百合を愛でたかっただけなのに   作:悠牙

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本当にお待たせしました・・・
以前の投稿から三ヶ月以上経っちゃってる・・・
更新遅れて申し訳ございません。
就活とか卒業論文とか5000字書いてから書き直しとかやってました。
エタりは絶対にしません。
なるべく早めに更新出来るように頑張ります。


転生王女と百合好き薬師と天才令嬢
第一話 転生王女と百合好き薬師


これより語られるのは、薬師の少年のお話。

とある王国のお姫様と出会い、夢を語り合った事から始まる物語。

時には少女の支えになり、共に並び立ち、自らの欲望を追う。

そんな感じの物語。

 

そんな少年がとある王女と出会ってから10年近く経った今、物語は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――物心ついた時には、自分が誰かの生まれ変わりだという事に気づいていた。

と言っても前世は何者だったとか、何があったのかは解らず、前世の知識があるわけでも無い。

そんな中途半端な生まれ変わり。

それでも百合という概念だけは知っていた。

視覚的にも、心的にも美しい、女性同士の恋愛模様。

それが好きだった。

自分は男で、望んでも手に入らない。永遠に届かないもの。

しかし、それを遠くから眺める事は出来る。

 

自分の夢は、きっとこの時から決まっていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風速ヨシ!天気ヨシ!整備ヨシ!安全確認ヨシッ!」

 

ここはパレッティア王国。魔法で大発展を遂げた国。

そんな国での夜、王宮から少し離れた場所にある離宮の庭で、白金髪の少女が箒を片手に指差し確認を行っていた。

 

「うーん絶好の実験日和!やっぱり空を飛ぶなら月が見えてないとね」

 

「お嬢様」

 

「うん?」

 

少女の背後から声が掛かり、振り向く。

そこには赤い髪のメイド。イリアが白いローブを持って立っていた。

 

「今夜は冷えますのでローブを」

 

「おー!さっすがイリア!ありがとう!」

 

「いいですかお嬢様、高度と速度を出し過ぎてはダメですよ?常に周囲の安全と確認を。どちらかの異常が起きたらすぐに地上へ降りてください。無理な魔力操作もしない事。それに―――」

 

「わ、わかった!わかったよもう!心配しすぎだよイリアは」

 

そう言うと少女はローブを受け取り、羽織る。

それを確認しながら、メイドははぁ、と溜息を吐きながら続ける。

 

「心配するのも当然です。貴女はパレッティア王国第一王女。アニスフィア・ウィン・パレッティア様なのですから」

 

「だーいじょうぶだって、今日は別に一人で飛ぶわけじゃ無いんだから、ゼロも一緒に飛ぶんだよ?」

 

「だから余計に心配なのです」

 

「うぇぇ・・・?」

 

「―――スマン、遅れた」

 

そうやって二人が話していると、不意に声が掛かる。

二人が声がした方向を見ると、そこには薬草の香りがする黒いローブを身に纏った少年がいた。

 

 

「あっ、ゼロ!遅いよもう~」

 

「悪い悪い、ちょっとコイツの調子が悪くてな、最終確認してたんだ」

 

そう言うとゼロと呼ばれた少年は手に持っている箒を軽く振る。

アニスと同じ、掃き掃除用の箒。ただ一つ違うとすれば、箒の穂を束ねている箇所に小さい宝石の様な石がはめ込まれている事だろうか。

 

「にしても、コイツが本当に飛ぶ日が来るなんてなぁ」

 

「全くです。最初なんて城壁にめり込んでいたというのに」

 

「こらぁ!そこぉ!昔の事をほじくり返さない!」

 

この箒は魔女箒と言う。

 

アニスが魔学を用いて作った魔道具の一つで、精霊石―――魔力を内包した石を埋め込んでおり、その精霊石に込められた風の魔力を推進剤に、なんとこの箒は空高く飛ぶことが出来るのだ。

 

・・・理論上は。

 

「ヨシ!じゃあゼロも来たことだし、飛びますか!大空!」

 

「おいおいアニス、いきなり行くのか?最初は低空で慣らしたほうが―――」

 

