大体一話完結くらいの闇鍋ファンタジー集   作:あほずらもぐら

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更新日の夜〜翌日の昼くらいまでUA数がじわじわ伸びてますね、嬉しい限りです。一部エピソードのタイトルを変えましたが、これは楽曲のタイトルをそのまま使うのは拙いと思い、クレームがついた時に言い訳出来るようにしただけです。

まだ五回目の更新ですが、チートスキル出します。
ヤバかったら後で修正するなり殺すなりして
無かった事にしようと思いますが……



フェイト・オブ・ザ・ブラッド

 

 

 

 

 

「フンッ……フンッ……!」

 

 

女は、自分の屋敷の地下室でひたすらに木刀を

何百、何千と振り回している……暫くすると

満足したのか、それともノルマが終わったのか

木刀を壁に掛けてベンチに座り込む。

 

地下室には大量のトレーニング器具が並んでおり

その全てに使い込まれた形跡が見られたが、

マットや替えの下着、タオルは置かれていない……

そもそも、彼女は汗をかく事がないからだ。

 

 

「……ふぅ、スッキリした。」

 

 

しかし、生前の習慣から彼女は半ば本能的に

身につけた衣服を脱ぎ、鏡の前でポーズを取った。

 

その肌は傷だらけで数ヶ月間放置された屍のように

青白く変色しており、半ば腐敗した状態で時間が

止まっているようだったが、六つに割れた腹筋と

達成感に満ち溢れる表情は死人のそれではなく

見る者に非常にアンバランスな印象を与える……

 

 

「暇だしテレビでも見るっスかねー。」

 

 

彼女はアイスの容器を片手に天然クリスタル製の

大型魔法テレビを眺める……別に何か特定の番組を

見たい訳ではなく、ただ眺めていたいのだ。

 

 

『冒険者カードがリニューアル!今回のSSRは

スワッシュバックラーとサッカーラ、そして

新たなSランク冒険者のバスターが登場だッ!

悪魔に魂を売り飛ばしてでも手に入れろ!』

 

 

「ほーん……」

 

 

冒険者カードというのは、どうやら前世でいう

ベースボールカードのようなものらしく、

特に子供達にはたいへんな人気がある上に

少なくない数の大人も趣味で集めている。

 

 

「冒険者カードねぇ……私も顔が売れたら作って

貰えるものなんスかね?」

 

 

『ニャーッ』

 

 

自分のソファーを奪われた猫が不機嫌そうに鳴き、

後ろ脚で首筋に寄って来た蝿を叩き落とす……

 

 

「失礼な!これでも毎日シャワー浴びてるし、

念の為にお酒飲んで腐臭も消してるっスよ!!

うら若き乙女になんて事言うんスか!?」

 

 

彼女がこの世界に転移して来たのは数年前、

登山中に起きた大規模な落盤事故に巻き込まれて

衝撃で意識を失い、気付けば異世界にいたのだ。

 

 

「大体、誰が安くない餌代を払ってると思って」

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 

テレビに内蔵されたアラームが鳴り響き、

ギルドからの依頼が更新された事を伝えた。

 

 

「……噂をすれば、丁度良いタイミングっスね。」

 

 

彼女は慣れた手付きで新着依頼の一覧を画面に

表示し、詳しい内容を一つ一つ確認する……

 

彼女の住む街は高い壁がある代わりに治安が悪く

魔物よりも不良集団による縄張り争いの仲裁や

貧民街から流れて来た中規模窃盗団の捕縛など

対人戦が想定される依頼が多く届けられるが、

元軍人の彼女からすれば都合が良い環境だ。

 

 

「新着賞金首も銀貨500枚以下の小物ばかり……

こんなの狩っても治安は改善しないっスよ。」

 

 

彼女が愚痴を溢した次の瞬間、隣で寝ていた猫が

突如として激しく取り乱し、彼女の顔を肉球で

何度も叩き始めた!

 

 

『フニャア、フニャアッ!!』

 

 

「ど、どうしたんスか!?」

 

 

 

ズドゴオォォォォンッ!!

 

 

 

「ギャーッ!!」

 

 

窓から砲弾が撃ち込まれて屋敷の一室ごと

彼女の身体を焼き尽くし、大量の瓦礫が

覆い被さる!

 

 

「しっ、死んでなかったら死んでたっス……」

 

 

彼女は瓦礫を持ち上げ、2メートル近い刀身の

戦闘用チェーンソーを取り、エンジンに点火する。

 

 

「このヤロー!!」

 

 

ブオォォォォッ!!

 

 

禍々しいエンジン音を立てて瓦礫が刻まれ、

炎と粉塵の中から「Biohazard」と刺繍された

緑色のコートを羽織った冒険者が現れる……

 

 

『出たぞ……焼却兵、前へ!』

 

 

ドラゴンの頭部を模した火炎放射器を構え、

装甲付きの耐火ローブを装備した一団が

ファランクスめいて密集し、一斉に攻撃する!

 

 

「フンッ!」

 

 

女は近くにあった金属製の棚を蹴り倒して

火炎放射器を防ぎ、赤熱して歪んだそれを

片手で持ち上げると敵に向かって投げ飛ばす!

 

 

ジュウゥゥゥゥ......

 

 

『ぎゃあぁぁっ……身体が燃えるぅっ!!

ひゃあっ熱い、熱いぃぃ!!』

 

 

フレンチトーストめいて潰され、焼かれた兵士が

血の焼ける甘い匂いと煙を漂わせながら

激しく痙攣し、断末魔の悲鳴を上げて死んだ。

 

 

『たっ、大砲の弾は間違いなく直撃したのに……

コイツ、本当に効いているのか!?』

 

 

仲間の無惨な最期と敵の強大さを前にして、

兵士たちに緊張と動揺が走る……

 

 

『怯むな、もう一度火炎放射を!』

 

 

ゴオォォォォォッ!!

 

 

隊長格の男の指示で何とか持ち直した兵士が

再び火炎放射器の引き金を引くが、その対象は

指示を下した隊長格の男だ。

 

黒焦げになった隊長格の男は叫ぶ間もなく倒れ、

その衝撃で炭化した四肢が砕け散る。

 

 

『おいジャック、何をやって……ひっ!』

 

 

隣にいた兵士が彼を取り押さえたがその目は

真っ赤に充血し、口からは胃酸の混じった涎を

絶え間なく垂れ流していた……よく見れば、

彼の首筋には注射器が突き刺さっている。

 

 

『アッガぁぁぁ……ガァウ!!』

 

 

異様な光景を目の前にした兵士が怯んで

腕の力を緩めた瞬間、突如として牙を剥いた男が

哀れな兵士の首筋に食らいつく!

