Fly higher   作:卵かけ御飯用醤油

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久しぶりに小説を書いてみました。
よろしくお願いします。


はじまりの衝動

 

『おれが居ればお前は最強だ!』

 

 エアーサロンパスの匂い。ボールの弾む音。怒号のような歓声。

 天井から指す眩い光と、むせ返る様な熱気に包まれながら、誰よりも信頼して、誰よりも勝ちたい『誰か』に声をかけた気がする。

 けれど、その『誰か』の顔は幾ら頭を捻っても浮かんでこない。そもそも、そんな熱中する体験をこれまでの人生でしたことはあっただろうか。

 

 幼い頃に高熱を出してから、ふとした時に喪失感のようなものが頭をよぎる。

 こんな時は、頭を空っぽにするために、外の空気に触れるのが一番だ。

 

 まだ白い息が出る天気のいい寒空の下、未だこびりつく喪失感から、逃げるように自転車を走らせる。

 

「まさに〝小さな巨人″‼」

 

 気が付けば商店街の方まで来ていたようだ。

 目の前の電気商店で展示しているテレビから、アナウンサーの叫ぶ声が聞こえてくる。

 ふと目を向けると、隣町にある〝烏野高校″が〝春の高校バレー″全国大会を戦っていた。

 いつもは通り過ぎてしまう場所なのに、気が付けば食い入るように画面を見ていた。

 1つのコートをネットで仕切って、身長190㎝近い選手たちが必死に1つのボールを追いかけている。

 

―――あれ? 俺ってバレー好きだっけ?

 

 力いっぱいに握りしめていた拳に気が付き、ふと疑問に思う。

 しかし、その疑問も画面の中で一際目立つ存在にかき消されていった。

 170㎝という決して大きくない体で飛回る選手が次々と得点を重ねていく。

 背中に10番を背負った黒い姿が、ひどく『懐かしく』感じた。

 

 自分の手のひらを見る。

 力いっぱい握りしめていたからか、少し赤みを帯びているが、小さく、マメも傷もないきれいな手。

 そこにじんわりと熱が宿っている気がした。

 大会を見た興奮か、それとも違う理由か。違和感を感じながら、その熱を逃がさないように、ゆっくりと握りこむ。

 

 いてもたってもいられなくて、家の方向へ自転車を走らせる。

 掴んだこの熱を逃がさないように、この興奮と感動を早く形にしたくて。

 まるで生まれ変わったかのような気持ちで、帰り道を急ぐ。

 

 『誰か』や喪失感の正体とかは、とりあえずは頭の片隅に置いておく。

 今は、この衝動に身を委ねたい。

 

 自転車を乱雑に止め、玄関の扉を開け放ち、叫ぶ。

 

「母さん! 俺、バレーがしたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの出会いから、約3年と3か月後。ようやくたどり着いた公式大会。

 『初めて』見る大きな体育館とその熱気に興奮し、そしてどこか『懐かしさ』を感じていた。

 

「エアーサロンパスの匂い!」

 

 広い体育館には、大勢のチームが集まっている。その迫力を肌で感じながら、大きな興奮と共に、独特の匂いを肺いっぱいに吸い込む。

 

「いや、最初の感想それかよ」

「もしかして、緊張してる?」

 

 急遽来てくれた関向と泉に声をかけられる。一年生も初めての場所に落ち着かないようだ。

 

「緊張? 全然! 早く試合がしたくてたまらない!」

 

 3年かけてようやくたどり着いたこの場所。自分を突き動かす衝動に身を任せ、色んな場所で練習を重ねてきた。その成果をようやく発揮できる場所が来た。

 『あの時』と同じく、手にじわりと広がる熱を握りしめ、気持ちを高めていく。

 これまで出られなかった分、勝ってコートに立っていたい。

 

「その強気はどこから出てくるんだよ…」

「まあ、バレー馬鹿の翔ちゃんらしいね」

 

 呆れたような二人に満面の笑みを返しながら、アップをするために場所を移動する。

 最初の相手は「北川第一中学」。相手の分析をするほど時間はなかったので、詳しくは知らないが、優勝候補だとか、すごいセッターがいるだとか、噂は聞いてる。

 無名校が可哀そう、運が悪いといった声を聴き流しながら、まだ見ぬ強敵に心を昂らせる。

 勝ちに来ているんだ。優勝候補なんて一番燃えるじゃないか。

 

 自分はワクワクしているけど、他の皆はすごい緊張しているみたい。

 まずは、リラックスするところからかな。

 

 特にガチガチに固まっている一年生を何とかしないと。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、トイレ行ってくるね」

「いや、置いていかないでくれ!」

 

 翔陽~と縋りつくようなコージーを置いて、コートから出ていく。

 アップと公式WCで緊張がほぐれてきたと思ったら、対戦相手の北川第一が入ってきて、みんなはすっかり気圧されてしまっていた。

 確かに、相手の身長は中学生離れしているし、6人のうちと比べて、観客席まで応援の部員がいたから仕方ないといえばそうなのだが。

 

 トイレを済ませ、外に出ようとすると話し声が聞こえてくる。

 

「なあ〝雪ヶ丘中″ってどこ? 聞いたことないんだけど」

「さあ、リベロも出せないほど人数もいないみたいだぞ」

「てか、身長小さすぎて小学生かとおもったわ」

 

 扉を少し開けて覗いてみると、対戦相手の北川第一のユニフォームを着た3人組が、ドリンクを作りながら話していた。

 いやまあ、人数のことや身長のことはおっしゃる通りだし、プレーで見返すつもりなのだが、いざ言われると複雑な気持ちになる。

 自分でいうのと他の人に言われるのとでは違うあれだ。

 

 言い返したい気持ちもあるが、これから対戦する相手と喧嘩になったら、折角の公式戦がおじゃんになってしまうという懸念に板挟みになっていると、

 

「おい、2年。お前らは対戦相手を見下せるほど強いつもりなのか?」

 

―――学校の名前に乗っかってんじゃねえよ

 

 威圧感と共に言葉が放たれ、北川第一の二年生はさっさと荷物を抱えて逃げていく。

 誰だ? 怖ぇ~と言葉が聞こえた時に、咄嗟に占めてしまった扉を恐る恐る開けながら、その人物を見る。

 ユニフォームは北川第一と書いてあり、同じチームの誰かが声をかけてくれたのだと分かった。

 お礼を言うために、扉を開け、正面に立っていた誰かを見やる。

 

「すまん! ありが…」

 

 お礼の言葉は最後まで出てこなかった。その顔を見た瞬間に、すべての時が止まったように、頭が真っ白になって、自分の鼓動だけが聞こえていた。

 あの、商店街で小さな巨人を初めて見た時のように、何か自分の中でピースがはまるような、何かを取り戻すような感覚がする。

 

「影山…?」

 

 コイツとは『初めて』会うはず。なのに、咄嗟に名前を呟いていた。

 どうして、その言葉が出てきたのかもわからない。また、昔からある、あの感覚のせいだろうか。

 ただ、困惑する頭とは裏腹に、商店街で小さな巨人を見た時のように、手に熱が宿ったような気がした。

 

「どこかで会ったことがあるか?」

 

 急に名前を呼ばれて、疑問の目を向ける影山を見ながら、俺は、

 

——―『今回も』、負けたくない。

 

 何故か、強くそう思った。

 

 

 




物語を作るって楽しいですね。
更新頑張ります。
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