これ読んでる酔狂な人たちって、
だいたい幾つくらいなんですかね……?
読者の年齢層とか見れたらいいのに。
寒い。
一ヶ月ほど前まで自室にあるベッドで
暖かく快適な眠りについていた筈なのに、
今はこんなバケモノだらけの洞窟にいる。
どうしてこんな事になってしまったのか……
「おい……生きてるか……?」
独房は壁が薄く、ここでは隣の部屋にいる誰かと
他愛もない世間話をするのが唯一の娯楽だ。
「おい……どうした、おい!?」
声を張り上げるが、返答はない。
代わりに蝿の羽音とゴキブリの足音が響き、
腐った牡蠣のような異臭がした。
「トーマス、返事してくれ、おい!!
こんな所で悪ふざけなんてらしくないぞ、
昨日まで生きてたじゃないか!?」
血が流れるのも構わず、壁を何度も殴る。
トーマスが「死んだ」のなら次は自分の番だ……
あんな「死に方」は嫌だ、まだ人間でいたい。
「畜生……開けろ!開けろってば!」
扉を力なく叩くが、彼も限界だった。
食事は少量の麻薬成分を含んだ点滴のみで、
この監獄に連れて来られた当初と比べて
彼の体重は10キロ以上も落ちている。
ヒタ、ヒタ、ヒタ......
足音が聞こえると、彼は石の壁に何度も何度も
頭を叩きつけた……助からないと分かった今、
せめてあの世に逃げたかったのだ。
『はい、残念でしたァ♪』
女性に角と翼、尻尾を生やしたような怪人が
彼の腹を殴り飛ばし、頭を掴んで
地面に叩きつける!
『……下等生物が小賢しいマネしてんじゃねぇ、
お前らの100年なんざアタシ達からすりゃ
半日程の価値もないんだからよォ……』
「やめてくれ、何でもする……!」
『ヒヒッ、可愛いなァ……お前は隣のと違って
気持ちよくブッ壊してやっからなァ……♪』
死神が持つ鎌のように鋭い爪が喉元に触れ、
彼の皮膚を切り裂いて血で濡れた。
『いっぱい抵抗するんだぞォ……
そっちの方が何倍も楽しいからよォ……』
怪物は左手で殺さない程度に彼の首を絞め、
半開きになった口の中に紫色の汁を注ぐ……
「ゲッ、オォエ……ァ……!」
『苦しいなァ……でも大丈夫だぞ、
すぐにアタマブッ壊れて良くなるからなァ……』
「ゴボボボボッ……!!」
激しい苦痛によって薄れゆく意識の中
彼は懸命に手を伸ばすが、実際に
その手が何かを掴む事はなかった。
しかし、彼の耳は別だった。
コン、コン、コン、コンッ
怪物ではない「何か」が、ゆっくりと
こちらの方角に向かって来ている……
それも気配を完璧に殺した上で、一切
物怖じせず堂々と彼の側へ歩いて来るのだ。
「ゴボボッ、バババガバァーッ!!」
『ヒヒッ、遠慮せずに沢山飲めよォ……
お前は売らずに置いてやっからさァ……』
(大袈裟に苦しんでこの怪物の注意を引く……!
これは俺に与えられた、人生最後の機会だ……)
「ガァッ……ゴボァバーッ!!」
『ヒヒヒヒッ、ヒャハハハハハーッ!!』
ー数十分前ー
森の洞窟付近の上空では
猛禽類の特徴を備えたハーピー族たちが
人間を入れた鉄の籠を運んでいた。
彼の名前はトゥームストーン、ハーピーが
盗賊団に対抗する為に雇った用心棒である。
『本当に助かりました、ギルドの人が
やられてしまってから誰も頼れず……』
「……安心するのは奴等の首を見てからだ。」
籠の中にいる人物が指差した先には
無数のサキュバスらしき魔族の群れが!