 

 

『ギャアアァァァッ……』

 

 

『おい、大丈夫かっ……てうわっ!?』

 

 

助けようとした兵士も噛まれ、同じような事が

二度、三度と繰り返される……こうして数分後には

全員がイワシのような目をした半死人に変わり、

恐怖の襲撃事件は終わりを告げたのだ。

 

 

「我ながら恐ろしいバイ菌っスね……」

 

 

彼女の異能(ギフト)は即効性の高い病原菌をバラ撒き

パニック映画のような殺人ゾンビを量産、

意のままに操るという数ある異能の中でも

群を抜いて凶悪かつ危険なものだ。

 

しかし、温厚かつ慎重な人物の手に渡ったのは

人々にとって非常に幸運な事かも知れない……

彼女は能力を解除し、未だ放心状態の兵士たちを

縛り上げると頭を抱えた。

 

 

「しかしこの人たち、何処から来たんスかね?

この辺りじゃあんまり見ない格好っス。」

 

 

彼女は辺りを見回しながら呟く。

 

 

「あれ、ネコちゃん?」

 

 

足元を見ると、メモらしき紙切れが落ちている。

 

 

「なんだろ……不在票?」

 

 

お前のネコは俺たちが預かっている、

ネコが大事なら今夜7時に第四埠頭にある

ゴーレム工場の駐車場に来い。

 

              ーM.Uー

 

 

間違いなく罠だ、だが行かなくては。

あのネコは先の三年戦争で死んだ仲間から

預かった形見であり、たった一匹の家族だ。

見捨てれば仲間を裏切る事になる……

 

 

彼女は瓦礫を片付けると地下室へ向かい、

義勇兵募集のポスターが飾られた額縁を傾けて

何らかのスイッチを押すと、部屋の壁が裏返り

大量の武器が飾られた棚が出現した。

 

 

「ダブルショットガン、バリスティックナイフ……

グレネードと軍刀も持って行くっスかね。」

 

 

大量の武器をコートやベルト、ブーツに収納すると

彼女はダブルショットガン用の弾帯を肩から下げ、

ウォッカの入った瓶を箱に詰めて持ち出す……

 

 

(あの統制の取れた動き、単なる民兵や

愚連隊とは考えにくい……相手が大規模な組織なら

私以外にもう少し人手が欲しいっスね。)

 

 

ピリリリリッ!ピリリリリッ!

 

 

その時、まるで彼女の願望に応えるかのように

携帯式の水晶玉が浮かび上がり、送信者不明の

通話要請が表示された。

 

 

「リーパーっス、要件は何スか?」

 

 

『お初に、私はトゥームストーンという者だ。

単刀直入に言おう、タチの悪い連中が20人ほど

貴女の元へ向かっている……』

 

 

水晶玉から仮面の男の立体映像が映し出される。

彼の背は低く、かなり痩せているようだったが

その声と態度には強者特有の威圧感があった。

 

 

「あぁ、その問題ならもう大丈夫っスよ!」

 

 

『その様子だと難なく片付いたか、流石だな。』

 

 

「トゥームストーンさん、アイツら何者っスか?」

 

 

『……良いだろう、最早貴女も無関係ではない。

捜査のついでにと思ったが、教えるべきだな。』

 

 

トゥームストーンは羊皮紙に書かれた資料や

何らかの写真を見ながら説明を始める……

 

 

『襲撃者の名前はソードオブゲルム。

アンデッド排斥思想を持つ過激な傭兵集団で、

主神教会から汚れ仕事を任されているとの噂だ……

先月の誘拐事件も奴等が一枚噛んでいた可能性が

ゼロではないらしくてな、憲兵もマークしている。』

 

 

「聞いた事あるっス……当時は人手を集める為の

よくある方便としか思ってなかったっスけど。」

 

 

『実際、数年前まではアンデッドを専門にした

何処にでもいるような普通の傭兵団だった……

だが先代の団長が引退してから活動が過激になり、

人員の拡充も積極的に行うようになったらしい。

今や冒険者も何人か在籍している大所帯だ……』

 

 

「活動資金は?」

 

 

『主神教会の上層部から支援があったとの噂だが、

私も裏を取れた訳ではない……数人生け捕りにして

拷問にかけたが、末端は何も知らんようだな。』

 

 

血に濡れた短剣を布で拭い、男は答える。

 

 

『しかし、こうして被害者が出てしまった以上

もう放置は出来ん……今すぐ荷物を纏めて

デミゴルゴアにでも亡命しろ、殺されるぞ。

あそこは魔族の国だ、教会も手は出せん……』

 

 

「そういう訳にはいかないっス、私のネコが

アイツらに誘拐されたんスよ……助けないと!」

 

 

『何?おい……俺は全て話せと言った筈だぞ。』

 

 

『も、もう』

 

 

 ミリミリミリミリ……ギリッ、メリィ!

 

 

『ヒギャアッアァァァァ!!』

 

 

右奥歯を引き抜かれた兵士の悲鳴が水晶玉越しに

聞こえたので、彼女は虫歯を削った時の感覚を

思い出し、頬を押さえて涎を飲み込んだ。

 

 

「あ痛たたたたっ……向こうの自業自得とはいえ

ちょっと可哀想になってくるっスね。」

 

 

『何か見返りを要求して来ただろう、金か?』

 

 

「いや、今夜7時に第四埠頭に来いとしか……」

 

 

『……相手は強大な組織、無謀とは言わないが

単独で挑むには猶予が足りないのでは。』

 

 

「まだ知り合って2分っスよ?こんなことは

言いたくないけど、まだ信用ならないっス……」

 

 

『まぁ、話は実際に会ってからでも良かろう……

今の場所に留まっても利はない事だしな。

第四埠頭から今の場所までそう遠くはないし、

俺の受けた依頼にも進展がありそうだ……

お互い、顔を合わせるメリットは充分にある。』

 

 

「うーん、怪しいっスね……」

 

 

『だろうな。こちらも無理強いはしない……

元より、警告の為に連絡をさせてもらったのだ。』

 

 

ドオォォンッ!!

 

 

「なっ、何の音っスか!?」

 

 

『ニトロで家を爆破して痕跡を消した。』

 

 

「随分と思い切ったっスね……」

 

 

『新居を買う金は奴等に立て替えさせれば良い。

確か、待ち合わせ場所は第四埠頭だったな?

明後日までに良いニュースを聞かせてやる……』

 

 

「えっ、ちょっと待」

 

 

 プツン

 

 

トゥームストーンと名乗ったその男は

彼女から最低限必要な情報を聞き出した後、

一方的に通話を打ち切ってしまった。

 

 

「あんなイカれ野郎に任せたらネコちゃんまで

酷い目に遭わされるっス……急がなきゃ!」

 

 

彼女は前世の知識で組み上げた二輪バイクを駆り、

大型チェーンソーで強引に森を切り開きながら

第四埠頭まで直進した。

 

 

『いたぞ、撃ち落とせ!』

 

 

待ち構えていたソードオブゲルムの兵士が一斉に

複合弓を構え、火矢を山なりに放ってリーパーを

全員で集中攻撃する!

