リアル世界の歴史とは異なりますので、存在するものが存在しなかったり、なかったものがあったりします、ポケモンの世界なので。
「ああああっ、嫌な奴を思い出してしまったわ! あのドラゴン、ギラティナ……何が神じゃっ! 何がポケモン使いじゃ!」
2000年もの間、封印の祠へ閉じ込めた青年と神、そのコンビこそがイーユイにとって最大のトラウマとなっている。
だから嫌なのだ、人間の若い男が。
疾走しながら杭と鎖を外そうとするが、どんなに力を入れたって外れない。
恐らく全盛期のイーユイですら外せないだろう、あのギラティナ神が打ち込み、巻きつける為に生み出したのだから。
「許さんっ! 許さんぞおおおおっ! わらわにこんな屈辱を! もう一度パルデアに災いを降り注いでやるわぁぁぁ!!」
カタストロフィを撃とうとする。
が、出せたのは禍々しい色をした煙か、モヤか、これではそこら辺のコイキングすら倒せるか怪しい。
「腹が……」
お腹がグーグー鳴って仕方がない、一度空腹であると意識してしまったら止まらない、ポケモンセンターに預けられて体力が回復しても、空腹やメンタル面は戻らない。
だからこそトレーナーの存在は、この世界に必要なのだ。
「ダメじゃあ……腹が減って動けぬ……あああっ屈辱じゃぁ……」
周りの景色など確認する余裕などなかったが、今は夜、暗闇が夜空を支配している。
月明かりもなく、街灯に頼る事も出来ない、オージャの湖まで疾走していたがイーユイはまたしても困惑する。
「こんなもの2000年前には……」
何もかもが2000年前とは変化している、自分が知っているパルデア地方ではない、走り疲れその場で女の子座りをし、始めて自分が何処にいるのか分からなくなっていると、気が付いた。
2000年前のパルデアの地理を把握していようとも、現代では何の意味もない。広大な湖を前にし不安が込み上げてくる。
さらに追い打ちをかけるように、突然の土砂降りがイーユイを襲う。
「ちっ! 何処か雨を凌げる場所はないのかっ! 雨は嫌いじゃ、妬みが薄れるのじゃ!」
土砂降りはニュースで予め予報されていたが、イーユイはもちろん知りえない。
レベルが1、HPも1、空腹で足腰に疲労が溜まって、彼女が苦手な雨まで降るとは――
「とんだ火難じゃあっ……封印から抜け出せたと思えば、こんな仕打ちを受けるとは……」
彼女は自身に好ましくない出来事が起こると、「火難じゃなぁ」と嘆くのが癖のようである。
雨は火難とは真逆であるが、災厄である彼女にとっては「天災」なのだ。
「傘も出せぬとはっ、あの料理を食べておけば少しは空腹を紛らわせたのかもしれぬが……もう後の祭りじゃ……」
都合よく土砂降りを凌げる場所など見つからない。
全盛期の彼女ならば雨に濡れる前に、妬みを凝縮させ作り上げた傘を広げ、雨水から身を護れていた。
少し念じれば楽に取り出せる筈なのに、弱りきっている身体は何も言う事を聞かない、自分の身体が自分の物でなくなっている。
「何処じゃここは……わらわは何処へ行けばよいのじゃ……」
野生のポケモンすらも逃げ出す程の土砂降りの中、フラフラになって彷徨うイーユイ。
祠の中で只管眠り耐えていた彼女は、何億と雨に責められる夢を見て苦しんだりもした。
「ダメじゃ、もう歩けぬ……」
両足に纏っていた炎すらも消失、前方へ力なく転倒したイーユイは不幸の極みか、湖へと顔面からダイブしてしまった。
タイプ上水は弱点ではあるが、蒸発させてしまい逃げ出せた、全盛期であるならば……
