もう一匹は昔からのお気に入り。
西一番エリア、風車が立ち並ぶ風力発電エリアこそが、アムトの住居である。
イーユイを捕まえた北二番エリアとは正反対、帰宅までに時間はかかったが伝承に語られる、ポケモンを捕獲できたのだ。
さぞや喜んでいるかと思いきや、案外バツの悪そうな顔つきをしていた。
「え~と、イーユイを出してもいいんだよね?」
アムト自らが資金を全て稼ぎ、設計したログハウス内でモンスターボールを握りながら、手持ちの二匹へと訪ねている。
「大丈夫だと思われマス、相当に怒っていそうデスケド」
「暴れだしてもすぐ戻せばいいんじゃない? 回復はしたけどその子レベル1になってるし、平気だとは思うけどね」
どれほど強大な存在であろうが、レベルは1になっているし、図鑑にも登録される正式な捕獲なので、持ち主となったアムトのポケモンとなったイーユイ。
しかしポケモンの中には人の手に収まったといえども、扱いが難しかったり強すぎる力のあまり、ボールから出すだけで周りに影響を与える存在もいるのだ。
イーユイも間違いなくそのカテゴリーだろう、何といっても「災厄」なのだから。
パルデアを救った英雄の一人でなければ、捕獲要請など相談こないのだ。アムトには扱えるだけの技量があると、見込まれているに他ならないが、それでも万が一はある。
ブレードを携えるメイド、翼の生えた制服少女は、イーユイが暴れだしてもすぐ抑えつけられるようにと、戦闘体勢を取る。
「じゃあ出すよ、イーユイ出てきて!」
ボールを床へ投げ落とせば、可憐な着物美少女が姿を現す。
「むすっーーーーーーーーーー!!!!!」
……メイドの推測通り、とてつもなくふくれっ面であるが。
「えーと、まずは自己紹介しよっか?」
腕を組みながらどこまでも頬を膨らます、もちろん視線なんて合わせようとしないが、わざとらしいくらい頬を膨らませているのが、より可愛らしく、二の腕がさらしに包まれた巨乳を強調させているので、無自覚にイーユイはエッチな事としているのである。
KENZENな少年としては刺激が強い、美少女であるだけでもチラ見するのに、おっぱいがデカいとなればガン見してしまう、男性のサガなのでそこは許してやって欲しい。
イーユイはどちらも兼ね備えているかつ、少し視線を真下へズラせば短い丈の中の、下着すら見えそうなので余計に気になってしまっている。
「自己紹介だと? そんなものいらぬわ」
「まぁまぁ、これからよろしくって意味も込めてね」
相変わらずふくれっ面を崩さないイーユイ、話が進まないのでアムトは強引にだがイーユイの近くに寄り、自己紹介を始めた。
「俺はアムト、アカデミーに通いながらここで暮らしてるトレーナーだよ、歳は16歳」
握手を求めるが当然イーユイは応じてくれない。彼女の生まれた経緯が経緯であるし、寝起きにブチかまされたので機嫌が悪いのは、しょうがないところではある。
「それだけではアリマセンよねご主人サマ、パルデア地方を救った英雄でアリ、アカデミーでも優秀な成績を収めてオリ、ジムバッヂも全てお持ちになってイルではアリマセンカ」
「自慢してもいいことだと思うけどなー、聞かれないとマスターったらそこは言わないのよね」
アムトの手持ちポケモンが次々と、彼の功績を語るがアムトは慌てて止めさせた。
少し恥ずかしいというのもあるが、普通のトレーナーとして接して欲しい気持ちが強い、友達である先輩トレーナーもそうであったように、彼もまた有名になったが故に〝普通〟こそが、心地よいと感じるようになったのだ。
「ワタシはAi、種族名はテツノブジンとモウシマス」
コミュニケーションモニターが満面の笑みに変化、捕獲時に手に持っていたブレードは肘に収納されており、料理や飲み物を配膳するおぼんとしても、活用するメイド服の女性。
彼女はパラドックスポケモンとされる、極めて異質なポケモン。
アムトがとある事件を解決した際に、残されたボールの中から彼女(一応♀でいいらしい)を発見、以後手持ちとして稼働したばかりの彼女へ経験を積ませているのだ。
「どうやらワタシは俗に言う色違いラシイデス」
アムトが交戦したテツノブジンは、サーナイトやエルレイドと近い配色なのだが、Aiは全身がシルバーメタリックで、ブレードやスカートの一部のみが、マゼンタカラーとなっている。
AiだからAi、あまりに単純なネーミングだが彼女は宝物だと気に入っている。