「相棒相棒あいぼ~う、時には歩くより、まず走れ。だよ」

 

「・・・はぁ、わかったよ」

 

こうなった時のアニスは誰にも止められない。

10年近く一緒に過ごして来たからわかる。

 

「ではアニス様、お気をつけて。ゼロ様、アニス様をお願いします」

 

「あいよ」

 

「はいは~い、それじゃ!温かい紅茶用意して待っててね!イリア!」

 

「かしこまりました。アニス様」

 

そう応えるとオレ達は箒に跨り、空を見上げる。

雲一つ無い良い夜空だ。

この空を飛ぶ、そう考えると少し体が震えた。

 

「・・・」

 

「どったのゼロ、怖くなっちゃった?」

 

「まさか。お前と一緒なんだ、怖くなんてあるかよ」

 

そう言うと二人は手を繋ぐ。

 

「「・・・せーのっ!」」

 

掛け声と同時に二人は地面をけり上げ、大空へと飛び立つ。

一瞬で周りの木々を超えるほど跳躍し、箒の掃く部分から魔力を放出し、前へ飛ぶ。

速度が乗ってきたら二人は手を離し、自身でバランスを取った。

 

「ひゅー!気ん持ちいいい!!!」

 

「うひょー!!高ぇぇぇぇ!!!」

 

「やっぱり魔女箒で空を飛ぶなら、夜に限るよねー!」

 

「「イヤッホー!!!!!」」

 

やっとここまで来れたという達成感。

初めてここまで高く飛べたという高揚感。

それら全てを身体全体で表現するかのように、オレ達は空を駆けた。

ある地点まで上昇して、滑空。

らせん状に回転したり、宙返りなどを行ったりもした。

 

「フフッ、ゼロ!見てる感じてるー!?」

 

「ああ!」

 

「本当に凄い!夢が叶った!やっぱり私、魔法が大好き!!今なら星も掴めちゃいそう!」

 

――ホントよくここまで来たもんだ。

 

最初に作った魔女箒―――試作型一号はそれはそれは拙いものだった。

 

なんせ箒の掃く部分にありったけの風の精霊石をヒモで括り付けただけだったのだから。

 

この『とりあえずとんでもない風吹かせれば飛べるんじゃね?』大作戦は見事に失敗に終わり、飛ぼうと試みたアニスがオレに突っ込んできて二人で城壁の壁画になったのは、今でも昨日の事の様に思い出せる。

 

そこから試作と実験を繰り返し、ある時は箒が勝手に旅立ったり、ある時は爆発したり、またある時は箒バンジーなるものをして壁にめり込んだりなど失敗を重ねていった。

 

しかし、着実に一歩ずつ進む事は出来ていた。

 

そして積みに積み重ねた結果。

 

オレ達は大空を飛んでいる。

 

楽しむアニスを尻目に、時計へ目を落とす。

なんだかんだで30分近く飛行している。離宮から離れすぎた訳では無いが、帰りを考えるとそろそろ帰りのルートへ戻った方が良いかも知れない。

 

「おーい!アニス!そろそろ離宮の方向に飛ぼう!何気に結構時間経ってる!」

 

「うえぇもう終わりぃ~?まだ飛びたいよう」

 

そう嘆きながらアニスは近くへ飛んでくる。

手をアニスのデコに当て、体温を確認する。

やはり少し冷えてきている。

 

「身体冷やして帰るとまたイリアにドヤされるぞ」

 

「むぅぅん・・・じゃあさ、最後に勝負しようよ」

 

「勝負?」

 

「そう!どっちの魔女箒ちゃんが速いか!」

 

「・・・じゃあこれで最後だぜ?これ終わったら帰って暖まろう」

 

「OK!じゃあ行くよ!」

 

アニスはそう言うとオレの隣に並び飛ぶ。

 

「0!でスタートね」

 

「オレの名前呼んだだけ、とか無しだぞ」

 

「わかってるって。それじゃ3!」

 

魔女箒に魔力を注ぎ込む。

 

「2!」

 

微調整し、まっすぐに箒を構える。

 

「1!」

 

風を身体で受け、減速しない様に前傾姿勢を取る。

 

「0!」

 

流した魔力を一気に放出させる。

その瞬間、周りの風景が一瞬で流れたと思えるほどのスピードと風がオレを襲った。

 

「ぬぅおおおお!!!」

 

「ヒャッハー!!!」

 

空気の壁がぶち当たる衝撃に苦悶の声を上げる。

一方アニスは楽しそうにオレと並走している。

まだ余裕があるようだ。

 

(結構全力でやってんだけどなっ・・・!この魔力オバケ!)

