爆弾解除要素は薄めです。
ち◯かわを読んでいたら、突如として
サスペンス要素がぶち込まれて困惑しています。
この分だと最凶死刑囚編とかやり出すんじゃない?
ある日、冒険者ギルドの本部に一通の
差出人が分からぬ手紙が送られて来た……
「今から52時間後にミリセント州で行われる
富裕層の食事会で、最新の設置型爆弾を使った
暗殺計画が秘密裏に進んでいる。」
「追伸: お前達は金と面子ばかり気にする無能の
寄せ集めだ。故に中止を要請するという選択肢は
ないだろう、せいぜい必死に食い止める事だ。」
流麗な共通文字で書かれたその手紙は
無教養な愉快犯のものとは考え難い……
そう考えた上層部の監督官は名家出身の
凄腕冒険者、「レッドラム」とその相棒
「スーパーヴィラン」を極秘裏に招集し、
至急現地に向かわせたのだった……
…………………………………………………………
シンビジウム・バアル・イーラは公爵家の長女だ。
2メートル51センチの長身を美しく着飾り、
鳩の血のように真っ赤な美しい角を光らせて
シルクめいて艶のある縦ロールを揺らしながら
パーティ会場の前で優雅に立ち止まる。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」
『いや……10秒くらいしか待ってない。』
鉄板の入ったシークレットシューズを履き、
サングラスをかけた少年が彼女の問いに答えた。
彼はシンビジウムの二回りほど年下に見えるが、
立ち振る舞いや喋り方は同年代にも思える。
「もし遅れているようなら、家まで行って
起こして差し上げようと思いましたのに。」
『全く、お前は俺の母ちゃんかよ……』
少年の名前はルカ・アウトキャスト。
戦闘にスコップを使う変わった男であり、
不真面目な無頼漢を気取ってはいるものの
根は誠実で戦闘力も申し分ない。
「少し世間話をするだけですわ、そんなに
緊張しなくても良いのに。」
『だけどよ、マジに最新爆弾があるんなら
ここに居る奴らの間抜け面は一つ残らず
木っ端微塵に吹っ飛ぶかも知れないんだぜ?
まぁ、それはそれで見てみたいが……』
本来ならばこのような場所での不用意な発言は
諌めるべきであろうが、彼の気持ちも分かる……
彼女が彼と出会ったのも貴族の横暴が原因だ。
「……目立ちすぎず、適度に周りの気を引いて。
爆弾の設置場所が分かったら連絡しますから、
私と入れ替わって解除して下さいまし。」
『気は進まねェが、やらなきゃ拙いよな……』
普段の彼は継ぎ接ぎの古びたジャケットか
防刃仕様のレインコートを身につけているが、
今回は潜入の為にワニ革の特注スーツを羽織り
高級指輪のコピー品を幾つも装着していた。
「富裕層には見えますが……逆に目立ちません?」
『でも、こっちの方が強そうだろ?』
ルカはアメジスト製のサングラスを傾け、
ローストビーフを頬張りながら彼女に問う。
いかにも「下品な成金」といったような
派手で豪奢な服装だが、非常に遺憾ながら
本人が選んだだけあってかなり似合っている。
「まぁ否定はしませんけど……
言って下されば私が適当に見繕ったのに。」
『緊急の案件だ、経費で落ちるか分からない物に
大金を注ぎ込むのはちょっと憚られてな。』
「私がそんなに頼りない女に見えまして?」
『馬鹿言え、仮にそうならこんな損な役回りは
とっくに降りてお前を背後から斬ってるだろうよ。
ただ、俺はお前の息子や弟じゃねェからな……
いつまでも面倒見られるってのが嫌いなだけだ。』
「つまり……反抗期?」
『言っとけ、反抗期のガキにゃ到底真似の出来ねェ