(わらわは消えるのか……? 災いと恐れられたわらわが……)
災いの宝に死が訪れるかどうかは不明だが、きっと封印されている時と同等か、それ以上の苦痛を湖の底で味わうのだろう。
イーユイは初めて「もう死にたい」と思ってしまった。
全てがどうだって良くなってしまった。
弱りきった着物姿の美少女が溺れている、獲物だと獰猛でレベルの高いポケモンが生息しているオージャの湖、代表格であるミガルーサが大量にイーユイを取り囲み始めた。
群れでやって来たミガルーサ達は、「誰が先にアイツへ食らいつくか勝負しよう」とでも言いたげな表情で、一斉に身を削りロケットの如く推進力を得る準備をする。
大量のミガルーサに囲まれている事にも気が付かない、イーユイの意識は朦朧として身体が重たいこと、あまりに弱体化してしまった自身を嘆くこと、溺れながら出来るのはそれくらいであった。
最期にイーユイは水面へ手を差し出す。
もしも同胞である3つの宝がいたら、助けてくれただろう。
唯一の対等である3匹すら、今の彼女の味方をしてくれない。
イーユイはひとりぼっちだ、祠の中でもずっと、2000年後である現在でもずっとずっとひとり。
(誰か……)
助けを請うなど一度もなかったが、生存本能が心を叫ばせた。
マヌケな終わり方だなと、諦めた表情で目を開くのすら止めてしまった。
それを合図にしたのか、身を削ったミガルーサ一同がイーユイへと猛スピードで接近する。
災厄と恐れられた伝説のポケモンも、衰弱しきっている身体で水中に沈んでしまえば、ミガルーサ達から逃れられる道理など――
「Ai! ソウルクラッシュ!」
そこへ……未知なる素粒子を漲らせながら、水上を疾走、ブレードを携えるメイドポケモンが湖を一閃。
「ご主人サマの敵はワタシの敵デス! お覚悟クダサイマセ!」
マゼンタ色の斬撃は湖を真っ二つにし、少しの間をおいてミガルーサ達がプカプカと水面へ浮いてきた。
肉体へのダメージはもちろんの事、神髄は相手の精神を崩落させる衝撃を与える、習得者が希少なソウルクラッシュ。
助けに現れたのはあのメイド、Aiであった。
挨拶や食事提供時には見せなかった、コミュニケーションモニターは勇ましく、敵対するものへは容赦のない表情を形成している。
「マスター! イーユイちゃん発見したよ!」
また一人、助けが来てくれた、瞳を猛禽類のソレに変化させた制服少女のカザナだ。
礼儀知らずのワガママ少女へ、いい印象を持っていなかったカザナだが関係ない、見逃せない危険に陥っているし、何よりも信じたマスターから指示を受けたのだ。
〝みんなでイーユイを助けに行くぞ〟と。
まだ消えていないのかと、目を開けたイーユイの視界には飛沫でもない、倒されたミガルーサ達でもない、一人の少年の姿があった。
「イーーユイーー!! 今行くからなっ!!」
「……アイツ……人間、男、うう……嫌、じゃあ……」
この後に及んで少年、アムトからの救出を拒む言葉が出てしまう。プライドの高さとトラウマの深さは、消えるか否かの危機的状況だろうが変わらない。
「ンなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
湖へダイブし、生身の身体でゴルダック並みの速度でイーユイの元まで泳いだ彼は、掠れ消えそうな声量で文句を言うイーユイを一喝する。
(マスター凄い、あんなところまで泳いじゃったよ……私が救出出来たのに自分の手でしたかったんだね!)