 

このままじゃ負けてドヤ顔を突き付けられる。それだけは避けたい。

 

(仕方ねぇ、もっとマジで注ぐしか―――!?)

 

その瞬間だった。

オレの魔女箒に亀裂が走り―――砕けたのは。

 

「な、にぃ!?」

 

一瞬でオレは空中に放り出され、飛ぶ手段を失う。

スピードが思った以上に出ていたこともあり、体勢を整える事さえままならない。

 

「っ!ゼロっ!」

 

アニスが異常に気付き、こちらへスッ飛んで来る。

 

「手!伸ばして!」

 

そう言ってアニスは自身の手を伸ばす。

ローブが風を受け、思うように動けない。

だがそんなこと言ってられない。

渾身の力を込め、身体をよじり手を伸ばした。

 

「つっ、かんだぁ!」

 

アニスはオレの腕をつかむと、そのまま上に向かわず滑空の姿勢を取り、バランスを取り始める。

身体が楽になった隙にオレは右手でアニスの魔女箒を掴む。

 

「あっぶねぇ・・・サンキューアニス、助かった」

 

「ううん、そっちこそケガは無い?」

 

オレは今箒にぶら下がる体勢になった。何とかして上に行きたいが、大きく動いてバランスが崩れたら二人とも落ちてしまう為中々動けない。

取りあえず魔法で少し腕を強化して、ぶら下がっとくか。

 

「問題ない。にしてまさか砕けるなんてな」

 

「回路がダメだったのかな・・・それとも魔法石自体?」

 

「わからん。まぁ取りあえず帰ろうぜ。身体も肝も冷えちまった」

 

「うん・・・」

 

急に聞き分け良くなったな。

流石にトラブルあった後じゃ落ち込みもするか。

 

「・・・まぁ、気にすんなよ。結局飛べたわけだし、オレもケガ無いし」

 

「・・・そうだよね、ありがと、ゼロ」

 

そう言うといつもの様に笑顔を向けてくる。

やはりアニスは笑顔の方が良い。

 

「それじゃ、離宮に向けてレッツゴー!」

 

「レッツゴー!・・・?」

 

アニスの声に合わせた直後、オレは何か吸い取られるような感覚がした。

・・・あれ、そういや魔女箒って。

 

「・・・なぁアニス」

 

「どしたの?」

 

「魔女箒って、乗ってる人間の魔力使って飛んでるんだよな?」

 

「まぁ大体はそうだね、魔法石どうこうもあるけど」

 

「んで、魔力を流すとスピードが上がるんだよな?」

 

「そうだね」

 

「・・・ってコトはさ」

 

 

 

 

 

 

「オレがこうやって掴んでるの、結構まずくね?」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あっ」

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

アニスの魔女箒から、「ボッ」と嫌な音が聞こえたのは。

 

「・・・」

 

「・・・ゼロ、ゴメン」

 

アニスが謝罪の言葉を口にする。その直後――――

 

「しっかり掴まっててぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

「ぬぅおおおお!!??」

 

二人分の魔力を吸い取った魔女箒は先程とは比べ物にならない速度で夜の帳を切り裂いていった。

 

「アニィス!!コントロールはァ!?」

 

「むぅぅりぃぃぃ!!!」

 

「「わ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!”!”!”!”」」

 

獣のような叫びをあげながら、二人は流星になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニスたちが流星になる少し前。

所変わってここはパレッティア王国が運営している国立貴族学院。

ここでは身分の差を気にせず、成績を高め日々の研鑽を高めるために貴族の息子娘たちが集う学び舎であった。

とは言えど、身分の高い者が低い者を虐げたりなど問題が無いわけでは無いのだが。

 