プロの仕事ってのを見せてやる。』
そう言うとルカは人混みの中に飛び込んでいき、
シンビジウムの目の前から消えてしまった。
「……問題を起こさなければ良いのだけど。」
それから数分が経過した頃だった。
『おい、踊りながら後ろ向きに歩いてるぞ!?』
『スゲーッ!!』
どうやらルカが大きな騒ぎを起こしたようで、
全員の視線が会場の中心に向いている。
「ナイス!」
シンビジウムは人混みを避け、正面から堂々と
立ち入り禁止区域に足を踏み入れた。
『待ちなさい、ここから先は関係者以外』
「
当然の様に警備員に呼び止められるが、彼女は
隠密行動に長けたサキュバス種の魔族である……
彼女の目を直視した警備員たちが次々と膝をついて
崩れ落ち、壊れたゴーレムのように停止した。
「ここには誰も通らなかった……そうでしょう?」
『『アッハイ』』
警備員を幻惑魔法と威圧で完全に屈服させて
障子戸を突き破るかの如くスムーズに潜入、
一瞬で人気のない侵入禁止区域に到達し
爆弾が設置されていそうな場所を捜索する。
「この辺りから火薬の匂いがしますわね、
パーティー用の花火なら良いのですが……」
サキュバスの嗅覚は人間の約800倍であり、
例え目隠しと耳栓をしたままでも
100m先にいる生き物の性別が分かる。
シンビジウムは警備から盗んだ合鍵を使って
物置の扉を開け、中を物色して匂いの原因と思しき
溶接されたミスリル合金製の箱を取り出した。
「ん?」
耳を傾けると、ネジが巻き戻るような駆動音が
微かに聞こえる……爆弾だ!
「チクショーッ!カチカチ言ってますわコイツ!
すぐ帰って打ち上げするつもりでしたのに!」
シンビジウムは箱の溶接部を素手で引き剥がし、
信管を握り潰して爆発を遅らせると、
蹴りで天井を突き破って空中に爆弾を放り投げる!
ギガッ!ズドォォォン......
爆弾は三階の天井に到達した辺りで勢いよく炸裂、
館の無人エリアを吹き飛ばして夜景を照らした。
彼女の並外れた体格と腕力、強肩が無ければ
今頃下階ごと吹き飛んでいたに違いない……
『チャリャアァッ!!』
ガイィンッ!!
「えっ?」
次の瞬間、巨大な棘付きの
頭を強打し、彼女の巨躯が20mばかり吹き飛んで
壁を砕き、土煙を巻き上げる!
『さて、魔族の血は何色で……』
襲撃者は自らの獲物にべったりと付着した
骨片や脳、血肉を想像して静かに笑みを浮かべた。
『なに、いろ……ッ!?』
輝く錐は新品同様の銀色……無論、血液など一滴も
付着していなかったのだ。
「痛たた……舌を噛んでしまいましたわ。」
シンビジウムは自分の頭を殴って脳震盪を止めた後
血混じりの唾を吐き出し、ハンカチで口元を拭うと
観音開きになっている背中の鞘から身の丈ほどの
真っ赤なフランベルジェを抜いて構える。
(流石にこれで即死するとは思ってなかったが、
何だこの異様に分厚い頭蓋骨は……恐竜か!?)
「オーッホッホッホッホ!ガルルッ!」
「シュラークボンナバン!!」
シンビジウムは唸り声を上げて敵に駆け寄ると
剣を逆手に持ち変え、柄の先端で突きを放つ!
『速っ……』
彼は反射的に回避行動を取りはしたものの
シンビジウムの長身から繰り出される剣技は
ほとんど飛び道具のような射程距離と速度であり、
これを室内で避けるのは至難の業だ!
『ギャアッ!!』
水晶体が粉々に砕け、右の眼球が抉れて潰された
音が脳の奥まで響き、襲撃者が絶叫する。
全身に闘気を巡らせて脳震盪は防いだが、
彼の精神を圧迫するには充分過ぎる攻撃だ。
(あの図体で、なんてデタラメな反射速度だ……!)
プロスポーツの試合を見た事があるだろうか?
