わ ら ば ! !」

 

 

俺はベッドから勢いよく跳ね起き、寝台車両の

天井に思い切り頭をぶつけた。列車の天井は

黒鉄の板で補強されており、びくともしない。

 

 

 

俺の名前はルカ・アウトキャスト。

所謂異世界転生をしてしまっただけの、

どこにでもいるような普通の男だ……

 

 

『目的地のメインパークに到着しまァす……

二日間の長旅、大変お疲れ様でしたァ……』

 

 

車掌の声がやたらねっとりしているのは

前世でも異世界でも変わらないものらしく、

俺は少しホームシック気味になりつつも

寝台電車を後にした。

 

 

「fooooooooッ!!」

 

 

外に出れば、約二日ぶりの直射日光と紫外線、

そして超巨大な魔力駆動の観覧車が

荘厳な面持ちで入場者たちを出迎える……

今日、俺は世界有数の超大型有名テーマパーク、

「ディスティニートピア」に来ていた。

 

冒険者ギルドのマネージャーが株主なので

タダ券を貰ったんだがその日は婚活パーティーの

予定があったらしく、俺に押し付けて来たのだ。

 

しかも特別クエストとか言いながら、

買って来るお土産のリストまで渡して来やがった!

丁度暇してたとはいえ、複雑な気分だぜ……

まぁいつも面倒かけてるから残当かも知れんが。

 

 

 

 

電車内の飯は割高なので、俺は丸々二日間

古い煎餅みたいにガチガチの安い干し肉と

ペミカン(プロテインバーみたいな保存食)

だけで過ごして来た。

 

ペミカンの方ははそこまで不味くもないが、

干し肉は冒険者の俺ですら食べ終わった後は

顎が筋肉痛になる程に硬く、塩気が強いので

二度と買わないと心の底から誓ったよ。

 

俺は最初に目についた串焼き肉の屋台に並ぶ。

大人数で作業している為に料理の提供が早く、

時間も早いからか並んでいる客もいない。

俺は足早に屋台へ向かい、店員に声をかける。

 

 

「……赤身レアステーキ串と酒蒸しザリガニ、

あと炭火焼きミートボール、それから鴨の燻製を」

 

 

『す、すみません!もう完売しましたッ!

次の肉が来るのは3時間後です……!』

 

 

「ちょっ……ピーク前だろ、何で完売した!?

デカい遊園地なんだし、朝でもそれなりに量は

揃えてるんじゃあねェのか?」

 

 

『それが……あるお客様が出発前に仕入れた肉を

一人で全部買ってしまわれて……恐らく団体の

代表か何かだとは思うのですが……』

 

 

「マジかよ……ついてねェな。」

 

 

俺は仕方なく他の屋台に並び、チーズ味の

ポップコーンを買って口の中に放り込んだ。

 

 

ガリッ

 

 

一口目でポップしてないコーンに当たったので

あまりの悲しみに俺は死にたくなった。

 

 

「飯はいつ食っても問題ねェよな。

運が戻って来るまで、射的でもして時間潰すか……」

 

 

俺はなるべく人が並んでいる射的のブースを探し、

最後尾に氷の椅子を作って座り込んだ……

列が大きく進んだら滑って移動すれば良い。

 

 

『おいお前、皆立って並んでるのにずるいぞ!

さっさと僕の分も作れ!』

 

 

「わーったよ、作ってやる……」

 

 

こけしみたいなクソガキが絡んで来たので、

子供用の椅子を氷魔法で作ってやる。

 

 

『ぎゃッ!?』

 

 

クソガキが勢いよく座った瞬間に椅子の脚が

粉々になり、間抜けが尻餅をつく。

大人に対する態度ってのを勉強した方が良いぞ?

 

 

『むぅ……!』

 

 

「何だよ、作ってやったのに不満なのか?」

 

 

『僕は男爵の弟だぞ!そんな態度を取って

許されると思ってるのか!?敬語で話せ!』

 

 

あー、こりゃあ迂闊だったな……木っ端とはいえ

貴族とトラブるなんて、今日は相当な厄日だな。

ともかく、このクソガキをどうにかしないと

俺の今後に関わるかも知れん。しかしよくもまあ

男爵の弟とかいう微妙な立場でイキれるもんだ。

 

 

「これは失礼しました、申し訳ありません……」

 

 

不本意だが、歯を食いしばって頭を下げてやる。

一応は上級国民だからな……あんまり反抗的だと

ニ週間くらい牢屋で過ごす羽目になるんで、

今はコイツの言う事を聞くしかない。

 

 

『どうした?』

 

 

兄らしき大柄な男が現れ、クソガキが耳打ちする。

アンタだけはマトモであってくれよ……

 

 

『フン!』

 

 

俺の願いも虚しく、ガチ無知兄貴が俺の顔面に

大振りのストレートをぶち込んで来やがった!

まぁ、多少鍛えただけの一般人が繰り出す拳なんて

冒険者にとっては埃が舞った程度なんだが……

ここは大袈裟に吹き飛んでみるか。

 

 

「ぐ、ぐっわーー!チョー痛い、殴られたー!」

 

 

ブロードウェイも真っ青の名演技に周囲の視線が

電磁石のように引き寄せられる……頼むから

これで満足してくれよ?

 

 

『無礼者、今すぐに土下座して詫びよ!』

 

 

他の投稿者が書いた小説なら可愛い貴族の女の子が

上手いこと場を収めてくれるんだろうが、ウチは

リアル路線だからそんなラッキーは訪れない……

俺一人の力でコイツらをどうにかする必要がある。

 

 

「どうも、すいませんっした!」

 

 

土下座した瞬間、兄貴が俺の後頭部に足を置く。

 

 

『よろしい、面を上げよ……出来るものならな。

これは男爵である私の命令だぞ?』

 

 

「うーい」

 

 

『おわっ!?』

 

 

俺が首の力だけで足を思い切り跳ね除けると、

男爵様は相撲に負けたカブトムシのように

吹き飛ばされ、無様にすっ転んだ。

 

 

「どうしました?俺ぁ命令に従っただけですよ。」

 

 

『き、貴様……!』

 

 

そのやりとりを見て、野次馬の誰かが鼻で笑った。

いつの時代も上級国民に対する妬みってのは

皆が持っているものらしい……可哀想に。

 

 

『今笑ったのは誰だ!不敬だぞ!!』

 

 

「そうだぞ、男爵殿渾身の一発ギャグなんだから

皆もっと笑わないと。」

 

 

『き、貴様うわっ!?』

 

 

男爵は起き上がろうとして滑り、空中で一回転して

射的の屋台に突っ込む。さっき俺の頭を踏んだ時、

靴底を魔法で凍らせておいたんだ……

やっぱ天丼ネタってのは無条件で笑えるよな。

何人かが堪え切れずに軽く吹き出し、

慌ててくしゃみや咳払いで誤魔化した。

 

 

『ぐぬぬ……調子に乗りやがって……!』

 

 

頭から血を流しながら男爵が起き上がり、

ホラー映画顔負けの鬼気迫る怒りと苦悶の表情で

こちらに向かって来る。

 

 

「あらら……病院行った方が良いんじゃないの?」

 

 

『黙れ!病院に行くのは……』

 

 

男爵は丸太のような腕で俺の胸倉を掴むと、

唾を撒き散らしながら振りかぶって俺の腹に

渾身のパンチを叩き込む!