 

 

「あ痛っ!」

 

 

リーパーはドリフト走行し車体で矢を弾くが、

全ては防ぎ切れずに被弾!

 

 

「なんて……ねぇ!!」

 

 

彼女は自らの身体に突き刺さり、菌で汚染された

血塗れの矢を敵に向かって投げつけた。

 

 

『ぐげぇ!?』

 

 

兵士に突き刺さった矢は貫通せず、彼の体内に

残留して爆発的に細菌を増殖させる……

 

 

『ぶぅ、ぐおぉ、べぎゅうぅぅぅぅ!!!』

 

 

次の瞬間、兵士の身体が風船のように膨らんで

そのまま破裂し、粉砕された骨と大量の糞尿、

汚染された血液を辺り一面に撒き散らす!

 

 

『何だっ!?』

 

 

「道は開けたっス!」

 

 

ギャオオォォォォッ!!

 

 

リーパーはバイクに乗ったまま敵集団に突っ込むと

ワイバーンの絶叫めいた残虐な駆動音を鳴らして

狂ったように大型チェーンソーを振り回す!

 

 

『ひっ』

 

 

鍔迫り合いで剣ごと叩き斬られ、鎖が脳まで

達した兵士が小さな断末魔を上げて倒れる。

 

それを見て動揺し、隙が出来た者たちも

同じように殺されていく。

 

 

『盾だ、盾であの回る剣を破壊しろ!』

 

 

『『了解!!』』

 

 

円盾を構え、複数人の兵士が一斉に突撃する!

彼らは殆ど同時にシールドバッシュを繰り出し、

激しい火花を散らしながらリーパーを押し込む!

 

 

「ぬんッ!!」

 

 

『今だ、蒸気大砲を準備しろ!』

 

 

大量の管が繋がれた不気味な大砲がリーパーを

睨み、その砲口が黄色い光を放つ!

 

 

「なんかヤバそうっスね……」

 

 

攻撃を受け止めようと彼女が身構えた時だった。

 

 

『シュアァァッ!!』

 

 

黒いコートの男が赤熱する弾丸を兵士の元へ

蹴り返し、爆発で20人余りを一度に殺害する!

 

 

『………おい、やめてくれ、やめ』

 

 

ズドォンッ!!

 

 

男は腰に下げたリボルバーを抜くと命乞いを

完全に無視し、躊躇なく兵士の頭を撃った。

 

 

「ちょっと!?」

 

 

『何だ』

 

 

「殺す事ないでしょ、降伏したのに!」

 

 

『……奴等を助けても石を投げられるだけだ、

貴女なら分かると思っていたのだがな。』

 

 

「……でも、今の攻撃でお互いが

歩み寄るチャンスを失ったかも知れないっス。

それに同胞が手を汚すのは見たくないっスよ!」

 

 

『同胞だと?綺麗事を……』

 

 

鉄仮面の男は不服そうに呟き、溜め息を吐いたが

リーパーには彼が安堵しているようにも見えた。

 

 

『では、改めて名乗らせて貰おう……

俺の名前(コードネーム)はトゥームストーン、賞金稼ぎだ。』

 

 

「自分はリーパー・クラウザーという者っス!

ランクはC、コードネームはアウトブレイカーで

趣味は登山と筋トレっス、よろしく!」

 

 

『さて、本題に入ろう……貴女の飼っている猫だが、

この辺りには猫が何匹もいてな。』

 

 

彼が懐からマタタビの入った袋を取り出した途端、

10匹もの猫が先を争うように殺到する。

 

 

『これだけいるんだ、好きなのを持って行け。』

 

 

「恩に着るっス!どれどれ……」

 

 

彼女の顔が徐々に曇っていくのを見た彼は

まだ息のある兵士を見つけ、片手で首を掴んで

地面に叩きつける!

 

 

『あのネコを何処に隠した……言え!』

 

 

『ほ、本部だっ……ここに居ないなら本部しか

ない筈だ、ここから10キロもない!

増援が向かって来ている……き、貴様ごとき

馬の骨、あの人たちの手にかかれば』

 

 

『黙れ』

 

 

首筋に手刀が打ち込まれると兵士は泡を吹き、

激しく痙攣した後に気を失って崩れ落ちた。

 

 

「すご……なんか武術やってるんスか?」

 

 

『武術と呼べるほど高尚なものではない。

中途半端な、継ぎ接ぎの喧嘩殺法だ……』

 

 

慣れた手付きで殺した兵士から耳を削ぎ落とし、

金属ワイヤーで繋ぎながら男は話す。

恐らくは依頼者に渡すのだろう……

 

 

『俺もその乗り物に乗るべきだろうか。』

 

 

トゥームストーンはリーパーが跨っている

鉄の塊を指差し、少し戸惑った様子で尋ねた。

 

 

「そっちの方が体力温存できるでしょ?」

 

 

『機械は苦手だが、返す言葉もない。』

 

 

彼はそう言ってバイクに飛び乗り、二人は

傭兵団の本拠地へと向かって行く……

 

 

「振り落とされてないっスよね!?

トゥームストーンさん軽いから心配になるっス。」

 

 

『問題ない』

 

 

リーパーは望遠鏡を構え、バリケードを発見すると

チェーンソーの安全装置を外して更に速度を上げた!

 

 

ギャオオォォォォォォンッ!!

 

 

「行くっスよォ!」

 

 

リーパーはチェーンソーを構えたまま跳び上がり、

無造作かつ暴力的なフルスイングを繰り出す!

 

 

冥壊斬(メガスラッシュ)ゥ!!」

 

 

彼女が大型チェーンソーを振り被った瞬間、

刃の中腹に取り付けられたエンジンが発火し

斬撃に凄まじいエネルギーを付与する!

 

 

ドドドドドン……ズッギャアアァァァァッ!!

 

 

その常識外れの威力によって凶暴な衝撃波が生じ

金属製バリケードが消し飛んだ上、辺り一面が

絨毯爆撃に晒されたかのように更地と化した……

 

 

『今の上段、王国軍剣術の”天蓋の構え”だな。』

 

 

耳を塞ぎながら、トゥームストーンが呟く。

 

 

「分かるっスか!?」

 

 

『16の頃にはもう前線に居た、嫌でも見慣れる。

俺は自治領の兵士でな……随分と斬られたが、

お陰で一部の技を盗む事すら出来た。』

 

 

それを聞いたリーパーは悲しそうに俯き、

チェーンソーを背中に下げた鞘へと戻した。

 

 

「私たちの都合に巻き込んでしまったっスね……

以前敵だったとはいえ、申し訳ないっス。」

 

 

『いいんだ、俺には身寄りが無かったからな……

寧ろあの戦争で金を稼げなければ、食う為だけに

盗みや殺しをしていただろう。』

 

 

「でも、もし戦争が無ければ血を流さずに

別の仕事が出来たんじゃ……」

 

 

『……過ぎた事だ、時は戻らん。』

 

 

彼の素顔は冷たい鉄の仮面に隠されている為

表情を推し量る事は叶わないが、その声は

どこか郷愁と悲哀を感じさせるものだった。

 

 

(私は力を使ってこの世界を平和にしたかった。

でも、いつしか地位に執着するようになって、

首脳会議で開戦に賛成してしまった……)

 

 

五年前の冬、三年戦争を開始するか否かで

当時の首脳達の意見は真っ二つに割れた。

 

あの時、自分が反対派についていれば

戦争も、敗北も、その後に待ち受けていた

仲間の死も避けられたかも知れない。

 

そして何より、目の前にいる若者の人生も

少しは平穏なものになったのではないか?