『ひっ……に、逃げなきゃ!』
「ここまででいい、籠を降ろしてくれ。」
『で、でも』
「いいんだ、これくらいの方がやり甲斐がある。」
『……ごめんなさい!』
ハーピー達が巨大な鉄の籠を降ろすと、中から
ボロボロの黒いコートとカウボーイハットを
身につけた鉄仮面の男が現れる。
「村に帰って、報復攻撃に備えるよう伝えろ……
この数だと撃ち漏らす可能性もゼロではない。」
『は、はい!』
「…………………」
男はハーピー達を見送ると、右手で帽子を押さえ
左手をホルスターに伸ばした……
敵は複数人での奇襲攻撃を狙っているらしいが、
彼の覇気に圧倒されたのか中々姿を表さない。
「フン……臆病者が。」
次の瞬間、短剣を持ったサキュバスが
トゥームストーンに飛び掛かる!
ズドォン!
トゥームストーンは振り向く事もせずに
拳銃を抜き放ち、敵の眉間を撃ち抜いて殺した。
『拳銃だと……時代錯誤な。』
「お前たちにはこの程度でも充分過ぎる。」
この剣と魔法の世界では銃火器が廃れて久しい。
硬い殻や鱗を持つ屈強なモンスターに対しては
貫通力の高い弓やクロスボウの方が優位であり、
携行性でも小型の魔術杖に劣っているからだ。
しかしながら、彼のように魔法や奇跡の才がなく
体格や膂力にも恵まれていない戦士にとっては
連射性に優れた銃が頼もしい相棒となり得る。
『食らえ、ダークファイア!』
敵の魔術師が作り出した魔法陣から
紫色の火球が現れ、高速で発射される!
「フン!」
トゥームストーンは火球を回し蹴りで弾き、
それを見て相手が怯んだ隙に急接近!
『あっ』
グシャアッ!!
踵落としで首の骨を叩き折り、そのまま
敵の死体を踏み台に空中へと跳躍した!
『今だ!』
三又槍を構えた魔族がトゥームストーン目掛け、
目を輝かせながら一斉に飛び掛かる!
ズドドォンッ!
トゥームストーンは真下に連続で発砲した
反動で高度を上げ、全方位からの攻撃を回避!
『なにっ……』
ズドドォンッ!ドォン!バァンッ!!
トゥームストーンはそのまま引き金を引き続け
足元の敵に次々と弾丸を当てると、
生き残りを蹴り飛ばして地面に叩き落とす。
「俺の方がお前達より上手く飛べるらしいな……」
トゥームストーンは魔族の死体をわざと
踏み潰して着地し、リボルバーに弾を込める。
彼に挑発された盗賊たちは鬼の形相で
トゥームストーンの事を睨みつけているが、
彼の強さを目の当たりにして迂闊に動けない。
『仕方ない、退くぞ……』
幹部らしき人物が彼に斬りかかろうとした
部下を引き留め、撤退を命じた。
「下等種族相手に尻尾を巻いて逃げるか、
腕の立つ賊だと聞いて期待していたが……」
『あぁ……だが同胞の仇は必ず討たせて貰う。』
「待て!」
『行け、そのクズを殺すのだ!』
幹部を追おうとしたトゥームストーンの足元に
黒い影が現れ、巨大な角が彼の身体を掠めた。
『お前が近くにいて助かった……さらば!』
森の奥から這い出して来たのは三本の長い角と
頑丈な殻を持つ8メートル程の超巨大甲虫!
サキュバスの魅了魔法によって操られている!
『ギチ......ギチィ......』
「オックスビートルか……」
オックスビートル。
巨人族の胴よりも太い樹木をマッチ棒のように
軽々と薙ぎ払う程の圧倒的な筋力と
キャノン砲の直撃すら容易に防ぐ分厚い装甲、
更に優れた飛行能力まで併せ持つ強大な魔物。
Cランクの冒険者が複数人で徒党を組んで
ようやく生け捕りに出来るか否かという強敵だ。
一対一で正面から戦うなら、最低でもBランクに
相当する実力がなければまず勝算はないと言える。
『ブゥン……』
オックスビートルは感情の読めぬ鉛色の目で
彼を見据え、低空でホバリングする。
「……目を覚まさせてやろう!」
トゥームストーンは拳銃を指で回しながら
ホルスターに納め、代わりにマチェーテを抜く!