 

 

『お前ダァ!!』

 

 

俺は凍った掌で拳を受け流し、背中を軽く

押して射的の屋台に突っ込ませる。

屋台の屋根で休んでいた鳥の群れが驚いて脱糞し、

男爵の全身に大量の半固形がトッピングされた……

これはわざとやったんじゃないよ、マジで。

 

 

『ぐぬぅあぁぁぁぁぁ!!』

 

 

「うわ汚ったねぇ!こっち来んなよ!」

 

 

怒り狂った糞だらけの男爵がこっちに向かって

全力疾走して来たので俺は一目散に逃げ出し、

何か使えそうなものがないか辺りを見渡す。

 

 

「アッ!」

 

 

俺はシルクハットを被った可愛らしい小鳥さんを

目撃した……奴こそデスティニートピアの顔にして

滅多に遭遇出来ないと言われるマスコットキャラの

うち一人、「ジャイアルド君」ではないか!?

 

魔法学校の制服を着た大勢の学生達と記念撮影を

しているようだ、あの馬鹿がいくら怒ってても

コイツらを前にしたら流石に止まるだろ。

 

 

『待てえぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 

「ジャイアルド、こいつ何とかしろ!」

 

 

『えっ……キャアァァァァァァッ!?』

 

 

無理もない……一生モノの思い出になる筈の

記念撮影に、突如として全身糞だらけの変態と

サングラスのガキが乱入して来たのだ、悲鳴の

一つや二つも上げたくなるだろうよ。

 

 

『お前らどけ、殺してやるうぅぅ!!』

 

 

「ジャイアルドォ!俺を庇えぇぇ!」

 

 

『わあぁぁっ!このオッサン汚ねぇっ!!』

 

 

そこから先はまさに地獄絵図だった……いや待て、

言い方が悪いな、地獄に失礼だ……とにかく、

この世の終わりに等しい悪夢だった。

 

 

学生の泣き声と男爵の怒号、俺の叫び声が飛び交い

真っ茶色のジャイアルド君だったものが転がり、

駆けつけた警備員が茶色い男爵を取り押さえる。

 

 

そうして、自分以外のほぼ全員を不幸にしながらも

俺は何とか現場から逃げおおせる事に成功した……

おかげでホテルでは学生の声がする度、どこかへ

身を隠す羽目になってしまったが……

 

 

「安いもんだ、ジャイアルド君の一人と

赤の他人の青春くらい……俺が無事で良かった。」

 

 

俺はメロン味のクッキーとでっかいぬいぐるみ、

アロハシャツとジャイアルド君のキーホルダーを

購入すると、自分用に魔法瓶とカチューシャ、

ポストカード10枚セットとジャイアルド君人形、

クッキーの型を購入して帰宅した。

 

   

 

 

 

 

 

ー後日、冒険者ギルド支部ー

 

 

 

 

敏腕ギルドマネージャーとして名を轟かせる

妙齢のハイエルフ、「セラン・レイネス二世」は

沈痛な面持ちで新聞を広げていた。

 

 

 

 

ザック男爵、人気キャラクターと記念撮影中の

修学旅行生に糞尿塗れで突撃!!

 

 

大人気テーマパーク「ディスティニートピア」で

先日の朝10時ごろ、稀に見る珍事件が発生した。

なんと自治領の男爵が糞尿を観に纏った状態で、

修学旅行生達の一団に突撃したのである。

 

目撃者によれば男爵は観光客とトラブルになり、

平民と思しき男性を暴行していたとの事だが

他にも射的の屋台に体当たりするなどの

問題行動を繰り返しており、それが今回の

事件に繋がったと見られている。

 

今回の騒動を受け、貴族評議会は男爵に

「明らかな越権行為と器物損壊罪の疑い」が

あったとして銀貨2300枚の罰金と備品の弁償、

議場での陳謝を命じた。

 

この珍事件には多くの貴族や著名人が反応し、

某ラジオ番組は近日特番を組む予定だという。

 

 

 

 

ディスティニーのマスコットキャラクター

「ジャイアルド君」人気番組へのゲスト出演を

ドタキャン……糞尿ダイブとの関連性は不明

 

 

「ディスティニートピア」の名物キャラクター、

エナガの「ジャイアルド君」が来週放送予定の

人気アトラクション番組「TANBA」への

出演を急遽キャンセルした事が話題になっている。

 

「ディスティニー社」の代表取締役社長は

「やむを得ない緊急の非常事態があった為に

断腸の思いで決断させて頂いた」とコメントし、

糞尿ダイブ事件との関連性を問われた際には

「発言を差し控えさせて頂きます」と答えた。

 

 

 

 

「マネちゃーん……例のアレ、今渡して良い?」

 

 

『……アウトキャストさん、これは何ですか?』

   

 

セランは新聞に掲載された写真を指差し、

アウトキャストの顔面に突きつけた。

 

孔雀の糞尿に塗れ、鬼の形相を浮かべた男爵が

アウトキャストを追いかけて修学旅行中の一団と

ジャイアルド君に突っ込む様子が躍動感に溢れる

構図で鮮明に撮られている……

 

 

「あの遊園地にいるカメラマンって優秀なんだな。」

 

 

『そうですね、モザイク越しでも誰か分かります。』

 

 

「知ってる……でも悪いのはこの男爵(アホ)だ、

ジャイアルドは良い奴だったよ、もう会えないけど。」

 

 

『……貴方には何の過失もないと?』

 

 

「ガワがちょっと汚れただけだろ?中のh……

内臓は辞めるかも知れないけど。」

 

 

『……ジャイアルド君は創業当時から補修を重ね

60年以上も現役で看板キャラとして活躍して来た

生きる伝説なんです……もう職人の方は亡くなって

クリーニング方法を知っている人も殆どいない。』

 