生で見た事がある者は想像しやすいだろうが、
長身の競技者は脳と手脚が離れているために
神経信号の伝達速度が遅く、通常の選手と比べて
動きや反応が鈍い事が多い。
故に、リーチや筋力には優れているものの
スピードが売りの対戦相手に不覚を取る事がある。
しかし、シンビジウムにはそれがなかった……
先祖返り的な突然変異を起こし、生まれつき
強靭な筋繊維と神経細胞を有していたからだ。
「さぁ、貴方は何発耐えて下さるの……?」
「
シンビジウムがフランベルジェを指でなぞると
真っ黒な地獄の炎が噴き出し、剣に纏わりつく。
『……なまじ力に頼ったのは愚策だったか。』
襲撃者は錐を投げ捨てると腕を突き出し、
指を鳥の嘴のように折り曲げて構えた。
『この”
貴様のような蛮人に使うのは屈辱だが……!』
そう言い放った男の腕が赤く染まり、
鋭く猛烈な殺気を放つ!精神エネルギーを利用した
大陸伝来の身体強化術である!
『コヒュゥ……ッ!!』
気力を纏い、鋭く研ぎ澄まされた貫手が
喉元に迫ったシンビジウムの剣を直前で弾く!
「あらあら……まだ遊びのつもりだったのに。」
シンビジウムはネズミを見つけた猫のように
牙を剥いて笑い、自分の唇を舐める……
「でも良かった、壊す前に本気を出してくれて。」
『良いだろう……我が形意拳の魔技を
その全身に、嫌というほど叩き込んでくれる!』
激怒した冒険者の両腕が鳥の翼を模した
神々しいオーラを纏う!
「食らえ!
特殊な足捌きでシンビジウムに素早く接近、
翼のオーラを刃に見立てて無数の斬撃を繰り出す!
ヒュン!ヒュヒュヒュヒュヒュン!!
一発一発が音を超える速度で風を斬り裂く速さの
連続斬撃は常人の肉体であれば致命傷になり得る。
「フフフッ!楽しくなってきましたわねぇ!!」
シンビジウムもフランベルジェを枝か何かのように
激しく振り回し、この圧倒的な暴力の嵐に対抗!
攻撃が当たれば互いの指や手脚が飛びかねないが、
両者は全く恐れずに激しい攻防戦を継続する!
腕と剣が衝突する度に激しく火花が散り、余波で
切り裂かれた両者の薄皮から血が溢れ落ちる。
『ハァ……ハァ……なんて耐久力だ、並の剣士なら
今の攻撃で4回は死んでいた筈……!』
「負けた言い訳なら死んでからでよくってよ?」
『それはこちらの台詞だ!』
冒険者は瞬間移動めいた不可解なステップで
シンビジウムの眼前まで迫り、貫手を繰り出した!
「………ッ!?」
『ここまで踏み込めばその鉄塊も振れまいて!
観念してバラバラの生ゴミになるがいい!』
喉元を狙った攻撃はまさに必殺と言う他なし。
乾坤一擲の覚悟で放った貫手は彼女の首に向かって
一直線に飛んでゆき……
「はむっ」
ミシ……バリィッ!!
『なにを……』
そして、粉々に噛み砕かれた。
「プッ!」
彼女は無惨な肉片と化した指を吐き出し、
ハンカチで口元を拭う……シンビジウムの歯は
人食い鮫のそれと全く同じ形状であり、そこに
彼女の咬合力が加われば特殊合金製の鎧や盾を
食い破る事すら不可能ではないのだ。
『ぁ……俺の、指が……手がぁ……!』
「……ビタミンが足りてませんわね、
もっと生魚と野菜を食べた方が良くってよ?」
シンビジウムは一目散に逃げ出そうとする
冒険者の脚に尻尾を巻きつけ、一気に引き戻す!
『う、わぁぁぁぁぁ!!』
「
彼女が牙を剥いて前傾姿勢を取ると、
その右腕が黒く禍々しい業火に包まれる!
『や、止めr』
「ラリアットォ!!」
ビシャアッ!!
鍛え抜かれた剛腕の一撃で冒険者の体が
真っ二つに引き裂かれ、断面から撒き散らされた
大量の臓物が辺り一面に散らばる。
「幸先良いですわね、報告報告……」
シンビジウムはドレスの内ポケットから
クリスタル製の通信端末を取り出し、
階下で待機中のルカに連絡する。
ールカsideー
「よく見とけよ……!」
『スゲェッ、本当に後ろ向きで歩いてるぞ!』
(単なるムーンウォークを披露しただけで
この盛り上がり様……
「いいねぇ、そんなに喜んでくれるとこっちも
やり甲斐があるよ……さて、次は落語でm」
ドッ......バアァァァァンッ!!