カザナが上空からイーユイを掴み、陸地まで運ぶことは難しくはなかったが、カザナがイーユイを発見次第に恐ろしい速度で、他のポケモンを蹴散らしながら泳ぐアムトがいた。
人間を止めている程の底力は、まさに火事場の馬鹿力である。
「人間如きにわらわが……助けろなど一言も」
「いいからっ! 今だけはそういうの聞かないよ! カザナ! 俺を家まで運んでくれ! 全速力で頼む!」
「はいよマスター! イーユイちゃん、暫く大人しくしていてね? マスターは絶対にあなたを離さないからね」
ボールへ戻せる範囲外まで逃げられてしまったので、必死に追いかけるしかなかった。
例えボールへすぐ戻せたとしても、彼ならば戻さずに捜索していたに違いないが。
翼を大きく広げ、恵まれた筋力を活かしイーユイを抱きしめるアムトの背を掴んだら、土砂降りだろうが関係ないと、特急速度で自宅へそらをとぶカザナ。
Aiは事後処理をしたらクォークチャージで戻って来るとのこと、今頃「お騒がせシテ申し訳ありまセン」と、湖に住むポケモン達に謝っているだろう。
アムトの家にはポケモンセンター並みの、高性能ポケモン回復機器が備わっている。
彼はトレーナーを止めても、ポケモンセンターですぐさま働ける知識がある、資格だって持っている、手持ちに万が一が起こってはならないと、過去の経験から頼み込んで特注したのだ。
ボールに収まったイーユイを回復装置にセット、機器を操作すれば体力を可視化させたゲージが、少しずつ上昇されていく。
「素直に収まってくれて良かった、暴れたって無理やり押し込んでたけどね」
無言であったが驚くほど簡単にイーユイは、ボールに入ってくれた。
流石に残存機能が著しく低下しているので、プライドをヘシ曲げてでも回復を優先した、のかもしれない。
「タダイマ、デス。Aiはお帰りシマシタ」
体力ゲージがもう僅かで全快になる間際、びしょ濡れになったメイド服の女性が帰還した。
ブレードを収納した彼女は、コミュニケーションモニターをやや曇らせる。不快なほどの勢いで雨は降り続いているし、湖全域を謝罪して回ったので、彼女も疲労が蓄積しているのだ。
「Aiも入る?」
「いえ、ワタシは疲れておりマスガ、HPはちっとも減ってオリマセンノデ平気デス」
同じくびしょ濡れになった制服やニーソックスを乾かしながら、バスタオル一枚でアムトの近くに寄り添いながら、イーユイの回復を待つカザナ。
アムトが少し肘を動かせば、柔らかくて大きい大胸筋にポヨポヨ当たるが、今はそれどころじゃないのでタオル一枚の姿でも、スルーはしている。まぁ最古参なので慣れているのだろう。
「ワタシがみねうちをして、イーユイさんの体力を1にしてシマイましたノデ、ワタシの責任でゴザイマス」
「謝らないでよ、誰の責任とか関係ないって、イーユイが無事でよかったよ」
「オオ、流石はワタシのご主人サマデス、心がおひろーいデス」
シュン……となったと思ったら、にんまり笑顔にモニターが変化していたAi。
未来のポケモンは冷酷らしいが、Aiを見る限り何事も例外は付きものだと、ノーブラノーパンのカザナは思うのだった。
「……むぅ、んぁ……わらわはどうなった……」
「あっ! イーユイ気が付いたんだね! もう大丈夫だよ、安心して欲しい」
全快しボールから表へ出て来た彼女は、服も髪も何もかもが捕獲当初と、同等の状態へ戻っていた。
近寄るアムトから逃げ出すように、後退するもすぐに壁にぶつかってしまったイーユイ。
「力が戻っておる、お前達がわらわを助けたとでもいうのか?」
あくまでも「レベル1」ではあるが、マッチサイズの炎すら出せなかった衰弱時よりは、遥かに燃え上がる炎を掌から出せるし、身体の節々も負傷していたと思えないほど、軽く空だって飛べそうなくらいだ。
「お助けシマシタのはカザナさんで」
「いーえ、マスターが助けたんだよ。私はイーユイちゃんがいる場所を教えただけだし」