 

「げっ……」

 

 

やっぱりあの場を離れて正解だったな、

現場にいたらあのクソ男爵に責任を押し付けられて

出禁にされていたに違いない。

 

 

『あそこまで汚れてしまったら記念館にも飾れない、

新造しようにもあの質感を再現出来る職人が

果たして今の時代に何人いる事やら。』

 

 

「文句なら男爵に言えよ、俺は悪くねぇ!!」

 

 

『いや、私も貴方に全責任があるとは思いません。

しかしそう思っていない方もいるようで……』

 

 

「誰だよ、その物分かりの悪いバカは?」

 

 

『……Cランクのレッドラムです、一週間後の11時に

貴方に決闘を申し込むと言って来ました。』

 

 

「一方的に決闘を申し込むって事は貴族出身者か……

どうせ男爵がどっかの地方領主に泣きついて、

腕の立つ次男坊あたりを寄越したんだろ?」

 

 

『腕が立つというか……彼女は別格ですね。

冒険者としてのキャリアが浅いだけで、

下手なAランク冒険者より数段強いでしょうし……

まぁ、実際に会ってみればその強さの理由が

嫌でも理解出来ると思いますよ。』

 

 

「へぇ……乞うご期待。」

 

 

マネちゃんが見込んでる相手なら、

久しぶりにガチで行かねェとな……

俺は依頼書と新しい賞金首の手配書を適当に

何枚か貰っていくと、サングラスを戦闘用の

ものに付け替えてその場を後にした。

 

 

相手は貴族、優秀な教官から学んだ武芸と

潤沢な資金で手に入れた高性能な武器や防具、

高級かつバランスの良い食事によって培われた

体力と精神力を持ち合わせている……

実戦で学びつつ“勝ち癖”を身につけ、心身共に

万全なコンディションで挑まなければ負ける。

 

 

 

 

 

ー1週間後ー

 

 

 

 

『…………』

 

 

ルカ・アウトキャスト、D級冒険者としての

コードネームはスーパーヴィラン……

彼が行方をくらましてから約1週間が経過し、

ギルドマネージャーは杞憂と分かっていながらも

若干の不安と心配を募らせていた。

 

 

バタン!

 

 

勢いよく扉を開け、大量の凍死体を担いだ

スーパーヴィランがギルドマネージャーの元へ

スキップめいた駆け足でやって来る。

 

 

『………それで、何人捕まえたのです?』

 

 

彼は凍死体を全て降ろした後、両手を広げた。

 

 

『10人!?』

 

 

「あぁそうだ、早いとこ身元を照合してくれ。

それなりの大物も何人かいる筈だぜ……」

 

 

『憲兵隊を呼んで……それから、破損しないよう

死体を地下室に運んで下さい。』

 

 

彼女は慌てて人を呼び、凍死体を運ばせて

身元の特定を急がせる……

 

 

『念の為、近くの銀行にも連絡をお願いします。』

 

 

皆は暫く忙しいだろうし、ちょっと早いが

さっさと決戦のバトル・フィールドに向かうか。

普段なら宮本武蔵のように焦らしても良いんだが、

今日の相手は貴族だから遅れたら拙いだろう……

 

 

 

 

ー森林の決闘場付近ー

 

 

 

『見つけたぞ……Dランクのスーパーヴィラン!

この前は上手く逃げたようだが、この俺に

見つかったのが貴様の人生最大の不運だな!』

 

 

あのクソ野郎の事だ、そりゃ仕掛けてくるわな……

馬車で移動中に一人の冒険者に絡まれた。

恐らくレッドラムの傘下か何かだろうが……

ここで少しでも体力を消耗させ、あわよくば

俺の首を取ろうって魂胆らしい。

 

 

「おいおい、自殺なら他所でやってくれ。」

 

 

冒険者ギルドに所属する全員が真面目君って

訳じゃあない、中には非合法な”副業”を営む

チンピラ同然のヤバい連中も大勢いる……

この辺りは腕自慢の奴等を集めた弊害だな。 

 

 

「マネちゃんの管轄下でよくもまぁ好き勝手を……

仕方ねぇ、俺が人事部の尻拭いをしてやるか。」

 

 

俺は戦闘仕様の水晶製サングラスをかけ直し、

上着のポケットに両手を突っ込む。

 

 

『なんだ?あまり舐めているt』

 

 

俺はポケットから瓶ジュースを取り出し、空中に

放り投げてアホの視線を誘導すると奴の

間抜け面に右のフルスイングをお見舞いした。

 

 

『い、痛ってぇ……おい!俺は今夜彼女と

会う予定があるのに、顔に傷がついたぞ!?

どう落とし前つけるつもりだクソガキ……!』

 

 

冒険者が無様に鼻血を垂れ流す様を肴に

キャッチした瓶ジュースを一息で飲み干し、

俺は凍りついた拳を構える。

 

 

「心配して貰えるじゃん、良かったな。

その調子で手首も切ったらどうだ?」

 

 

『殺す!』

 

 

「おおっとぉ!?」

 

 

冒険者がポールアームを振り下ろして来た!

デカい口叩くだけあって力は中々強いな……

0.2秒前まで俺がいた地面が縦に割れてる。

 

 

『逃すか!!』

 

 

奴は斬撃で木や岩を雑草のように薙ぎ払い、

遮蔽物に隠れながら逃げ回る俺を追い回す。

 

 

『そこだ!』

 

 

半径数メートルを斬り裂いて更地にすると、

遮蔽物を失った俺に向かって斬撃が飛んで来る。

 

 

氷滑走(アイススケート)

 

 

スーパーヴィランは身を屈め、サッカー選手が

スライディングを決めるような姿勢を取りながら

凍らせた地面を滑って移動し、敵に突っ込む!

 

 

グシャッ!!

  

 

冒険者は両脚を反対側に折れ曲げ、宙を舞う!

 

 

『ちょっ待っ……』

 

 

「裏奥義・佐清ビクトリークラーッシュ!!」

 

 

俺は奴を抱えたまま落下し、凍りついた地面に

頭から突っ込ませた。

 

 

「やベぇ!時間食っちまった……間に合うかな?」

 

 

脚だけを残して地面に突き刺さった冒険者を

放置し、俺は目的地に急行する。

 

 

 

 

 

 

ー数分後ー

 

 

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。

もういる、滅茶苦茶目付きが怖い上に

身長が2m以上の怪物みたいな魔族が、もういる。

 

真っ黒な瞳とノコギリのような牙、赤い角……

見ただけで分かるが、間違いなく俺よりも強い。

正攻法で行ったら2分と持たずに殺される!

