実況パワフルプロ野球恋恋アナザー&レ・リーグアナザー   作:向日 葵

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第十四話 "七月四週" vsあかつき大付属 前編

                   七月四週

 

 

 準決勝が終わった。

 七月の一週目から始まった夏の甲子園予選大会も残すは一試合のみ。強豪校が後半にのみ集まってしまうというトーナメント表もあり、"下馬評によると"あかつき大付属vsパワフル高校が実質の決勝戦だったなどと言われている今夏の大会も、いよいよ最後の試合を迎える。

 待ち望んだ――といっても、そう望んだのはこの世で二人だけかもしれない。

 猪狩守と、葉波風路――パワプロ。

 一年と半年前、戦うことを誓い合った二人がやっと相まみえる時が来たのだ。

 

 夏の甲子園予選大会決勝戦。午後十三時プレイボール。

 

 十時頃集合し念入りにストレッチなどをしてミーティングをし、球場入り。

 そして、猪狩守を求めて集まった報道陣や応援団でスタンドは完全に埋まり――始まるは、今年の甲子園の一枠を争う戦い。

 

 あかつき大付属vs恋恋高校。

 

 いよいよ、その火蓋が切って落とされる。

 

 

                 

 

「「「「「「「「「お願いします」」」」」」」」」

 

 ホームベース前でお辞儀をする。

 目の前に立つ男――猪狩、守。

 やっと対等に戦える舞台まで上り詰めた。

 勿論籤運に恵まれた部分が大きいだろう。でも、それだけじゃない。俺達は強くなったからここまでこれたんだ。

 目の前の春夏連覇したチームと甲子園をかけて戦う権利があるのは俺達だけなんだからさ。

 

「……猪狩、いい試合にしよう」

「……ああ、そうだな。……だが――」

「勝つのは俺だ」

「勝つのは僕だ」

 

 目をそらさず宣言しあう。

 猪狩は満足そうに笑って踵を返した。

 俺もそれを見送ってベンチに戻る。

 さあ始めようぜ猪狩。最高の試合をよ!

 

『さあいよいよ始まります。勝ったほうが甲子園の試合。どちらが勝つのか、いよいよプレイボールです! では両者のスターティングメンバーを発表いたしましよう!

 

 先攻、恋恋高校のスターティングメンバーは

 

 一番ショート矢部。

 二番セカンド新垣。

 三番キャッチャー葉波。

 四番ライト友沢。

 五番サード東條。

 六番センター猪狩進。

 七番ファースト一ノ瀬。

 八番レフト明石。

 九番ピッチャー早川。

 

 となっています。注目すべきはクリーンアップでしょう。ここまで六試合で、クリーンアップで稼いだ得点はなんと八十二! 超強力といっていいクリーンアップはここまで二五五イニングス無失点の猪狩守から得点を奪えるでしょうか!

 では、後攻あかつき大付属後攻のスターティングメンバーも発表しておきましょう。

 

 一番センター八嶋。

 二番ショート六本木。

 三番レフト七井。

 四番ファースト三本松。

 五番サード五十嵐。

 六番キャッチャー二宮。

 七番ピッチャー猪狩守。

 八番ライト九十九。

 九番セカンド四条。

 

 となっています。さあ、春夏連覇の"絶対王者"あかつき大付属に恋恋高校どう立ち向かうか。目が離せません!』

 

 先攻はこっち。先頭バッターの矢部くんがゆっくりとバッターボックスに立つ。

 マウンドに立つのは勿論猪狩だ。こうして敵チームとしてあいつをベンチから見るのは初めてだな、そういや。……あれからどれくらい成長してどれだけの球を投げるようになったのか――見せて貰うぜ。

 猪狩がマウンドで振りかぶる。ダイナミックなフォームから、猪狩は腕をふるってボールを投げ込んできた。。

 初球に選択された球はストレート。

 ただし――ベンチにいても魔球かと疑うような、凄まじいキレの、だ。

 ピシィンッ!! とミットが聞いたこともないような乾いた音を立ててボールが吸い込まれる。

 球速は一四九キロ。初回から百四五キロを超える快速球。

 

「っ……」

 

 さすがの矢部くんも手が出ない。

 初回は投手の立ち上がりが不安定――そんな球界の常識を覆すかのように、猪狩は二球目を投げ込んでくる。

 唸りを立てて投げ込まれるストレートから一転、今度は切れ味よく曲がるスライダー。

 捉えようとバットを振る矢部くんをあざ笑うかのようにボールはアウトローへ逃げていく。

 この球が一三八キロ……速いな。あれだけ変化してるくせによ。

 

「トーライッ!!」

『大きく曲がるスライダー! 矢部空振り!』

 

 そんな球だ。初見で当てるのは至難の業か。矢部くんがあんなにあからさまな空振りをするのは初めて観るかもしれない。矢部くんの実力でも当てることすらできないなんて、どんな球投げてるんだよ。

 三球目、投げられた球は再びスライダー。

 外へと逃げていくスライダーを見極めようと矢部くんはバットを出さない。

 だが。

 

「ストラックッバッターアウトッ!!」

『見逃し三振!! 素晴らしいスライダー! 矢部、手がでませんっ!』

 

 結果は見逃し三振。

 バッターの目線から一番遠い所にあのキレと一三〇キロ後半の速度で投げられたら手が出ないのも無理はない。

 さすが世代ナンバーワン。そう簡単に攻略の糸口は見つけさせてくれないな。

 

『バッター二番、新垣』

 

 新垣がバッターボックスに立つ。

 それを見送ってから、俺はネクストに座った。

 新垣に対しては初球からストレート主体だ。当てるのが上手い新垣が当てる事すらできない。

 二球ストレートを見せた後、三球目はスライダーで新垣はあっという間に三振に打ち取られる。新垣はそれを分かってて初球から振りに行ってるんだけどな。着払い……ミットにボールが収まってから降ってるような感じだ。