相変わらずイーユイは腕を組み、おっぱいを無自覚に強調させながらツンツンしているが、封印解放後よりも邪気は感じさせない。
口が裂けたってプライドが高すぎる彼女は、礼など示さないだろうがアムト達は、別に気にしていなかった。
「イーユイが助かっただけでいいんだよ」
「余計な事を……お前達は災厄を助けたのだぞ? パルデアに再び災厄が降り注いでもよいのか? わらわは世界を災厄に包むのが目的なのじゃ、お前達はわらわを仕留め損なったことで、わらわに加担したのと同じなのだぞ」
災厄らしい行動原理であるが、レベル1の彼女が世界征服など出来る訳がない、それは本人が一番分かっている。
イーユイは助けられたものの、ここから先はどうすればいいのか? 豪遊し放題であった彼女は生きる術を知らない、もう同胞はいないし駒として使える人間もいないのだから。
「俺がいるじゃない」
「はぁ……?」
「俺を使えばいいじゃない、それにイーユイは俺のポケモンだよ、ちゃんとID登録も済んでいるし」
行き先が分からないならば、安全な住居を与えてくれる人間の元で過ごせばいい。
別に世界征服に加担するつもりは毛頭ないが、イーユイを捕まえたのはアムトだ。
アムトにはおやとしての責任がある、手持ちとして登録されたイーユイが困っているのならば、解決できるようにするか、解決するまでいて貰えばいい。
「イーユイさん、アナタのお口に合うお料理のベンキョウを頑張りマス、お部屋のご用意を急ぎマスので、今後ともご贔屓ナサッテくださいマセ」
「ご贔屓はなんか違くない……? まぁそういうことで、これからは仲間として……どうかな? いがみ合っちゃったけど私はお友達になりたいな、イーユイちゃんと!」
(馬鹿かこいつらは、わらわに利用されたがっているのか? そんなもので喜んでいた奴などいないというに……2000年後のパルデアは、誰もかれもがお人よしなのか?)
災厄である自分に食料も住居も与える、レベル1の状態ならば葬るのは難しくない筈なのに、なぜ生かそうとしているのか。
「2000年も封印されていたんでしょ? なんというか……一人にさせたくないんだよね」
「人間……わ、わらわに同情でもしているのか!?」
「イーユイは寂しいんじゃないのかな、ずっと一人ぼっちで2000年も封印されていたんだし……俺なら耐えきれないよ」
寂しい、そんな感情全盛期には湧いてこなかった。
災いに寂しいも何もない、寧ろ奪う側のイーユイは数えきれない程の人間やポケモンを、寂しいと思わせてきた。
――2000年はあんまりに長すぎた、寂しいという感情が決して生まれない災いにも、「寂しい」が生まれてしまっていたのだ。
本当はずっと分かっていた、祠の中で眠り続けたのは寂しいを消したいから、でも出来なかった。
同胞と、いや、誰だっていい、誰かと喋りたい、誰かが近くにいてくれるだけでもいい、願っても願っても叶わなかった、生きたまま死んでいくだけかと覚悟をしていた。
「そんな訳あるか……ッ! わらわに生意気な口を聞くでないッ!!」
イーユイは掌から災厄のオーラを作り出し、一人と二匹へと放とうと語調を強めたが、いつまで経っても攻撃が放たれる事はなかった。
図星だ、手足が震えている、自分はこんなに弱くなったのかと、情けなく笑いそうになってしまいそうだった。
どうせ放ったところで誰も倒せやしない、今の自分が一人で何ができるのだと、高すぎるプライドが邪魔をし口に出せないが、心の中では認めるしかないのだ。
「ここにいてよ」
アムトもそこまで身長が高い男子ではないが、140cm程度のイーユイとはかなり差がある。
少し屈んで目線を合わせてから、彼女の前へ右手を出す。
湖に溺れたイーユイが、助けなど来ないと分かっていてもつい、つい、手を伸ばしてしまった光景とは違う。
「………………………………」