「愛をいっぱい受けて育って欲しい」とも、かけているのは間違いないであろう。何でもできるメイドさんだが、稼働し日が浅い影響なのか、言葉遣いが良く分からない事になるのはご愛敬である。
「私はカザナだよ! 種族名はムクホーク!」
前髪となっている鶏冠で右目を隠し、ブレザーの制服を着ている彼女の背には立派な羽がある。
卓越した飛行速度、進化で得た筋力を武器にバトルでは勿論、運送会社のお仕事もしておりアムトの手持ちでは、最古参なのが密かな自慢ポイントである突撃隊長。
制服を着ているのは「憧れの先輩が着ていたから」らしい。普段は優しく親しみやすい表情であるが、バトル中は猛禽類の目つきへと変化する、そのギャップに主に女子はやられてしまいファンもいる。
「他の手持ちはちょっと別のところにいるんだ、働いたりとか、一人旅がしたいだとか、そんな理由でさ」
事情が様々あり現在ログハウスで暮らしているのは、アムトを除いて手持ちが二匹のみ。
なので空き部屋は数個ある、イーユイが新しく暮らすとしても何ら困らないであろう。
「さ、次はイーユイの番だよ」
「だれがするか、そんなのよりもわらわは腹が減っておるぞ、何か美味いものを持って来い」
一人と二匹が丁重に挨拶をしたというのに、ふくれっ面を崩さないイーユイは指をさし命令してきた。
恐らく2000年前もそうやって振る舞ってきたのだろう、「お前達はわらわを見上げる側だ」と、隠そうともしない態度にカザナはムッとして、アムトは顎に手を当て、Aiは省エネモードとなって寝ている。
「そうだね、お腹が空いているのは由々しき問題だね、お茶も出していなかったのは反省する」
アムトが頭を下げたってイーユイは変わらない、ツーーーーンとした表情のまま頬を膨らませている。
ダダこねている子供にしか見えないが、やっぱりお胸は大人以上である。
ちなみに、Aiは露出が皆無のメイド服を着ているので分かり難いが、とてもスレンダーなボディ、カザナは発達した大胸筋を持つので結構なバストで、ブラウスの胸部にはシワが密集している。
(ま、イーユイちゃんのが大きいと思うけどね、背丈のわりに大きすぎるでしょうあの子)
巨乳のカザナが目視による乳比べをしてしまう程に、イーユイはアンバランスの代名詞であるロリ巨乳として、完成されたアンバランスという矛盾と説得力を両立させる身体をしている。
それは寝たフリをしているAi以外、アムトも同じ事を思っていたのだが。
「Ai、寝てる場合じゃないぞお仕事だ、料理を四人分お願い」
「……再起動シマス、了解ナサイましたご主人サマ、美味しいお料理をすぐにオツクリいたしマス」
アムトが頭をツンツン押せば、寝たフリモードが解除されマゼンタカラーが点火する。
コミュニケーションモニターを笑顔にし、各々へお辞儀をすれば床を滑る速度で移動し、キッチンで料理を作り始めた。
「なんと奇怪な動きをするんじゃアイツは……」
Aiは未来からやって来た-連れてこられたポケモンなので、メタグロスやコイルなどとはまた違ったメカニカルなポケモンである。
そもそも本当にポケモンかどうかすらも疑わしかったが、紛れもなく彼女は未来のポケモンであると判明した。
……他はまだ詳細不明ばかりであるし、サーナイトやエルレイドの子孫、二匹をモデルに制作された説などはあくまでも現状仮説の範疇だ。
少なくともイーユイの誕生した2000年前に、未来のポケモンなど当然存在はしていない。
それどころかイーユイにとって、2000年後の現代は知らないものだらけなので、バレないように(バレているが)辺りを見回し観察してしまうのはごく自然だ。
「Aiは少し、いや、かなり変わった子だけど料理はすっごい美味しいんだよ!」
(こやつも知らんポケモンじゃ、わらわの知らぬ事が多すぎる……力も出ないわらわは、この先どうすればよいのじゃ)
どうやらムクホークも2000年前には存在していないらしい。
イーユイにとってパルデアを適当に歩いても、未知のポケモンはかなりの確率で出向く事となる訳だ。
そうでなくとも情勢に地形に、当時とはまるっきり世界が異なっている。異世界転生を果たした、半分ほどウソではなくなる程の年月が経過しているのだ。
「お待たせ致しマシタ」
ブレードにお皿を乗せて素早くテーブルへ並べる、一気に豪勢な夕食を迎える場となりアムトとカザナは喜ぶも、イーユイは見たこともない料理に何十回目かの困惑。
「なんじゃこれは?」
「カツレツでございマス」
好きな食べ物は?