 ここまで四球、こっちの打者はバットを振っていったけど当たる気配がない。

 ……そんな流れは俺が払拭しねーとな。

 

『バッター三番、葉波』

『さあ、やってまいりました! この二人、なんとかつてはあかつき大付属中学校でバッテリーを組んだ旧知の中! 試合前のインタビューで猪狩守ははっきり宣言いたしました。ライバルはこの男、葉波風路と! ライバル対決はどっちに軍配が上がるか!』

 

 打席に立つ。

 ……こうして猪狩が投げて俺が打席に立つなんて事は今までなかった。……此処に立つだけで、相手が猪狩というだけで、熱い物が燃え上がってくるのがわかる。

 さあ、来い、猪狩。

 初球はスライダー、それを俺は見送ってふぅ、と息を整える。今の球はボールだ。

 初球は見せ球だ。……次はストレートで来る。

 二球目を猪狩が投じる。

 それをフルスイングで迎え撃つ!

 

 ッパァンッ!! と真後ろでミットが炸裂音を立てたのが耳に入った。

 

『な、なんと……今の球が一五三キロ……!! 猪狩守、ライバル相手に自己最速をたたき出しました!!』

 

 ちっ、当たらねぇか。

 つーか一五三キロってマジかよ。

 やってくれるぜ。此処で自己最速か。……燃え上がってんのは俺だけじゃなさそうだ。

 三球目。ストレートで来るかスライダーで来るか……カーブはここまで投げてない。此処でいきなり投げさせるリードは捕手もできないだろう。

 何より今日の猪狩はスライダーもストレートも抜群だ。これを投げさせない手はない。

 ならストレートに狙いを絞って……。

 猪狩が腕をふるう。

 

 ッキィンッ!! と快音を立てて、ボールが飛ぶ。

 

『痛烈なあたりーっ! しかしボールはポールの右っ! しかしライバル葉波、最速更新の猪狩には大きい当たりで返答します!!』

 

 ……ッ、じーんと打った重さのせいか腕がしびれる。いってぇ……どんだけ重い球ほうってるんだよ!

 打ったボールはファールだ。痛烈な当たりだが球威に押されたせいかライト方向のポールの遙か右に消えていく。

 飛距離は十分だったけど、思っきし引っ張るつもりで振ったのに流し方向にファールになってるな。手元で予想以上に伸びてくる……こりゃ確かに二〇〇イニングス無失点とかいうふざけた記録を打ち立てるのもわかるぜ。

 その猪狩は、俺が打ったボールが消えて入ったほうをじっと見つめて、笑った。

 

 ――これが待ち望んだ男だと、噛み締めるように。

 

 四球目。

 投げられた球はスライダー。

 読み通り、だが体にエグるように大きく変化してくるスライダーに俺はついて行ききれない。

 

 チッ! とバットに掠る音が聞こえたが、そのボールを二宮がそのまま捕球した。

 

「ストラーイクバッターアウト!! チェンジ!」

『空振り三振! 初回猪狩守、圧倒的な立ち上がり! 九球で一回表が終了しました!』

 

 ベンチに帰ってレガースをつける。

 初回から捉えれるとは思ってない。勝負は二巡目からだな。

 頭切り替えろ。俺の仕事は打つだけじゃない――

 

「パワプロくん、行ける?」

「おう。んじゃ行こうぜ早川。――勝つぞ」

「うん、勿論!」

 

 ――早川をリードするのが一番の仕事だ。

 そう簡単に打てると思うなよあかつき大付属。ウチのエースはめちゃくちゃ打ちづらいからな。

 

『さあ、マウンドに立つのは女性投手早川あおい! ここまで全試合先発で出場し、防御率は0点台! こちらも好投手。あかつき大付属、どう攻略していくか!』

『バッター一番、八嶋』

 

 八嶋は俊足巧打。矢部くんのような打者だが一つ違うのは――矢部くんが反応良く走るタイプに対し、八嶋はポテンシャル。つまり足の速さに頼った盗塁をするってこと。

 それならそれで打つ手はある、が、ベストは出さないことか。

 

(初球、インコースにストレート。1番バッターだからな、厳しいコースは見てくるハズだ)

 

 早川がロージンを指につけて、ボールを握る。

 きれいなフォームからキレの良いストレートが放られて、八嶋は初球から打ちに来た。

 インコースの球を強引に流すバッティング。

 ボールは高く弾み、早川の頭上を超えて矢部くんの真正面に飛ぶ。

 矢部くんが捕球するが――。

 

「投げるな矢部くんっ! 間に合わない!」

『八嶋内野安打! 快速を飛ばします!』

 

 俺が指示すると矢部くんは悔しそうにボールを早川に返した。

 こんにゃろ。自分のポテンシャルを生かした打撃しやがったな。

 バッターは二番の六本木に変わる。

 守備の上手い選手だがバントはソツなくこなす。だが何よりも恐ろしいのは選球眼の良さだ。

 八嶋を気にしてボール先行になりがちなのに、勝負に行った球を見極められる――実際に守備についてみるとなんて嫌な攻撃だ。矢部くんと新垣も似たような感じなんだろうけど。

 さて、この初回の攻撃……相手の立場に立って考えてみるか。

 

(相手は変則投手だが抑えては来てる。このまま波には乗らせたくない……そこでラッキーっぽいが出塁した一番打者。これを上手く使いたいが大事にもしたい。……出来れば二番打者に有利なボール先行を作ってから走らせ、二番バッターにも打たせて無死一、三塁、もしくは先制点で無死一塁かそれ以上にするのが理想か。なら初球はストライク貰う)