プライドが高すぎる彼女が素直に応じる筈がない。それでもアムトはおやとして、一人のポケモンが好きな少年として、手を差し伸べたかった。
Aiとカザナは何も言わずに、イーユイの動向を見守る。ご主人様ならば何とかしてくれると確信しているので、既に表情は笑顔になりかけているが。
「お前」
……その手を握る事はしなかった。
だがイーユイは言葉を続ける、血滲み出るまで拳を握り、青筋を浮かばせながら歯軋りをして、アムトらを睨みつけるという苦渋の選択だ。
「わらわに仕えるがよい、精々わらわに利用されろ」
「……フッ!」
「ぬ……ァにがァァおかしいのじゃァァァッッ~~~~~~~~!!!!!」
ツインテールが逆立つ程に逆上するイーユイだが、ここで空腹に耐えかねた腹の虫が鳴った。
続けてAiとカザナも笑い出す、イーユイは耐えがたい羞恥で炎に包まれるよりも、全身を紅くして無言のまま真下を向いてしまう。
「わかったわかった! キミに仕えるしいくらでも利用していいから、早くご飯食べようよ? 何が食べたい?」
「ッッーーーーーーッ!!! さっ! さっきのじゃ! ……名前は忘れたがさっきの料理を作れ、わらわは腹が減ってまた倒れそうなのでな、しょうがないから食ってやらんこともないぞ……」
もう誤魔化しきれない、お腹が空いた。
お腹を押さえるツインテールの少女は、災厄そのもので、妬みの化身なんかじゃない、只の可愛い女の子だ。
まだ話足りないが後回しでいいと、さっそく仕えるアムトは再び好物を聞くと、遠回しにだがカツレツとイーユイは答えた。
「こんな事もあろうとデスネ、帰り道でハッコウシティのスーパーに寄ってイタノデス。24時間営業でイツデモ新鮮なお肉が手に入るのデス、イーユイさんにもう一度とびっきり美味しいカツレツを、振る舞わせてイタダキマスデス」
これからは仲間であると、笑顔を作り出すAi。初対面時に作り出した笑顔よりも、ずっと嬉しそうだ。
「さっすがAi~! 私達のぶんも作ってー! またお腹空いちゃったし! んっ、手持ちの仲間としてよろしくね、イーユイちゃん!」
仲直りの証でもあると、カザナは握手を求めたがやはりイーユイは、そっぽを向いてしまう。
そう簡単にイーユイとの距離感は詰められないだろうが、これは始まりに過ぎない、これから仲良くなっていけばいいだけだ。
「話は飯を食ったらしてやらんこともない、今は黙っていろ」
「はいはいはい~♪」
機嫌の悪くなった子供をあやす感覚だ、カザナは嫌われている訳ではないと直感した為、アムトの真似をしてそれとなく受け流しては、ほどよく受け止める。
(何とかやっていけそうだ、いや、やっていきたい、イーユイと)
イーユイは放っておけない、2000年も封印されて独りぼっちになった彼女を、支えてあげたい。
「色々教えてあげたいし、それと……イーユイに2000年後のパルデア、現代-いまを見せてあげたいな」
「……? 人間、何か言ったか?」
「何でもないよ、ほら、カツレツが出来たってさ! 食べようよ!」
思わず漏れてしまった独り言、イーユイの耳には残念ながら(惜しくも?)届いていなかったが、アムトの本心である。
まだまだお互いに知らないことが多すぎる、少しずつ知っていけばいい、知りたい、悲しませたくない、2000年分の孤独を埋めたい、それと――
「むぐっ! むぐっ! むもむもっ! んっ……!! んむっ~~~~♪♪♪! んもいんもいっ! んもんもっ! うむいぃ~~♪♪」
アムト、カザナ、Aiはナイフとフォーク、イーユイは箸を使ってのいただきます。
箸を使うのも2000年ぶりなので、交差させていたり握ってしまっていたり、マナーとしては良くはないが皆の表情は実に明るい。
イーユイは本来は嫌いな筈の洋食を無我夢中で、それでいて気品さを捨てきらずに平らげては無言で皿を差し出して、また平らげてはおかわりを繰り返す。
(西洋料理がこんなに美味いとは……2000年前からそうであったのか?)