 

 

「どうも……おはようございます。」

 

 

だがこういうのは舐められたら終わりだ……

しっかりと挨拶をして、仁義を切らなければ

ビビって礼儀を忘れるような雑魚だとバレる。

俺は彼女の目を見てしっかりと頭を下げ、

相手の反応を伺う。

 

 

『……初めまして、いいお天気ですわね。』

 

 

ぎこちない俺の礼とは正反対の、

異様なまでに洗練された所作で礼が返される。

一日三食全部人間みたいなナリのくせして

礼儀作法はしっかりしてるらしい……

 

 

『いきなりお呼び立てして申し訳ありません、

改めて宜しくお願い致しますわ、ルカ様……

さぁ、顔をお上げになって下さいまし。』

 

 

「はい……」

 

 

自分より後に到着した事について、嫌味の一つや

二つは言って来るだろうと覚悟していたんだが……

この女はあくまでシラを切るつもりらしい、

自分は全くの無関係だと言わんばかりの態度だな。

 

 

ギルドから派遣された立会人が両者の間に立ち、

二人に試合形式の説明を始める。

 

 

『では両者揃った所で……ルールの再確認を。

今回の決闘はベアーナックルレギュレーション、

一対一で飛び道具と急所への攻撃はあり、そして

降参はなし……最も実戦寄りの形式です。』

 

 

『立会人が鐘を鳴らした直後に試合開始、

どちらかが気絶、もしくは戦闘不能と判断された

場合のみ決着しますが、5時間以上経過した場合は

無効試合とし、双方が同意すれば後日形式を変更して

再戦という形になります。』

 

 

「OK!」

 

 

『OKですわ!』

 

 

 

ゴウンッ!!

 

 

試合開始を告げる鐘が鳴り響き、両者は

前に出て互いに睨み合う。

 

 

「改めて、宜しくお願いします!」

 

 

スーパーヴィランは再び礼をする。

彼の全身にはびっしりと霜が付着しており、

その息は真っ白に濁っていた……

 

 

『えぇ、良い試合n』

 

 

「かかったな、死ねぇい!!」

 

 

レッドラムが礼を返した瞬間、スーパーヴィランは

凄まじい勢いで飛び蹴りを繰り出して彼女の巨躯を

20メートルばかり吹き飛ばし、壁に叩きつける!

爆音と同時に激しい土煙が舞い上がり、

彼は満面の笑みを浮かべた。

 

 

「いやー、どっちが勝ってもおかしくない

良い試合だったな……」

 

 

次の瞬間、黒い炎を纏った斬撃が飛び、

勝ち誇る彼の頬を掠めた……

 

 

「なーんて、そんな簡単にくたばる訳ねェか。」

 

 

レッドラムはグレートソードと見紛う程の

巨大なフランベルジェを背中のベルトから抜き、

人食い鮫のような牙を剥き出しにして微笑む。

 

   

『フフッ、今のは結構効きましてよ?貴方、

私が思っている以上の腕をお持ちですのね……』

 

 

「多分だけど、アンタ武家の出身でしょう。

それなのに今のでキレないんですか。」

 

 

『何の為にベアーナックルにしたとお思いで?』

 

 

「うわっ!?」

 

 

レッドラムは恐竜のような刺々しい尻尾を

振り回し、スーパーヴィランの足元を掬う!

 

 

『私もこういう事をするのが好きなのです♪』

 

 

「やべぇぇ!!」

 

 

スーパーヴィランはフランベルジュの突きを

ギリギリで躱し、背中のスコップを抜いた。

 

 

『もっと楽しみましょう?』

 

 

「ちょ、無理、死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

 

鋭い踏み込みから繰り出される回転斬りを

スコップで止めにかかるが、圧倒的な腕力で

一気に壁際まで追い込まれてしまう!

  

 

「ぬおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

しかし、壁に挟まれるまであと一歩という所で

レッドラムの快進撃が止まった!

スーパーヴィランが自らの足元を凍りつかせ、

ギリギリの所で踏ん張っているのだ!

 

 

『…………?』

 

 

レッドラムは彼の防具の隙間から白い煙が

漏れ出している事に気付いた……

 

 

ボゴオォッ!!

 

 

次の瞬間、不自然に曇った爆発音が鳴り響き

スーパーヴィランがレッドラムを押し返す!

防具の隙間を覆っていた分厚い氷が溶け、

予め内部に溜めていた大量の二酸化炭素が

ロケットエンジンめいて噴き出したのだ!

 

 

『きゃっ!』

 

 

一瞬ではあるがレッドラムの屈強な体幹が揺らぐ。

その隙を見逃すスーパーヴィランではない!

敵の肝臓を狙って必殺の右ストレートを叩き込む! 

 

 

 

氷爆(ハボク)!」

 

 

拳の表面を覆っていたドライアイスが

パンチの摩擦によって急速に融解、一気に

800倍もの体積に膨張して爆発を起こす!

 

 

ドッギャアァァァァンッ!!

 

 

レッドラムは決闘場の分厚い金属壁に

減り込み、突き破る程の勢いで吹き飛ばされる!

 

 

「ここで殺す!」

 

 

スーパーヴィランはスコップで追撃を試みるが、

起き上がって来たレッドラムの剣がそれを弾く。

 

 

『そろそろ、私の芸も見て頂きましょうか。』

 

 

彼女が剣を一振りすると真っ黒な炎が剣を包み、

スーパーヴィランに向けられる殺気が増した……

 

 

「……ヤバい!」

 

 

竜血黒剣(ブラックグラム)!』

 

 

彼が慌てて後ろに下がった瞬間、レッドラムが

恐ろしい踏み込みから重い斬撃を繰り出し、

彼の首を浅く切り裂いた。

 

 

(歩幅がデカいせいで、踏み込みのリーチが

文字通りの桁違いになってやがる……!)

 

 

スーパーヴィランは首の傷を凍らせて止血しながら

額から滝のような汗を垂らす……黒い火によって

焼かれた部位は組織が爛れて壊死しており、

彼は急速に体温が下がったような感覚に陥った。

 

 

『フフッ、初めて斬られて下さいましたわね……

驚いた顔も可愛らしくってよ?』

 

 

「じゃあ、顔の近くを傷付けないで下さいよ。」

 

 

サングラスを片手で元に戻したスーパーヴィランは

フランベルジェの突きをスコップの側面で受け止め、

巧みに受け流してローキックを繰り出す!