 

 初球はストレート。

 八嶋がスタートだけして見せる。

 俺は"わざと"それに反応したように見せて腰を上げたように見せるが実際は投げない。

 インコース寄りの低め、間違いなくストライクに取られる所にストレートを投げさせて、これで1-0。

 相手は歴戦。此処は甘い読みはしない。コントロールが乱れてたまたまストライクに入った、なんてのは思わないだろう。早川がコントロールが良いってのは知ってることだろうからな。

 

 なら――此処でスタートを切ってくる。

 

 ウェストボールをサインで出すと、早川は表情を変えずにこくん、と頷いた。

 長くボールは持ってくれ……ってんなこと言わなくてもわかるよな。ここまで勝ち進んでこれるような投手な早川なら。

 じ、とファーストランナーを睨むように視線をやって、早川は少し長くボールを持つ。

 そしてセットポジションからクイックモーションで素早く投球フォームに入ったと同時――八嶋がスタートをする!

 

『走った! しかしっ! 早川葉波バッテリーボールを外す!』

 

 確かに走力は矢部くんよりも速いかもな。

 だが、盗塁はスピードだけで出来るもんじゃない。

 セカンドにボールを投げる。

 ッパァンッ! とベースカバーに入った矢部くんのミットにボールは吸い込まれる。狙い通りのところに送球出来たぜ。

 

「アウトォォッ!!」

 

 そして、矢部くんが滑りこんできた八嶋の足にタッチすると、審判が大きくアウトコールを宣告した。

 

『アウト!! 素晴らしい読みに素晴らしい送球! 俊足八嶋を完全に刺しました恋恋バッテリー! 一アウトランナーなし! ピンチを未然に防ぎます!』

「おっしゃぁ!」

 

 ぐっ、とガッツポーズをすると、早川がナイスボール! と声をかけてくれる。

 それに呼応するように他のナインからもナイスボールやらナイス送球やら声がかかった。

 うっし、ムードもよくなったな。そう簡単に好き放題できると思って貰ったら困るぜ。あかつき大付属!

 六本木に対する三球目、カウント1-1から遅いシンカーを投げさせる。

 マリンボールと違い緩いシンカーは打者に向かって上がってくるようなことはないが大きく変化する。

 そのボールを六本木は反応するものの打ちには来ない。八嶋が初球から打ったからな。二番の六本木はしっかり見ようって事か。

 ならマリンボールと第三の球種は温存しようって考え方になるのが普通だが――此処は第三の球種を使おう。

 せっかく八嶋を刺していいムードになった。なら此処で余計な一本を打たれたりして水は刺されたくない。

 それよりもこの後をぴしゃっと抑えて行ったほうがプラスになるだろうしな。

 

(つーわけで、インハイにストレートだ)

 

 こくん、と早川が頷いて構え、ボールを投げてくる。

 インハイのストレート。六本木のバットが待ってましたとばかりに振って来るが――当たらない。

 驚いた顔をして六本木は俺のミットの位置を確認する為にこちらを見るが直ぐに構えをといて早川にボールを返す。

 

『三振っ! これでツーアウト!』

『バッター三番、七井』

 

 さて、爆弾クリーンアップが来たぜ。

 この大会ではあかつき大付属の三、四は三割六分、五番も三割二分は打ってるからな。しかもホームランを五試合で七本打ってる。……ったく、猪狩と二宮だけでも甲子園いってもおかしくねーってのにこの打撃陣だからな、嫌になるな。

 つっても逃げれる訳じゃない。一発貰うのは怖いが、のちのちのことも考えて……此処はインコースで勝負しておきたい。

 三番、七井アレフト。

 名前通りハーフでしなやかな筋力を持つ。インコースも苦にしないタイプのバッターだ。だがこいつの恐怖はインコースも苦にしないことじゃない。

 

 インコースも打てるからといって外角に逃げた所。そこを狙い、流し打って柵越えする驚異のリストだ。

 

 実際、七井のホームランは全てレフト方向だ。こいつからは逃げてはいけない。インコースをしつこく突いていくのが正着だ。

 初球は内角の体に一番近いところへのストレート。

 早川もそのデータには目を通してるからな。すぐに頷いて構え、早川は腕をふるう。

 そのストレートに反応して七井はバットを出しかける。

 

「スイング!」

 

 球審に指を回してアピールすると、球審は一塁塁審を指差す。

 

「ストライク!」

 

 一塁塁審は腕を上げてアウトのサイン。よし、スイングだ。

 にしても、今の球を振りに来るっていうことは七井は選球眼はあまりよくないのかもしれないな。

 確かフォアボールの数も少ないはず。なら外低め、ワンバンするような球にも手を出すかもしれないな。

 なら、外角低めにストライクゾーンからワンバンになるカーブを投げさせよう。

 早川が頷く。

 そして投げられたカーブ。七井は外角の球を待っていたのだろう。グッ、とバットを後ろに引き、投げられたカーブをフルスイングで迎え撃った。

 ッキィンッ! と快音を残し、ボールは痛烈なセカンドへのゴロになる。

 

 それを、セカンドの新垣が横っ飛びでキャッチする。

 

 そしてそのまま素早く立ち上がり、ファーストへと送球した。

 

「アウトォッ! スリーアウトチェンジ!」

「よしっ!」

「ナイスプレーあかりっ!」

「あははっ、もっと褒めなさい!」

 