 

無駄だと分かってはいても、考えてしまう。

 

 

『……おい』

 

 

『おい、聞いているのか!?』

 

 

「へ?」

 

 

いつの間にか、ソードオブゲルムの奇襲部隊が

すぐ近くまで接近しているではないか!

 

 

『見つけたぞ、リーパー・クラウザー!』

 

 

彼女が気を抜いていただけではない、

単純に敵の練度が高いのだ……

忍者のような身のこなしで木々を飛び石代わりに

素早く移動し、トゥームストーンに斬りかかる!

 

 

『ぬぅ……!』

 

 

トゥームストーンは敵の短剣を素手で受け止めて

握り砕くと怯んだ兵士の喉を指で突いて殺し、

左から迫り来る別の兵士の脳天を銃で撃ち抜いた。

 

 

『考え事なら雑兵共を皆殺しにした後だ……』

 

 

「了解、背後は頼んだっスよ!

あと、降伏した相手は極力撃たないで!」

 

 

チェーンソーで敵の繰り出した槍を切断し、

蹴りで騎馬兵を倒したリーパーが叫ぶ。

 

 

『……善処する。』

 

 

『死ねぇぇ、腐れ吸血鬼がァ!!』

 

 

若い兵士が2メートルばかり跳躍し、

クレイモアを振り上げてトゥームストーンを狙う!

 

 

『潤沢な装備……練度も悪くない、だが』

 

 

刀身には聖水が塗られており、仮に当たれば

無視できないダメージを負う事になる……

トゥームストーンはより一層警戒を強めた。

 

 

『ゲばぁ!?』

 

 

……だがそれは当たればの話に過ぎない。

トゥームストーンが音速の回し蹴りを見舞うと

真空波が発生し、兵士を真っ二つに切り裂く!

無論、兵士は赤い泡を吹いて即死!

 

 

『相手が悪かったようだな。』

 

 

真空波はそのまま三人ばかりを斬り裂き、

一瞬で辺りを血の海に変える……

 

 

『何だ、靴にブレードでも仕込んでいるのか!?』

 

 

金属魔法で強化した盾で真空波を何とか防いだ

ソードオブゲルムの兵士が訝しげに唸る。

 

 

『恐らくは大陸伝来の古武術だろう……

かなり改変されているようだが構えは同じだ、

確か発勁(はっけい)とか言う技術だったか。』

 

 

聖職者めいたソードオブゲルムの傭兵達の中でも

一際目立つ、白塗りの甲冑を装備した冒険者が

顔を強張らせながら呟く。

 

 

『本来は衝撃波を発生させて脳震盪や骨折などを

狙う中距離戦向けの技だが……成程、あの男は

衝撃波の範囲を極限まで絞る事で飛距離を伸ばし、

擬似的な斬撃を放っているらしい……』

 

 

『どうしますか?既に数人の犠牲者が出ています、

ここは慎重に判断するべきだと存じますが……』

 

 

冒険者は側近らしき人物の発言に耳を傾けて

静かに頷くと、水晶玉を取り出して命令を下す。

 

 

『総員距離を取って標的の追跡と誘導に専念!

無理に攻撃は加えるな!後ろの吸血鬼は私に任せ、

隊長の指示を受けた者は負傷者を連れて帰還し

増援を連れて来て欲しい!』

 

 

『『はっ!!』』

 

 

奇襲部隊の半数が一斉に引き下がり、

残った精鋭と隊長格の冒険者がリーパーの

背後を守るトゥームストーンを集中攻撃する!

 

 

『食らえ......光閃(レーザーボルト)!』

 

 

 バシュウンッ!!

 

 

強力な光属性の奇跡がトゥームストーンを射抜き、

彼の身体から白い煙が上がる!

 

 

『チィッ……!』

 

 

「トゥームストーンさん!?」

 

 

『悪いが俺はここまでのようだ。

奴等の狙いは俺らしい、今は俺に構わず

先に行くんだ!奴等の拠点で合流するぞ……!』

 

 

「幾らなんでも手負いでこの数は無茶っスよ!」

 

 

『こんな目眩し何発食らおうが傷の内に入らん、

雑兵ごと皆殺しにして始祖への供物にしてくれる!』

 

 

「じゃあせめてこの刀使って下さい!」

 

 

リーパーはトゥームストーンに軍刀を投げ渡す……

無骨ながら丁寧な装飾が施された黒檀の鞘から

刀身を引き抜くと、淡い紫色の刀身が現れた。

 

 

『”紫鞘負(ムラサマ)”か……良い剣だ、

奴等にくれてやる訳にはいかんな。』

 

 

紫鞘負……その鋭さ故、並の鞘に納めても

内側から斬れてしまう為にそう呼ばれる大業物で、

その製造法は東の国でも一、ニを争う名工集団の

歴代跡継ぎにしか伝わっていないという幻の武器。

 

打ち損じた二流品でも城と同じ値が付くというが、

トゥームストーンはその理由を一瞬で察した。

 

 

「絶対返して下さいよ、高かったんスから!!」

 

 

『……承知した。』

 

 

白塗りの甲冑を纏った冒険者が馬から降り、

弓を構えようとした部下を片手で静止しながら

彼の元に歩み寄る……

 

 

『我が名はユライ……貴殿、名は何と言う?』

 

 

『トゥームストーンだ。』

 

 

『墓石にトゥームストーン(墓石)と刻む訳にはいかない、

人間としての名を教えて貰おうか。』

 

 

『……俺は貴様らの首を奪いに来た。それでも、

あくまで人間として葬ると?』

 

 

『貴殿は定命の者をいたずらに傷つけるような

無法の輩には見えない……無論、吸血鬼である以上

貴殿を浄化するのが我々の使命だ、例外はない。

しかし、これでも多くの吸血鬼を殺して来た身……

やむを得ない事情と言うものも少なからず』

 

 

『……御託を並べた所で、所詮俺たちは人殺し。

それを赦してやるなどと傲慢の極み……!』

 

 

瞬く間にトゥームストーンの白目が赤く染まり、

殺気を帯びた金色の瞳が鈍く輝く。

 

 

『愚かな、安息は要らぬと申すか……』

 

 

ユライと名乗る甲冑の冒険者も鞘から

長大なツヴァイハンダーを抜き、中段で構えた。

 

 

『贖罪とはこの世という地獄で生きてこそ成立する、

かの聖オイフェもそう言っていただろう……』

 

 

『貴様如き、罪深き謀反人がその言葉を使うな! 主よ……この者に裁きを下す力を!聖剣顕現(ホーリーエンチャント)!』

 

 

ユライが絶叫すると剣が白く光り輝き、

周囲が昼間のように照らされる!