『ギィエェェッ!!』
オックスビートルはホバリングをやめて急発進、
一直線に飛行して馬上槍のような尖角で
トゥームストーンを貫かんと突撃してきた!
「面目を潰すようで悪いが、お前の主人はクズだ。
故に斬り、撃ち、奪い、陵辱する……恨めよ。」
彼はそう呟いて二振りのマチェーテを構え、
目の前に現れた陸の戦艦を正面から迎え討つ!
キィンッ!ギャリギャリギャリギャリ!!
オックスビートルは敵が鍔迫り合いに
応じたのを見て勝利を確信する。
「勝ち慣れているようだな……しかし、
真に戦い慣れている訳ではないらしい。」
トゥームストーンはマチェーテを捻って攻撃を
受け流すとオックスビートルの真横へ移動、
ガラ空きの胴体目掛けて脚を振り上げる!
「見せてやろう......」
オックスビートルに肉弾戦を仕掛けるのは愚策。
それが一般的な冒険者や兵士の認識だったし、
当のオックスビートルも自身の殻が持つ強度を
しっかりと理解した上で彼に接近戦を仕掛けた。
ドウンッ!!
しかし、今の状況はどういう事だろうか。
オックスビートルは驚き、焦り、恐怖した……
一見、蹴られた箇所の損傷は軽微に見える。
しかし、筋肉が潰れ内臓が揺れたのも確かだ。
音魔法や風魔法ならそういった芸当も可能だが、
先程申し上げたように彼は魔術の類が使えない。
しかし彼は魔を除いた「術」を全て極めていた。
「武術」「遁術」「医術」「暗殺術」「武器術」
魔法に対する異常なまでのコンプレックスが、
トゥームストーンにこれらを極めさせたのだ。
異国から伝来した技術の中に
「発勁」というものがある。
打撃によって発生した運動エネルギーが
必要最低限の威力減衰で盾や鎧を通り抜け、
筋肉や内臓に直接ダメージを与える……
先程の不可解な現象がまさにそれであった。
『ギ……キィ……』
昆虫は裏返った亀のように大人しくなり、
目の前の怪物の実力を認めたようだった。
「俺は人を殺したいだけだ……行け。」
『……ブゥン』
触媒を使って召喚されただけで特に眷属や
契約モンスターでもない為か、オックスビートルは
逃げ去っていった……魅了魔法が切れたのだろう。
「あのレベルの魔物が短時間とはいえ、
容易く言いなりに……一筋縄では行かんな。」
バシュン!
「うっ……」
トゥームストーンがそう呟いた瞬間
麻痺毒を塗った吹き矢が彼の首筋に突き刺さり、
彼は仰向けになって倒れた。
ー数分前ー
凶悪な犯罪者が集う少数精鋭のマフィア集団
「マンイーターズ」は、クライアントの要請で
奴隷の確保、加工、調教、販売を行う。
仕事が仕事なので恨みを買う事も多いが
幸いにも去年から強力な後ろ盾を得る事に成功し、
手練れの傭兵や猛獣を戦力に組み込んだことで
以前のように何度も報復される心配はなくなった。
しかしながら、いつの時代も正義感に振り回されて
身を滅ぼす愚か者は必ず存在するものだ。
『コイツが私達に刃向かった人間ね……
なんか細っちいし弱そう。』
ボロボロのコートを纏った不気味な人間族を
見て、一人の構成員が呟く。
『ま、油断してあっけなくやられたからね。
でも結構強かったし、壊し甲斐があるよ……』
この男は二人組のサキュバスに倒され、
そのまま彼女たちに褒賞として与えられた……
暗黒の運命である。誇り高い聖職者ならば
この光景を見ただけで憤死しかねない。
『じゃ、脱がしまーす♪』
『待ってました!』
二人のサキュバスが服を破り取ると
全く生気の感じられない、
死人のような灰色の肌が現れた……
『もしかして吸血鬼?』
『多分ね、初めて見た。』
彼の身体には無数の傷跡と乱雑な縫合痕があり、