 ワイワイキャイキャイと騒がしく戻って行く新垣たちの後ろから戻りながら、ちらりとファーストベースで手袋を外す金髪の男、七井アレフトを見つめる。

 外角への外したワンバンへの球に届く上に、あわやヒットかという痛烈な当たりを放つとはな。

 常識はずれのリストの強さだぜ。選球眼は多分、あかつき大付属でワーストワンに入っちまうだろうが、それを補って余りある程の長打力とバッティング技術がこいつにはある。

 甘くなったらいかれるな。七井には慎重に攻めないと。

 今日の早川の調子なら、俺がヘタを打たなければ大量失点はない。取られても二点までだ。

 責任重大だが、おもしれぇ。やってやろうじゃねぇか。

 それくらいじゃないとお前のライバルをするには務まらねぇよな。猪狩。

 

 さて二回表だ。打順は四番の友沢から。

 流れはこっちにある。今日の猪狩を一イニングで捉えるのは難しいだろうが、それでも友沢と東條なら……なんて期待しちまうのがあいつらの凄いところか。

 防具は外さないまま、マウンド上の猪狩を見る。

 猪狩はボールを受け取って打席に立った友沢を見た。

 四番打者相手にどういう投球をしてくるか。わざわざ配球を変えてくるっつーことは考えづらい。

 

「ふっ!!」

 

 初球はスライダー、友沢が声を上げてバットを振るうが当たらない。

 

「ストライク!」

 

 ぱしっ、と友沢がバットを持ち直して構え直す。

 ボールの下をバットが通ったな。あの友沢でも初見じゃ猪狩のボールを上から叩くのは無理だということだ。

 二球目、投じられたボールはストレート。

 ッキンッ! と今度は友沢もバットに当てて前にボールを飛ばすが、大きくは飛ばない。

 ふわりと上がった打球はセカンドの守備範囲。セカンドの四条が軽く手を上げてそれを捕球した。

 

「アウト!」

 

 ワンアウト、バッターは東條。

 フェアゾーンに飛ばす事――つまり長打を捨ててヒットする事を狙ったような打撃の友沢だったが、それじゃ満足にボールは飛んでくれないらしい。猪狩のボールをしっかり飛ばすには全力で振りきらないと駄目みてーだな。

 かといって俺のように決め打ちでフルスイングをしても、球威に押されてボールはフェアゾーンには飛んでくれない。……すげぇよ猪狩。確かに"世代ナンバーワン"って肩書きに偽りは無いぜ。

 けど負けてやるつもりはない。どんな投手にだって突破口はある。それを何とか序盤の間に見つけないとな。

 東條に対する初球。

 

「ボーッ!!」

 

 ボール球からあかつきバッテリーは入った。球種はカーブか。

 今日初めてカーブを投げたな。緩急を付けるつもりかもしれないが……アウトローのいいとこだ。見せ球のつもりだろうがブレーキが効いた良い球だ。あれが決め球と言われても疑問に思わないレベルだぞ。

 二球目はストレート、緩急を利かせてインハイにせめてくる。

 東條はそれも見逃す。これはストライクだ。

 カウントは1-1。並行カウントだが、すでに追い込まれたような絶望感がベンチには漂う。

 三球目に猪狩が持ってきた球はスライダー。アウトローに落ちるようコントロールされたボールが決まって2-1になり、東條が追い込まれる。

 そして四球目、投じられた球は三球目と同じスライダーだ。

 ただし、今度のコースはアウトコースのさらに外。

 東條はそのボールを追って上体を倒しながら振るうが当たらない。

 

「ストラックバッターアウトォッ!!」

『空振り三振ッ!! 当たりません!』

 

 ストレートもえげつないが、このスライダーが一番厄介かもな。

 そして、問題はこの二球種のコンビネーションか。

 途中まで変化が一緒な上だからな。見極めができない上に、何とかついていけても芯で捉える事ができずに凡打を繰り返す。

 かといって追い込まれたらヒットゾーンを広げざるを得ないし、ボール球に手を出すようになっちまう。さらに色んな球を見る内にコンビネーションを使われてヒットの確率は激減するだろうな。だから速いカウントで攻めたいところなんだけど……。

 速いカウントから振りにいくと球の速さについていけずに空振ったり、当たったとしても詰まってゴロになるんだよな。

 球を見極めようとすればコンビネーションで打ち取られ。

 速いカウントから打とうとすれば球威に押される。

 目の前のグラウンドの、一番高いところに立つ投手。

 六番打者の実の弟相手にも油断することなく本気で腕をふるう男からどうやったら得点を出来るんだ?

 

(……どうやって、攻略すればいい?)

 

 ッパァアアンッ!! と進がストレートを空振り、三振に倒れる。

 ミートの上手い進が一球すら当てることが出来ずに三振か。早川の調子が今日いいように猪狩の調子も良いらしい。

 これでスリーアウトチェンジ。試合は二回裏の守備に入る。

 とりあえず今は守備に集中しねーとな。……ごちゃごちゃ考えてたって猪狩が攻略出来るようになるわけじゃなし、むしろ集中力を欠いて失点するのが一番怖い。

 

「うっしゃ! 二回裏しまってくぞ!」

 

 声を出して守備位置に付く。

 あかつきが無得点で抑えるなら俺達も無得点で抑えてやる。そうすりゃ負けることはねーからな。

 迎えるバッターは四番の三本松から。このバッターも七井と並ぶホームラン数を打っているが、こっちは典型的なプルヒッターだ。ホームランの方向は基本的に右方向だけにしかない。

 ただし要注意なのは打ち損じた打球も押しこみが強い為にポテンヒットや、打球に押されて流し打ちになっても飛距離がそれなりには出ること。そのせいだろうけど打率が高いわけはほとんどテキサスヒットのせいだ。勿論長打も多いんだけどな。