閑話休題。

 

今日は学院、生徒たちにとってめでたき日であった。卒業を迎える者たちの最後の試験が終わり今までの努力をたたえ合う。そんな祝いのパーティー。

 

だがそんな場所で、さながら魔女裁判の様な出来事が起きていた。

 

「この場を以て宣言する。私はユフィリア・マゼンタとの婚約を破棄すると!」

 

そう高らかに宣言するのはパレッティア王国の王位継承権第一位を有する王太子、アルガルド・ボナ・パレッティア。

この言葉から始まった弾劾の場。

周囲の貴族の子息・令嬢からの奇異の目が一人の少女に向けられていた。

 

一方で、婚約破棄を告げられた少女、長く伸ばした白銀色の髪、ピンク色の瞳を持つユフィリア・マゼンタは呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。

 

彼女は自分に出来る事を、次期王妃として相応しい立ち振る舞いを行ってきたつもりだった。

 

次期後継者であるユフィリアとアルガルドには国を担う責務と義務がある。

そのため、自分とアルガルドは婚約の身だから。とシアン男爵令嬢に苦言を呈したこともあった。

規範になるべく、次期王妃として侯爵令嬢として、強く正しくあろうとした。

他の生徒から嘲られ、煙たがられても、我慢する事が出来た。

しかし。

 

「レイニに対する過度なイジメ、所持品の盗難や損害、更には暗殺の企て! その全ては貴様が糸を引いている事は調べが付いているのだ!」

 

「証言します。レイニ嬢に対する彼女の悪行の数々は我等が目にしました!」

 

如何に自身の潔白を証明しても、誰も信じてくれない。

身に覚えの無い罪が、ユフィリアに重くのしかかる。

 

「今までの行いを悔い、レイニへと謝罪せよ! ユフィリア・マゼンタ!」

 

一体何を謝罪するのか、ユフィリアにはわからなくなっていた。

いや、ここまで騒ぎを大きくしてしまったのだ。自分一人の謝罪などで解決するわけがない。

きっと父にまで迷惑がかかるだろう。自分が不甲斐ないばかりに。

その様な考えが頭を巡り、ユフィリアは反論も訂正も出来なくなっていた。

 

勝ち誇ったようにユフィリアを見下す眼鏡をかけた貴族子息。

理解が追い付かず混乱する男爵令嬢。

そして、自分から視線を外すことなく、冷たい視線を浴びせる婚約者。

 

限界だった。

 

足がふらつく

膝を折ってしまえば、楽になれる。

そうユフィリアは考えた。

 

そんな時だった。

 

 

 

「――――――ァ”ァ”ァ”ァ”」

 

外から奇妙な声?音?が聞こえて来たのは。

幻聴だろうか。

 

「―――なんだ?」

 

いや違う。目の前のアルガルドも聞こえているらしい。

耳を澄ませ、音の発生源であるパーティ会場の窓の外へと目を向ける。

怪鳥の叫びの様な、おおよそ人が出すとは思えない奇声。

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!”!”?”!”?”」

 

否、人だった。それも二人。

悲鳴と共に窓が勢い良く粉砕され、その勢いのままユフィリアとアルガルドの間をすっ飛んでいく。

まるで今まで弾劾が行われていたとは誰も思わないであろう空気。

ユフィリアに奇異の目を向けていた者も、ユフィリアを責め立ていた者達も皆、呆気に取られながら柱の根元に着弾した黒い塊に視線を向けていた。

 

「―――んむっぷあっ!いたたた、まさか二人分の魔力を注ぐとあんなにスピード出ちゃうとは・・・」

 

「―――あーいってぇ・・・怪我無いか?アニス」

 

「うん、大丈夫、ゼロは?」

 

「オレも平気―――ここ何処だ?」

 

「・・・何処だろ?あっ!」

 

「っ!?アニス、だとっ!?」

 