特に肩から脇腹まで一直線に走っている刀傷や
雷による火傷痕は非常に痛ましいものだったが、
そんな事を気にする彼女達ではない。
『ほれほれ』
『えいえい』
サキュバス達は彼の脇腹をくすぐるが反応はない。
脈はあるので、死んでいる訳ではなさそうだが……
『寝てるのかな……おはようのキスいっとく?』
そう言ってサキュバスの片割れが涎を垂らしながら
彼の顔を完全に覆っている鉄仮面を掴んだ。
『さぁて、ご開ちょ……』
彼女は絶句した……仮面で隠されていた
トゥームストーンの素顔が、明らかにまともな
人間のものではなかったからだ。
しかし、彼女が悲鳴を上げる事はなかった……
男は手錠を引き千切り、彼女の両目に人差し指と
中指を突き込んで視力を奪った。
ズブッ、グチャ、グチャッ
そして彼女が悲鳴を上げようとした瞬間、
指を深く突き刺してそのまま脳をかき混ぜたのだ。
彼女は大量の涎を垂らしながら即死し、
ゴミか何かのように地面に打ち捨てられた。
「案内ご苦労……先に行った彼女にも
よろしく伝えておいてくれ。」
もう一人はドアに向かって走ろうとしたが、
一歩踏み出す間もなく首をへし折られて死んだ。
彼は何事もなかったかのように仮面を装着し、
武器も持たずにドアを開ける。
『ん?急に声が止んだな……何かトラブルでも』
「仲間が二人死んだだけだ、問題ない。」
『ウッ……!』
ドアの前にいた見張りの脳を上段蹴りで揺らし、
素早く失神させると部屋に引き摺り込んで
クローゼットに閉じ込める……僅か7秒の早業だ。
『曲もn』
ズバァッ!!
トゥームストーンは見張りの手から奪った
サーベルを片手に廊下を堂々と歩き、
視界に入る敵を片っ端から斬り捨てていく……
「曲者?不法占拠者の分際で何を言っている。」
血糊と脂肪、刃毀れで使い物にならなくなった
サーベルを捨て、新しくロングソードを拾う。
そしてまた斬る、取り替える、斬る、取り替える。
何度か繰り返すと、20人ほど死んでいた。
「マナ適性者を出せ、貴様らでは話にならん。」
トゥームストーンが敵の上段斬りを発勁で弾き、
ロングソードで喉を切り裂いたその時だった。
『道を空けろ……望み通り私がやる!
お前達は退避するんだ……勝てる相手じゃない!』
トゥームストーンを取り囲む兵士達を押し除け、
先程の幹部が姿を現した。
「マンイーターズは魔族至上主義だと聞いたが、
随分と高く買ってくれているようだな?」
『同胞を救おうとしているのは貴様も同じだ。』
彼は奪った装備を全て彼の足元に投げ、
目線で拾うように促した。
「対等な条件で勝てば、魔族の優位性を示せると?」
『あぁ……貴様、人間にしては物分かりがいいな。
柄にもなく殺した事を後悔するかも知れん……』
「お前のように他を見下している異種族のガキを
200人は殺して来た、多少は察せるようになる。」
次の瞬間、トゥームストーンの殺気が膨れ上がり
魔族は身震いした……彼の言葉はブラフではない。
それどころか、過少申告しているような気もする。
『うっ……!』
彼は強かった。
故に、察する事が出来てしまったのだ……
自分は目の前の
「恥じる事はない……皆、最期にはそうして死ぬ。」
彼は武器を拾わず、武術らしき構えを取った。
身体に付着した返り血が瞬く間に闘気で蒸発し、
瞳孔が開き切った黄金色の目が彼を睨む……
ー同時刻ー
怪人に組み敷かれ、毒汁を飲まされ始めてから
何時間経過しただろうか……実際には7分程だが、
彼の人生の中で一番長い7分に違いない。
「ゴッ……ガ、ァ……」
『ヒヒヒヒッ……キモチよくなって来たなァ?