 足は遅いから内野安打はゼロ。守備もまともに出来はしない。あかつきのチームカラー上バントは全員がする可能性があるが、データの結果こいつはバント失敗が六、最後の失敗は去年の秋大会だが、それ以来バントの指示は出されていない。

 それなら取るべき守備体形は――。

 

「内野、外野バック! 内野間に落ちるの気をつけろ! 外野! 詰まっても飛ぶぞ! しっかりボールを見て落下地点は予測しろ!」

『おっと? 恋恋高校これは……! セカンドとショート、そして外野がともに大きく後ろにバック! 超後退守備だ!!』

 

 指示を出してから座り、早川を見る。

 セカンドショートが後ろに下がればポテンヒットは殆どない。バントで早川が抜かれてもファースト、サードがボールを取りに行けば十分アウトに出来る。

 

(初球、要求するボールは内角低めギリギリのストレート、それをボール一個分低めに外す)

 

 届く所は振り回してくる打者だし。コントロールが良いし初球はストライクを取りたいのが普通だからな。

 早川が頷いて、投球に入る。

 相変わらずフォームに乱れはない。放たれたボールはきれいなスピンで低いリリースポイントから低めに構えられたミットへと突っ込んできた。

 それを三本松はフルスイングで迎え撃つ。

 カイン!! と快音を残してボールは速度良く伸びるが、低いボールを打った分角度は低い。

 後ろに守っていた明石がそのボールをミットに収め、これでワンアウト。

 にしてもあのコースを強引に引っ張って痛烈なライナーを打てるってのは恐ろしいな。さすが四番だぜ。

 

『バッター五番、五十嵐』

 

 続くバッターは恐怖のクリーンアップの三人目、五十嵐。

 打率こそ前の二人より低いがそれでも三割は打ってる。ホームラン数は前の二人と同じだけ打ってるから怖い事に代わりはないな。

 打率が前の二人よりも低い、ということは荒い打撃をしているということ。打率三割は恐らくフォアボールの多さから着ているんだろう。逆に言えばフォアボールが多いのに前の二人とホームラン数が一緒、ということはパワーだけなら前の二人よりも有るということかもしれない。

 だが、打撃が荒いなら前の二人程怖くはないな。……低めを丁寧につこう。荒い打撃をしながらもホームランを打ててるってことは甘い球は逃さない程度のミート力は持ってるってことだ。甘く入ったら行かれるが、逆に言えば甘く入れば打たれる打者じゃないぜ。

 ミットで低めに、とジェスチャーを出しながらサインを出す。

 

(カーブを打たせる。甘いコースから厳しいコースに落ちる球だ。サクサク打ち取るぞ)

 

 早川がこくんと頷いた。首を振らないからテンポが良い分相手も的を絞りづらいだろうな。こういう所も早川のいいところだぜ。

 

「ふっ!!」

 

 早川が声を出して腕を振るう。

 低めに向けて変化する球に五十嵐は反応してバットを振るった。

 ギンッ! と鈍い音を立ててボールは東條の目の前へのゴロになる。

 東條はそれをしっかり捕球しファーストへ投げた。

 

「アウトォ!!」

『サードゴロ! この回もテンポよくツーアウトを取りました早川!』

『バッター六番、二宮』

 

 しっかりアウトにとって、次の打者はアベレージヒッターの二宮か。

 非常に厄介な打者だからな、こいつは――高めのボールで打ち取ろう。

 インハイのストレートをつまらせて内野フライが理想的。一巡目だが打撃は自由に打てと指示が出ているっぽいからな。

 インハイの構えたところに向けて早川が投げ込んでくる。

 二宮はそのボールに対し、腕をたたんでコンパクトにスイングし、流し打つ。

 ヒュッ! と外野へ抜けようかという当たり。

 

 それを矢部くんが飛びついてキャッチする!

 

 ゴロゴロッ! と飛び込んだ拍子に回転しながらもボールはこぼさない。

 

「アウトオオッ!!」

『ファインプレー!! 矢部、好守でバッテリーを盛り上げます!!』

 

 ワァァアッ! とスタンドも歓声をあげる。ナイスだ矢部くん! 頼りになるぜ!

 

「ふう、さ、三回表でやんすよ」

 

 ピッ、とボールをマウンドに投げながらベンチに戻る。

 よし、この調子ならそうそう得点は与えずに済む。問題は攻撃だが……。

 

「トラック!」

「トラックツー!」

「トラック! バッターアウトォッ!!」

 

 あの一ノ瀬がても足もでず、あっという間に三振、これでワンアウト。

 八番の明石に対する初球はまるで打ち気に早っているのが分かっているかのようにカーブを投げ、それを明石は打ち上げてしまいピッチャーフライ。これでツーアウト。

 ピッチャーの早川にはストレート三つで見逃し三振。スリーアウトチェンジ。

 攻撃時間はわずか三分。テンポが良く圧倒的な投球をする猪狩の前に攻略法すら見つけられない。

 この流れはまずいな……せっかく引き寄せた流れが遠ざかりそうだ。

 それもこれも猪狩の圧倒的なピッチングのせいか。……大したピッチャーになりやがって。燃えてくるぞ。

 

 三回裏、バッターは投手の猪狩。

 普通投手っつったら九番に入るものだが、猪狩は中学校の時からバッティングも特上レベルだったからな、チャンスの回ってくることが多い七番という打順についているんだろう。

 

『バッター七番、猪狩守』

『さあ、この回初めて猪狩がバッターボックスに立ちます! 猪狩守もスラッガー! この回、どう抑えるでしょうか!』

 

 猪狩が近くに居る。

 

 それを意識するだけで背中を闘志が駆け上がるのがわかる。

 

 猪狩は大会でも八本のホームランを放ったスラッガーだ。甘いところに入ったら一発がある。

 それを抑える為にはカーブとストレートのコンビネーションを上手く使わないとな。

 