 

 

『……少し反抗的だが、問題なかろう。』

 

 

トゥームストーンが紫鞘負を一振りすると

鋭利な真空波が飛び、何人かの首が胴から離れて

苦悶の表情を浮かべながら地面に転がり落ちた。

 

 

『遅い!』

 

 

しかしユライは強大な冒険者、即ち超人である!

致命的な一閃を難なく躱してトゥームストーンの

懐に飛び込み、そのまま突きを放つ!

 

 

ギィンッ!ギャリギャリギャリギャリ……!

 

 

しかしトゥームストーンの短剣によって

ユライの一撃は阻まれ、受け流される!

 

 

『それはこちらの台詞だ……』

 

 

『我らの大義を解さぬ外道、悔い改めよ!』

 

 

『貴様のような差別主義の偽善者が背負えるとは、

随分と小さな大義のようだな。』

 

 

激しい剣戟が鳴り響き、飛び散る火花が

月のない夜空を照らした。

 

 

 

 

 

 

ーリーパーsideー

 

 

 

 

トゥームストーンは見ず知らずの自分の為、

躊躇なく自らの命を賭けた……彼に報いる為にも

必ずネコを救出しなければ。

 

 

(無事に生きて……いや、死んで帰って来て

下さいっス、トゥームストーンさん……!)

 

 

名前も顔も分からぬ若者だったが、

彼と一緒にいるとどこか懐かしい気分になる。

三年戦争末期の本土決戦で自分を庇って死んだ

昔の部下に似ているからだろうか……

 

ホーディは弓術と格闘の名手で、王国側が勝てば

まず間違いなく自分に匹敵する地位と権力を

手にしていた筈だった。

 

だが死んだ……家族を養う為に戦場に出た彼は

飛空挺からの爆撃に巻き込まれて遺骨も残らず、

彼女の目の前で焼き尽くされた。

 

シェルターはあったが、民間人を匿っていた為に

定員を超過していたのだ。

 

自分なら耐えられるかも知れない、そう言おうと

リーパーが口を開いた瞬間、ホーディが彼女を

無理矢理シェルターに押し込み、蓋を閉じた。

 

自分に能力を使ってゾンビになれば

あの程度の爆撃、間違いなく耐えられた筈だ……

しかし、それは数々の武勲を立て首級を上げ、

無数の勲章をぶら下げた「英雄」の正体が

「怪物」であると明かすも同然のこと。

 

異世界に転生してから負け無しで暴れ回り、

如何なる巨悪や怪物にも屈しなかった彼女が

この時ばかりは敵兵のように震え上がった。

 

何ら物理的な痛みを伴わないものを

「死神」のように恐れ、背を向けて逃げたのだ。

 

 

 

だが、今回は違う……

 

皮肉にも、枷となっていた富や地位を失い

英雄の象徴たる勲章が鉄クズ同然になった事で、

彼女は英雄としての資質を取り戻したのだから。

 

トゥームストーンを倒すべく集結した増援を前に

リーパーは仁王立ちし、殆ど絶叫に近い音量で

数年前と全く同じように名乗りを上げる。

 

 

「控えよ、下郎共!」

 

 

「我は元王国軍大将、リーパー・クラウザー!  嘗て“死神”と呼ばれし四神将が一人である!   弱者は地に伏し、腕に覚えある者は剣を握れ!  直々に相手をしてくれる!」

 

 

次の瞬間、挑発された二百人近い兵士たちが

リーパーに向かって殺到した!無論、その中には

冒険者も何人かおり、戦力は膨大と言う他ない。

 

 

『先王に言われて練習したけど、やっぱこういうの

キャラに合わないっスね……』

 

 

リーパーはチェーンソーを左手で持ち直すと、

右腕に装着している拘束具のように重々しい

ミスリル製のガントレットを掲げて集中した。

 

 

暴君ノ徴発(タイラント・レクィジション)......!』

 

 

ガントレットが激しい電流を帯びて磁力を発し、

敵の持つ武器や街灯、水道管など周囲の金属製品を

無差別に引き剥がして彼女の手元へと吸い上げる!

 

 

「わ、うわっ!?磁力が強過ぎたっス!

この辺りは工事終わったばっかりなのに!」

 

 

金属魔法と雷魔法、この二つを合わせる事で磁力を

自在に操る事が可能だが、二種類の全く違う属性を

扱う為、非常に操作が難しいのだ。

 

 

「……ブランクって残酷っス。」

 

 

リーパーは巨大な鉄塊と化した右腕を眺め、

溜め息を吐きながら200メートル近く跳躍!

 

 

「……さぁて、何人残るっスかねぇ!?」

 

 

集落一つ分はあろうかという大質量を纏った

右腕を構え、一気に上空から拳を振り下ろす!

 

 

暴君ノ弾圧(タイラント・プレス)!!」

 

 

 ズドォ......ッ!!

 

 

大量の瓦礫や金属部品が一斉に叩きつけられ、

逃げ遅れた190人以上の兵士が赤い染みとなって

汚れた石畳にへばり付く!

 

 

『ぐうぅ……まさか本物か……?』

 

 

『馬鹿が、大将は本土決戦で死んだ筈だ……』

 

 

攻撃から逃れた二人の兵士がよろめきながら

立ち上がり、リーパーに剣を向ける。

 

 

「あれ……前に会った事あるっスか?」

 

 

『クソッ!殺らなきゃこっちが死ぬ……

この際、偽物かどうかは関係ない、俺が

ゾンビを足止めする!お前は』

 

 

『うおぉぉぉぉっ!!』

 

 

『あっ待て!』

 

 

まだ少年と呼べる年齢の若い冒険者が敵に

突っ込むがリーパーのアッパーカットを食らって

吹き飛び、一撃で気絶した。

 

 

「思い出した……久しぶりっスね、第4師団の

カルロス少尉とヴァル一君。」

 

 

『その動き……本当にアンタなのか!?