次の瞬間、金属板を間に挟んだ分厚い壁が容易く
破られ、ルカは砕けた瓦礫ごと吹き飛ばされる!
「あ……?」
彼がスコップで瓦礫を斬り裂き、吹き飛ばして
怒り心頭で顔を上げると……
『グォォッ』
10メートルは下らないであろう、巨大な、
いや超巨大な人食いワニが彼を睨みつけていた。
「おーおー、またデカいのが……」
『ひい!?』
(チッ、外野がうるせェな……)
貴族らしき若い女が悲鳴を上げるが
「スーパーヴィラン」は全く臆することなく
スコップを構え、大声で全員に告げる。
「サプライズだ、ワニの解体ショーやるぞォ!!」
スーパーヴィランが叫びながらスコップを地面に
突き立てると、壁や床から大量の氷柱が飛び出して
即席の柵を作り出す!
『待て、そんな話は聞いていないぞ!?』
「それじゃサプライズにならねェだろうが、
空気の読めない奴も居たモンだなぁ……」
『何だと貴様……オレを誰だと思っている!』
「誰って……和を乱す傍迷惑な奴としか」
『はい、そこまで!』
事情を知らぬ護衛の冒険者が彼に食ってかかり、
パーティー会場は一瞬険悪な雰囲気となるが
そこに一人の中性的な長髪の魔族が割って入る。
「下がってな小松……って」
スーパーヴィランはハンカチでサングラスを拭き、
もう一度掛け直してその人物を凝視した。
黄金比そのものかと見紛う程の整った骨格に、
シミや皺が一才ない透き通った紫色の柔肌と
絹のように真っ直ぐな、よく手入れされた髪……
純度の高いアメジストをそのまま埋め込んだような
丸い瞳は思わず吸い込まれそうになる美しさであり
それを直視した瞬間、彼は恐怖すら覚えた。
「何とォッ、オウ、オウッ、オウッ……お美しい、
あまりの眩しさでオットセイになる所だったぜ。」
『見苦しいぞ、この吃音アザラシが。』
「黙れ!あのお方が黙れっつったろタコ!
骨全部引き抜いて軟体にするぞ、タコ!」
『まぁまぁ、二人ともそう怒らないでよ……
パーティーなんだし、楽しい方が良くない?』
彼、もしくは彼女がそう言った瞬間、
鱗に覆われた巨獣がスーパーヴィランに飛び掛かり
噛みつき攻撃を行った!
『ちょっと待っててね。』
魔族が腰に差した杖を振ると、分厚く透明な
魔力の壁が出現してワニの攻撃を完全に防ぐ!
「うぉっ!?」
ドォン!ドゴンッ!
「えらく頑丈な魔障壁だな……」
巨大ワニは何度か体当たりを繰り返しているが
中々割れないらしく、表情に焦りが見える。
『他の人は違うかもだけど、このショーが
パーティーのスケジュールに入ってるかどうかは
僕にとってあんまり関係ないんだよね……
楽しければそれでOKって感じ、分かるでしょ?』
『しかし、幾らアナタの要望でも、他が……』
『でも、僕が見たいって言ってるんだよ……
この僕が、彼の闘いを直々に見てみたいと、ね。
こんな事口が裂けても言いたくないんだけど、
断ったらマズイんじゃないかな……?』
この人物の機嫌を損ねるのは相当に拙いらしく、
言葉を聞いた護衛の顔が一気に青ざめる。
『りょ、了解、しました……!』
『うんうん、物分かりの良い子は大好きだよ…♡』
そう言って彼の肩を軽く叩き、数枚の金貨を渡すと
魔族は召喚魔法で玉座を召喚してそこに腰掛けた。
「……誰だか知らんが助かったぜ、ありがとな。」
『さて、そろそろバリアが壊れる頃だね……
勇敢な冒険者さん、僕たちを守ってくれる?』
「よく言うよ、俺より強い癖に……」
ドォッ......バァンッ!バリィンッ......!!