「……パワプロ」

「ん?」

「楽しいな。この試合は」

「――そうだな」

 

 短いやりとり。その間に色んな思いがちらついて――俺はぐっ、とマスクを深くかぶり直す。

 あの時から待ち望んだ対決。それを今俺と猪狩は実際にしているんだ。

 だったらその勝負に悔いは残す訳にゃ行かないよな。

 

(初球はカーブ、インローに落とす)

 

 早川が頷いて腕を振るう。

 クンッ、と落ちるカーブを猪狩はバットを動かしながらも見送った。

 

「ボールッ!!」

 

 チッ、とって欲しかったけどボールか。これで0-1、次はアウトハイにストレートだ。

 二球目は猪狩がバットを振りかける。これはコース自体がストライクで1-1。並行カウントに戻したぞ。

 

(三球目、カーブ、ストレートで来た。……ここは一発だけは打たれちゃいけない。アウトローにストレートだ)

 

 要求通りに早川は俺のミットに向けてボールをリリースする。

 ベストピッチ、と。

 俺も早川も胸を張って言えるだろうその球を。

 

 猪狩は強引に引っ張った。

 

 ッキィイインッ! と快音を残し、ボールは飛んでいく。

 コースも球威も完璧。これ以上無いってくらいのナイスボールだ。

 しかしそれを強引に引っ張ったはずの打球にしては角度がいい。

 ――いや、伸びも良いぞ……!?

 立ち上がって俺はその球の行方を見る。そんな馬鹿な……!

 レフトの明石がフェンスに手を当て――見送った。

 ぽーん、とフェンスの向こうで弾むボールを、俺も早川も呆然と立ち尽くし見つめることしか出来ない。

 

『は、入ったー!! 外角低めのボール、引っ張った打球はレフトのフェンスを超えての先制のソロホームラーン! 猪狩守、本職の投球だけでなく、自慢の打棒も見せつけましたー! あかつき大付属高校先制ー!!』

 

 ホームベースを踏みベンチへ戻る猪狩を見つめながら、俺はぎりっと歯ぎしりする。

 くそ、インコースの厳しい所をもっと攻めるべきだった。カーブで中途半端にストライクを取り行ったせいだ。

 インコースを使った後外のストレートの高めを一球見せた。そのせいで猪狩は踏み込んでスイングする事が出来、その結果真芯に当たってボールが予想以上に飛んだんだ。

 ミスではないが不注意と言っていい。猪狩の成長は何も投球だけじゃない、打撃も成長しているんだ。

 

(次はクリーンアップと同じ扱いだ。もう一点もやらねぇぞ!)

 

 早川にちょい、と手を立てて謝ると、早川はこくりと頷いて直ぐに八番打者へと目線を向けた。

 八番の九十九をストレートでショートゴロ、九番の四条をキャッチャーフライ、一番の八嶋をファーストゴロにそれぞれ打ちとる。

 

「ワリィ早川」

 

 ベンチに帰りながら早川に声をかける。

 

「大丈夫! まだ一点だよ!」

「……ああ、そうだな。まだまだこれから!」

 

 まだ攻撃は五回ある。その間に攻略法を見つけるだけだ!

 ――なんて思った俺の思考を、猪狩は押しつぶすように、矢部くん、新垣を五球で片付けた。

 全球ストレート。

 一点を先制にした直後だというのに慎重さの欠片も無い、力でねじ伏せるような投球。

 打席に立つ。

 今まで対戦してきた打者達はこんな絶望感を打席で味わってきたのか。まるで打てる気がしないぞ。

 リトルリーグの子供がプロの全力投球から打て、と言われるような感覚。こんな感覚、今まで野球をやってきて一度も味わったことがない。

 ……駄目だ、弱気になるな! 何か術があるはずだ。何かっ……!

 初球はストレートで来る。ここまで来ていきなり俺に変化球で入るなんてことは――。

 スライダー。

 

「っ!!」

「トーライッ!」

『三番葉波、中途半端にバットを出しかけてボール球のスライダーをスイング! これでストライクワン!』

 

 スライダー? なんで此処で?

 二球目は何で来る? カーブで打ち気を逸らしてくるか?

 ッパァンッ! とインハイにストレートが投げ込まれる。手がでないが審判の手は上がらない。ボールだ。

 スライダー、ストレート。次に投げられる球は……。

 三球目に投げ込まれた球はアウトローへのストレート。

 俺はそれを体勢を崩しながら何とかバットの上っ面に当てる。

 ふわり、と上がった球は猪狩へのフライ。猪狩はそれを丁寧に両手で掴んでスリーアウトチェンジ。四回表があっという間に終了する。

 くそ、なんでいきなり配球が変わったんだ。

 あそこまで全球ストレートでいきなりリードが変わるなんて、ストレート一本じゃ抑えられないと思ったみたいじゃねぇか。

 ……ん? ……いや、待てよ。

 

「七瀬! 俺と友沢、東條の打席の猪狩の投球データ見せろ!」

 

 ベンチに戻ってから、俺は七瀬を呼ぶ。高校野球はスコアラーとしてマネージャーが一人ベンチに入ることが許されてるからな。

 ひゃうっ!? と大きな声をあげて、あわあわと七瀬は慌てて用紙を引っ張り出す。悪いな、ちょっと切羽詰ってんだ。

 

「友沢、東條、悪いけど防具を持ってきてくんねーか」

「……分かった」

「ああ、ふたりがかりでやったほうが速いからな」

「悪いな」

「良い。それで、何が分かったんだ?」

「……簡潔に言え」

「ああ、待ってろ」

 

 道具を付けてもらうのを手伝いながら、俺は七瀬の渡してくれた用紙に目を通す。

 思ったとおりだ……二宮のリードの癖を見つけたぜ!

