わざわいのまがたまっ!!   作:緋枝路 オシエ

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現世を謳歌してほしいですね


災いとお買い物

 朝陽を浴びるのも2000年ぶりだ。

 

 これが小説であったならば、文頭は常に〝2000年ぶり〟とついているに違いない、彼女-シャルルにとっては隅から隅まで把握していたパルデア地方も、2000年経過した現代では異世界に等しいのだから。

 

「……久しぶりによく眠れた、こんなに眠れたのは300か400か、500年ぶりであったか? 眠る事しか出来んかったが、忌々しいギラティナ……人間の男……わらわが封印される光景……あんな祠の中で良質な睡眠なぞ出来る訳がないからな……んっ、ふわっ……はぁ……んっー……んっ、くぁぁっ……ふっ、もう眠い……もう一度……寝るか……?」

 

 祠の中で2000年もの間、トラウマにうなされていたシャルル。

 

 寂しい感情が生まれても、隣には誰もいない。あまりに長い年月は妬みの化身である彼女の心境をも揺るがせた。

 

 カザナから借りたパジャマは、やっぱり胸元がきつかったので大胆に開けさせている。北半球が惜しげもなく晒されている。

 

 横乳の着物と谷間のパジャマ、二つの乳力のどちらも捨てがたい、捨てられない……ちなみに、ブラジャーも借りたのだがサイズが合わず、ノーブラのまま寝ていた。

 

 寝起きが弱いシャルルは、ボッ~~~~としている頭でもう一度寝るか、起きるか、考えながら右腕を無意識に動かしている。

 

「なんじゃぁ……この手触り……」

 

 封印の祠の寝心地は、それはそれは最悪なものだった。鎖で縛られたまま2000年を過ごしていたのだから。

 

 2000年ぶりに横たわって睡眠を貪る、昼食の時間が迫っているがAiもカザナも声をかけずに、二人だけの空間を邪魔することはしなかったのだ。

 

 ……シャルルの隣ではアムトが寝ている、隣で寝ろと命令したからだ。

 

 別に変な意味はこれっぽっちもない、一応Aiが空き部屋をシャルル専用の部屋として掃除してくれていたが、それらの行為を無視してアムトの布団に潜り込んだのだ。

 

 独りぼっちは寂しいから……ではなく、まだ分からない事が多すぎてアムトが傍にいれば、すぐに解説して貰えて楽だからである、多分。

 

「硬いのぉ……でも柔らかくもあるのぉ……くぅ、くぅ、くぅ……太め、なのか? 熱のある棒か? んにゃんにゃ……分からぬが……」

 

 寝ぼけ眼でシャルルが掴んだモノ、それは――

 

「おはよう……シャルル……腕掴んでどうしたの?」

 

 そう、腕だ、二の腕だ、やましいモノではない。

 

 無意識とは言えど、長い月日をたった一人で過ごしている内に寂しがり屋になった彼女は、体温の触れ合いを求めてしまっていたのかもしれない。

 

「んぅ……んっ、んミョ……おはようじゃ……アムトぉ……」

 

 アムトも寝ぼけていたが、シャルルの姿と甘ったるいロリボイスが破壊力抜群で、一瞬で覚醒した。

 

 胸元のサイズが合わずパツパツに膨らんでおり、ボタンとボタンの隙間が大きく広がって、隙間からはノーブラの肌面積を楽々と拝むことができる。

 

 髪飾りを全て抜いてツインテールも解いた彼女は、お風呂場でもそうだったように少しだけ大人っぽく、寝起き眼の色気もあり興奮しない男は存在しない。

 

 何よりも――名前を呼んでくれた。

 

 お前、人間、おい、三種類のいずれかで呼ばれていたアムトにとって、魅惑のホールよりも嬉しいのだ。

 

「……おい! 人間! 人間の男ぉ! いつまでボケッとしとるんじゃ! わらわの家具や娯楽道具を揃えると言ってたであろう!? さっさと起きて飯を食ったらわらわの為に買え! 連れていけ! 運べ! わらわの城を作る駒となれっ!」

 

「……気のせい、だったのかなぁ……」

 

 アムトが夢と現実の狭間にいる間に、シャルルは身支度を整えてしまっていた。

 

 アレコレ声をかけたがウンともスンとも反応しなかったので、かなり怒り気味である。

 

本当は朝風呂をしたかったらしいのだが、何で起こさなかっただの言いがかりも付けられて、朝っぱらからアムトは幸福と不幸が同時に降りかかったのである。

 

「怒った顔も可愛いんだけどね」

 

「おいッ!! 聞いておるのかッッ!! これだから人間の男は嫌いなのじゃッーー!!」

 

 

 

 

 朝食をすっとばした昼食は、予めリクエストしていた通りにカツレツだった。

 

 現代の料理をカツレツしかシャルルは知らない、予測は容易であった為に大体有能な未来産のメイド、Aiは昨晩よりも気持ち多めにカツレツを用意していた。

 