東の国から運び込まれた宝という出生なので、洋食はトコトンまでに毛嫌いしていた。
だが今の彼女には関係がない、うまい、うまい、ハッキリとは言葉に現れていないが、美味しいご飯を食べた時にしか作れない笑顔を、アムト達は見ているのだから。
「……そこそこ、であるな。非常事態だから西洋であろう物を食ってやったが、次は食って貰えると思うでないぞ」
などと上から目線に発言するが、一体何皿おかわりした事やら……見越して大量のカツレツを作っていた、Aiも流石上質なメイドである。
(ニッコニコじゃないデスカ、美味しかったのデスネ!)
(気恥しいんでしょ♪ 可愛いから見て見ぬフリをしてあげましょー♪)
(お腹一杯になってくれてよかった!)
ごちそうさま、とすら言ってくれはしないが、災厄どころか天使になった笑みはウソを付いていない。
気に入らないならそれこそ、またちゃぶ台返しをしていたし、「んもんも♪」など言いながら食べやしないのだ。
「おいお前、朝食も同じものを作れ」
指を刺されて命令されるAi、どうやらカツレツが相当気に入ったらしい、西洋っぽいから嫌だなど、偏見を少しでも減らせたのは喜ばしいであろう。
「承知致しマシタ! ですがイーユイ様? カツレツは美味しいですがアゲモノデス、毎日のようにタベルのはコレステロールが」
「黙れ、どうせ脂肪は全部わらわの胸に行くのだからな!」
「……ナルホド、説得力がゴザイマスネ、承知致しマシタノデご主人サマ? お買い物資金をクダサイマセ、朝陽が昇りましたら再びスーパーへ行ってマイリマスので」
ロリだけど胸だけは異常発達している体型をガン見して、納得したAiは右手でグーサインを作り新しい仲間へと、料理を振る舞える嬉しさを表現した。
冷酷なんて言葉は全く似合わない、ユーモア全振りな有能メイドである。
(それは羨ましい……豪遊してたっておとぎ話も本当だろうし、意識して身体動かさなくても、全然困っていないんだろうなー……いいなぁ)
カザナもちっとも太ってなどいないが、そこは年頃な女の子、胸はデカく、腰は細く(というより肉が無い)で体型維持の努力など、欠片もしていないだろうイーユイが羨ましくもあった。
少なくともイーユイのバストサイズは、アムトの手持ちの誰よりもデカい、そのわりに背丈は誰よりも小さい、矛盾した体型の持ち主は空腹が満たされ安心したのだろう、少し手持ちとして溶け込んだような気がする。
「わらわは風呂に入りたいぞ!」
「ハイ、準備は出来てオリマス」
やっぱり口調以外は全てが優秀なAiは、丁度「お風呂が沸きました」とバスルームから流れたメロディに合わせ、お辞儀をした。
「うんうん♪ 一番風呂をどーぞイーユイちゃん! 着替えは私のを用意しておくからね」
「ミョホホ……♪ お前達は自分の立場が分かってきたではないか!」
上機嫌に頷くイーユイ、風呂だって2000年ぶりだ。
聖なる鎖と杭によって身体は清潔に保たれているが、災厄が形作ったと言えどもイーユイだって女の子である。
鎖と杭、回復マシンの効果で身体が綺麗になっても、気持ちとしてはお風呂には入りたい、リラックスがしたい、極当たり前の主張だ。
「おい、人間」
「アムトだよ」
「黙れ、わらわと一緒に来い」
「え……」
てっきりお風呂場までの道のりを教えろ、そういう意味かと勘違いしていたが……
「……わらわと一緒に風呂に入れ」
「はぁっ!? はぁぁぁぁぁぁぁぁ!???????」
ギアを一段階「エッチ」へ向かわせます。
ちなみにイーユイちゃんはイラストでは分かり難いですが、ラフの段階で背中はザックリ露出されてます。