もうすぐブッ壊れちゃうぞォ……楽しみだなァ?』
恐ろしい事に、苦痛が薄れ意識が明確になって来た。
このままこの拷問を受け続ければ、人間ではない
「何か」になってしまうのだろう。
(……僕は真面目に生きて来たのに、どうして!?)
別に偉業を成し遂げた訳でもないし、
本心から誇れるような役割に就いていた訳でもない。
ある日目が覚めたらこの世界に放り出されて
この怪物たちに捕らえられ、奴隷にされた。
「ヒヒヒヒッ、あと1分ガマンしろよォ……
そしたら全部どうでもよくなるからなァ……!」
(どうでもいい訳ないだろ、ふざけるな……!)
先程までは恐怖と諦めに支配されていた少年だが、
自身が破壊される寸前である事を自覚した瞬間
爆発的な力を発揮する!
「ゴボボボッ……!」
彼が両腕に精神を極限まで集中させると
金属製の拘束具が瞬く間に赤錆で覆われて
ボロボロと崩れ落ちてゆく!
『何だァ……?』
この世界には、マナに選ばれた人間が存在する。
一般的に「冒険者」と呼ばれるその超人は
常人の何倍もの身体能力と魔力を持つという。
彼も異世界に来た時、噂くらいは耳にしていた……
彼の両腕は結晶と黄金が混ざり合った塊になり、
ブーツには紐状になった自然銀が巻き付く。
「この身体は、俺の能力なのか……!?」
(ヤバイ!)
サキュバスは即座にハルバードを召喚し、
能力が発現したばかりの少年に襲い掛かる!
「うぉ!?」
少年はハルバードから放たれた真空波を
辛うじて回避するが、攻撃の余波で姿勢を崩して
地面に頭から突っ込んでしまう!
『へへッ……殺したりしないから安心しろよォ、
手足を斬り落として魔力サーバーにでも』
彼女がその続きを話す事はなかった。
ボロ雑巾のように引き裂かれた彼女の配下が
無様に逃げ惑い、絶叫しながら飛んで来たのだ。
『お頭ァ、助けてくr』
ズドォンッ!!
常に風穴の空いた冒険者が血を吐いて倒れ伏す。
その背後から二挺の八連装リボルバーを構え、
黒いコートを羽織った小柄な仮面の男が
ゆっくりとこちらに歩み寄る……
『何とか間に合ったようだな……』
「わぁァァッ!!銃で、ひ、人が、し、死んで!
警察に……駄目だ、この世界に警察がいるのかすら
分からない!そもそも人間なのかコイツら!?」
『彼らは魔族という生き物だ。
よく覚えておくといい、異国の人……』
「あ、アンタは!?」
『俺か?俺は……』
『クソがァ!!』
ギィィィンッ!!
降って来たハルバードの刃から少年を庇いつつ、
ガンマン風の男は会話を続ける。
『トゥームストーンだ。本名は捨てた……
売れない私立探偵だが、最近は金策の為に
こういう荒事もやらなければいけない。』
「僕を助けに来てくれたのか!」
『そんな所だ、ほら立て……』
「うわぁ!?」
トゥームストーンは投げ縄めいた形状の
極太ワイヤーを使って彼の胴体を捕らえ、
素早く引っ張って強制的に立たせた。
『2m近い体躯に年代物の斧槍、翡翠の角。
元王立軍兵士“株斬りのアルテナ”か……
グラディオラス将軍が貴様のようなカスを
不名誉除隊にしたのは正解だったらしい。』
『テメェ、あのジジイの差し金か……!』
『いや……お前が不当に支配している集落の
市民から、銀貨100枚で依頼を受けた用心棒だ。』
『安っす!馬鹿かテメェはァ!?』
『お前たちに搾取された者達にとっては大金だ、
それに、お前の首はその二十倍の価値があるし
好きな物を略奪していいとも言われている。』
「おい、早く逃げないと殺されるぞ……!」
『問題なかろう。ここには二人も戦士がいる、
出所祝いに憂さ晴らしといこうじゃないか……』
「まさか倒すつもりでいるのか!?」
『そういう契約になっている……君も男だ、
やられてばかりでは気が済まんだろう。』
確かに、アルテナは恐ろしい……
しかし、この男が言う通り憎くもあった。
『自由を取り戻す為に賭けに乗ってみるか、
それとも諦めてこのクズの奴隷になるか……
私に決める権利はないし、無理強いもしない。』
少年は彼の持っていたマチェーテを奪い取り、
震える手で目の前のアルテナに向けた。
「やってやる……どうせ、殺されるんなら……このクズを一回でも、一回だけでも叩き斬って、手足でも指の一本でも道連れにしてやる……!」
「あぁん……!?」
アルテナの額にミミズのような青筋が浮かび
その殺気で死体に群がる蝿が次々と落ちたが、
少年は勢いに任せて彼女を挑発する!
