五条悟は日本にいる全ての人間を殺すことすら出来る。
だが、その五条悟にも殺せない人間が一人だけいる。
その男の名は特級呪""物""「套塲 依穢(トウバ ヨリエ)」
僕は昔から散々というほど人間関係というものに苦労してきた。
それがいつからだったのか始まりにについては見当がつかないが、少なくとも僕はこの才能ともわからない呪いのせいで往生することすら奪われた。
穏やかな往生を遂げたくても、真の意味で往生など出来ない身体になってしまったという訳だ。ならば生身のままで腐っていた方がマシだと踏んで今の今まで生きさらばえてきているんだ。
…はぁ、穏やかに日がな一日怠惰に過ごせていたあの頃が懐かしい。
何もかにも壬申の争乱のせいだ!!!全く原因不明な諸々から唯一わかることは!全ての災厄はあの時から始まったと言っても過言ではない!!貴族の家で世話になっていた僕の雅な日常を返せ!!
…小康状態があったとは言えそれだって同性異性関係のない苦難の嵐だった。
…菅原公からの熱烈なラブコールも、安倍君からのセクハラ文書も…あれはまだ可愛い方だったのだと後々に思い知らされたよ。
そして…にっくき宿儺!!アイツのせいで僕はまたしても負のスパイラルにぶち込まれる事になったわけだ。
何という不幸。僕が何をしたというのか。ただの真人間として生まれ落ち、長生きしても100年で死ねると思ったというのに…朽ちぬ肉体に瑞々しい精神か。耳障りのいい言葉なんて所詮は裏が真っ黒なのだ。
騒乱のあるたびに家を焼き出され、平穏を奪われ、文化が流転しては困惑し、二度の大戦争に遭遇した挙句あわや死ぬるかと思えば悪運のせいでかすり傷ひとつ負わない。
食うには困らず何とかなってきたが僕はもう少しぼんやりとしていたいというのに…。
ともかく…紆余曲折あって現代まで生身のままで腐ってきた結果、僕は今の文化的で最低限度の生活とやらを手にしたわけだなぁ…。便利な道具や整った制度。実に結構だ。
…新たな問題に直面するまではな。今の時代、何が主流かと聞けばそれはスマホという薄くて光る板だ。これで大抵のことはできる。時計や車や冷蔵庫や…新発明に散々驚かされてきた僕だけど、この光る板には流石に目を見開くくらいびっくらこいた。
僕は結構新しい物好きらしく、色々とこの板も活用してみたのだけれど。SNSというものに手を出してしまったのが運の尽きだった。
発端は一通のダイレクトメッセージなるものだった。内容は実際に会いたいというもので、送り主はSNS初めの際に偶々登録するに至った女性のアカウントからであった。
僕は基本的に女性としか関わりを持たないようにしている。男と関わるのは宿儺の時にもう懲りた。しかし誰かしらと関係しなくては生きていけないのが貧弱な僕の悩みどころなわけで、妥協案として女性というわけだ。
無論、好みというのもあるが…僕の場合は好みを出すと厄介な事態に発展するから好意を曝け出すのは滅多なことではない。
ともあれ、その送り主はといえばまだSNS上で話してから1ヶ月と経っていないにも関わらず僕に会いたいという…。
何となく嫌な予感がしたので僕はやんわりと断ったのだが…それが悪手だったのか、文面にしたってかなり激しい罵倒を受けてしまった。地雷を踏み抜いてしまった…この感覚は何度目だろうか。
僕はソッとSNSアプリケーションを削除した。
慣れないことはしない方がいいな…と反省していたのも束の間。この失敗が契機となったのかは分からないが僕はすぐにより年季のこもった災難と再開する事になった。
ピンポーーーン!!!
「えっ?」
時計を見れば夜中の10時半。とても来客を喜べるような時間ではない。
「誰だ?こんな時間に…。」
僕にはこれからSNSの反省を失敗の書にまとめる必要があるというのに。
「今出ま〜す。…どちら様ですか?」
少しだけ苛立ちながらも最低限の人としてのマナーとして来客を出迎える。この時の僕はどうして来客をカメラで確かめなかったのだろう。
ガチャ
…この時の僕は思いもしなかった。
キィ
「やぁ…久しぶり。10年ぶりかなぁ…ヨリエ君?」
長身のグラマラスな女が僕の視界を満たしていた。
僕は本能で感じていた…これはまずいな…。
「…お引き取りください」
咄嗟に開けてしまったドアを閉めようとするが…
ガシっっっ!!!!
「フフフフ…その様子だと覚えていてくれたんだね?嬉しいなぁ!他ならぬ愛しい君に覚えていて貰えるなんて!」
「ッ力強っ!!」
バァン!!(扉死亡)
「うわぁッッ!!」
扉を力ずくで開け放たれてしまった僕は尻餅をついてしまう。あぁ…僕の最後の砦が。
観念して顔を上げると、見上げる僕の視線と彼女の視線が寸分狂わずに交わるのがわかった。僕は恐る恐る下手人の美女の名前を呼んだ。
「……ひ、久しぶりだね冥。」
「!!名前も覚えていてくれたのかい?フフフ!!あぁ!嬉しいよ!!…今日は憂憂を連れてきてないんだ…あんな事があったからね。反抗期だったとはいえ、同じ轍は踏まないよ。…だから安心してくれ。」
「今度は本当に2人きりだから、ね?」
アッハッハッハッハッ!!!!
彼女の高笑いが住宅街に響いた。「近所迷惑だぁぁぁ」という僕の言葉にならない悲鳴は静かに消えていった。
そう……愚かな僕は思いもしなかったのだ。
長年僕を苦しめてきた往年の宿敵…「ストーカー」…との邂逅を果たすだなんて。
壊れていたはずのドアは僕を逃さないぞというようにゆっくりと閉まっていった。
裏切りものめ!不動産屋に訴えてやる!
あぁ!きっと、僕は呪われているに違いない!!