実況パワフルプロ野球恋恋アナザー&レ・リーグアナザー   作:向日 葵

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 にじファン様から移転してきました。向日 葵ともうします。
 これからお願いいたします。


第一学年編
第1話


「お前、本当にあかつき行かないのか?」

 

 少年が問う。

 あかつき大付属中学校、そのグラウンドの引退式が終わってからの事。

 もう空は夕暮れで、ひぐらしが鳴いている。

 その中で、問われた少年は笑みを見せながら頷いた。

 

「ああ、っつーかカネもだろ。あいつはどこだっけ。帝王実業高だっけか? いや、西京だっけか」

「名門に行くんだろうな。まあ金岡のことは良い。……お前は……帝王も、大東亜も……全部断ってるじゃないか! 高校でもボクとバッテリーを組むといったじゃないか!」

「落ち着けって猪狩。お前にゃ弟がいんだろ」

「そんなことは関係ない。パワプロ――お前の腕があって、それを棒に振るのが許せないといっているんだ! まだ東条にもリベンジが済んでいないじゃないか! それなのに……ッ!」

「パワプロいうな。葉波(はわ)か風路(ふうろ)って呼べっつってんだろ。それによ、棒に振るつもりはこれっぽっちもねぇぜ」

「何だと? 名門に行かずに自分の野球のレベルアップを」

「つまんねぇんだよ」

 

 猪狩、と呼ばれた少年を遮って、パワプロは言う。

 その瞳を燃え上がらせ、

 猪狩に言葉をつむぐ事すらためらわせるような決意を込めて、

 

「つまんねぇ。お前みたいな中学校時代から猪狩守世代だって騒がれて、巨人やら中日やらっつープロにも名刺渡されてる最高の投手と組んで野球続けて勝ってもつまんねぇ。一度しかない高校野球なんだよ。甲子園に行ける三年間なんだよ! だからこそ――猪狩やカネ、そんでもって――東条の野郎を倒してぇんだ。俺のチームでよ! 解るだろ猪狩! お前なら!」

「……ふん……ボクにも解る、か」

 

 その決意を聞いて、猪狩はふぅ、と深く息を吐く。

 パワプロは最初から決めたら最初っからそれを貫く男だった。

 今更何をいっても彼は自分の考えを変えない。三年間バッテリーを組んだのだ。そんなことは分かっていた。

 それに、何よりも――。

 

 コイツと全力で戦ってみたいと、自分も思ってしまったのだ。

 

 猪狩守という男は、猪狩世代と呼ばれる時代を作るほどの好投手だった。

 中学生でありながらすでにストレートはMAX一三〇キロをマークし、スライダーにカーブはすでに高校野球でもトップクラスと言われる程のキレをもつ素晴らしい投手。

 だが、一重に抑えられたのは自分だけの力ではない。

 

 今自分の目の前に立つ男――葉波風路(はわふうろ)。

 

 類まれなるセンスを持ち、試合の中ですら成長していくほどの適応力を持つ男。

 三年前は自分のボールを打つ所か取る事すら出来ない駄目捕手だった男。

 それがたかだか一週間で捕球をし、自分の球を唯一とれる人としてキャッチャーとしてのポジションを獲得し、さらに成長を加速させ最後には、猪狩の打順であった三番を猪狩から奪った男。

 そして何よりも――猪狩守自身の成長と結果に強く結びついていた男。

 中学校公式試合、完全試合二度。

 奪三振歴代記録四位。

 そして、中学校野球大会二度の栄冠を手に入れることができたのは、目の前に居る男のリードとバッティングのおかげという一面もなきにしもあらず、だろう。

 それが今度は敵になる。

 敵になるということは――戦えるのだ。

 自分を引っ張ってきた相手と、全力で、全身全霊を込めて、お互いがつくってきたチームで全力でぶつかる。

 それを想像して、猪狩はゾクゾクとしたものを感じた。即ち、“闘争心”という奴を。

  

「……次に一緒に試合をする時は敵同士だ。容赦はしない!」

 

 猪狩はありったけの冷たさを込めてつぶやいたつもりだったが、自分が思ったよりも熱っぽい口調で言ってしまった。

 それを聞いて、パワプロはニヤリ、と満足そうに笑う。

 

「こっちのセリフだぜ猪狩」 

 

 ゴツン、と拳を重ねて、二人は帰路につく。

 それが――二人のお互いの違えた道の、出発点だった。


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