ネタBOX   作:ヤン・デ・レェ

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謎に熱を込めてた。何度目のボツかわからん。


「ボツNo…」東京卍リベンジャーズ

 

 

 

 

2022年。その日の僕はテレビを観ていた。

 

旧指定暴力団中御門会が解散したというニュースに似合わない感傷的な面持ちで画面を睨んでいたが、間も無く今日のアニマル特集が始まったので僕はチャンネルを変えた。

 

変えた先ではどうやら東京卍會なる組織がまたもや人死にを出したらしいという物騒な事件に関して司会者が有識者を招いて騒ぎ立てていた。司会者といい、出演者といい門外漢はこういう時にやたらと感情論にすり替えがちであると僕は思った。まだ若い二人の犠牲者への哀悼の意を胸に宿していると、父の趣味で買ったガラス張りの滅法値段の張るローテーブルに置いていたスマホが鳴った。

 

母からの電話らしかった。僕はテレビを消してからスマホを手に取った。

 

「もしもし、ママ?何かあったの?」

 

いつも定時に電話が来るとはいえ、いつもよりもかなり早い。何かあったのかと聞くと、相変わらず若々しい母の声が聞こえてきた。

 

「もしもし徳ちゃん?今日の午後から来れるかしら?公義おじいちゃんが亡くなってからもう何年になるのかしらね…実はね、お父さんから電話があったの。」

 

公義おじいちゃんは僕の父方の曽祖父にあたる人だ。既に故人だけれど、ママがしんみりとするくらい人格者だった。お父さん…というのは僕の母方の祖父にあたる大一郎さんのことだろう。あの人は確か本庁の人だった気がするけど…忙しく無いのかな。

 

「何の電話?ニュースなら僕もテレビで観たけど…何か公義曾おじいちゃんのことで問題があったの?」

 

テレビでは物騒な話ばかりだし、公義おじいちゃんはもう故人だ。初代とはいえ、警察も死人にどうこうできるわけじゃないだろう。

 

「ううん、そうじゃないの。東京卍會の話よ。最近は随分と物騒でしょう?だからママね、勝手だけどお父さんに"色々"して貰えないか結構前から頼んでたの。」

 

ママのお父さんは警察官だが…それは職権濫用なのでは…と思うこともしばしばだが、これは今に始まったわけじゃ無い。僕は何も突っ込まずに話を聞いた。

 

「なるほど…それで今日はママの所に大一郎おじいちゃんが来るってことかな?」

 

来ないだろう、と思いつつも一応聞いてみた。

 

「流石にお父さんは来ないわよ〜。あの人も忙しいものね、代わりの人が来るって言ってたわ。それで、その人との顔合わせを一応しておこうと思って。」

 

代わりの人…絶対に元機動隊とか元陸自とか、そういう人を融通してくるに違いないと僕は思った。

 

「…今でも十分安全だと思うけどなぁ…僕なんかよりもママやパパの方が危ないんじゃ無いの?」

 

これは本心からの言葉だった。行きも帰りも車だし、なによりウチの隣は警備会社OLSOKの本社である。何を考えて子会社の隣に家を建てたんだよ、と思うけどこういうのは慣れっこだ。

 

「そんなことは絶対にないわ。」

 

ママの冷たい声が耳をつく。

 

「そ、そう?」

 

怒られ慣れていないと、こういう時に辛いと思う。何も考えられなくなるし、なにより萎縮して言葉がうまく話せない。

 

「えぇ、貴方に何かあってからじゃ遅いの。それだけはダメよ。ママもね、それだけは耐えられないわ。だからお願い、爺にお願いすれば車を出してくれると思うから。絶対に!徒歩とか電車はダメだからね!!!」

 

真剣な声には自分を心配してくれる感情しか伝わってこない。ママに心配はかけられないな、とつくづく思う。

 

「う、うん。わかったよ。」

 

渋々だけど了承することにした。

 

「それじゃあ、本社の方で待ってるからまた後で会いましょうね〜。」

 

「はーい。」

 

のほほんとしたいつもの声が聞こえて通話が切れた。

 