 

 

『レディを足蹴にするなんて非道い方ですわね。

少しお灸を据えて差し上げますわ!』

 

 

しかしレッドラムは全く怯まず、逆にタックルで

スーパーヴィランを吹き飛ばした!

 

 

「……やるんなら今しかねェな。」

 

 

しかし、スーパーヴィランは狙ったかのように

両腕を構えた防御姿勢でダメージを最小限に

抑えつつ、レッドラムの間合いから素早く離脱!

 

 

逆氷柱(リバイス・ピラー)!」

 

 

彼が手を地面に押し当て、魔力を地中に送り込むと

突如として大量の氷塊が地面から迫り出し、

レッドラムを勢いよく上空に打ち上げた!

 

 

『ぐえぇっ!!湧き水もないのに、

どうやってこの量の氷塊を一瞬で……!?』

 

 

スーパーヴィランは勝ち誇った表情で

驚き、苦悶するレッドラムの質問に答える。

 

 

「この決闘場には清掃用のスプリンクラーがある。

スプリンクラーがあるなら、貯水槽か水道も

必ず存在する……ここの青写真の写しで、

予め貯水槽の場所は把握してあるんだよ。」

 

 

スーパーヴィランは打ち上げられて無防備になった

レッドラムに飛びかかり、両拳に氷を纏わせて

猛烈なラッシュを繰り出す!

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 

 

「オラァッ!!」

 

 

フィニッシュの重いスクリューブローを食らい、

レッドラムは高高度から隕石のような速度で

地面に叩きつけられ、遂に血を吐いた……

 

 

『フフフッ、今ので何本か逝きましたわよ。

でも……貴方もかなり消耗したんでしょう?』

 

 

レッドラムは苦悶と恍惚が入り混じった笑みを

浮かべながら、優しい口調で彼に尋ねる。

 

 

「アンタこそ、格下のガキに負けそうになって

相当焦ってるんじゃあないですか……?」

 

 

『……格下と思ったことは一度もなくってよ。』

 

 

スーパーヴィランは嬉しそうに鼻で笑った後に

最上級の殺意と敬意を込めた目でレッドラムを

激しく睨みつけ、スコップを構えた。

 

 

レッドラムも床に突き刺さったフランベルジェを

引き抜き、息を整えてから中段で構える。

 

 

 

氷鎌(アイシクル)!」

 

竜血影剣(シャドウグラム)!』

 

 

 

絶対零度を纏ったスコップと黒く燃え上がる

フランベルジェが互いの持ち主を引き裂くと、

両者はすれ違い様に激しい血飛沫を上げ、

武器を取り落として膝から崩れ落ち……ない!

 

 

二人は立ち上がってそれぞれ拳を握りしめ、

混濁し、朦朧とする意識の中それを構えた。

 

 

氷砕一閃(アイスブレイク)!」

 

破城槌(バトリングラム)!』

 

 

相討ちを覚悟して放った正確な打撃がレッドラムの

脳を揺さぶり、火山弾の如き大質量の燃える拳が

スーパーヴィランを吹き飛ばして壁に叩きつける!

 

 

『りょ……両者同時に戦闘不能、勝者なし!

よって、今回の決闘は無効試合としますッ!!』

 

 

「は、早くお嬢様と対戦相手を治療するぞ!

外科医と聖職者は急いで準備をするんだ!」

 

 

二人が気絶した事を確認すると

ギルドの立会人は悲鳴を上げるように審判を下し、

レッドラムの召使いが二人を担ぎ上げた……

 

 

 

 

 

ー数時間後、□□□□にてー

 

 

 

 

「総統、夜中過ぎたら子供たちに……って、

なんだ夢か……」

 

 

待てよ、どこまでが夢でどこからが現実だ?

実はレッドラムを殴り倒したのも単なる幻覚で、

俺は彼女に一撃でやられただけかも知れないぞ。

 

 

『おはようございます。』

 

 

そんな事を考えていると、本人がドアを開けて

部屋に入って来た……どうやら俺が目覚めるまで

ドアの前でわざわざ待っていたらしい。

 

 

「あっ……おはようございます。」

 

 

『どこか痛みますか?』

 

 

「いやぁ……大丈夫じゃないっスかね。

特に調子が悪い場所はありませんし……」

 

 

『良かった!前に本気で殴った相手の上半身が

千切れ飛んでしまった事があったので、

心配で様子を見に来たんですの。』

 

 

「お、お気遣いありがとうございます!」

 

 

千切れ飛ぶだけで済むのか……あの威力なら

骨ごと砕かれて挽肉になりそうなもんだが。

 

 

「ええと……解散とかしないんスか?」

 

 

『あら、もしかして急いでますの?』

 

 

「そういう訳じゃないけど……単なる決闘だし、

もうこれ以上俺なんかに構う理由ないんじゃ……

ほら、男爵様に報告もあるだろうし……ね?」

 

 

『男爵?何の話をしていらっしゃるのですか?』

 

 

「この前起きた男爵の事件の……アレで、

俺にその……用があっていらしたんでしょ?」

 

 

『あら、鋭いですわね!』

 

 

レッドラムは新聞記事の切り抜きをポケットから

取り出し、アウトキャストに見せた。

 

 

『実はこの現場に私も居合わせておりましたの。

男爵とのやり取りも全て見ていましたわ……』

 

 

「……つまり?」

 

 

『お恥ずかしい話なのですが、仲間と別れる事に

なってしまいまして……1人でやっていくか、

後釜を募るか迷っていた時に貴族相手でも

物怖じせずに立ち向かった貴方を見かけて

これも運命かな、と思いましたの。』

 

 

成程、それでテストしたのか……ってえぇ!?

ちょっと待て、何か勘違いされてるぞ……

俺はあの男爵が気に食わなかったから証拠を

残さないように仕返ししただけだ。

 

 

『それに男爵を上手く誘導し、備品にぶつけて

大恥をかかせた上に罰金まで支払わせたのは

流石としか言いようがありませんわ!