黒い塊から二人の少年少女が顔を出す。

黒い塊の正体は少年の方が羽織っているローブだったらしい。

そして、少女の髪色に誰もが息を呑む。それはアルガルドと同じく、王族の証明とも言える白金色だったからだ。

少年に手を貸し、立ち上がらせ周囲を確認する少女に、真っ先に反応したのはアルガルドだった。

彼女たちを指さし、小刻みに震えている。言葉が上手く出てこないのか、口が半開きのままだ。

アルガルドの周囲にいた貴族子息たちも黒いローブの少年を見て、苦虫を嚙み潰したような顔を向ける。

 

そんなアルガルドに気づいたのか、少女はあっけらかんとした調子で手を上げ、明るい調子のまま口を開く。

先程の空気など気にもしない様子で、少年も続く。

 

「ヤッホーアルくん!・・・もしかしてお邪魔しちゃったかな?」

 

「あ~、よう、アル、お久」

 

「姉上ェ!ゼロォ!」

 

煌びやかなパーティには似付かわしくない、パレッティア王国きっての〝問題児達”の称号をほしいままにする王女とその専属薬師。

アニスフィア・ウィン・パレッティアとゼロ・アウケラスは微笑みをアルガルドに向けた。

 

 

 

 

パレッティア王国にはある二人組がいる。

 

片や王族でありながら魔法を使えない王女。

片やある時ふらっと現れた生まれを誰も知らぬ薬師。

幼少期に出会ってからずっと一緒に歩んできたそうだが、細かな事は誰も知らない。

 

そんな二人が行う奇行は常軌を逸しており、〝パレッティア王国史の恥〟、〝王国一の変人奇人コンビ〟、〝問題児の悪い部分を煮詰めて出来た何か〟、そんな様々な称号で呼ばれる二人。

今となってはトラブルが起きればすぐに「あの二人か」と誰もがげんなりする。

それがアニスフィア・ウィン・パレッティアとゼロ・アウケラスである。

 

曰く、空を飛ぶ為に風を利用し、自分を吹っ飛ばして城壁にめり込んだ。

曰く、「鳥の気持ちを知るのだ」と全身に鶏の羽毛を張り付け走り回った

曰く、“風呂”を作るといって湯を沸かそうとして離宮の一室を吹き飛ばした。

曰く、新しく作成した薬を服用し、二人揃って死にかけた。

 

まさに奇天烈と呼ばれるに値する奇人だった。

 

しかし、それと同時に二人には逸話もある。

 

王都から新たに道を開拓する際に襲ってきた魔物を王女1人で壊滅させたとか。

王国を襲ったヒュドラを、薬師が一人で倒してしまったとか。

流行病の際、二人が新たに作った薬のおかげで被害が最小限で済んだとか。

 

そんな二人を言い表す言葉がある。

〝誰よりも魔法を愛し、魔法に愛されなかった天才〟

〝天才の隣に立つために、全てを才に捧げた男〟

 

貴族や王族なら使えて当然の魔法を使うことが出来ない王女。

しかし、だからこそ魔法科学、通称魔学を編み出した第一人者。それがアニスフィア・ウィン・パレッティア。

そしてその隣で王女を支える専属薬師。それがゼロ・アウケラスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・よりにもよってこの場所かよ)

 

オレ、ゼロ・アウケラスは後悔する。

確かに「今日の夜は学院でパーティーがあるから絶対にあそこで騒ぎを起こすなよ!良いか!絶対だぞ!」ってアニスの親父・・・もといパレッティア王に言われてはいた。

だが離宮とここは離れてるし、なにより飛行ルートもこことは真反対の場所だった。それなのにこうなってしまった。

 

(何とかして誤魔化せねぇかなぁ~・・・流石に無理か?)