質問してもイーユイは答えてくれなかったので、冷蔵庫にある食材の中で最高の物を作る、それがAiの使命であった。
彼女の人工頭脳には数多の〝美味しいレシピ〟がインプットされている。
まだ稼働歴が浅いので、レシピに存在しない料理のアドリブ制作は不得意であるらしいのだが、黄金色の衣を纏ったカツレツは絶対に美味しい!
見ただけで断言してしまえるだけの完成度、唾液が抑えきれなくなる程の香り、例え満腹だろうが手が伸びてしまう食欲を刺激する見た目。
「自信作デス、お食べクダサイませデス」
Aiは口調こそ高頻度でポンコツになるが、料理だけは絶対にミスらない。
よくある砂糖と塩間違えてしまった、そんな事は絶対に起こらないので安心して食べられる。
「……ッ! こんなッ! 知らん料理をッ!!」
……美味しそう、イーユイは心のそこから思ってしまう。
カツレツなんて料理は当時存在していない、だが……香りは、見た目は、2000年ぶりの食事を前に期待する胃袋は、嘘をつかない。
本当ならば皿ごとむしゃぶりつきたいくらいなのだが、彼女は災い、妬みの化身、プライドの高さはテンガン山よりも高く、常に同胞以外を見下しやりたい放題してきたポケモン。
「わらわに食えと……言うのかァァァッーーーーー!!」
「あ」
「ちょっ……」
「?」
イマドキ珍しい、というかそれこそ〝おとぎ話〟の存在となった、亭主関白ガンコジジィも顔負けな、ちゃぶ台ならぬテーブル返しが炸裂した。
四人のカツレツが宙を舞う、普通だったら落下し美味しい料理が台無しとなっていたが――
「救出イタシマス」
持ち物のブーストエナジーを使用、それによってAiは自身の特性、クォークチャージを発動。
未来の機関を躍動させる事により素早さが大幅に上昇し、カツレツが落下する前に同じく宙を待っていたお皿の上へと、今一度乗せ直す。
「アブナイところデシタ、イーユイさん、アナタは一口も召し上がっておりまセンが、お口に合わないようで申し訳アリマセンデス、全てはご命令いただいたご主人サマのせいデス、クレームはそちらへお願い致しマス」
何事もなく四人分のカツレツをテーブルへ配置し直し、Aiはコミュニケーションモニターでしょんぼり顔を作り出す。
事ある毎にアムトに責任を押し付けるが、彼女はまだ稼働し日が浅いだけなのだ、他は優秀なメイドなので許してあげよう。決してわざとやっているのではない。
「それはすまない……! 俺がイーユイの好みを聞き出せていれば、口に合う料理を作って貰ったんだけど……」
「マスターは悪くないって! Aiも別に悪くないからね! イーユイちゃん! いくら気に入らないからってやり過ぎだよっ! いらないんなら手を出さなくていーじゃん!」
カザナが必死でフォローする、カツレツを一口食べたが翼をバサッと広げ、天高くまで飛び上がるほどの美味しい味であった。
やはり失敗はしていない、一口も食べずに「食えるか!」とテーブルをひっくり返した、イーユイが間違っているのだと反論する。
カツレツが嫌だったら好きな物を言えばいい、アムトは尋ねたがふくれっ面していたのはイーユイだ。
今までも生意気で性格の悪い仲間は何匹もいたが、ここまで酷いのは始めてであった。最古参だけあり輪を乱す者、最低限の礼儀もなくマスターへ立てつく者は許せなくなる。
「なんだ? わらわに問題でもあるのか?」
テーブルに足を置くイーユイ。
カツレツの乗ったお皿を蹴ろうとしていたので、Aiが瞬時にお皿を移動させ、ちゃっかり自分で食べてしまっているがここはスルーしておこう。
イーユイの放つ邪気にカザナは正直怯みそうになった。
レベル1になってしまったが彼女は災い、気を抜けば〝もっていかれそう〟になる。
「イーユイ」
「なんだ小僧、お前も言いたい事があるのか? わらわは気が立っている、言動次第でお前も――」
足の裏をアムトへ向けながら頬杖までつき始める。
とんでもなく行儀が悪いイーユイへと、アムトも怒りが抑えられなくなったのか? ワナワナと身体を震わせながら放った言葉は――
「下着、見えそうだから足を乗せるのだけは止めといた方が……」
「は………………………………みっ、見るでない馬ッ鹿者おおおおォォ~~~~ッッ!!!! 不埒じゃ! 卑猥じゃ! 猥褻じゃ! 死刑じゃ!!」