まぁ、学生の皆様は少し可哀想ですが……』

 

 

いや、そこまで考えてないって……確かに

恥かかせてやろうとは思ったけど、あそこまで

大事に発展させるつもりはなかったし…… 

 

 

『勿論、タダでとは言いません……

次の昇格審査では貴方を推薦するつもりですし、

何より私の実家は……』

 

 

「待った……少し考えさせて下さい。」

 

 

『確かに急なお願いでしたわね……

魔族と有効的な関係を築くというのも、相当に

ハードルが高いことでしょう。』

 

 

「いや、そういうのじゃなくて……

ちょっとばかし個人的な理由なんですよ。」

 

 

仲間か……正直言って貴族とのコネクションは

悪くないな。後ろ盾があればさっきのような輩に

絡まれる事も減るだろうし、宗教団体や商人との

交渉でも有用なカードになり得る。

 

しかし、このレッドラムという冒険者を信じて

良いものだろうか?こっちに明確な見返りを

要求して来ないのが気になるし、魔族ってのは

人間を憎んだり見下したりしている連中が

決して少なくないという噂だ……旅の途中で

後ろからバッサリ、なんて事もあるかも知れん。

 

 

 

……仲間は、慎重に選ばなければ。

 

 

 

 

 

『……決まったようですわね。』

 

 

レッドラムが見透かしたように呟く……

言葉に圧は全くない、余裕すら感じられる。

 

 

「あぁ……これからよろしく!」

 

 

差し出されたレッドラムの手を握ると、

彼女は俺のことをそのまま抱きしめて来た……

悪いが、一瞬マジで殺されると思ったよ。

 

まるで熊に襲われているような絵面だが、

尋常じゃないくらいにいい匂いがする。

香水や花の類とは思えないな、何だろう?

 

 

「自分シャワー浴びてないんで、その……」

 

 

『あら、そういえばそうでしたわね。』

 

 

ちょっと息苦しいので適当な言い訳をして

離してもらい、さっさとその場を離れる……

俺だって聖人じゃない、年頃の女の子に

邪な感情の一つや二つ抱く事だってあるさ。

 

異世界にシャワーなんてあるのかよ?と

思うだろうが、これが意外と普及している。

流石にガスや電気はないので冷水だけだが

無いよりは全然マシだし、充分に快適だ。

 

 

「でも、たまには風呂入りたいよな……

建築系の異能持ったローマ人とかこっちに

転生して来たら間違いなく無双出来るのに。」

 

 

そんな愚痴を漏らしつつ、身体を拭いてから

予備のシャツに着替えて部屋に戻るとそこには

二人分の紅茶と菓子が置かれていた。

 

 

『お昼がまだでしょう?』

 

 

レッドラムは湯気の立つ紅茶を静かに注ぎ、

菓子の盛られた皿と一緒に差し出してくれた。

よくあんなデカい手で器用に道具を扱えるな……

俺だったら全部叩き割っているに違いない。

 

 

「い、頂きます……何かすいませんね。」

 

 

『いい加減に敬語はよして下さらないかしら、

私たちはもうお友達ではなくって?』

 

 

「……分かった。」

 

 

レッドラムがチーズケーキを食べたのを見て

俺も同じものを口に放り込んだ……予想だが、

彼女は俺に「毒が盛られてない」ってのを

それとなく伝えたいんだろう。

 

 

「……!?」

 

 

いや、ある意味毒はあったのかも知れない……

表面の色が濃いので普通のチーズケーキかと

思ったが、中身はオーソドックスな生チーズで

油っぽさや甘ったるい感じがしない……これなら

幾らでも食べられそうだ、紅茶とも合う。

 

下のクッキー生地にはオレンジの皮が混ぜてあり

香りと苦味によって全く飽きが来ないし、何より

別皿に盛られた黒いベリーのソースをかければ

味変も出来るし、チーズの臭みも気にならない……

嫌いな人でも食べられるような配慮が見られるな。

 

 

「これ美味いね……今度作り方教えてよ。」

 

 

『はい♪』

 

 

拙いな、いや美味かったんだが……

このままだと俺は完全に胃袋を掴まれてしまう。

散々利用した後で裏切られる前に逃げるつもり

だったのに、コイツの純真さと料理の腕のせいで

早くも俺の計画が音を立てて崩れ始めていた……

 

 

『あら、もしかして足りませんでした?』

 

 

「いや……大丈夫だ。」

 

 

『何やら深刻そうな顔ですわね……私で良ければ

お話くらい聞いてあげましてよ?』

 

 

「大した事じゃないんだ……その……

そうだ!アンタの事をなんて呼べば良いのか

迷ってただけなんだよ!」

 

 

『あぁ、確かに本名を伏せたままですわね!』

 

 

貴族出身の冒険者というのは日常的に本名を

伏せて活動する事が特例で許されている存在だ。

家名やら出身やらが割れると任務中に事故死を

装って暗殺されたり、権力目当ての輩が

際限なく寄って来るからな……

それこそ、親友や家族に等しい仲間にすら

素性を明かさない連中も中にはいるらしい。

 

 

『申し遅れました、私の本名は』

 

 

「待て待て待て待て待て待て、俺が暗殺者や

カルト集団だったらどうするつもりだ!?」

 

 

『フフッ、そうやって止めて下さる方ならば

安心して私の背中をお任せ出来ますわね……

お気遣いに感謝致します。』

 

 

レッドラムはドレスの裾を摘んで恭しく一礼し、

自らの意思で嘘偽りのない本名を彼に伝えた。

 

 

『私の名前はシンビジウム・バアル・イーラ……

“シン”か”イーラ”と呼んで頂ければ幸いですわ、

不束者ですがこれから宜しくお願い致します。』

 

 

この世界の貴族は真ん中に苗字が来るから、

シンビジウムは「バアル」って家の生まれらしい。

如何にも魔族ですって感じの禍々しい名前だ。

 

しかしこの娘、初対面のガキに本名教えるとか

大丈夫かな……今までは仲間が止めてくれたん

だろうが、一人で放っておくのはかなり危ない。

勝手に死なれても寝覚めが悪いし、しばらくは

俺が面倒見てやるか……

 

 

 

ドォォンッ……!

 

 

 

柄にもなくそんな綺麗事を考えていると、

上の階からクソデカ大爆発音とけたたましい

サイレンが鳴り響く……

 

 

「どうした……ってうわ!」

 

 

逃走経路を確保しようと窓を全開にした瞬間、

俺はスカイツリーも真っ青の高さから落ちそうに

なった……シンが慌てて俺を引き上げる。

 

 

『言ってませんでした?ここは私の所有する

空中移動城塞の内部ですのよ、逃げ場なんて

私の背後くらいしかありませんわ!』

 

 

「何が起きてる、サプライズか!?」

 

 

『……爆発物は積んでおりませんし、

消去法で考えるなら敵襲じゃないかしら?』

 

 

「どうしてそんな落ち着いてるんだよ!