昼に起きてテレビを観て、シャワーを浴びてから爺に車を出して貰わなければ。朝昼一緒に食べることにして、まずはシャワーを浴びた。

 

シャワールームは僕にとって思考の場だった。温かいお湯に肌を打たれながら考えることは大抵自分と家族のことだ。20年以上ずっと考えてきた家族のことだった。

 

僕の家族は普通じゃない。電話の内容を思い出す。父方の曽祖父である公義おじいちゃんも、母方の祖父である大一郎おじいちゃんも、それにママもパパも…親戚一同含めて我が家は控えめに言ってとても裕福だ。そして、あろうことか晩婚だった父と母の結婚三十年来の夢を叶えてしまったのが僕だった。両親が四十後半の時にやっとの思いで産んだのが一人息子の僕、古御所徳兵衛だった。家族が嫌というよりも、自分の身の振り方がわからないままウジウジと母の仕事の手伝いばかりの、実質ニートと変わらない自分に不満を持っているのだ。

 

僕の家族は軒並み優秀だ。母も父も親戚一同が文武両道の人であり、何より人格者だ。その人格者の所だけ受け継ぐことができたのは僥倖なのか、或いは不幸なのか…今の僕にはわからない。しかし、人が良くても強くなければ生きていけないのも事実なのだ。僕は果たして、両親どころか一族のお荷物というのが現状だろう。

 

だが、幸運にも我が家はよくある富豪一族のドロドロの権力争いとは無縁だった。それどころか、こんな自分を養うことに異議がないのだ。むしろ、見放されるよりも辛いかもしれない。いや、見放されたら生ていけないのだから悩ましかった。秀でたところがない現状、僕は誰の足も引っ張らないように事業には何も手を出さない事にしている。飼い殺されることを自分から望むようではいけないのかもしれないけど、それでも僕は自分に絶え間なく愛情を注いでくれる家族の不利益にだけはなりたくない。

 

そんな考えを浮かべながら、気がつけば水気を拭き取ったタオルを洗濯籠に入れて、着替えを済ませていた。歯を磨いた僕は隣の戸建の戸を叩いた。

 

「爺や〜!車出して〜!」

 

しーん。沈黙が帰ってきたのは初めてだった。僕が生まれる前から父と母を支えてきた爺やの声が聞こえない。失礼しますと断りを入れてから僕は爺やの家へとお邪魔した。爺やは数年前に母から義父孝行だと言われて戸建をプレゼントされていた。立地はどこの一等地でも構わないと母は言っていたが、爺やが選んだのはウチの隣だった。なるほど、職場が隣というのは確かに便利かもしれないとその時の僕は思った。因みに、意外かもしれないが僕達一家のウチは二階建ての戸建である。両親と祖父母、それから僕の五人家族だから十分だろう。仕事がない日は母が掃除をするらしいが、いつもはハウスキーパーさんを雇っている。誰か必ず一人は家にいる時にお願いしているので物取りにあったことはない。お隣が警備会社の本社だから当然といえば当然だけど。景観などお構いなしに安全なところに家を選んでくれた事には感謝している。思考が脱線しがちだったけれど、僕は爺を呼びながら家の中を進んだ。

 

 

「爺や〜!爺や〜!いないの〜?」

 

何度も招かれた家だから間取りはわかる。だが玄関にもリビングにも僕の叫びが反響するばかりだった。そんな時、ベッドルームに向かうと爺やの声がした。

 

「ぼ、坊っちゃま…」

 

恐る恐る開けたドアの先には爺やが腰を押さえて倒れていた。

 

「爺や!?どうした?誰にやられた!?」

 

縋り付く僕だったが、間も無く爺やからギックリ腰ですと説明されて救急車を呼んだ。お大事にしてくだされ。

 

さて、困ったのは僕だった。これでは車を出して貰えない。母は爺や以外に僕の送迎は任せていなかったし、今日は運悪く誰もいない日だった。こんな日は滅多にないのだが…。恐らくは中御門組の解散が関係していることは間違いないだろう…とはいえこれでは埒が開かない。自動車免許も持っていない…というより両親がそんな危ないものは必要ないと珍しく強硬に反対したため持っていないのだが…ので仕方なく僕は公共交通機関を使わざるを得なくなってしまった。