「というよりも、ハイテマセンね」
「うん……ギリギリ見えなかったけど穿いてないと思う……」
イーユイは慌てて立ち上がり、スカートの丈を抑えつけながら前かがみとなるが、この体勢だと下はいいが上はプルンッ、で、ムギュ、なので、どちらにせよ大変けしらかん身体付きを強調させてしまう。
そう、イーユイは穿いていない。
2000年前だから概念が異なるのかもしれないが、下着の類は一切身に着けていない。
もう少し角度が危うかったら〝視えて〟いただろう。女性であるAiとカザナは察したらしいが。
「ワタシの作ったカツレツ、とっても美味しいですね。それはそうとイーユイさん、まずは下着の購入をオススメしたいのデスが、如何でショウか? 残念ながら近辺ニハ下着屋さんはアリマセンデスので、明日までお預けにナルのデスが」
「そ、そーだねぇ……私が買ったのを貸してあげてもいいんだけどさ。さらしでも零れそうで危ないし、ブラも用意しとこうか? 私ので入りきるかは分からないけど」
交戦間際だったがそこは女の子同士、最低限の身だしなみと言うか女としてのマナーと言うか、下着は着て欲しいとお願いしている。
「俺からもそれはお願いしたいな……キミを見れなくなっちゃいそうだし」
イーユイと同じくらい顔を紅くするのはアムト、男性なので仕方ない。
本当に、本当に残念なのだが、スカートの中は拝めなかった。拝めない方が良かったかもしれないが、拝めていたらアムトは輸血を必要としていただろう。
何度も言うがまだ16歳なので許してやって欲しい。おっぱいも下着も興味があるのは健全の証だ。
「イ……イヤじゃあぁぁ~~!! どいつもこいつもわらわを愚弄するとはっ!! 生物としての格の違いをお前らに刻み付け」
「お失礼、みねうち、デス」
「んぎゃわぁんっ!」
レベル1なのにとんでもなくワガママ、偉そう、自分がこの世で一番優れている生物だと思い込んでいる。
2000年前からまるで成長していないし、反省もちっともしていないからこその発言、思想である。
だがやはりレベルは1、暴れられたら困るとAiはアムトの指示も無しに、みねうちをしてイーユイを黙らせた。
「申し訳アリマセン、クレームはご主人サマへお願い致しマス」
「俺は何も言ってないでしょっ!??」
未来のポケモンは現代ポケモンよりも、もしかしたら表情が豊かなのかもしれない。
悪戯っ子のようにニヤニヤしているAi、だが指示をされずとも的確な自己判断でイーユイを止めたので、褒めるべきではある、というかAiは褒められたかっただけかもしれない。
頭を抑えながら「自分の何が悪いんだ!」「悪いのはお前らだ!」と、ギャーギャー騒ぐイーユイ。
バークアウトを連発しているようだが、レベル1かつ体力が残り僅か&お腹が空いているので痛くも痒くもない、少しうるさいが。
「イーユイ、静かにして! 俺の話を」
「黙れぇぇっ! わらわは災いの勾玉ぞっ!! 人間と人間に仕えるポケモン風情が偉そうに説教するのかっ!!!」
誰よりも偉そうなのはロリ巨乳な金魚だが、そんなことは勿論棚に上げログハウスから脱走するイーユイ。
封印期間が長かった影響もあるが、かんざしのようにツインテールに刺さっている、左右合計8本の杭と、両手足や胸を縛る鎖も彼女の力を、抑えつけているものだが自力では取れそうもない。
プライドが高すぎるイーユイは決断した、口内から血が出る程に不愉快で、苦悶な表情になりながらの決断、それが相手に背を向けて逃げること。
「あっ! 待ってよ!」
「追いかけマショウ、ご飯を食べ終わってからヤリマス」
「食べてる場合じゃないでしょ! あの子弱りきってるのに凄く速いよっ!」
イーユイが逃げ出すのは生まれてから二回目だ、走る、走る、走る、何もかもが変わってしまったパルデアを疾走する。
全盛期の力さえあれば、アムトら一人と二匹を葬るなど簡単であった。
「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! このっ……忌々しい杭と鎖さえなければっ……」
認めたくない、でも認めるしかなかった、今の自分は弱いと。