本土決戦前の宣誓で会った時以来だ。』

 

 

「また会えて嬉しいっス!娘さんは元気?」

 

 

リーパーはカルロスの肩を抱き、

嘗ての戦友に話しかけた。

 

 

『あぁ、何とかな……持病も改善してすっかり

元気になったよ、今度遊園地に行くんだ。』

 

 

「そういえば、失業保険入ってるっスか?」

 

 

『あぁ、このご時世だからな……それが何か?』

 

 

「あらよっと!」

 

 

『うぐぅ……!?』

 

 

彼女は”敵”の首に手を回し、そのまま締め落とすと

カルロスの胸ポケットに数枚の銀貨を忍ばせてから

メモと一緒に彼らを近くの茂みに投げ捨てた。

 

 

「トゥームストーンさんへ、この二人は悪者じゃ

ないので、殺さないで下さいっス、と。」

 

 

目の前には怪獣の如く巨大な要塞が立ち塞がり、

白いサーチライトでこちらを威嚇している。

 

 

「……まず、”ノック”してみるっスかね。」

 

 

鎖と鉄骨で補強された分厚いミスリル合金の扉を

前にして、リーパーは500メートルほどの距離から

クラウチング・スタートの構えを取った。

 

 

「よーい……」

 

 

「どりゃあああぁぁぁぁァァァァッ!!」

 

 

渾身のタックルでミスリルの扉が吹き飛ばされ、

千切れた鎖とへし折れた鉄骨が辺りに散らばる。

 

 

『て、敵sy』

 

 

そこまで叫んだ見張りが飛んで来た扉に潰されて

物言わぬ肉塊と化し、衝撃波で壁の一部に

大きな亀裂が入った。

 

 

「まずは肩慣らしっスよぉ!」

 

 

リーパーは右腕に大量の瓦礫を纏わせ、襲い来る

迎撃部隊をハエのように叩き潰しつつ

間合いを詰めて来た敵兵をショットガンで射殺!

 

 

「ん?本拠地だけあって精鋭揃いっスね……」

 

 

死角から飛び出して来た敵兵の斬撃を躱し、

逆に踏み潰しながら斧を歯で受け止め、

バリスティックナイフで狙撃兵を仕留めた

リーパーの背中に毒矢が浅く突き刺さる。

 

 

『馬鹿な、これは即効性の神経毒で……』

 

 

リーパーは狼狽える弓兵の眼前に一瞬で

距離を詰め、首を掴んで牙を剥き出しにする。

 

 

「相手の事を大して知らない癖に差別するなんて

典型的なゴミカスレイシストじゃないっスか、

ダメっスねぇ……傭兵やるならそれくらいは

予備知識として知っておかないと。」

 

 

『しゃっ……しゃ、喋った……!』

 

 

「……死体が喋ったら駄目っスか?

普通、声帯まで腐ってないなら喋れるでしょ。」

 

 

『ひぃ!?』

 

 

「よく見たら可愛い顔してるっスね、君……

ちょっと手伝って貰うっスよ。」

 

 

支配種(ディストピアシード).....!」

 

 

リーパーの口からヒルめいて蠢く舌のような

何かが飛び出し、冒険者の口内に侵入すると

彼は鼻血を流しながら痙攣した。

 

彼女は強い抵抗力を持つ冒険者に対して

有効な寄生虫を体内で調教、飼育しており、

宿主の人格を残しつつ認識を改変、

意のままに操る事が出来るのだ……

 

 

『ギィィィ……エ、メエェェェェェッ!!』

 

 

「暴れると痛いっスよ、力抜いて。」

 

 

舌が引き抜かれ、弓兵がゆっくりと立ち上がる。

目には生気が残っているが瞳孔は開ききっており、

半開きになった口は笑みを浮かべている。

 

 

「どうっスか?まだ私の事が嫌い?」

 

 

『…………♡』

 

 

彼は弓を構え、近くにいた仲間を射殺した。

 

 

「そうっスよねぇ?いるかどうかすら分からない

神サマなんかより私の方が頼れるっスよねぇ!?」

 

 

片手で持ち上げた瓦礫を投げつけ、10人近くの

兵士を殺したリーパーが嘲笑う。

 

 

「逃げ場なんか無いっスよ……!」

 

 

リーパーは無意識に後退りする兵士たちを睨みつけ、

ベルトから複数の球形グレネードを取り出すと

敵の目の前に放り投げて一斉に起爆する!

 

爆発によって菌が付着した大量の針が飛び出し、

被弾した兵士たちを次々とゾンビに変えていく。

 

 

「大人しく出て来るっス、クソ野郎!

このままじゃリーパー帝国が出来ちゃうっスよ!」

 

 

『……いいだろう。』

 

 

砦の内側から無数の斬撃が飛び、

その余波だけで数十体のゾンビが倒れる。

 

 

『我の名はエグレーゴロイ、神の僕……

罪人よ、我が手で癒される事を光栄に思え。』

 

 

背中から翼を生やし、鋭い翡翠の槍を構えた

白装束の冒険者らしき少年がリーパーの前へと

現れ、殺意と怒りに満ちた視線を向ける。

 

 

「私は誰も食べないっス、どうして」

 

 

動揺の中から絞り出した言葉を遮るように、

槍が可能の足元を抉り、クレーターを作る。

 

 

『アンデッドが100匹いるとして、その中で

善人と呼べる者が何人いる?恐らく10人にも

満たないだろう……だから、全て殺す。

一人でも多くの人々が生き残る為には

弱い個の犠牲が必要なのだ……』

 

 

「じゃ、坊やには犠牲になって貰うっスよ……

私より弱いんだから当然っスけど。」

 

 

リーパーの身体には無数の傷が刻まれ、

決して少なくない量の血液を流している。

 

 

『そうやって他人を見下しているがいい、

今に死んだ方がマシだと思わせてやる!』

 

 

翡翠の穂先がリーパーのチェーンソーにぶつかり、

激しく火花を散らす!

 

 

『我々はどれ程の犠牲を払ってでも、貴様ら

アンデッドを一人残らず絶滅させる!』

 

 

エグレーゴロイは狂ったように連続で突きを

繰り出し、その勢いは全く衰える事がない。

 

 

(この歳でこの強さ……コイツも私たちと同じ

転生者って奴っスか!?)

 

 

負傷と焦りで動きが鈍ったリーパーの一撃が

素早く弾かれ、カウンターの突きが彼女の

心臓付近に命中する!

 

 

悪霊退散(アンデッドベイン)!』

 

 

エグレーゴロイは槍の穂先を触媒にして奇跡を発動、

リーパーの身体に風穴を空けて吹き飛ばす!

 

 

「この威力で回復も阻害されるの厄介っスね……」

 

 

口元の血をコートで拭いながら、

リーパーはゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

『……まだ立つか、流石だな。』

 

 

(乱戦でダメージが蓄積している……

全盛期ならもっと早く分かった筈っスけど。)

 

 

彼女は右腕を守るガントレットの拘束を緩め、

エグレーゴロイを睨み付ける。

 

 

「奥の手……まだ制御出来るっスかね?」

 

 

ガントレットを完全に取り去ると右腕が激しく

脈動し、鋭く変形した骨が鉤爪のように飛び出して

彼女の瞳孔が点のように縮小する。

 

 

殺戮形態(ジェノサイドモード)......!」

 

 

『ようやく外見が内面に追いついたようだな、

その悍ましい姿のまま葬ってやろう!!』

 

 

エグレーゴロイは再び連続突きを繰り出して

「アウトブレイカー」を迎撃するが

最初の数発目で受け止められてしまい、

お返しとばかりに爪で切り裂かれる!