 

はぁ、なんだか今日は気分が良くない。何か嫌なことが起こりそうな気がする…。

 

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家から数分歩いたところにあるバス停でバスに乗ろうと思ったのだが…はぁ、早速問題が発生したのだ。我が家には現金が置いていない。そして、僕も現金は一円硬貨一枚すら持っていないのだ。

 

電子マネーやら何やらに対応していることを期待して待っていたのだが、時刻表の下に小さく現金のみと書かれていたため泣く泣く諦めることとなった。僕は徒歩では駅へと向かう事にした。

 

徒歩でどこかに向かうことは僕にとって新鮮な体験だった。いつもは車なので家の周囲のことはむしろ全くの無知だと言っていい。駅までの道中は衛星からの情報で目的地まで案内してくれるマップを頼りにひたすら歩く事になった。歩くことは僕の中で好きなことのひとつかもしれない。

 

道すがらにいろいろなものを観れるのは貴重な経験だ。僕の家族は皆、本当に僕に良くしてくれる。けれど、僕は僕のままでいてもいいとさえ言ってくれるのは少し不安である。僕を傀儡にしようと考えているのか?などという益体のない勘ぐりを入れるほど不安だ。とはいえ、正直なところ傀儡にするならどうぞお好きにと考えていた。…あの父と母が僕を傀儡にするのを許すとは到底思えないので今のところは安心して良さそうだけれども…。

 

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「あ"あ"あ"800万もしたのにいいい!!!」

 

駅までの道中、やはり物騒な香りがした。というのも、停車していた高級車に何者かが傷をつけて逃走したのだと言う。被害を受けた車を見てみれば文一叔父さんのとこの海外向けフラッグシップモデルだった。何か硬質なもので一直線に削られたような傷がついていた。カラーリングが黒い分塗装の剥がれが目立っていた。僕は酷いことをする人もいるんだなと思った。犯人は何やら嫌なことでもあったのだろうか…。

 

「あの…お取込み中すみません、僕はこう言うものなんですが。貴方の愛車を修理する際に、よろしければこの名刺を…。いくらか割引になると思いますので。」

 

何もせずに立ち去ろうと思ったのだけれど、なんとなく親戚の売っている車に傷をつけられたのが腹立たしくて被害者…多分証券マンか外資とかのサラリーマン風…の方に僕の作るだけ作った名刺を差し出した。

 

「…えぇ!?さすがに悪いですよ!通りすがりの方にそこまでしていただくなんて…。」

 

ペコペコと丁寧に名刺を受け取ってくれた様子を見ると、やはり日頃真面目にお仕事をなさっているのだろう。僕は是が非でも受け取って貰う事にした。

 

「いえいえ、なんというか車だけじゃなくて僕も傷つけられた気分だったので。どうか、貰ってやってください!では!」

 

押し付けるように渡して、僕は颯爽…とまではいかないが走ってその場を後にした。

 

「あっ!ちょっと待ってくださいよ!あ、ありがとうございました!」

 

男性の声が遠のくように聞こえた。

 

「お気になさらずー!!」

 

男性からの感謝の言葉に僕は自分の力ではない分、力無く答えたのだった。

 

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新宿駅のホームに着き掲示板を見上げると目的の電車にはギリギリ間に合いそうだった。

 

ぷあーと爆音を鳴らしながら電車が近づいていた。僕はいつも自分が突き落とされるのでは、とかそういう不安から逃れるために黄色の線の内側からは絶対に出ないし、なんだったら体重移動もなるべく後方に傾けるタイプだった。

 

電車に乗ることはあまりなかったけれど、やっぱりこの瞬間は少し不安になった。ズリズリと後ろに下がろうとしたその時だった。

 

「え?」

 

そんな間の抜けた声と共に僕の隣にいた青年が線路に落ちていきそうになっていた。誰かに押されたように見えたが振り返るより先に僕は、咄嗟に彼の手を掴んでいた。

 

「うわっ!?」

 

顔面蒼白の彼に血の気が戻るより早く、僕は彼の手を引き戻そうとして…誰かの手で押されてしまった。

 