「取り消すつもりはない、お前を殺してやる!」
『よく言ったな……既に優秀な戦士だ。』
『面白ぇ……お前ら二人とも、アタシが直々に
クスリ無しでブッ壊してやるよォォッ!!』
アルテナはハルバードを振り上げて高速移動、
一瞬で目の前の二人を射程範囲内に入れる!
『仲良く内臓ブチ撒けろォ......
激しい旋風を伴う斬撃が二人を襲う!
「うわあぁぁぁ!!」
少年は咄嗟に黄金化した腕で斬撃を防ぎ、
トゥームストーンも四足獣めいた低姿勢で回避!
『面白い能力だな、反応速度も申し分ない。』
トゥームストーンは低姿勢のまま走り出し、
マチェーテを抜いてアルテナに接近!
『……
『ぐ……ぁ……!?』
影も見えぬ速度ですれ違いざまに斬撃を見舞うと
少し遅れて彼女の脇腹から鮮血が吹き出す!
『背後に飛んで急所を外したか。
その無駄に的確な判断を後悔させてやろう……!』
『テメェ……殺してやる!!』
「やらせるか、食らえ!!」
アルテナがハルバードを振り上げた瞬間、
少年がタックルを繰り出して攻撃を止めた!
黄金で重量が増した会心の一撃で長身が揺らぐ!
「一矢報いたぞ……今だ!」
『承知した』
少年が叫んだ時、トゥームストーンは既に
銃を収めている腰のホルスターに手を伸ばし、
早撃ちの予備動作に入っていた。
『
トゥームストーンは引き金を引くと同時に
鋭い発勁を繰り出し、火薬の力で撃ち出された
オリハルコン製の螺旋弾丸を更に加速させる!
ズギャンッッ!!
『ぇ』
拳銃の弾速などたかが知れている、自分なら
容易く避けられる……アルテナの認識は
決して間違ってはいなかった。
敢えて彼女の落ち度を挙げるとするなら
トゥームストーンの力量を測り損ねた事と、
出会った瞬間に逃げ出さなかった事だろうか。
弾丸は彼女の認識出来る速度を凌駕し、
脇腹の傷口に入り込むと背骨に当たって
角度を変え、肋骨を抉って角度を変え……
『う”ぁ”……ぁ”……!?』
ピンボールのように体内を跳弾し続け、
彼女の全身を余す所なく破壊し尽くした。
アルテナは数分の間声も出さずにじたばたと
地面を這いずり回り、何度か痙攣しながら
トゥームストーンに手を伸ばした。
『ぁ"……!』
プチュン
次の瞬間、彼女の眼窩から銃弾が飛び出して
トゥームストーンの胸ポケットに収まった。
全身の穴という穴から血と汚物を吐き出し、
拷問にも等しい極限の苦痛を味わいながら
目の前の悪党は息絶えたのだ。
『もう逝ったか、見掛け倒しめ……』
「ひいぃ!?」
『しかし、伝説の武器職人がここにいると
聞いて乗り込んだが……売り飛ばされた後か?』
「あ、あの」
『あぁ、そうだ……迂闊だったな。』
ズドン、ズドン、ズドォンッ!!