度重なる体当たりで分厚い障壁が破壊され、
地面に散らばった破片が霧散する……
『カロロロ……!』
「美人の前だ、手加減は出来ねェぞ。」
彼は手頃なサイズの瓦礫を氷で包み込んで
放り投げ、スコップの側面で思い切り叩く!
「
ゴバァンッ!!
メジャーリーガーのように華麗なフォームと
正確無比かつ強烈な打撃で打ち出されたそれは
音を易々と置き去りにし、巨大ワニの頭部に
爆発的な衝撃を与えた。
「……少しは効いただr」
『ギュァアァアアァッ!!』
ダイヤモンドよりも硬い氷塊でコーティングした
鉄筋を音の数倍近いスピードで叩きつけられたにも
関わらず、巨大ワニは怯むどころが激昂して
目の前のスーパーヴィランに襲い掛かる!
「おわっ、危ねェ!!」
『まだ来るよ!』
「分かってるって……」
スーパーヴィランは噛みつき攻撃を紙一重で躱し
ジグザグにステップを踏んで巨大ワニに接近!
「なるべく耐えろよ、奴さん目が肥えてやがる。」
「
5m近く跳び上がりながら、冷気を帯びた
長柄のスコップで鋭い斬撃を放つ!
『ギュアォッ!?』
ミスリル製のクロスボウボルトですら傷付かない
鍛え上げられた外皮が切り裂かれ、
泥の匂いが染みついた大量の鮮血が迸る。
100年以上生き、勝ち続けて来た彼女にとっては
出産以来、数十年振りの「痛み」であった……
「流石に硬ェな……まるで防弾チョッキだ。」
相手が「肉」に過ぎないと慢心していた約10tの
異常巨体の持ち主は大きく仰け反り、同時に
この小さなサル科の動物を「敵」と認識する。
『ギュォォォォォォォッ!!』
ワニが咆哮し、テーブルに置かれたグラスが
地震に晒されたかのように激しく揺れた!
「やっと本気モードかよ、自信無くすぜ……」
硬い外皮で補強された鉄骨のような尾が迫る!
例え冒険者でも当たれば全身の骨が砕け、
クラゲめいてゼリー状になる威力だ!
(これは受ける……受けて奴のプライドを砕く!)
「
全身に氷の殻を纏い、靴の裏には氷柱のスパイクを
生成することで防御力を極限まで高め、
猛獣が繰り出した会心の一撃を正面から受ける!
ドォンッ......!
『まともに食らったぞォッ!!』
『死んだか!?』
観客席が半ばパニックに近い緊張感に包まれる中、
玉座に座った魔族だけが笑みを浮かべていた。
「俺はあの怪力無双で名高いレッドラムと
互角に渡り合った第51支部最強の男だぞ……
でかいトカゲ如き、何匹来ようが叩き潰せる!」
『……止めちゃったよ、構えも取らずに。』
「当たり前だ、
ずっと重いし何倍も痛てェ……あの攻撃に比べたら、
この程度の衝撃……ノミに刺されたかと思ったぜ!」
スーパーヴィランは敵が怯んだ隙に尻尾を脇に抱え、
勢いよく振り回して何度も氷柱に叩きつける!
『ジャイアントスイングだ……少年が巨大ワニに、
ジャイアントスイングを決めているッッ!!』
『信じられんな……』
巨大ワニの頭蓋骨が激しく空を切り、遠心力が
何本もの氷柱をへし折って脳を揺さぶる!
巨大ワニは辺り一面に涎と泡を撒き散らしながら
じたばたと足を動かすが、氷の吸着力によって
逃れる事が出来ないのだ!
「あれだけ気張って肋骨一本にヒビだけとは
随分と拍子抜けじゃねェか、トカゲ野郎!
俺の相棒なら小指だけで同じ事が出来るぞ……
分かるか、てめェはお嬢様以下なんだよ!」
『ガオォ……ッ!』
しかしこの巨大ワニはジャングル一帯の生物を
絶滅寸前まで追い込んだ大自然の覇者たる個体、
そう簡単には倒されまいと力を振り絞り
圧倒的パワーで氷柱に喰らいつく!!