「よかった…ぁ…ああぁ!?」

 

一息ついたかと思えば、浮遊感が僕を襲った。と同時に視界には黒い影がちらつき、咄嗟に僕の右手がその影をむしり取るように掴んだ。命綱を期待したけど、それは僕と青年の重量に耐えかねてビリビリと裂けてしまった。

 

全てがゆっくりと動いているように見えた。強い光を浴びて横を見れば、電車の顔はもう目の前だった。目の前の青年は何もかもを諦めたような表情で吸い込まれるように線路に落ちていく。

 

火事場の馬鹿力が働いたのか、或いは諦めの境地なのか僕の手は目の前の青年の手を離さなかった。彼の体にかかる重力に引きずられるように僕の視界を線路が占有していく。人間の悲鳴よりも甲高い汽笛が鼓膜を揺さぶるが、いっそ静かな水の中にいるように何もかもが穏やかにすら感じた。

 

ママの言うことは聞いておけばよかったなぁ…。そんな言葉が頭に浮かんだのを最期に、僕の意識は闇の中に沈んだ。

 

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「……ゃま」

 

暗い水底にいるような、無重力の中にいるような感覚が徐々に解けていく。誰かの声が聞こえた。

 

「……ぼっち…ま…」

 

その声はだんだんと強くなっていき、次第に明瞭になった。

 

「徳兵衛坊ちゃま!!!」

 

あぁ、僕の名前だ。気怠い体に鞭打ち、僕はゆっくりと未だ重い瞼を開いた。

 

「じいや…か。」

 

「徳兵衛坊ちゃま!!!なんと、御労しや!!ご無事で何よりでございます!!」

 

視界いっぱいに若かりし爺やの姿が映し出された。あぁ、こんな若い時もあったんだなぁ。ぎっくり腰で救急車に運ばれていった爺やを思い出して僕は笑ってしまった。

 

「ふふ…ふふ…。」

 

「坊っちゃま!!笑い事ではございません!!あと少しで貴方様は命を落としていたかも知れないのですぞ!!二十歳にもなっていない貴方様の死に顔など!!爺は死んでも拝みたく御座いません!!!」

 

「……え???二十歳にもなってないって…えぇ!?」

 

僕は飛び起きると爺やの肩を掴んで聞いた。

 

「爺や僕が二十歳にもなってないってどう言うことさ!」

 

いきなり起きると危ないですぞ!と顔を真っ赤にしながら爺やに叱られながらも、僕は爺やに聞いた。爺やは僕が頭を打って意識が混濁していると思ったのか優しげに話してくれた。

 

「徳兵衛御坊ちゃま。貴方の御名前は古御所徳兵衛ですぞ?覚えておりますかな?」

 

名前すら覚束ないと思われた事に驚きつつ、僕は自分の名前を一応確認してから両親の名前を爺やに話した。

 

「うん、もちろんだよ。パパが古御所裕一でママが古御所ハル…だよね?」

 

爺やは「その通りでございます。もしも記憶喪失だなどと…お父様とお母様のお名前すら覚えていらっしゃらないようでしたら、この爺や死んでも死にきれません。本当に良かったです。」と心底安堵している様子だった。

 

「では、貴方様の状態をご説明いたします…と言いたいところなのですがまずはご入院が先だとご両親から固く言い付けられておりますのでご容赦を。」

 

そう言うや否や爺やは救急隊員を呼んで僕をタンカに移してしまった。本当に僕は気が動転していたらしく、救急車のサイレンにも気がつかなかったようだ。

 

救急車に運び込まれ固定されると爺やが乗り込んで車が発進し始めた。僕は謎の状況に困惑しつつも、電車に轢かれて死んでいなかったということで一旦の納得を得ることにして眠りについた。

 

一度眠りについたが最期二度と目覚めないのではないか、走馬灯なのではないかとも思ったけれど、ならばなおさら足掻くことはないだろうと高を括って瞼を閉じた。

 

意識が落ちる前にふと思い出すことがあった。

 

そういえば…あの時僕と一緒に落ちた青年は無事だったのだろうか?

 

泥の中に沈むように僕の意識は落ちていった。

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