 

周りには着飾った貴族の子息、息女が奇異の視線をこっちに向けている。

そりゃそうだ。ここは学院の最上階、しかもその窓を突き破って来たってんだから。

誤魔化そうにも理由が思い浮かばない。

 

「え~っと、これはマズい状況、かな?」

 

隣にいるアニスが不安げにチラリとオレを見る。

オレはそらマズいよ。と首を縦に振る。アニスの顔が引きつるのが見えた。

 

(オレ等の評判が傷つくのはまだ良いけど、今日はアルガルド達のパーティーってのがなぁ)

 

会場の一番目立つ場所に目を向けるとアニスの弟、アルガルドがいた。

ガキの頃は一緒に遊んだりもしたもんだが、最近は会ってすらなかった。

 

「・・・ん?」

 

ふと、アルガルドの隣に目を向けると黒髪の見知らぬ女性がそこにいた。混乱しているのか、不安げにアルガルドに抱きしめられている。

あれっ、確かアルガルドの婚約者ってそこでアルガルドに見下ろされてる女の子じゃなかったっけか。

てことはあの黒髪の子は妾候補か?

アイツ何気に手ぇ出すの早えな。

 

「ちょっとアルくん?どうして婚約者(ユフィリア嬢)がいるのに別の女性を侍らせてるの?」

 

アニスも気づいたらしい。というかアニスも知らなかったのか、話通してなかったのか?

 

「貴女には関係無いっ!」

 

「いやっ、そんなに怒らなくても!」

 

メッチャ怒るじゃん!と驚くアニス。

にしてもおかしな話だな。彼女を妾にします。とするにせよ、こんな場所でするもんじゃなし。

それにアルガルドは学生ではあるが王家の人間でもある。

だからそれらしい振る舞い。せめて隣にいるのは婚約者であるべきなんだが・・・

 

「えぇと、ユフィリア嬢?コレどういう事?あの娘、妾候補とか?ゼロもなんか知ってる?」

 

「オレも知らねえ。婚約者がユフィリア嬢って事しか―――」

 

アニスの問いに答えつつ、ユフィリア嬢を見る。

すると顔を曇らせ、視線を外されてしまった。

・・・よく見ると涙の跡がある。

 

「・・・アルガルドお前、何したんだ?」

 

「貴様口を慎め!薬師ごときが王族の事情に首を突っ込むな!」

 

「テメェには聞いてねえよ腐れ眼鏡が黙ってろ!」

 

「なっ・・・!」

 

「・・・・・」

 

個人的に恨みがある眼鏡をかけた高飛車貴族、モーリッツを黙らせ、アルガルドを睨みつける。

アルガルドは黙ったまま、こちらを見据えている。

質問に答える気は無い様だ。畜生め、遅めの反抗期でも来たか?

というか先程からアニスがん~?と考え込んでいる。

何か心当たりでもあるのか。

 

「ん~と、もしかして、言い掛かりでもつけられて婚約破棄でもされた?」

 

アニスのこの言葉に周囲がざわつき、ユフィリア嬢がハッと顔を上げる。

何故分かったのか。とでも言いたげだ。

図星だったらしい。

 

「うえぇウソでしょ!?こういう物語があるのは知ってたけど、そんな事ホントにあるの!?」

 

「なぁアニス、一応聞くけどこういう事って良くあったり・・・」

 

「あるわけないじゃん!しかも身内からなんて、余計に無いよ!」

 

念の為聞いてみるが流石にあるわけないらしい。

まぁそりゃそうだ、お師さんと旅してた頃もそんな話聞いたことない。

ん~。とポクポク音が聞こえそうな姿勢でアニスが考え始める。

 

「・・・ユフィリア嬢、今孤立してる感じ?」

 

「え・・・?あの、なんで」

 

「よーし、決めた!」

 

考えるのが終わったのか、アニスがユフィリア嬢に手を伸ばす。

 

「ユフィリア嬢、行こうか!私たちが攫ってあげる!」

 

「・・・え?」

 

「そうと決まれば善は急げ!ゼロ、準備は?」

 

「出来てるぜ、いつでも飛べる」

 

そう言いながらオレはアニスに魔女箒を手渡す。

アニスが考えている最中に確認したが、動力部の損傷は無く、魔法石も問題ない。

飛行に問題は無い。

 

「さて、今からユフィリア嬢は私たちに攫われるので、何の責任もナーシ!」

 

「えっ、えっ、わぷっ」

 

「さぁ行こう、すぐ行こう!」

 