「全て食べてイタダイタのデスネ、ワタシの分も食べられてしまいマシタが、メイドとして至極コウエイに存じゴザイマス!」

 

 シャルルのお皿を肘に収納した武装、ブレードへタワーの如く高さまで積み上げたまま歩いても、彼女はドジをかまさずに食器洗い場まで辿り着ける。

 

 自分のご飯を取られたのに、コミュニケーションモニターは偽らない、心の底から彼女は喜んでくれている。

 

 大食いではないが封印から解放されたばっかりだ、食べても食べても暫くは食べ飽きないだろう、一口も食べずにちゃぶ台返しした昨晩の姿がウソみたいである。

 

「んじゃ! 行こうかマスター!」

 

 ボールを嫌がりふくれっ面になるシャルルを収めたアムト、背中を抱きしめるカザナは翼を広げて目指すはハッコウシティ!

 

「家事を終えたらワタシも向かいマス」

 

 予定よりも活動が遅れたが、充分間に合うだろう。

 

 今は何も無いシャルルの部屋を彩る為に、アムトは溜めている貯金をかなり崩してなるべく希望するものを、買ってあげることにしたのだ。

 

 ハッコシティにはパルデア随一のデパートがある、シャルルが生活する為の物は勿論の事、興味を持ち趣味になればいい娯楽用品など、一通りは揃えられる。

 

「目が眩むぞ……昼間でこの眩しさとやかましさなのじゃ、夜になるとどうなってしまうのじゃ……」

 

 ハッコウシティに降り立ち、ボールを突き破る勢いで脱兎したシャルル。ボールの中に収まるのはまだ慣れていないので、不機嫌な表情をしていたが人混みの多さと、ハッコウの電光掲示板の多さに面食らっている。

 

 現代人でも慣れていなければ都会中の都会である、ハッコウシティは人混みに酔うし日が落ちようと街中の光量が変化しないので、眠らない街と異名を持っている。

 

(ゆっくり他の街から観光して貰った方がよかったのかな……でもそれだとシャルルの部屋はすっからかんだし……)

 

 アムトも品ぞろえの多さやツテの関係で、〝たからさがし〟中にかなりの頻度で訪れた街だ、慣れていても相変わらずの賑わいには圧倒されてしまう。

 

「何あの子……かわいいっ! 何のポケモンなのかしら!!」

 

「うおおおっ!? 俺もあの子を捕まえてーー! 何処に行けばいるんだっ!?」

 

 デパートまでの道のりでも目立つわ目立つわ……着物を着た美少女のシャルルは、黙ってようが高笑いしてようが怒っていようが、とびっきりに可愛い女の子。

 

 しかもややニッチだがロリロリな顔と、大人以上に成熟したおっぱいの組み合わせ、ロリ巨乳なのだから人目を惹かない理由がない。

 

 ロリ巨乳を邪道だと嫌っていた男も、女の子には興味が無かった女性ですらも、魅了されてシャルルの後をつけて来ている。

 

「はいはーい、皆そのくらいにしてあげてねー! 私達はお買い物に来ただけだからね、マスターも久しぶりのお休みだからゆっくり休日を過ごさせてあげて?」

 

「申し訳ございませんミナサマ、マスター及びシャルルさんへの質問、セクハラなどは受け付けておりません、後日家凸してくださいマセマセ」

 

追っかけされるのはシャルルだけではない、パルデアが誇る優秀なトレーナー、アムトへもだ。

 

 〝楽園事件〟を解決し、チャンピオンの称号を持ち、数多くのポケモンを捕まえ、授業の成績だって常にトップクラスで性格もよい。

 

 これでも質問攻めやサイン攻めは一時よりも落ち着いている、自分ひとりが買い物するだけなら対応していたが、生憎新入りの可愛い手持ちの為なのだ、マトモに相手をしていては間に合わない……

 

 芸能人のマネージャーの如く、カザナとAiが追っかけファン達をさばいてくれた。

 

 そのAiも未来からやってきたパラドックスポケモン、オカルト雑誌の空想上のポケモンが現実に降臨したので、少し前はマスコミだったりコレクターだったりに絡まれて、大変忙しい日々を送っていたのは語るまでも無いだろう……Aiが冗談を交えながら、適当に追い返してしまうのだが。

 

 本当にアムトは心苦しいのだが、とにかくシャルルが最優先なので致し方がない。

 

「ほぉ? 有名人なのだな?」

 

「それなりに、と言うしかないなぁ……もっと落ち着いて欲しいのに」

 

「フンッ、わらわは気分が良いぞ♪ わらわの身体と美しさに嫉妬した女がおるようじゃ♪ はぁ~~気持ちが良い♪」

 

 何処からか妬みの感情を仕入れたシャルルは、三人の苦労など知らぬ顔で肌をツヤらせる。

 

 カツレツをあれだけ食べていたのに、どうやら妬みの感情と食事は別腹らしいのだと、災いの勾玉に対する知識を一つ得る事が出来た。

 

 

 

 