早く反撃しないと全員殺され」

 

 

次の瞬間、ハープーンが勢いよく窓を突き破り、

俺の後頭部に弾き返されて壁に突き刺さる。

 

 

「イテェッ!!」

 

 

『何ですの、この棒切れ?』

 

 

レッドラムは壁に刺さったハープーンの弾頭を

無造作に引き抜き、素早く手繰り寄せる。

 

 

『うわあぁぁぁぁ………っ!!』

 

 

ハープーンガンに掴まった軽装の兵士が

高速で窓枠をぶち破って部屋に転がり込んだ……

可哀想に、右手と左足が千切れ飛んでるよ。

 

 

「おい見ろ、デカい飛空挺だぜ!」

 

 

雲を突き破って大型飛空挺が……飛空挺ってのは

飛行船と飛行機とフリゲート船を混ぜたような

ファンタジー作品特有のイカした乗り物だ。

それが要塞に体当たりを仕掛けて来やがった!

 

 

『突入ーッ!』

 

 

次々と窓をぶち破って兵士が中に侵入して来る!

どうやら砲撃やハープーンだけで仕留めるのは

無理だと判断したらしい……

 

 

『アウトキャストを殺せ!仲間も逃すなぁ!

男爵様に奴の首を献上するのだ!』

 

 

「まぁ落ち着け、この家は俺のじゃなくて

隣にいらっしゃるレディ・シンビジウムが」

 

 

『オラァァァッ!』

 

 

俺がシンと襲撃者の間に入った瞬間、

彼女が黒く燃え上がる右腕を振りかざして

10人余りの兵士を壁ごと吹っ飛ばす!

 

 

「ちょ、お前っ……国際問題になるぞ!?」

 

 

『こんな非道い事を平気でおやりになる方々が

人の上に立っている……そう考えただけで、

私は腸が煮えるような気分になりますの……』

 

 

レッドラムは殺気を全開にして周囲を威圧し、

黒い炎を纏ったフランベルジェを構える。

 

 

『武家の生まれとして、高貴な血を引く者として、

何より人の税金で飯食ってる身として絶ッッ対に

野放しにしておけませんわ……!』

 

 

アウトキャスト……いや、スーパーヴィランも

凍結した戦闘用スコップを鞘から引き抜いて

フレームに傷のついたサングラスを装着する。

 

 

「眩しいねェ……久しぶりに熱くなって来たよ、

こりゃあ冷まさないといけねェな。」

 

 

彼はハープーンをスコップで正確に打ち返し、

射手の頭蓋骨を粉砕しながら呟いた……

 

 

「こっ、この化け物!」

 

 

背後から迫って来た兵士がレッドラムに

剣を振り上げるが……

 

 

バキャンッ!

 

 

『ひゃあっ!?』

 

 

鋼の剣は彼女の薄皮一枚斬り裂く事なく

根本からへし折れ、兵士は腰を抜かした。

 

 

『まぁ、否定はしませんわ……』

 

 

レッドラムは兵士の首を握り潰して捨てると

手を叩いて召使いを呼び寄せる。

 

 

『いつものアレ、もう準備出来てまして?』

 

 

『お嬢様、これを……早く……』

 

 

『さっさと持ってって下さい、重いぃ!』

 

 

召使い達は激しくもがき苦しみながら

鎖で繋がれた異常な大きさの錨を縄で引き、

レッドラムの元に運び込んだ。

 

 

『皆ありがとう、では行きますわよ!』

 

 

彼女は錨をまるで小枝のように持ち上げると

極太の鎖に繋がれたそれを軽々と振り回し、

惨状を見て離脱を試みる飛空挺に向かって

全力で投げつける!

 

 

ダァンッ!!

 

 

錨は特殊合金製の甲板を障子戸のように容易く

突き破り、飛空挺の船体にしっかりと食い込んで

完全に固定された。

 

 

『ぃよいしょォ!』

 

 

彼女は鎖を引っ張り、桁外れの腕力で飛空挺を

手繰り寄せると蹴りで船底で大穴を開ける!

 

 

『私はここで敵の離脱を食い止めますわ!

今の内に推進エンジンを破壊して下さいまし!』

 

 

「任せとけ!」

 

 

俺は兵士を一人残らず殴り倒しながら壁を

何枚もぶち破ってエンジンルームを探す。

 

 

「おい、推力エンジンは何処だ!」

 

 

指揮官っぽい奴の胸倉を掴んで持ち上げ、

突撃インタビューを開始する。

 

 

『言えない!奴に殺される!』

 

 

「言わなきゃテメェの腹をカッ捌いた後、

米と出汁を満杯に詰めてから炊いて食ってやる!

俺は本気だぞ!嘘だと思うか!?」

 

 

『分かった、分かった言う!仮眠室の隣だ!

ここに地図があるだろ、一番右上の部屋が

仮眠室だ!床下に隠し通路があって、そこが

エンジンルームへの入口になってる!』

 

 

「よし、ついて来い!」

 

 

俺は縛り上げた指揮官を盾にしながら走り回り、

壁をぶち破って仮眠室に侵入すると床板を

思い切り引き剥がし、エンジンルームへ急ぐ。

 

 

『そ……それだ、推力エンジンは』

 

 

暴風波(ストームライジング)!』

 

 

「おわっ!?」

 

 

勝利を確信する間もなく、台風のように渦を巻いた

強烈な衝撃波が俺に向かって飛んで来る!

凍らせた指揮官を盾代わりにして致命傷は避けたが

俺の身体は激しく吹き飛ばされて壁を突き破り、

飛空挺の外に弾き出されてしまった。

 

 

「おっとっとぉ……危ないじゃないの。」

 

 

掌で凍らせた壁に張り付いて落下を免れた俺に

再び衝撃波が飛ぶが、全く同じ手に二連続で

引っ掛かるほど俺は間抜けじゃない……

スコップを壁に突き刺して足場代わりにし、

壁を駆け上がって衝撃波を回避する!

 

 

『……噂以上の使い手か。』

 

 

戦闘機のパイロットが装着するようなマスクと

大型ファンが接続されたガントレットを構えた

長身の冒険者が低い声で唸る。

 

 

「キャビンアテンダントじゃなさそうだな。」

 

 

『……俺はブラストミルだ、覚える必要はない。』

 

 

ブラストミルと名乗った冒険者はガントレットで

スーパーヴィランの飛び蹴りを弾き返すと、

衝撃波を連続発射して相手を牽制する!

 

 

「それしか出来ねェな、ドライヤー男!」

 

 

『だが船には近寄れまい、このまま死ね!』

 

 

ブラストミルは両腕に装備したガントレットを

連結、変形させて一つの巨大な狙撃砲にした。

 

 

「うぉっ……カッコいいなオイ!?」

 

 

RR・AMT・SR(超長距離・対物仕様・暴風波)!』

 

 

ドオオォォォォォォォンッ!!