 

「クリーンアップには初球は変化球から必ず入ってる」

「……何?」

 

 東條の驚いたような声を聞きながら、とん、と俺はクリーンアップに対する打席の部分を指差す。

 俺には二打席ともスライダー、友沢、東條はまだ一打席しか立っていないが、スライダー、カーブから入ってる。これは偶然か?

 

「……まだ確証はねぇ。だから――次の二打席目、"三球目まで"待球してくれ」

「三球目まで?」

「ああ、何故変化球から入るのか理由も多分だが分かった。けど確証がない。だから――その確証が欲しい。頼む」

「分かった。ただ――これ以上点差が開けば」

「分かってる、点差が開けば打席一つ一つが大事になるから作戦の為に棒に振れなくなるってことだろ。任せろ。……二点目は死ぬ気で阻止するぞ。相手に流れが合ってもな」

「……分かった」

「いいですか? ハリアップ」

「はい!」

 

 審判に急かされ、返事をして七瀬に用紙を返しながらミットを嵌める。

 折角糸口が見えてきたんだ。それを無駄にしないためにも此処から先は無失点で抑えねーとな。

 四回裏、バッターは二番の六本木から七井、三本松へと続く打順。

 まあ打順はもう関係ないぜ。しっかりと無失点で抑え続けるだけだ。

 早川に目で意志を送る。此処からは飛ばして投げてもらうぞ。後ろに一ノ瀬も居る。――絶対にもう点はやらない!

 六本木に対する初球はストレート。インハイに投げさせて詰まらせるか、それで打ち取れなかったらアウトローの低めにストレート、もしくはインコースへシンカーを続けて打ち取るぞ。

 ヒュッ! とインコースへ投げられた球を六本木は腕をたたんで上手くセンター前にはじき返す。

 矢部くんの左、新垣の右を抜けて打球はセンター前ヒットになった。

 

(くそ、攻め方は悪くねぇがこのヒットは痛いぞ。なんつったって……)

 

 ちら、とあかつき大付属ベンチに目をやる。

 そこに立つ七井、三本松、五十嵐。あかつき大付属の誇る超強力クリーンアップの三人組。

 

(こいつらをランナーが居る状態で抑えねーといけねぇんだからな……!)

『バッター三番、七井』

『さあ、あかつき大付属。先頭打者六本木がセンター前ヒットで出塁しバッターはクリーンアップ! ここは点にしておきたいところでしょう!』

 

 最初は七井か。こいつは腕が長い上に流し打ちでも打球が速い。

 ランナーが二塁に入れば長打でなら生還するだろう。六本木も俊足だ。此処は絶対に二塁に進めちゃいけない場面。

 早川に一塁に牽制してもらいながらリードを組み立てる。

 ……ちょっと危険な賭けだが、先頭打者を進めずに打ち取るならこの程度の賭けには乗らねぇとな。

 ここは――。

 

『さあ初球。投げた! 内角低めのストレート! そしてそれをキャッチングした瞬間――』

 

 一塁から一歩でも出たら牽制だ!

 パァンッ! と一ノ瀬のミットにボールが収まると同時に、六本木が頭から滑りこみファーストベースにタッチする。

 

『鉄砲肩を魅せつける! 葉波強肩を見せます! これではファーストランナー六本木はしれないか!』

 

 刺せなくてもいい。執拗に牽制すればどうしても六本木はスタートが遅くなる。

 そして遅くなったスタートは――

 

『六本木、二球目のアウトローのストレートを打ったー! 痛烈な打球は一、二塁間を抜けてライト前へー! 六本木三塁に走るー!』

 

 ――暴走を生む。

 友沢、見せどころだ!

 ゴロを捕球した友沢はグンッ、と腕を振るう。

 ギュオンッ! なんて効果音が相応しいような速度でライトからサードへと送球されたボールは、ストライクで東條のミットへと突き刺さり、滑りこんできた六本木の足がベースにつくよりも早く、東條はそのミットで六本木にタッチすることが出来た。

 

「アウトォオオ!!」

『ライト友沢レーザービーム!! 俊足六本木サードアウトー!! あるいはスタートが少し遅かったか! 大ピンチになるところ、恋恋高校友沢の鉄砲肩で未然に阻止しましたー!』

「ナイス友沢!!」

「ああ。任せろ」

 

 サードアウトは上出来だった。セカンドストップでもうれしいところだったんだけどな。

 さあ一アウト一塁。ここで欲しいのはアウトを取ること。ゲッツーじゃなくても構わない。とりあえずアウトカウントが取れればそれでいい。

 

(三本松に対してはアウトコースをしつこくせめて行くぞ。長打が怖いし、一打席目は内角低めの厳しい所を攻めた。二打席目は逆に遠いところを利用する)

 

 初球はアウトローのストレート、それを三本松はファールにし、二球目はカーブ、これは三本松も見極めた。

 そして、三球目のアウトハイのボール。三本松は高めの球をフルスイングするが、三本松は七井程リーチはない。

 きんっ! と打ち上げた打球はセンター進の守備範囲。僅かにライト方向に足を進め、進はパシンッと捕球した。

 

「よし、ツーアウト!」

 

 二死まで取れれば後は単打は打たれてもいい。五十嵐に対しては低めのボール球を使って打ち取るぞ。

 思惑通りに四球目のシンカーを打たせ、セカンドゴロに打ちとってこの回は終了。ファーストランナー残塁だ。

 ふう、危なかったぜ……先頭打者が出て焦ったがなんとか無失点で抑えれたな。

 