トゥームストーンはアルテナの脳天に
三発の弾丸を叩き込み、彼女の死を確認した。
『君の指摘がなければ忘れていたかもな……
しかし、前頭葉が少な過ぎると思わないか?』
「うーん……」
バタンッ
一ヶ月という長期間に渡って拷問を受けた後に
恐るべき魔技と他者が殺される様、大量の血を
目の当たりにしたせいで少年の精神は
これ以上なく摩耗し、疲弊していた。
意識を手放す事は、そう難しくないだろう。
(伝説の武器職人とやらは見つからず終いか、
強敵との戦闘に備えておきたかったが……
ともかく、彼を家に帰さねばな。)
トゥームストーンは少年の身柄を憲兵に引き渡して
アルテナの首級を金貨の袋と交換すると
新たな戦場を求め、何処かへ消えた。
ー数日後、トゥームストーン宅ー
『ゴナー・ロムルスさんですね?』
トゥームストーンの元に馬車を引き連れた
配達業者が訪れていた。
「……そうだが何か?」
『貴方宛てに複数の荷物が届いてますよ。
えーと、送り主は……G.H、何の略だ?』
「取り敢えず、そちらの仕事を済ませよう。」
トゥームストーンはいつの間にか配達員から
スリ取っていたペンを使って書類にサインをし、
ポケットに数枚の銅貨を潜り込ませる。
『えっ!?』
「次もよろしく頼む。」
『ど、どうも……ではまた。』
トゥームストーンが受け取った木箱を開けると、
そこには大量の武器が入っていた……
リボルビングライフル。
ククリマチェーテ。
バリスティックダガー。
ボルトアクションピストル。
折り畳み式の戦闘杖。
ソードオフショットガン。
バグ・ナウ。
そのどれもが素晴らしい出来栄えの名品であり、
コネも無しに買い求めれば大金が必要となる筈だ。
「この慧眼、鍛冶屋にしておくのは惜しいな。」
しかも恐ろしい事に、これらの強力な武器群は
彼の戦闘スタイルに合ったものばかりだった。
「いい玩具だ……!」
彼は鉄仮面から覗く黄金の瞳を輝かせつつ、
壁に貼られた無数の手配書に目をやる。
「適当なクズで試し撃ちをしてみるか。」
トゥームストーンは大量の銃器と弾丸を担ぎ、
不気味な馬に乗って闇夜へ溶ける……
明け方になると、何人かの犯罪者が
蘇生すら不可能な程に損壊された状態で
時計塔に首吊り縄で吊るされていたという。
ー完ー
ーキャラクター紹介ー
ゴッドハンド(G.H)
本名: エイジ・ヒガシマス
種族: 異世界人 性別: 男性
身長: 172cm 年齢: 17歳
使用魔法: 錬金術
異能: ???
「神の手」の異名に相応しい腕を持つ
伝説的武器職人の正体はあどけない若者だ。
この世界では珍しい科学技術の信奉者であり、
電気や火薬、燃料を用いた武器の開発を
日夜行っている優秀な科学者でもある。
トゥームストーンのコートに超小型発信機を
取り付けて潜伏場所を特定、彼に謝礼として
大量の武器を一方的に送りつけて来た。
トゥームストーン
偽名: ゴナー・ロムルス
種族: 人間(吸血鬼) 性別: 男性
身長: 160cm 年齢: 23歳
使用魔法: なし
正体不明の一流ヒットマン。
魔法や奇跡が使えないという特異体質だが、
それを補って余りある戦闘センスの持ち主。
その身体には無数の刀傷と雷による火傷が
刻まれており、自殺同然の激しい戦闘を
長年に渡って繰り広げて来たものと思われる。
高い実力を持っているのにも関わらず
名が売れていないのは敵対者を皆殺しにして
その口を封じて来たからであり、
鉄仮面の下には恐ろしい秘密が隠されていた。