 

 

次の瞬間、レーザービームのような衝撃波が

大型飛空挺の二割近くを跡形もなく吹き飛ばし、

爆音と激しい耳鳴りが俺を襲った。

 

 

『……終わったか。』

 

 

「いや、案外そうでもねェらしい……」

 

 

『……貴様どうやって!?』

 

 

まず、雲は大量の水蒸気と氷が集まって出来てる、

そうでなきゃ雨も雪も降る筈ないからな……

 

つまり氷魔法で雲を固めれば踏んだり掴んだり

出来る訳だ。まぁ凍らせて塊にした瞬間から

落下が始まるんで呑気に歩いてる暇はないが、

全力で走れば高度の維持くらいなら出来る。

 

 

「俺が易々と誰かに手の内を明かすと思うか?」

 

 

『ぐわ!!』

 

 

俺は魔力を消耗して動けないブラストミルを

甲板から蹴り落とし、エンジンをもぎ取って

シンビジウムの目の前に投げ捨てた。

 

 

「いる?買ったら高いぜこれ。」

 

 

『一応、騎士の家系ですから……非常時を除いて

金品や物資の略奪は控えるようにしていますわ。

それに貴方の方が商売上手ではなくって?』

 

 

「迷惑料にと思ったが、それもそうだな……

板材とか鉄板は大して高く売れないだろうから

この砦の補修なんかに使ってくれ、早いとこ

穴を塞いでおかないと空賊に襲われるからよ。」

 

 

『じゃあ、有り難く頂戴しますわね……♪』

 

 

シンビジウムは船底から剥がした鉄板を

黒い炎で外壁に溶接し、素手で釘を打ちつけて

損傷箇所を補強する……この娘何でも出来るな、

どうして冒険者なんかやってるんだろう。

 

 

 

 

ー2時間後ー

 

 

 

 

『修理する前よりカッコよくなりましたわね!』

 

 

「あぁ……まぁ……うん……そうだね。」

 

 

要塞の修理が終わった……確かに終わったんだが、

世紀末丸出しの禍々しい鉄塊になってしまった。

 

確かに要塞としては正しい姿なのかも知れない、

しかし令嬢の所有する小綺麗な浮遊要塞の面影は

無惨にも奪われ、どう見ても空賊団の旗艦か

悪の組織の拠点としか思えない姿になっている。

 

 

「あのさ……これってお前の家なんだろ?」

 

 

『ええ、それがどうしましたの?』

 

 

「コレに喧嘩売る奴はそういないと思うけど、

着陸する時、憲兵隊に撃たれないかな……」

 

 

『確かに目印がないと警戒されてしまいますわ!

よく気付いて下さいましたわね……』

 

 

錆止め用の塗料で黒く塗られた鋼の塊に

紋章が刻まれた赤く細長いバナーが垂らされ、

要塞の禍々しさが五割ほど跳ね上がった。

 

 

「………行く所まで来た感じあるな。

昔やってたカナダのゲームでこういう感じの

宇宙要塞作ってる敵組織いたもん……」

 

 

『ところで、この後ご予定はありまして?』

 

 

「いや、特にコレってのは……流石に男爵も

懲りただろうし、騒ぎが収まるまでは休ぎょ」

 

 

『お礼参り行きません?』

 

 

彼女はいつの間にか男爵家の紋章が刻まれた

血判付きの依頼書を持っている。

 

 

「……行くか!」

 

 

 

 

 

 

ー数時間後ー

 

 

 

農場を営む老人は鍬を片手に、悲観的な

深い溜め息を吐いた……大量の作物を作っても、

その売り上げの殆どが税金に取られてしまう。

 

夜逃げして他の領地に行こうにも男爵の私兵が

日夜見張っているために簡単には逃げ出せず、

田畑を耕す日々では外部との繋がりも薄い。

 

足が悪く、車椅子が手放せない息子がいるのに

何の助けにもなってやれない自分が憎かった。

 

 

『いっその事、宇宙人でも襲って来ないかの……』

 

 

彼がタオルで汗を拭いながら呟いたその時……

 

 

キイィィィィィン………

 

 

『はへ?』

 

 

男爵邸の上空に鈍く黒光りする浮遊要塞が着陸し、

禍々しいドラゴンのような二足歩行の生き物と

サングラスをかけた冒険者が現れる。

 

 

 

 

ー数日後ー

 

 

 

男爵邸一日で地図から消える、一体何が?

 

以前の糞尿ダイブ事件から僅か数日、

渦中の男爵に再び悲劇が起こった……

半年前に改築を終えた屋敷が何者かの手で

一夜にして原型が残らない程に破壊されてしまい、

遠方に派遣していた私兵団も全滅したというのだ。

 

現地住民への取材では男爵邸に巨大な飛行物体が

突如飛来、そのまま着陸したという証言が多く

操縦士と見られる人物と大柄な地球外生命体の

目撃情報も寄せられているが、詳細は不明。

 

 

 

『ま、まさか……』

 

 

セランは隣の駐車スペースに停留している

大型の移動要塞を見ながら青ざめた。

 

 

「宇宙人が本当に存在する訳ないだろ、

全くアホな勘違いをする奴がいたもんだぜ。」

 

 

『……何故勘違いだと分かるのです?』

 

 

彼女に問いただされた瞬間、アウトキャストは

スライム退治の依頼書を掲示板から引きちぎり

無言でその場を立ち去った。

 

 

『ちょっ……!』

 

 

そのまま彼は移動要塞に乗り込み、

依頼書に記されたエルフの森へ飛んでいく。

この事件から数週間の間、この辺りの都市では

宇宙人グッズがちょっとしたブームになるのだが、

それはまた別のお話……

 

 

 

 

 

 

 

 完

 

 

 

 

 

 

 

 

ーキャラクター紹介ー

 

 

 

 

 コードネーム: レッドラム

 

 本名: シンビジウム・バアル・イーラ

 

 性別: 女性 

 

 種族: 魔族(サキュバス種の突然変異)

 

 身長: 251cm

 

 使用魔法: 黒魔術

 

 

貴族出身の冒険者。巨人族にも匹敵する程の

怪物じみた身体能力と2メートル超えの体格を

誇る手練れであり、C級では別格の強さ。

 

サキュバスらしい美形ではあるが

魅力よりも先に恐怖を感じるような外見のため

異性から女性として見てもらった事がなく

恋愛経験も希薄で、よく悪い男に引っ掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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