アニスが自身のローブをユフィリア嬢に被せる。

ユフィリア嬢は一切合切何が起こっているのかわからない模様だ。

アニスの好きにされてる。

 

「アニス、外は冷える。これ羽織れ」

 

「サンキューゼロ!よっこらせっと!」

 

「わっ!えっ!?あのっ!?」

 

アニスにオレのローブを羽織らせ、アニスはひょいっとユフィリア嬢を肩に担ぐ。

貴族の娘だからきっと軽いんだろう。

 

「というわけでアルくん!この話は私たちが持ち帰らせて貰うわ! 後で家族会議ね!」

 

「後でオレにも話聞かせろよ?アル」

 

「え、あのっ、ちょ、下ろしてくださ―――」

 

「ッ!待てっ!姉上―――」

 

「あぁばよアルくぅぅぅん!!」

 

「じゃあな!」

 

アニスと一緒に笑顔を浮かべ、窓に向かって走る。

ぶち破って来た窓から身を投げ出し、重力に任せ落下する。

 

「楽しいノーバンジージャンプだよ!空の旅へようこそ!ユフィリア嬢!」

 

「あーはっはっはっハッハァ!」

 

「い、いやあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 

隣からまるで貴族とは思えないほどの叫び声が聞こえる。

命の危険を感じると叫び声が汚くなるのはみんな一緒らしい。

 

そんな叫び声を聴きながら、アニスは魔女箒に跨り、オレはその後ろに座る。

今度は魔力を流さないように気を付けながら。

 

地面スレスレでアニスが魔力を箒に注ぎ込み、上空へと飛び立つ。

 

「空・・・ッ飛んで!?」

 

「わっとと、危ないから動かないでね。三人乗りだからバランス取るの難しいんだ」

 

「安心しろユフィリア嬢。変なことしなきゃ落ちねえからさ」

 

「はっ、はいぃ・・・」

 

足をばたつかせるユフィリア嬢を落ち着かせる。

実際問題、アニスの魔力なら三人程度は大丈夫。暴れたりしなければ。

 

「あのっ今、どちらに向かわれて・・・!?」

 

「父上とグランツ公のところ!」

 

「陛下と父上の・・・?どうして?」

 

「そうだね――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にユフィリア嬢をくださいってお願いするのはどうかな?」

 

「・・・・・え?」

 

「クッ、ハハハハハ!」

 

思わず笑いが出る。

あぁ本当に―――コイツといると楽しみが絶えない。

 

「オイ、アニスゥ!ここからスタートかぁ!?」

 

「そうかもねー!私たちの、もう一つの夢!」

 

幼少期、初めて出会った頃に語り合った、自分達の夢。

アニスは空を飛ぶ事。

オレは―――アニスが美女を侍らせる。その光景を眺める事。

 

「そうか!ここからかぁ!ハッハッハ!」

 

自然に笑顔が溢れる。

 

「え、ええぇぇぇえぇぇぇぇぇ!?」

 

何が何だかわからない令嬢の悲鳴と、薬師の笑い声が星々が満点の夜空に響き渡る。

全てはここから始まるのだ。百合好き薬師、〝転生者〟ゼロ・アウケラスの夢は!

 




ー祝ー UA1万5000超え達成
評価バーがオレンジと赤をぐるぐるしているし、日刊・週刊ランキング載ってたしでなんか色々とんでもない事になってる。
皆様、本当にありがとうございます。期待に応えられる様に頑張ります。
誤字報告もありがとうございます。助かりました。

アニス視点の恋の始まり書いたし、この流れでユフィのも書こうとしたら書けなかったので取りあえず本編行きます。原作読みこんでユフィを理解せねば。

流れは原作小説や漫画版と同じです。
幼少期のアニスとゼロのエピソードは合間合間に書いて行こうかと思います。

本当にこれでいいのだろうか、と迷いながら書いてます(ガクブル)
元が小説だからかどうしても考えてしまう。
なので『なんかわかりにくいよぉ!』みたいな部分も指摘して頂けると幸いです。

誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
引き続き、感想・評価・質問お待ちしております。
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