(相棒ほどじゃないが、力比べじゃ勝てねェな。
森の中ならやりようはあったが……どうする!?)
彼が周囲を見渡すと、ジャイアントスイングを
決めた際に地面へ打ち捨てたスコップが目に入る。
『何をするつもり?』
「……アンタを口説く準備だ。」
『へぇ、乞うご期待。』
彼はスーツの袖に隠してあったナイフを取り出して
氷を纏わせ、棘の並んだ凶悪な形状に作り変える。
「はい、チクッとしますよー」
そう言ってギリギリで押さえていたワニの尾から
鱗の薄い部分を探し出し、刃を突き刺したのだ!
ワニの尾は脊髄の延長であり、他の部位と比べて
神経の数が桁違いに多い……ナイフの刺突自体は
大したダメージではないが、冷気が傷口を伝って
血管が凍り付き、神経を圧迫すればどうなるか?
『ギャォ……ッ……!!』
当然、極度の激痛に襲われる!
生物というのは強い刺激を感じると反射的に
歯を食いしばって耐えようとする習性がある。
普通のワニでも貨物馬車の重量と同じ1t強の
咀嚼力を持っているのだ、この巨大ワニの筋力は
大型の輸送船並みだろう……
そんな威力で氷柱に食らいついたのだ、
硬い氷柱に鏃めいて鋭い牙が深々と突き刺さり
身動きが取れなくなった巨大ワニを見て
スーパーヴィランはゆっくりとスコップを拾う。
「お前ら、噛む力はチョットばかり強いようだが
口を開ける力はガキ以下だって話らしいな。
ここでする挑戦じゃねェ気もするが……」
『ギャオオォォォァッ!!』
ワニは何本かの牙を犠牲に身体を捻って氷柱を破り、
慌ててスーパーヴィランのいた方向へ振り向くが
もう遅い……彼は空高く跳躍し、スコップを構える!
「
無数の氷塊を纏い大剣と化したスコップが
彼女の上顎と下顎を貫き、凍らせて縫い止めた。
『……………!!』
「マジでこうなるんだな、何か感動したわ……
図鑑で知識を蓄積するのと、リスクを冒してでも
自分で実行するんじゃ満足感が段違いだ。」
生涯初の劣勢によって錯乱状態に陥った巨大ワニが
苦し紛れの回転尻尾攻撃を繰り出す!
「そぉらァ!!」
スーパーヴィランは跳躍して攻撃を回避すると
天井のシャンデリアを引きちぎって投げ飛ばし、
ガラス片で巨大ワニの目を潰す!
「ヒャハハハハーッ!!」
ワニが怯んだ隙に氷を纏った拳で脇腹を何度も
殴りつけ、閉ざされた彼女の口から血が溢れる!
「それ、そろそろ返せよ……」
彼は巨大ワニに刺さった氷の剣を引き抜くと
凍り付かせた床を滑って相手との距離を取る!
『グロロロッ!』
しかし、大量に出血して弱ってはいるものの
彼女が持つ最大の武器、噛みつきが解禁された!
「……来いよ」
『ギャォォオオオオッ!!』
要塞の門にも引けを取らない大口を開け、
巨体に見合わぬスピードで猛獣が迫り来る!
「流石に、逃げ場がねェな……!」
スーパーヴィランは巨大ワニの正面に立つと
突如としてクラウチング・スタートの体勢を取り、
全身から夥しい量の冷気を発生させる。
「今だッッ!!」
防御魔法を解除して氷の殻に溜めていた空気を
一気に解放し加速、弾丸のような勢いで
全開になった巨大ワニの口内へ飛び込む!
『『『ええぇっ!?』』』
観客席から驚きに満ちた悲鳴が上がるも
魔族は落ち着いた様子でワインを飲み干し、
分厚く柔らかいステーキに刃を入れた。
『体の中なら向こうの攻撃は当たらないし
逆に彼の攻撃は確実に当たる、思い切ったね。』
『逃げ場がないって……そういうことか!