 

 

『チィッ……本気を出したか!』

 

 

「行けぇ!!」

 

 

彼女の命令を受けたゾンビ達が異様な速度で

エグレーゴロイに飛び掛かり、首を齧ろうと

少年に覆い被さる!

 

 

『うっ……!』

 

 

彼が動きを止めた瞬間、チェーンソーが叫び

ゾンビ諸共エグレーゴロイを斬りつけた!

 

 

「これで終わりっスか?もっと遊びましょうよ。」

 

 

バラバラになったゾンビの一部を傷口に埋め込み、

アウトブレイカーは恍惚とした表情で呟く……

 

 

「生きたままバラバラにしてあげるっスよォ……

まずは、左腕を貰うっス!!」

 

 

しかし、剥き出しになった鋭い骨が少年の腕を

奪う事は無かった。トゥームストーンが咄嗟に

エグレーゴロイを庇い、背中で彼女の攻撃を

受け止めたのだ。

 

 

『少し早い気もするが……ここまでにしておけ。』

 

 

骨はトゥームストーンの肉体を完全に貫き、

背骨を掠めて心臓の目前まで迫っていた。

 

 

『貴女ほどの英傑が子供を殺す所など見たくはない。

どうか、こちら側に来ないで欲しい……』

 

 

鉄仮面に開いた呼吸用の穴から大量の血が溢れ、

重傷を負った彼は膝をついた。

 

 

『ひっ!?』

 

 

運の悪い事にトゥームストーンはエグレーゴロイを

庇った際、彼に向き合う形でリーパーの攻撃を

受けていた……膝をついた事で、図らずも彼に

覆い被さるような姿勢となった訳だが、

これが少年のトラウマを呼び起こしてしまった。

 

 

『く、来るな!』

 

 

聖なる力を纏った槍が何度も突き刺さる度、

彼は激しく吐血した。

 

 

「トゥームストーンさん!?」

 

 

『このガキに比べればまだマシだ、刀は返す。』

 

 

突き刺され、蹴り飛ばされ、半分肉塊と成り果てた

トゥームストーンはリーパーに刀を投げ渡し、

ゆっくりと立ち上がる……

 

 

『……やれるか?』

 

 

「貴方が言っても説得力ないっスよ!?」

 

 

『……昔の仲間にもよく言われた。』

 

 

トゥームストーンは八連装のリボルバーを抜いて

左手で構えると、残った右手でナイフを持った。

 

 

「あれ、魔法は?」

 

 

『使えん、才能がない……喧嘩に勝てないので

街の悪ガキには随分と痛い目に遭わされた。』

 

 

「そんないじめられっ子の少年も、今や

一国の将軍に匹敵する武力を手に入れました……

ご両親も天国で胸を張れるっスね!」

 

 

『………あぁ。』

 

 

エグレーゴロイが起き上がり、再び翼を生やして

空中へと浮遊する……

 

 

『死人が、男が僕の身体に触れるなァァ!!』

 

 

トゥームストーンは薙ぎ払いを回し蹴りで弾き、

突きを跳躍で避けるとナイフで斬撃を飛ばして

エグレーゴロイの頬を浅く切り裂いた。

 

 

『莫迦な……その傷で何故動ける!』

 

 

『お前に話す義理はない……知りたいなら

俺たちを殺して解剖でもしたらどうだ?』

 

 

『穢らわしい、誰が貴様らの腸など!』

 

 

トゥームストーンの心臓を翡翠の槍が狙う!

 

 

「ちょっと、ナチュラルに私まで巻き込むのは

やめて欲しいっス!」

 

 

軍刀が槍の一撃を阻み、エグレーゴロイは

絶望と怒りが入り混じった苦悶の表情を浮かべて

激昂する。

 

 

『まぁ、解剖する必要はないかも知れん……

先の攻撃で腹に穴が空いて内臓が溢れ始めた。

死ぬ訳ではないが、こうなると少々不便だな。』

 

 

「……なんか私よりゾンビしてないっスか?」

 

 

『敵に集中しろ……来るぞ!』

 

 

「あぁもう、そこから動かないで下さいね!

助けて貰った手前、死なせたくないっスよ!」

 

 

立ち上がろうとするトゥームストーンを制止し、

リーパーは右手にチェーンソー、左手に軍刀を

持って中段で構える!

 

 

ギャオォォォォッ!!

 

 

『出たな、一夜にして千の敵兵を葬ったという

覇将リーパーの"滅・二刀流"……!』

 

 

彼女の殺気に当てられたトゥームストーンが唸り、

同時にエグレーゴロイも油断なく槍を構える……

 

動きがあったのは数秒間の睨み合いが続き、

両者の殺気が最高まで膨れ上がった瞬間だった。

 

 

「いい所見せるっスよォ!!」

 

 

先手を取ったリーパーがエグレーゴロイに向かって

左腕で牽制の居合斬りを放ち、回避する方角を

目線で予測してチェーンソーの突きを差し込む!

 

 

『やる……!』

 

 

連撃を何とか見切ったエグレーゴロイは

苦し紛れに蹴りを繰り出して彼女を引き離そうと

したが、腕でガードされてカウンターの裏拳を

モロに食らい、石突で殴られて吹き飛ぶ!

 

 

「根性で急所を避けたっスか……生まれて来るのが

あと五年早ければ仲間にしてあげたのに、残念。」

 

 

『誰が、お前などと組むか……!』

 

 

「つれないっスねぇ、美人のお姉さんが

優しく声をかけてあげてるのに……」

 

 

『待て……貴方が本物のリーパー大将なら、

今年で30』

 

 

リーパーはトゥームストーンを睨んで黙らせると

葉巻を指で弾き、口に咥えて雷魔法で火をつけた。

 

 

『ふざけるな!過去の亡霊に、落ち武者如きに

神の剣が、エグレーゴロイが遅れを取るなど……

断じて、あってはならないのだァァァ!!』

 

 

硫黄ノ炎翼(サルファー・セラフィム)!!』

 

 

エグレーゴロイの背中に生えた翼が金色に輝き、

聖なる力を帯びた炎の矢がリーパー達に向かって

火山弾のように降り注ぐ!

 

 

微塵冥壊斬(アトミックメガスラッシュ)!!」

 

 

リーパーはチェーンソーと軍刀を高速で振り回し、

大量の真空波を飛ばす事によって飛んで来る矢を

まるで雨粒のように叩き落とす!