 デパートの店内は広大だ、案内マップやインフォメーションカウンターがあっても、広すぎて人が多すぎて迷子になる者が多発する。

 

 特に子供は危ない、ちょっとでも視界から消えた次の瞬間には迷子となって、泣きながらセンター内を彷徨う事となる。

 

「シャルル~~~~~~!!! どこーーーーーーッ!」

 

「もぉシャルルちゃんたらっ~~! マスターと手を繋いだ方がいいって言ったのにっーー!」

 

「照れているんデスよ! 初めて見るものばかりナノデス、好奇心が抑えきれないのかもしれないデスね」

 

 言わんこっちゃあない、三人が目を離さずともシャルルが勝手にどっかに行ってしまった。

 

 2000歳以上であるが、迷子センターに連絡してしまったので、店内放送でもしきりにシャルルの名を呼んで貰っている。

 

 飛行しようにも危ないし、クォークチャージだと他の客を蹴散らしてしまう、小走りで全部の階を探し回るしかない。

 

 なにせ10階もあるのだ、そんじょそこらのダンジョンよりもずっと広いし迷う。

 

 5階までを回り終えて目撃情報は沢山ある、「ロリ巨乳な着物の子とすれ違った」、ロリ巨乳の傑作品な容姿なので一度見たら忘れられずなのは幸いである。

 

「あっ! この上の上っぽいよマスター!」

 

 吹き抜けからカザナが着物の端を発見し、ふよんっ、と浮かぶツインテールも烈火なグラデーションであったので、シャルルの可能性は非常に高いだろう。

 

「エスカレーターじゃ間に合わない、しょうがない! カザナあれを!」

 

「オッケー! 係員さん見逃して、ねぇっと!」

 

 悠長にエスカレーターに並んでなどいられない、後で全力で謝罪するからとカザナはAiとアムトを両手に抱え、ムクホークたる翼を勇敢に、雄々しく(18歳の女の子だけど)広げ7階へと一気に上昇した。

 

「RTAでしたら必須チャートデスネ、いえ、トップランカーでしたら1階から狙っていくのデショウか」

 

「? いたっ! シャルル~~~~!!」

 

 Aiがよくわからない事を口にしたが、いつもの事なので気にしなくていいだろう、やっと災いの金魚を見つけたら当の本人は、呑気に高く笑いながら振り返った。

 

「おお、お前達か。わらわの足跡をやっと辿ってきたのか、全くのろまじゃのぉ」

 

「いや、あのねぇ……はぁ……見つかったからいっか」

 

 カザナは言い返す気力も無く、翼を収納しながら脱力した。心配して損した気分でもあったが、追いつけたのでチャラにしてあげた。

 

 アムトも何かを言いたげだったが、それよりもシャルルと再会できた安堵が勝る。今度は嫌がられても手を繋いだ方が――

 

「……それ、なに?」

 

「財布じゃよ、すれ違いざまに抜き取ったのじゃよ」

 

 アムトとカザナは青ざめる、シャルルがドヤ顔で懐から、袖の中から、脇から、さらしの中から、谷間から、身体のアチコチから取り出したのは分厚く膨らんでいる財布だった。

 

「金を支払って物品を購入するのだろう? わらわは謙虚にもこの世界の規則にしたがってやろうとしたのじゃ♪」

 

「それ全然謙虚じゃない……ドロボーだよ」

 

 どうやらシャルルは「お金を払って何かを買う」までは知っていたが、「お金を盗んじゃダメ」なのは知らなかったらしい……

 

 2000年前、活動期間こそ短いものであったが彼女は、金に困った生活を送っても無いし、金を稼ぐ生活を送る事も無かった。

 

 彼女達災厄の宝4つがパルデアを崩壊させたので、一般的な常識など身に付いてはいない、彼女らこそルールブックだった。

 

 Aiを除いた二人で手分けして、大急ぎで持ち主の元へと財布を返していくアムト達。

 

 シャルルは「絶対に動かないで待っててね!」と、アムトから釘を刺されてしまったので、ブツブツ文句を言いながらも自販機で買って貰った、オレンジジュースをちゅーちゅー啜る。

 

「ん~~~~♪ 美味しいのじゃ! 美味いものが食べられるし飲める! この世界も悪くはないのぉ♪ ミヨホホホ♪」

 

 アムトらが苦労している間、エレベーター前の椅子に座って足をパタパタさせながら、ジュースを飲むシャルルは人攫いが列を成すほど可愛いかった。

 

「お引き取りクダサイマセ、シャルルさんとお話するつもりなのデシタラ、ワタシから話を通させていただきマスので」

 

 災厄だがレベル1、万が一それなりに強いトレーナーとポケモンに襲われたら、今のシャルルだと倒される危険があるので、Aiをお付きにしている。

 

 シャルル狙いの者達を追い払う事に成功したが、結局財布を返してお買い物の時間が遅れてしまった……




肝心な物を買い忘れているじゃないですか?
大きいおっぱいを支える「アレ」ですよ。
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