「ナイスピー、早川」

「ありがと、ふー、友沢くんのレーザービームで助かったよ」

「ふん、礼ならパワプロに言え、スタートを送らせた上に、打球が速くなるようにストレートを選んで投げさせたからな。変化球でもいい場面だ」

「そ、そだったの?」

「いや? 抑える確率が一番高かったからだよ。今日の早川のストレートは来てる。そう簡単には捉えられねーぜ」

 

 話合いながら、ベンチに戻る。

 四回の攻防は終わった。五回表、打席は友沢からだ。

 未だに猪狩の前には完全だが、ある程度リードに当たりはついた。その当たりを確証にするために、この打席は悪いけど自由打撃、って訳にはいかないぜ。

 

「友沢」

「ああ、三球目までだったな」

『バッター四番、友沢』

『さあ二巡目の四番、友沢。そろそろ猪狩守から反撃の狼煙を上げたいところ!』

 

 友沢が打席に立つ。

 その初球、選択されたボールは――やはり、スライダー。

 

「ボール!」

 

 コースはアウトロー、ボール一個程低めに外れた球だ。

 アウトローの際どい所を狙ったボールが外れたように視える球だが違う。あれは意図的なハズだ。

 二球目、投じられたボールはストレート。

 コースはインハイ。

 

「ボールツー!」

『友沢、しっかりボールを見ます! ボールカウントノーストライクツーボール、バッター有利です!』

 

 だが、やはりボール球。

 そして三球目。アウトローへのストレートがバシンッ! と決まる。

 

「ストラーイク!」

『しかし! やはり此処でアウトローの素晴らしいコースにストレートが決まる!! これは打てません!』

 

 これで1-2。やはりそうか。

 そして四球目。友沢は投じられたインローを抉ってくるスライダーを追っ付けるように打ち、ファーストゴロに倒れる。

 

「アウトー!」

『友沢、インコースのスライダーにつまりファーストゴロ! 捉えることは出来ません!』

『バッター五番、東條』

 

 ここまで来ると偶然とは思えないが、一応東條の打席も確認の為三球待球だ。この東條にも変化球、それも外角から入るようだったら、いよいよ間違いない。

 初球に選択された球は、アウトローへのカーブ。

 間違いねぇ。疑惑が確証に変わった。

 

「……進はネクストにいるから、見ろ、ってサインを出して、っと……よし、皆、そのままで聞け。二宮のリードの癖がわかった」

 

 打席に立つ東條を覗いて、全員に話しかける。

 

「良いか。二宮はクリーンアップには変化球から入る癖がある。まあかといって、それ以外の打者には一〇〇パーセントストレートから、っつーことはないが、その場合も初球はストライクだ」

「……ふむ……ど、どうするでやんすか?」

「この回と次の回はボールを見ろ。二巡目終わりまではそれに徹するんだ」

「二巡目は捨てるのかい?」

「ありていに言えばそうなる。正直行って今の俺達でも、配球がわかったからといって打てるような投手じゃない。配球を読んで、なおかつ確率を上げるためには猪狩のボールがどんな感じで来てるのか。一五〇キロのマシンは打ってきただろ? そのイメージとどのくらい差が有るか確かめるんだ」

「わかったでやんす」

「そうね。それくらいしか方法無さそうだし」

「ん、わかった。でも、パワプロ。その作戦は一点も取られちゃいけない計算によるものだぞ。二点差以上付けばチャンスを広げざるを得なくなる。さすがにランナーが居る状態じゃ下位相手にもリードを変えてくるだろうから」

「分かってるよ一ノ瀬。点はやらねぇ。俺と早川、それと皆の守備でな!」

「うん、任せて!」

 

 早川の言葉に皆が頷く。

 東條は五球目のスライダーをセンターフライにした。

 やはり初球はボールから、三球目までは1-2というバッティングカウントを作り、四球目からカウントを整えてきた。

 バッターは六番の進。詳しい作戦は話して居ないが、見ろというサインにしたがって、進は六球目のストレートで三振に倒れるまで、しっかりとボールを見極めていた。

 帰ってきた進に作戦を伝える。

 進は「分かりました」と答えて、センターに走っていった。

 五回裏は二宮から。

 インコースにストレートを投げさせたが、二宮はそれをレフト前に弾き返す。

 七番の猪狩はしっかり送り、ワンアウト二塁。バントはさせたくなかったが、此処は素直にワンアウトを貰っておこう。

 八番の九十九をレフトフライに打ちとり、九番の四条を塁に埋める。

 四条は九番だが、打率だけならクリーンアップと猪狩以外なら上だからな。

 二アウトでランナーが埋まってる状態の八嶋なら怖くない。

 そして何より――もう五回裏だからな。七回か八回から一ノ瀬を投入するということを考えても、そろそろ使っていい頃合だ。

 

(切り札、解禁だ)

 

 八嶋に対する二球目。

 インハイのストレートを見せてから、その次の球――。

 ヒュボッ! と投げられた球を、八嶋は豪快に空振った。

 八嶋の表情が驚愕に染まる。インハイのストレートだと思って振った球を俺は低めで捕球してるわけだからな。そりゃ驚くだろ。

 三球目も同じくマリンボール。

 八嶋はそれをしっかり見極めようとボールを見ていたが、ツーアウト一、二塁で追い込まれた状況下、そこにストライクのが来たら振らざるを得ない。空振り三振に打ち取る。

 

「よっし! ナイスボール!」

「ピンチばっかりだけどね」

 

 苦笑する早川の頭をぐりぐりと撫でながら、スコアボードに目をやる。

 

 恋 000 00

 あ 001 00

 

 ここまでは互角の戦い。猪狩にホームランを打たれて再三ピンチは迎えてるけどホームまでは許してない。上出来だぜ。

 

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