相手の攻撃を正面から受けたのも、バケモノを
焦らせて最大威力の攻撃を引き出す為の策……』
巨大ワニはスーパーヴィランを追い出そうと
暫くの間暴れていたが、徐々に動きが鈍くなり
身体に霜が発生し、寒さで痙攣を始め……
僅か数分で虫のようにひっくり返り、
口から白い息を吐いた後に動かなくなった。
「……勝ったァァァァァァッ!!」
スーパーヴィランはワニの口から這い出し、
血や内臓、胃液に塗れた殻を脱ぎ捨てると
両拳を突き上げ、跪いて全身で歓声を受け止めた。
「アァッ、アァ……ハァ……」
『モロクメッシュイーターは食べたものを
胃袋で発酵させて保存する習性があってね……
ものすごく頭が痛いし、吐きそうでしょ?』
「ミキサーで液状にした生ハムと臭豆腐を、
一気に1Lくらい鼻から流し込まれた気分だ。」
ルカがそう答えた瞬間、彼のベルトに装着された
連絡用の水晶玉がメッセージを受信する。
彼は素早くその場を離れて通話要請を承諾し、
スコップの柄に手をかけた。
「……俺だ、爆弾は?」
『一つは自力で解除しましたが、他はまだ……
爆発の規模からして、あと2つはありますわ。』
「拙いな……乱入して来た魔物を倒した所為で
人目を集めてる、直ぐには合流出来ねェぞ……」
『中々厳しい状況だね、もう少し人手が欲しい。』
「確かにそうだが贅沢を言ってる暇もねェだろう。
手が足りないなりに俺たちだけで……って、」
見ると、先程の魔族が彼のすぐ隣にいた。
「何でアンタがここにいるんだよ!?」
『まぁ、細かいことは後にして……ね?』
魔族はそう言って翼を広げ、会場の中心へ
移動すると巨大な魔法陣を展開する!
『
詠唱が終わって数秒後のことだった……
一階にいた人間が一人残らず膝から崩れ落ち、
その殆どが深い催眠状態に陥ったのだ!
「馬鹿な……夢を見てるのか、俺は!?」
(あり得ねェ……何人居ると思ってやがる、
まさか全員を一度に魅了したってのか……
しかも俺だけを、術の対象から外して……!)
『さぁ、これで人目は無くなったよ。』
「……何度もすまねェな、恩に着るぜ!」
彼は拳で天井を突き破って2階へ移り、
シンビジウムと協力して仕掛けられた位置を
割り出していく……
ー数十分後ー
『アイスミスト!』
冷気を吹き付けられた3つ目の爆弾が機能停止し、
火薬の臭いは完全に消え失せた。
「やった……やりましたわ!」
『金だ、自由だアァァァァァァ!!』
二人の力を結集しても困難を極めるほどの
厳しい状況だったが、任務は成功したのだ。
推定起爆時刻までは残り二時間を切っており、
莫大なプレッシャーから解放された二人は
上半分が消失したパーティー解除を後にすると
報酬を受け取る為にギルド支部へ直行した。
ーギルド本部、監督官室ー
『まさか貴方様に手を貸して頂けるとは、
なんとお礼を言っていいのやら。』
禿げ頭に付着した冷や汗を拭いながら
冒険者ギルドの監督官が揉み手をする。
平時の彼はどちらかと言えば高圧的で
やや不真面目な部類の人間であり、
異種族や若者を下に見ている節があったが
今回ばかりは勝手が違う。
それもその筈、彼の目の前にいる長髪の人物こそ
魔族屈指の剣豪にしてSランク最年少の天才、
大英傑「スワッシュバックラー」なのだ……
『無能の尻拭いをするのが仕事だからね。』
『いやはや、全くでございます!
私めがあの二人の実力を過信したばかりに』
ゴトン……
次の瞬間、監督官の右手首がテーブルに落ちる。
スワッシュバックラーが放った居合によって
痛みも出血なく、一撃で切断されたのだ。
『えっ……!?』
『……理解出来ないみたいだね。』
『なっ……あ、おぉ、お許し下さい!!』
腰を抜かした監督官を気にも留めず、
スワッシュバックラーは淡々と話を続ける。
『貴方は爆発が起きると分かっていたね?