 

 

「しまった!トゥームストーンさん……」

 

 

『案ずるな』

 

 

トゥームストーンは口元の血を拭って立ち上がり

半ば瞬間移動めいた不可解な速度で攻撃を回避、

矢を飛び石代わりにして射程から逃れたが

傷口が開いてしまい、そのまま倒れ込んだ。

 

 

「どうしよう……血が止まらないっス……!」

 

 

『構うな、俺の事は捨て置け。』

 

 

「でも!」

 

 

彼の傷口を一匹の毛のないネコが舐め、

トゥームストーンはネコの頭を撫でた。

 

 

「ネコちゃん!」

 

 

『乱戦の際、建物に潜り込んで連れて来た。

俺が時を稼ぐ、その間に』

 

 

リーパーはそこまで聞いて強く頷くと

一人と一匹を担いで自慢のバイクに飛び乗り、

最高速で場を離脱しようと走り出す!

 

 

『!?』

 

 

「同胞を見捨てられる訳ないでしょ……

ネコちゃんが無事なら、私たちの勝ちっス!」

 

 

『逃すか!』

 

 

「しょうがないにゃあ……支配種!」

 

 

リーパーはそこら中に転がっている死体に

向かって緑色の粘液に包まれた大量の寄生虫を

吐き出し、一度に数十体をゾンビ化させて

エグレーゴロイに差し向ける。

 

 

『貴様ァァァァ!!』

 

 

「じゃ、まったねー!」

 

 

絶叫するエグレーゴロイが徐々に小さくなり、

数十秒後には見えなくなった……

幾ら彼でもこの距離を詰めるのは難しいし、

人里に逃げ込めば手出しも出来ないだろう。

 

 

『……まぁ良い、本命のユライは仕留めた。

エグレーゴロイ(あの子)も身を隠す程器用ではない。』

 

 

「あの子、何者っスか?」

 

 

トゥームストーンはバイクに載せてあった

血液パックを飲み干し、しばらく悩んだ後

観念したように話し始めた。

 

 

『……あれは俺と同じ修道院で育った。』

 

 

「えっ」

 

 

『ある時、修道院が賊に襲われて俺たちは

散り散りになってしまった。あの子は

別の修道院に引き取られたが、そこの神父が

典型的な生臭坊主でな……』

 

 

「あー……」

 

 

『奴は顔が良いから格好の標的になった。

引き取られてから二年後、奴は魔力を覚醒させて

冒険者になり、誰よりも先に神父を惨殺した……

ここまでは良い、普通の復讐劇だ。』

 

 

『だが奴はどこまで行っても神の信徒だった……

最悪のタイミングで覚醒し、最悪の勘違いをした。

己に天使の力が宿ったと思い込んだのだ。

最初こそ自警団紛いの慈善活動だったが、

奴は次第に思い上がり、増長していった……』

 

 

トゥームストーンは喋るだけでも辛そうだったが、

それは傷の痛みからでないのは明らかだ。

 

 

『そんな時、先代団長のユライが奴に接触した……

絵空事に過ぎない己の思想を実現するチャンスだと

思ったのだろうが、そこからは早かった。

言葉巧みに奴を洗脳し、殺人鬼に仕立て上げた。』

 

 

「……!」

 

 

リーパーは怒りと絶望のあまり絶句し、

冷たくなって久しい筈の腸が激しく

煮えるような感覚に陥った。

 

 

『奴とは昔から意見が合わなかったが、それでも

一緒に暮らしていれば情の一つや二つは湧く。

奴が本格的に動き始めれば、聖職者と吸血鬼の

大戦争の火種にもなり得る……その前に

何としても奴を止める必要があったのだ。』

 

 

「……例え殺してでも?」

 

 

『そうだ。最早仮面を外そうとも、あの子は

賊を倒す為に禁忌を犯した俺を殺すだろう。

暫くの間は大人しくしている筈だが……

ただでは転ばない男だ、必ず報復に来る。

それまでに資金や武器を集めなければ。』

 

 

「……それ、本当に絶対に、どうしても、

貴方がやらなきゃいけない事なんスか!?」

 

 

『少なくとも、自分ではそう思っている。』

 

 

男はバイクを降り、帽子を被り直すと

黒い煙玉を地面に叩きつけて消えた。

 

 

「……そういえば、私はこういう争いを

無くしたくて王国軍に入ったっスね。」

 

 

『ニャーッ』

 

 

リーパーはネコを肩に乗せ、息を大きく吸った。

 

 

 

「トゥームストーンさんの事応援してますけど、 一人で抱え込まないで他の人も頼って欲しいっス!世の中悪い人ばっかりじゃないっスよ!」

 

 

 

 

 

『……頭の片隅には置いておく。』

 

 

 

 

リーパーには聞こえない何処かの路地裏で

トゥームストーンはそう呟き、闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーキャラクター紹介ー

 

 

 

 コードネーム: アウトブレイカー

 

 本名: リーパー・クラウザー

 

 年齢: 享年25歳

 

 種族: ゾンビ(元人間)

 

 身長: 189cm

 

 使用魔法: 雷魔法、金属魔法

 

 ギルドランク: C

 

 

元ミルド王国の陸軍大将という経歴を持つ

手練れの冒険者で、異世界に転生する以前も

某国の軍隊に所属していたらしい。

 

部下を失ってから色々な意味で腐ってしまい、

正体を偽って冒険者になったものの

最低限の依頼だけを受けて家で怠けるなど

堕落した生活を送っていたが襲撃事件を機に

少しだけ持ち直す事が出来た。

 

残忍で享楽的な性格だが根は優しく、

自分と同じ転生者に稽古をつけてやった事がある。

 

 

 

 

 異能: アウトブレイク

 

感染した動植物をリーパーの支配下に置く事が

可能な「ゾンビ菌」を体内で大量に培養し、

自在に操る事が出来る能力。

 

強い魔力を持っている冒険者には効果がなく

また極端な高熱や低温に弱いものの、

ゾンビ菌で変異した寄生虫を植え付ければ

冒険者にも同様の効果を発揮出来る。

 

宿主に適用した場合は並の吸血鬼を凌ぐ膂力と

瞬発力を手に入れられるが、二度と元の人間に

戻る事が出来なくなる。

 

 

 

 

 

 コードネーム: トゥームストーン

 

 本名: 不明

 

 年齢: 23歳

 

 種族: 吸血鬼(元人間)

 

 身長: 166cm(シークレットブーツ込み)

 

 使用魔法: なし

 

 ギルドランク: フリーランスの為なし

 

 

正体不明の賞金稼ぎ。その素顔を見た者はおらず、

また類稀な腕前にも関わらず全く名が知られて

いないなど、非常に謎の多い存在でもある。

 

病的な細身の小兵だが、一度戦闘になれば

吸血鬼由来の身体能力と異常なまでの残虐性を

遺憾無く発揮して敵を一人残らず蹴散らす。

 

魔法の才能が皆無な為か20種類以上の武器術と

4種類の武術を修めており、引き出しの多さならば

魔法特化の冒険者にも劣らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




トゥームストーンはハードボイルドなヒットマンなので、こういうハッピーエンドとは言えないような湿っぽい終わり方があってもいいと思います。
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