占い師も手紙の内容は事実だと言っていた……』
『し、しかしぃ!』
『貴族のパーティーを邪魔したら不興を買う……
そんな理由で、僕の妹とその友達を危険な目に?』
『うぅっ……』
『確かに、貴方の立場なら僕もそうするかな……
第51支部のギルドマネージャーに不正の証拠を
掴まれてるから、何としても失脚させたいし。』
『ッ!?』
『貴族出身の冒険者を23人も昇格させたんだっけ?
特に最近は随分と羽振りが良いみたいだね……
高級男娼に週6で通ってるそうじゃないか。
奥さんが知ったら包丁で刺されるんじゃないの?』
『殺せ!』
見張りをしていた冒険者がドアを蹴破り、
スワッシュバックラーに短剣を向ける!
『殺気が薄いよ……もしかして脅されてる?』
『え、速』
スワッシュバックラーは襲って来た冒険者を
抜刀からの峰打ちで容易く仕留め、
両手で持ち上げてソファーに寝かせた。
『あ……あ、あ、あぁ……!!』
頼みの綱だった子飼いの冒険者が一瞬で倒され、
孤立無援となった監督官は泡を吹いて
無様に膝から崩れ落ちる。
『待ってくれ、金なら好きなだけやる!』
『……息子さんの為に遺産残してあげなよ、
貴方と違っていい子なんだからさ。』
『嫌だ、こんな』
ズバァォッ!!
スワッシュバックラーが剣の柄を掴んだ瞬間、
なます切りにされた監督官が血の海に踊った。
『さてと、ダメ元で手紙の送り主調べますか。』
監督官の死体を運ぶよう部下に命じつつ、
スワッシュバックラーは夜の闇に消える……
助けを呼ぶ弱者の声が聞こえたからだ。
ー完ー
キャラクター紹介
レッドラム
本名: シンビジウム・バアル・イーラ
種族: 魔族(サキュバス種の突然変異)
年齢: 18歳
身長: 251cm
冒険者ランク: C
(実力だけならAランク以上だが
キャリアが浅いのでC止まり)
使用魔法: 黒魔術
デミゴルゴアの旧王家をルーツに持つ
大貴族「バアル家」の長女にして次期当主。
サキュバス種とは思えない程に屈強な肉体を
生まれながらに有する戦闘の天才だが、
恐ろしい外見故に出会いには恵まれていない。
相棒のルカとは最近知り合ったばかりだが
とても仲が良く、弟のように可愛がっている。
スーパーヴィラン
本名(?) ルカ・アウトキャスト
種族: 異世界人
年齢: 推定17歳
身長: 168cm
冒険者ランク: D→C
(今回の活躍が高く評価されて昇格)
使用魔法: 氷魔法
異能: 第四の壁認識
異世界からやって来た胡乱な転生者。
第四の壁を認識する特殊な能力があり、
たまにメタ要素に触れる発言をする。
身長が低い上に童顔、氷魔法の使い過ぎで
代謝や老化現象も鈍っているため子供に見えるが
この世界の基準だとギリギリ成人している。
シンビジウムに比べ地力は劣るものの
作戦込みで互角に渡り合える程度には強く、
氷霧に紛れた奇襲攻撃や無呼吸連打など
バリエーション豊かな戦術が持ち味。
武器はミスリル合金製の戦闘用スコップだが
これは民間人に威圧感を与えない為であり、
文句を言いつつも職務には忠実な好漢。
スワッシュバックラー
本名: ベラドンナ・バアル・ローデリウス
種族: 魔族(インキュバス種)
年齢: 20歳
身長: 190cm
冒険者ランク: S
使用魔法: 雷魔法、闇魔法、防護魔法
大貴族バアル家の長男であり、
史上最年少でSランク昇格を果たした剣豪。
斬れぬ物無しと言われる魔剣「ベガルタ」と
友の形見を鍛え直した名刀「モラルタ」の
二刀流に雷魔法で高周波電流を纏わせて戦う。
「この世に生きるどんな女性よりも美しい」と
言われる程の美貌を持つ事で知られており、
以前は天才子役兼アイドルとして活動していたが
突如として引退、冒険者を志した逸話を持つ。
ちなみにスワッシュバックラーは当時の芸名。